FC2ブログ

てきとうVIP

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --年--月--日 --:-- |
  2. スポンサー広告

佐天「嫁にして下さい!」 一方通行「ゴメン、ちょっと待って」

2 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 00:15:22.79 ID:0K5Poxg0

佐天涙子は上機嫌であった。

気合を入れて望んだ学校のテストは中々の出来であり、ベスト10内も射程距離だ。
一目惚れしてしまったワンピは最後の一着を手に入れ、予約していたBRDも買ってしまえば後はのんびり家で鑑賞会だ。

初春も見たがっていたのを思い出す。
彼女の風紀委員が何時に終わるか聞いてみて、それによっては一緒に見るのもいい。

「白井さんと御坂さんはどうだろう。四人で集まるって最近中々無いよね」

学年が変わったせいか今年は最初から何かとばたばたとしてきた。
ようやく片が付いたと思ったら今度は学園都市全体が大騒ぎのてんやわんや。
ふと一息吐いてみれば新しい学年の年も三分の二が経過していた。

ここらで四人で羽目を外すことも必要なのかもしれないな、と様々な計画を立てる。
根がお祭り気質なのか、楽しいことをアレコレ練るだけでわくわくしてくる。
スキップでもしそうな調子で佐天は裏道を通る。


じめっとした重く湿気った空気に一瞬怯むものの、大丈夫大丈夫と言い聞かせる。
確かに物騒ではあるが、多少ならば大丈夫だろう。
まさか、裏道を通って5分足らずで絡まれるようなことなど ―――


「ようようお姉ちゃんよぉ」
「くぁわいいじゃねぇかよ」
「ちょっと付き合えよ」


あったりする。こういう時ほど何でか人間そうなのだ。



4 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 00:19:11.29 ID:0K5Poxg0

ホラやっぱりと大半の人がそう思っているだろうし、他のSSでも腐るほど目にしてきた展開なのだ。
だから今更真面目ぶって書くことは非常に馬鹿馬鹿しい。
馬鹿馬鹿しいのであるがそれでも書かなければならないが文章の辛いところだ。

だから書く事にする。


モヒカン(世紀末仕様)が三人現れた。

股間は臨戦態勢バッチリである。
しかし、悲しいかなハンドガンレベルなので遠目にはわからない。
モヒカンは佐天に近づくと、臭い息を吐きながら荒々しい声で言い寄る。

「ちょ、まじ、まじパネェ。ッパネェ。ッネェって」
「うほ、いい女じゃねぇかよ」
「はぁ!?マジで。しかも乳でかくネェ?でかくネェ?」
「うひょー、ヤらなきゃ損だよな!」

舐るように佐天の身体を上から下へと眺めるモヒカン達。


(こ、怖い…ッ)

佐天は怖気の走る身体を抱きしめる。
背筋が凍るような、それは予感ともいえるものだ。
そして彼女の予感は正しい。

「へ、姉ちゃんよ。怖いことされたくなかったら俺達に着いて来いよ」
「痛いどころか気持ちいいことしてやんよ」
「アレ、でも最初は痛いんじゃネェ?あれってそうだろ」
「ああ、そうか。でもマジで痛いのか?膜破くんだから痛いのか」
「まぁ、経験ねぇからわからないけど、とにかく姉ちゃんよ、俺らといいことしようぜ」


「や、やめて下さい……ア、アンチスキル呼びますよ!?」

必死に声を張り上げる。
そうしなければ足元から恐怖で崩れ落ちてしまいそうだ。
脳裏に浮かぶのはとらの○なで販売されている数々の彼女そっくりの少女が出てくる薄くて高い本。
複数の男達にもみくちゃにされる姿は最早食傷気味のネタに過ぎないが、今の佐天にはこの上なくリアルな展開に思える。
まさかアレと同じ目に遭わされるのではないだろうか?
遭わされそうだ。クスリ漬けにされるのだ。しかし、それは薄くて高い本であればの話。


二次創作のSSにおいて、彼女は十割の確率で救いの手を差し伸べられるように世の中は出来ている。


5 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 00:22:54.82 ID:0K5Poxg0


「オイオイオイ、人がせっかくの休みの日によォ。クソガキ共の襲撃も無ェオフだ。
そんな日に優雅にコーヒーでも飲んで過ごそうかなァって思ってる時にだ。なァにわかりやすいことしてんだァお前等ァ」


白髪、赤目、華奢、悪人面のイケメン、杖付いてる。

もうフックだらけだ。

あらゆるパーツを貪欲に取り込んだチートキャラが其処には立っていた。



「ああ?」
「なんだテメェは?」
「すっこんでろ」
「ボコられてぇのか?」
「痛い目見る前にさっさと帰んな」
「モヤシやろうが」

「「「wwwwwwww」」」

既にオチが見えている人ばかりなので、もう正直これ以上書くのってどうなのだろうか。
モヒカン達の挑発は実にわかりやすいものであり、それこそ嘲笑ものであった。
あまりのわかりやすい語彙力の無い挑発行為そのものに佐天は「うわぁ」と内心引いてしまったが、彼らは知らなかった。


自分達が今相対している男は学園都市最高の頭脳の持ち主であることを。

そして、学園都市最低の『沸点』の持ち主であることを。


男はおもむろにチョーカーのスイッチを入れる。カチリと渇いた音が路地裏に響くと共に、白髪頭の男の瞳に険悪な光が増した。
白い前髪を縫うように覗く赤い瞳に、佐天は心を打ち抜かれた。
普段、日常という温かい舞台に立つ彼女が目にしたこのない、そこいらのチンピラでは決して持ち得ないほどに、鋭くそして強靭さを秘めた瞳。
正直、こんなチンピラ相手に大人気ないことこの上ないのだが、佐天はそんなこと気にしない。
DQNでブサメンに人権が憲法で設定されていないのは何処の国でも同じなのだ。
カパリと三日月のように開いた赤い口。

白いモヤシ少年が、学園都市最強の怪物へと切り替わった瞬間であった。


6 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 00:26:13.92 ID:CyEyxTI0
wktk

7 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 00:26:39.22 ID:0K5Poxg0


「ひでぶ!」
「あべし!!」
「たわば!!!」


虐殺は一方的だった。
そもそも虐殺とは一方的なものであるが、そんな虐殺の中でも特に『これって一方的すぎんじゃね?』っていうくらい一方的であった。
虐殺オブ虐殺だった。

しかし、殺してはいなかった。
半殺しではなく九分の八殺しという感じだ。あとワンパンで死ぬ。そういう感じの理解で大体合ってる。

そんな光景を佐天は半ば放心したまま見つめていた。
呆然とした彼女の脳裏にある日の会話が甦る。だから此処から先は回想シーンだ。


一部の噂では花飾りはパイルダーであり、其処が本体となって指示を出していると噂の初春飾利との会話でのことだった。

『佐天さん、佐天さん、学園都市最強のレベル5ってどういう人なのか知ってます?』

『え、知らない知らない。都市伝説では冷蔵庫に似た人って…』
『それは第二位ですよ~第一位です第一位。掲示板に書かれていたんですけど。
目撃者の話だと白髪で、赤目で、もやしで、黒翼で悪人面で顔芸でイケメンでCV岡本信彦だっていう噂なんです』
『ちょww白髪ww赤目wwってww黒翼wwwwww』
『黒翼wwwwww』
『そんなラノベみたいなww』
『中二乙wwwwですよねwwwwww』
『だよねwwwwwwいるわけないしねwwwwww』


8 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 00:28:06.55 ID:0K5Poxg0

「いたよ…」
「あ゛ぁ?」

モヒカンA、B、Cを血祭りに上げた一方通行を見ながら佐天は呟く。
ラピュタは本当にあったんだ。そう呟いたルフィの中の人の気持ちが今ならよくわかる。
無能力者の自分にとっては、第一位という存在はラピュタに等しい。
じゃあ龍の巣は何だよとか、そういう細かいことは言ってはいけない。
こういうのはフィーリングで理解するものだ。

「ったく、見たところ無能力者のガキのよォだが、こんなとこでうろついてンじゃねェよ。
輪姦されたって不思議じゃねェンだからよ」

「あ、あ、あの…その…」

自分の迂闊さに今更ながらに気付き、佐天は俯く。
羞恥で頬が赤く染まる。『輪姦される』という言葉への恐怖心よりも、目の前の少年に無知な子供だとはっきり思われていることが恥ずかしいのだ。

少年は小さく舌打ちをすると踵を返す。

「あ…」
「コレに懲りたら変なとこうろつくンじゃねェぞ」


こつこつと杖を突く音が遠ざかっていく。

徐々に小さくなっていく後姿を佐天は逸らすことなく見つめ続けていた。



10 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 00:32:53.12 ID:0K5Poxg0


一方通行が佐天涙子を助けてから一週間後。


「インデックスが最近可愛くて生きているのが辛いんだけどどう思うあー君?」

「[ピーーー]ばいいんじゃねェかァ?大体よォかみやン、最近可愛いってお前それ何度目だかわかってるゥ?」

『昼飯一緒に食べようぜ』という上条からの電話から30分後、一方通行は早くも帰りたい衝動に駆られていた。
いつも不況のせいでボーナスの八割をカットされたお父さんのような顔をしているツンツン頭の少年が上機嫌な顔であった時点で嫌な予感はしていた。

そして一方通行の予想通りファミレスに着くなり始まったのはウチの嫁自慢だった。
第三次世界大戦を切欠として友情を加速的に深め、二人は遂に親友同士となった。
そして、話を聞くに、彼はどうやら同時期に居候シスターとの間にあった見えない『壁』を乗り越えたようだ。
それ自体は構わない。
そもそも付き合っていないと聞いて驚いたくらいだから、あるべき関係にようやく収まったと捉えるべきであろう。
問題は、定期的にこうしてのろけてくるところにある。

正直しんどい。同じ言葉がループするのだ。ボキャ貧の惚気ほど性質の悪いものはない。
なお、二人の交際を知っている者は一方通行と此処にはいない浜面くらいだ。


「確か『最近料理の手伝いしてくれて、なんだか新婚みたいだ』って言ってたなァ。で、その前が『後片付けしてくれるなんて優しいにも程がある』でその前が『帰ったら風呂の支度がしてあって、嬉しさのあまり押し倒しそうになった』だっけか?」
「流石学園都市最高の頭脳。よく覚えてらっしゃる」
「何度も聞いてりゃ覚えちまうんだよォ」
「よせやい!照れるじゃねぇか。俺とインデックスの愛のメモリーが尽きることが無いって遠まわしに言ってよ!」

「皮肉も通じネェときたもンだ…」

とりあえず注文したハンバーグステーキが来たから、それが冷めないうちに話を切り上げて欲しい。切実な願いだ。


11 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 00:39:45.83 ID:0K5Poxg0

「昨日インデックスがさ、初めて料理を作ってくれたんだ。カレーライスな」
「王道だなァ…」

それでこの上機嫌か。よほど美味かったのだろうか。
ハンバーグステーキ美味いなァと一口サイズを切っては口にする。

「でさ、まぁ味自体は美味くなかったんだよ。不味くもないけどルーは溶け残ってるし、
具はちぐはぐのサイズでご飯は水が多かったから柔らか過ぎだし。けどなんていうか、
そういう不慣れなところがまた可愛いっていうか、頑張ったんだな俺の為にって思えてさ。
娘が始めて手料理作ってくれた時ってこんな気分なのかって感動しちまって」

三杯も食べちまった、と照れくさそうに言う上条を冷めた目で一方通行は見る。
何となくこの話の着地点が見えてきた。

「で、感動した上条クンはデザートにシスターをいただきました、なんて言うつもりかァ?」

「嫌だわあーくん、とっても下品」

「違ったかァ?」

「いえ、頂いたんですけどね」


テメェ、さっきまで娘が云々とか言っておいて結局ヤッたんかい、とお冷の氷を噛み砕きながら内心毒づく。

「ご歓談の最中申し訳ございませんが…お客様?周りうのお客様もいらっしゃいますので…もう少しボリュームの方を」

「あ、すいませン。もう少ししたら黙らせますンで、ハイ」

と言いつつも内心は『ナイス、ウェイトレスのお姉サン!!』と喝采をあげる一方通行。
ここからピンク全開のエロトークをされたら敵わない。
流石の上条も最低限のTPOを弁えているのか、会話を中断させる。レバニラ定食というやたら精の付くものを頼んでいるのが何となく嫌だ。安いから頼んだに過ぎないと信じたいところである。



12 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/11(土) 00:45:33.91 ID:0K5Poxg0

「お前さぁ、外食の時必ずハンバーグかステーキ頼むよな」
「うるせェ…外食でくらい肉食わせろ」
溜息を零しながらナイフで丁寧に切り分けていく。溢れる肉汁が食欲をそそる。
「例の『通い妻』は健在ってことか」
「通い妻じゃねェし…ありゃァ単なる嫌がらせだァ」
下品な笑い声の憎いあんちくしょうの顔が浮かび、ナイフを握る手に力が篭る。

「アイツ昨日もよォ…」



『やっほー殺しに来たよ、第一位』
『帰れ』
『げひゃひゃひゃ、バッカじゃねぇ?ミサカがアンタの言う事聞くわけないじゃん。台所借りるよ。
ていうか答えは聞いてないんだけどさぁ。勿論勝手に使っちゃうから』
『オイ、コラ』


『けけけけ、番外個体様特性野菜尽し料理、モヤシは共食いでもしてろよ。キャハッ』
『テメェ…性懲りも無く野菜ばかりじゃねぇか!!肉はどうした!!』
『ミサカの生きがいはアナタに嫌がらせの限りを尽くすこと。15種類の野菜なんてアナタには拷問でしょ?
しかも塩分控えめの薄味で物足りなさを味わいな』
『チッ…しかも量多過ぎんだろォ…』(後でファミチキでも買いに行くつもりだったのによォ)
『これだけ多ければ後でファミチキでも買おうかなんて気も起こらないでしょ?』
『そこまで考えてやがったかァ!』
『ミサカがアナタの喜ぶことするわきゃねぇだろ~げひゃぐひゃひゃひゃッ』


『オイ、何勝手にベッドに入ってきやがる!?』
『この距離ならアナタがチョーカーに手を伸ばすよりもミサカが第一位を殺す方が早いよ?
つまりアナタの命はミサカの手の中ってわけ。寝首かかれる恐怖に怯えて、眠れない夜を過ごしな』

(く…そこまでしやがるか…そこまでしてオレを殺そうっていうつもりなのかよォ…いや、オレはそうされても文句が言えないだけのことをコイツらに……)

『けけけけ、こうすればアナタは逃げられないね~』

『!?』
(コイツ……オレの背中に腕を回してきやがった!?そうかコレはつまりいつでもオレの背骨を圧し折ってやれるってェ意思表示かッ)




13 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/11(土) 00:49:11.87 ID:0K5Poxg0

「へッ……わかってたハズなんだがなァ…オレ、オレみてェな極悪人が許されるはずがねェってことくらいよ…」

自らが犯してきた過ちの重さを改めて思い知る一方通行。
瞳を伏せ、悔い入るように唇をかみ締める。


「番外個体いい奥さんになるよ…」





(通い妻?奥さん?)

佐天涙子は凍り付いていた。
二人の座る席とついたてを挟んだ斜め後ろに位置取っていた彼女は、二人の会話を盗み聞きしていた。
詳細は聞き取れなかったが、どうやら彼の少年には所謂ステディな関係のおなごがいるらしい。
向かいには「メシウマwww」状態の初春。佐天は一方通行に助けられたその日のうちに初春の下を尋ねた。
時刻は日付が変わった頃。空気読まないにも程がある時間である。
一人暮らしの大学生でもいきなり来られるとムッとなる時間帯であったが、夜の住人―― ナイトウォーカーの肩書きを持つ初春にとっては放課後に遊びにこられるのと大差は無い時間帯である。
禁書スレを超電磁砲スレで乗っ取るという日課をこなしているときに突如尋ねてきた佐天を快く迎え入れた。

初春には佐天涙子という親友のことがよくわかっていた。

一見常識知らずなようでその実もっとも常識を弁えている少女。

そんな少女が血相を変えてやって来たのだ、何かがあったと思うのが当然であろう。

『う、ういはるぅ~~私、白い王子様見つけちゃったよぉ~!』
『白い?白馬の王子様じゃなくてですか?』
『うん、白いの。この前初春が言ってた学園都市第一位の……』
『一方通行…ですか?』
『うん!!そう、そのあくせられーたが王子様で、白くて私を助けてくれて、モヒカンが超電磁砲で』
『佐天さん落ち着いて下さい。文章がおかしいです。大体何があったのかわかりますけど』
『ど、どうしよう。お礼も言えなかったし』
『ああ…一目惚れしちゃったんだ…赤い実弾けちゃったんですね、佐天さん』
『ひとッ!?ひ、ひとめ惚れ……そうなのかなぁ…よくわからない』
『で、その報告をする為にこんな時間に来ちゃったんですか?あ、紅茶飲みます?』
『ううん、そういうわけじゃなくてね……紅茶よりコーヒーが欲しいかな?』
『?じゃあどういうつもりで?コーヒーなんてそんなに飲みましたけ』
『あの人の居場所ってわからないかなぁって。連絡先でも住所でもいいんだけど、そういうの街頭カメラとかでわからない?いや、お礼言いたいだけなんだけどね?ホントだよ』

その発想はストーカーです、とは言えなかった。あの能天気な佐天涙子が御坂美琴の如きリアクションを示したのだ、野暮なツッコミなど出来ようハズもない。
第一純愛とストーカーなんて紙一重なのだ、これくらい可愛いものだと初春は親友の為に一肌脱ぐことを決意した。
何よりも面白そうな予感がしたのだ。食いつかない黒春ではない。

「そんな……ようやく見つけたのに、そんな相手がいるなんて」

佐天はうなだれる。具体的にどうやって見つけたのかといえば一方通行と上条の電話を傍受したのだ。初春さんマジパネェ。


16 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 00:52:16.12 ID:0K5Poxg0

「イケメンには既にお手付きなものですよ~」
「他人事だと思って初春~」
「いや、他人事ですし。それで、お目当ての王子様にはお相手がいるようですけどどうするんですか?」
「どうするって……」

「高校生で一人暮らししてて通い妻がいる。佐天さんはようやく中二に上がったばかりの子供。
相手にしてもらえるのか怪しいですよね~相手がロリコンなら違うかもしれませんけど」

「うううぅ…わかってるよ、ガキって言われたもん」

意地の悪い事を言っているなぁと自覚しながら初春は渾身の微笑を浮かべる。
悶々として思い悩む佐天をいじる機会など滅多に無いのだ。いじらないはずが無い。

頭を抱えながら佐天は目の前のクリームソーダを睨む。
溶けたアイスがソーダの海にゆっくりと沈んでいく。

やがて話が終わったのか、一方通行達が席を立つ。ぴくりと佐天の肩が震える。
流石に見るに見かねたのか初春はそっと背を押してやることにする。

「でも佐天さん。お礼を言うんだったら相手がいようといまいと関係ないと思うんですけど?」

「え?」

「お礼を口実にしてアプローチをしろなんて言いませんけど、ただ向こうが一途に慕ってくれる女の子に心変わりしちゃう可能性はゼロではないと思うんですよ」
「そ、そんな。泥棒猫みたいな真似……」
「盗むのは良くないですけど、勝手に心変わりしちゃうのは不可抗力ですよね?」


邪笑。
この初春、実に汚い。実に狡い。実に悪い。だがしかし真理だ。
少なくとも今の佐天にとって、それは自己を正当化するに足る程の真理を秘めている。
決意の炎が親友の瞳に点るのを満足げに見つめる初春。一つ頷くと、佐天は席を立つ。
向かう先は白い少年だろう。




17 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 00:55:55.97 ID:0K5Poxg0

佐天は走る。目の前には華奢な少年の背中。
細くて白い、モヤシとか言うな、そんな背中である。

かったるそうに杖を突きながらよたよたと歩く後姿に、学園都市最強とは思えぬその後姿に向かって。


「待ってください、待って…まってください」

聞こえていないのか、一方通行が止まる気配はない。
呼びかけていくうちに『止まれよコンチクショウめ!!』という気持ちがムクムクと佐天の中に湧き上がる。


そして ―――


「待ってって言ってるだろうがごらぁぁ!!!」
「ぐふゥッ!?」

足下からすくい上げるような見事な、いや、美事な佐天の低空タックルが一方通行を捉えた。
反射を切った一方通行は平均以下の貧弱少年に過ぎない。
十分な加速と体重が乗ったタックルに耐えることも、ましてや巧みにそれを捌く技術も無い。

結果、佐天涙子は学園都市最強の怪物からノゲイラばりのテイクダウンと取ることに成功する。



18 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 00:58:20.37 ID:0K5Poxg0

「てンめェ……何処の組織の差し金だァ?余程挽き肉にされてェみてェだなァァ」

顔面スライディングをかました一方通行は、すりむいた鼻を押さえながら若干涙目になりながらうなり声を上げる。

刺激に対して弱いことに掛けては定評があるのだ。
クール(ぶっている)な自分に顔面スライディングを決めさせた愚か者を血祭りに上げるべくチョーカーのスイッチを入れたところで、
足下にしがみついているのがセーラー服を着た何処にでもいるようなただの中学生だと気づく。

「あァん?てめェは確か…」
「あ、あの、私、この前貴方に助けてもらったんです。それで、お礼まだ言ってなくて…
ずっと言いたくて、たまたま貴方を見つけて」


動揺しつつもさりげなくストーカー行為を偶然に置き換えながら佐天は耳まで真っ赤な顔を一方通行の胸にぐりぐりと押しつける。

「最近の中学生ってなァ礼代わりにタックルかますもんなのかァ?」
「違います!!これは誤解で、ただ、ただ私」

貴方とお話してみたかったんです。

その言葉が何故か出てこなかった。

助けてくれた恩人への感謝の気持ち。
学園都市最強という自分にとってはラピュタのごとき幻想の存在への憧憬。
そして、一目見た瞬間から生まれてしまった言語化困難な感情。

会ってまだ一週間しか経っていない相手に対してストーカーまがいの真似までして居場所を突き止めた。

この自分を動かすこの感情を正確に把握するには佐天はまだ若すぎた。

どれだけワガママボディを誇っていようとも、所詮は13歳なのだ。
一年ちょっと前にはまだ赤いランドセルを背負っていたのだ。
だがそんなことを順序立てて説明できるはずもないし、動揺が口から言葉を奪っていく。

結果。

「ひっく…わ、わたし、私、ただ、ひっく…グス…」

佐天は彼女の名前の如く、大粒の涙を流し始めた。



19 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:04:51.76 ID:0K5Poxg0


情緒不安定にもほどがある。こんなにも涙脆かったのだろうか自分は。
というよりも、どうしてこんな訳の分からない、無茶苦茶な行動に出ているのだ自分は。
見てみろ彼を、困惑を通り越して呆然としている。
それもそうだ、自分の中でこそこの一週間様々な葛藤があり、思わず「白い王子様」などと言ってしまったりもしたが、
一方通行にしてみれば一週間前に助けた女子中学生にいきなりタックルされたと思えば、目の前で突然泣き出されたのだ。
なんて迷惑な女だろうか。女というか子供だ。
恥ずかしい、穴があったら入りたい。
というかシャベルを誰かくれ、今すぐ人一人分が入れる穴を掘って埋まってやる。




(えェェッ!?ちょ、え?ちょ、オレなンもしてねェだろうがよォォォォォーーー!!!アレか、オレのツラが怖ェからかァ?だから泣いたのかァ?寧ろオレが泣きてェくらいなんだがよォ)

佐天がそんな思いで泣き出したのを見ながら、一方通行、彼は彼で静かにテンパっていた。


『おい、見ろよアレ…あれって痴話喧嘩だよな』
『如何にも女の子を弄んでそうな顔してるわよね』
『あんな可愛くて発育の良い中学生を泣かしてるぜ』
『あんなに必死に彼氏に縋りついちゃって…きっと別れ話切り出されたのね』
『女子中学生をポイ捨てとか、リア充爆発しろ』
『泣き顔ロリ巨乳とかメッチャ僕の好みや。あのモヤシどんなプレイ要求したんやろ…』
『もしかして堕ろせとか言われたんじゃ…』
『セロリたんの腋汗ペロペロしたいお』



(おいィィィィィィィィィィィィーーーー!!!光の速さでオレの社会的な生命が潰えようとしてませんかァァァ!?)

周囲から突き刺さる白い視線が実に痛い。
社会的な名誉とは程遠い、悪名の方が高い彼であるが、悪名にもピンからキリまである。

悪名。そう、忌まわしき名。たった一つのコラが学園都市中に広がることで生まれた名。


『一方通行(アクセロリータ)』

その名を聞くたびに血液が沸騰しそうな怒りと不条理さに身悶えしそうになる。


20 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:09:40.76 ID:0K5Poxg0

一方通行は暗部で戦いながら二つのテーマを己に課してきた。

一つは、光の世界の人間には手を出さないこと。
そして二つ目はロリコン疑惑を晴らすこと。

最初に言っておくが、彼は打ち止めの事を大切に思っている。思っているがそれはあくまでも妹か娘に対する感情。

つまりは純粋な「家族愛」である。

しかし彼の不器用な打ち止めへの優しさ、過保護っぷりは『ツンデレ』という彼にとっては忌むべき俗称と共に
『家族愛』から『恋愛』へと勝手に区分けされてしまった。
オイオイ、しまうフォルダ違うんですけどォ~~!!!と言いたくとも、人の噂はベクトル操作できない。

そして付いた呼び名は『学園都市最強のロリコン、アクセロリータ』。
この屈辱的な汚名を濯ぐ為に、彼は血反吐を吐きながら学園都市の裏側で戦ってきた。

ある時は巨乳アラサー美女を学園都市の闇から助け。
またある時は横断歩道で立ち往生しているお婆ちゃんを学園都市の闇から救い。
またある時は夫の不倫で悩んでいる人妻を、彼なりに親身に相談に乗ってやりもした。

そしてまたある時は『一方通行って実はババァ好きなんだってよ』と掲示板に書き込んだりもした。

意識的に結標淡希と行動を共にしておっぱい好きのイメージを付けようという試みも怠らない。幸いだったのは、彼女が快く協力をしてくれたことだ。


22 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:14:34.90 ID:0K5Poxg0

『頼む、(イメージを変えるために)オレの側にいてくれ。(巨乳好きと思われる為には)お前が必要なんだ。
(不測の事態に自分の身を自分で守れるだけの力を持った)お前じゃねェとダメなんだ!!!』

『!?………ふ、不束者ですが…』


林檎のように顔を真っ赤にして俯く彼女を見ながら一方通行は一つの真理を見た。
誠意を持って接すれば人は応えてくれるのだという至極まっとうな、人としての理を学んだといえる。

素直であることが如何に大切か。
心の内を素直に曝け出し、誠心誠意をもって接すれば自分のような救い難い社会のクズであろうとも、人はこうして手を差し伸べてくれるのだ。

(黄泉川…そうか、そういうことだったのかよォ!)

一体なにがそういうことだったのかはわからない。
しかし、彼がまた一つ、悪党という名のツンデレになったことだけは確かだ。
それもデレ寄りの。


それだというのに、この状況はどうしたことか。
このままでは努力が全て水の泡になってしまう。
嫌々ながらも自分につき合ってくれた、結標にも顔向けが出来ないではないか。

「オイ、泣くんじゃねェよ」
「泣いてません!!泣いてませんよぉ…これはただ目から水が出てるだけで」
「それを泣くってンだろうがァ!!」
「グスッ…」
「ああァッ」


明らかに困りきった顔がいけなかった。
佐天は、折角会えた一方通行を困らせてしまっている自分に情けなくなり、今にも消えてしまいたいと、更に涙を流す。
焦る一方通行、泣く佐天。正直ドツボとはこういう状況を言う。

「中学生はなァ…ババァなんだよ」疑惑が解けつつあるというのに、新たに
「中学生はなァ…食べごろなんだよォ」疑惑が生じる。

学園都市最高の頭脳をフル回転させた一方通行は、そこで一つの答えに辿り着く。


23 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:18:07.64 ID:0K5Poxg0

「キャッ!」

能力を解放すると佐天の背中と膝の裏に腕を回す。
思わず一方通行の首に腕を回す佐天。いわゆる「お姫様抱っこ」である。


「舌噛むんじゃねェぞ…」
「ふえッ!?」


                    <『セロリタン、――カにもお姫様だっこぉ…』




言うやいなや、全力全開の能力によって一方通行は飛び上がった。
竜巻を周囲に生み出し、推進剤のように空を飛ぶ。それはさながらアトム。
人相のすこぶる悪い鉄腕アトムである。


「何処に行くんですかッ?」


新幹線の外側のように目まぐるしく流れていく景色を背に、佐天は一方通行の顔を見る。


「オレの部屋だァ!!」


一方通行の導き出した答えは至ってシンプルなものであった。
人目につかないところ、すなわち、自分の部屋にこの腕の中のこまったちゃんを連れていくことであった。

一方通行としては、そこでじっくりこの少女の話を聞き、対処法を検討する算段であるのだが、佐天涙子は違っていた。
首に抱きついたまま、息も触れる距離にある端正な顔に胸の鼓動が高まる。
本来ならば目も開けていられない速度のはずなのに、こうして普通に会話が出来。

それは彼がさりげなく佐天の周りの風のベクトルだけを逸らしてくれているからだろう。
それだけの状況を把握出来るほどに、彼女は落ち着きを取り戻していた。


(お、お持ち帰りされちゃったよぉ~ど、ど、どうしよう…まだ心の準備が)


そして、落ち着いて彼女は錯乱していた。




38 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 17:10:50.63 ID:KVww07Y0


「さぁって、ここでアイツの嫌いなチンゲン菜を入れてやることで対一方通行嫌がらせ野菜スープが出来上がる。
ウケケケケケ、アイツの嫌がる顔を想像するとミサカは笑いを堪えきれないなぁ」

「チンゲン菜は風邪の予防に良いのですね。ビタミンAが風邪の予防には最適だとミサカは耳寄りな情報を口にしつつ番外個体の健気さに若干拍手します」

「ハァ?何でミサカが健気なのさぁ。ミサカはねぇ、アイツの嫌がることをするのが存在意義にして趣味だったりするんだよね。それだけの話」

トントンと小気味良いリズムを立ててチンゲン菜を手ごろなサイズに切り分けると、煮立つ鍋に落とす。吹き零れないように火を調節するとスープを小皿にとり一舐め。

「うん、ちょっと物足りないくらいの味付けが丁度いいんだよね」
「ああ、あのモヤシは濃い味付けが好みですからね。塩分の取りすぎには注意してあげないと」
「ち、ちちち、ちっげぇーーし。アイツが『オイ、これ味がしねェぞ!!』て怒る姿を見たいだけなんだーての」
「しかし、白菜といい、今は野菜が高いのに、よくもここまで野菜尽くしにしましたねと、ミサカは番外個体の徹底ぶりと料理のレパートリーに女としてのレベルで遅れを取っている現状に危機感を覚えます」

御坂妹ことミサカ10032は憂鬱な溜息を吐く。偶々スーパーで買い物中の番外個体に出会い、そのまま一方通行の部屋にまで足を運ぶこととなった。
意外にも番外個体はシスターズと良好な関係を築いており、一方通行の部屋の合鍵を(勝手に)持っている番外個体に誘われて一方通行の部屋がミサカの溜まり場となることは珍しいことではない。
シスターズ的には一方通行のモノは自分のもの、自分のモノは自分のモノという認識が広がっているのだ。
中には一歩通行は自分のモノであるとか、自分は一方通行のモノであるとその思考を飛躍させている妹達もいるのだが、個性が出ることは素晴らしいことだと思う。



39 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 17:14:39.57 ID:KVww07Y0

御坂妹はエプロン装備の番外個体に呆れた眼差しを向ける。

ちゃっかり自分専用のエプロンを用意して、一方通行宅においているのだ。

正直これってツッコミ待ちなのでしょうかと彼女は悩む。割りとガチで。

彼の現在住むのは元々彼が使っていた部屋。廃墟であった部屋はセキュリティ完備のマンションに代わり、彼はそこで一人暮らしをしている。
打ち止めを拾った頃の彼の部屋とは比べ物にならないほどに綺麗にされた部屋は、掃除の手が隅々まで行き届いているのがひと目でわかる。


「しかも、週に一回は必ず掃除とか。どこのメイドですか?いっそメイド服で誘ってみたらどうでしょうか?
とミサカはメイド服を購入しておきながら実行に移せない何処かのチキンハートのお姉さまをさり気無くディスりながらアドバイスを試みます」

「さ、誘う…ッ…ぎゃは、ギャはハハハ、ハハハ…馬鹿言ってやがるこの出来損ないてば。
一方通行への負の感情を率先してキャッチしてるミサカくらいになるとね、安易にアイツを馬鹿にしたり罵ったり挑発したりするなんて浅はかな嫌がらせなんてしないんだよ。
アイツは妹達にそうやって罵倒されればされるほど罰を受けてる自分に酔って満足するマゾ野郎なわけ。
だから、ミサカは逆転の発想でアイツを攻めてるんだよ。ミサカが自腹で高い野菜買ってきて、しかも自分なんかに食事を作ってる事態に自己嫌悪してやがるんだよ。
『ああ…俺ァコイツ等に金の上でも負担を掛けちまっていやがる…クソがァ…』ってね。ギャはッ。
しかも部屋の掃除までされちゃあ、きっと『ああァ…俺みたいな野郎の世話をアイツらにさせるなんてよォ…俺みてェな糞の価値もねェ野郎なンかのせいでアイツラの貴重な時間がァ…』なんつって一人でこっそり落ち込むんだぜ。

バッカみてェ~マジ受けるんですけど~!!」


口角を釣り上げ、下品な笑い声を上げる番外個体。
しかし、御坂妹は彼女の視線が決して鍋から離れていないのに気付いている。


野菜が嫌いだから野菜を食わせると言っては、レシピを研究して栄養バランスの良い野菜料理を作り。

自分の部屋のものを勝手に触られることに気味の悪さを覚えれば良いと言っては部屋の掃除を毎週欠かさない。

いつでも出て行けるように何も置かないようにしていれば、足枷を増やしてやると言っては打ち止め達と一緒に撮った写真をコルク板に飾る。

糞モヤシには似合わないキモイ部屋に変えてやると花を飾っては彩りを加え、カーテンやカーペットを華やかなものにする。

そして、独りの快適な空間を邪魔してやれと言っては彼の帰りを出迎える。

そして、寝首を?かれる恐怖に怯えろと言っては寝床に潜り込む。そして朝までガッチリホールドと来たもんだ。



40 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 17:16:00.58 ID:KVww07Y0

「アナタのような『人を押しかけ女房』と言うのですねと、セロリ派を圧倒的に引き離す番外個体の積極性は見習うべき点が大いにあるとミサカは上条当麻攻略の糸口を探ります」
「に゛ゃっっ!?バッカじゃねぇ?マジ中坊の頭の沸きっぷりにドン引きしちゃうんだけど。大体あのモヤシの押しかけ女房とかあり得ないし。あんな白くてひょろくて中二病のクソセロリ ―――― あ!!」

突然何事か、番外個体がドアへと走っていく。確かめるまでもなく、彼女は一方通行が帰ってきたことにいち早く気付いたのだろう。

「おかえりーー殺しに来てやってんぞ糞ロリモヤシ~~~~!!」

スリッパをパタパタと鳴らしながら掛けていく姿は街頭アンケートを取ったら間違いなく100人中100人が『いいツンデレ新妻ですね(キリッ』と答えるものだ。

「言動が一致しないにも程があるとミサカは番外個体のツンデレっぷりに溜息を禁じえま ――――


『あああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!』


――― って何事でしょうか」

慌ててドアへと駆けつけると、番外個体がこれ以上ないくらいに目を見開き、固まっていた。
彼女の視線の先を辿ると、其処には。


「Oh……セロリは小学生から中学生に鞍替えしたのでしょうか、とミサカは女子中学生をお姫様抱っこする一方通行を指さしながら半笑いで問い掛けます」
「なンでいンだよこんな時に限ってよォォォォ………」

黒髪の美少女、セーラー服姿とかマジパネェッス一通さんと御坂妹が指差した先には女子中学生をお姫様抱っこする学園都市第一位の姿。
佐天涙子をお姫様抱っこした一方通行は顔を引きつらせながら番外個体と御坂妹に問い掛ける。



41 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 17:16:48.36 ID:KVww07Y0

「随分とお早いお帰りで。今からお楽しみの予定でしたか?とミサカは中学生である自分にもモヤシの毒牙が伸びるのではないかと期待と危機感を抱きつつ、
慎ましやかな己のぱいおつをガードします」
「会うなりイキナリいい度胸だなァ人形ォォォ……どこを見てりゃァそンな愉快な台詞が出てくるンだァ?」
「何処を見るも何も、目の前に」


一方通行は己の姿を今更に確認する。
がっしりと落とさぬように少女の柔らかな肉体を?き抱いた学園都市第一位。
女子中学生を身体で包み込むように抱き上げる学園都市最強のレベル5。
幼女を救うために最近レベル(多分)6になりました、今では絶賛JCを抱っこしています、本当にありがとうございました。

「いいご身分じゃねぇかよ、第一位。暗部掌握ともなると中学生お持ち帰りし放題ってか?中学生とか、寧ろリアルに性癖過ぎんじゃね?つか気持ち悪いんだけどさぁ!
マジで、ホント喋りかけないでよっていうくらい気持ち悪い。ホント、上位個体にも話てやろうか?ああ?」
「ほれほれ、こうして健気さが武器の番外個体までご立腹ですが、何か申し開きはわりますか?とミサカは夫の浮気を詰る妻の如き台詞をのたまってみます」

番外個体さん(すっかり笑顔が可愛くなったと評判)がこめかみに青筋を浮かべる。
いつもの如き口汚い罵倒に、本気の怒りが込められているが、生憎と一方通行には通常運行にしか感じられない。
しかし、彼にもわかっているのは、この状況が非常にヤバイということ。
ミサッターやミサろだ、ミサミサ動画にみさつべ…ネガキャンにおいては最強の能力を誇るMNWを知るだけにかなり必死だ。


「いや、これはだなァ…色々ワケがあってだなァ…おイ、着いたンだからさっさと降りろ」
「にゃふふふふふ~ん♪」

「「にゃふふふふふ~ん!?」」
「おいィィィィィーーー!!何君?何でイキナリそンな具合になっちゃってるンですかァァ!?」



42 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 17:20:58.04 ID:KVww07Y0

我等が佐天さんは一方通行の首にかじりついたまま、ご満悦のご様子だ。
すりすりと顔を擦り付けては、頬を染めてにゅふにゅふと笑う。
心なしか口も『ω』。


「おい、状況把握しろ。お前今の自分わかってンのかァ!?」

「クンクン…いい匂い…クンカクンカ…にゅふふふ~~にゃんふ♪」

「ちょ、え、君ィィィィィィィィィィーーーーー!!」


どうしてこうなったと思う方もいるだろう。
『山を飛び、谷を越え、僕等の街へやって来た』と古き時代の歌詞にあるが、一方通行は正に“その通りの方法”でやって来た。

一般的な、能力を持たぬ女子中学生が日常で経験するあらゆるアトラクションよりもスリリングな手段で、だ。

顔を凄まじい勢いで叩く風を一方通行がベクトル操作で防ごうとも、正直そりゃあ怖い。
紐無しバンジー?もしくは安全バー無しでフォールダウンを繰り返すようなものだ。

結果、佐天涙子は一方通行の身体に身体ごと押しつつけるようにしがみつくことで彼の温もりを感じ、彼の首筋に顔を埋めて安心することでその恐怖をやり過ごしてきた。
それでも怖いもんは怖い。

少なくとも「わぁ~風になったみた~い!!」だの「コレが空を飛ぶっていうこと…(うっとり」とはならない。
そりゃあ普通ならない。

そして、人間は恐怖を感じすぎると、快楽物質が出て恐怖から逃れようとする。
佐天涙子の場合は気になるあんちくしょうの『匂い』にそれが+αとなった。

相乗作用という言葉がある。恐怖から逃れるべく身体が快楽を求めようとし、異性の匂いがそれを増幅し、そして増幅した快楽物質が更なる快楽を貪るように…

と此処まで書いてきて何だか、ちょっとアレな感じだが、つまり、もっとわかりやすく一行で説明すると。

『佐天涙子は一方さんの匂いと温もりでヘブン状態になった』

こんな感じである。
うっかりその場にいる人間には黒い猫耳が幻視出来てしまいそうだ。




43 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 17:25:01.39 ID:KVww07Y0

「は、は、はぁ~ん。さっすが第一位様。どうやって中学生の雌ガキ誑かしたのさぁ?クスリでも使ってぶち込みやがったのかよぉ?ぎゃははは」

(最近そういうケータイ小説読んでましたものね…とミサカは耳年増な番外個体の震える手に視線をやりながらこの状況を実況します)

ある意味惜しい番外個体。
クスリじゃないけど、佐天はへヴン状態だ。ちょっとキメた感じに。
しかし、一方通行は番外個体の言葉に舌打ちをかます。
普段であれば聞き流すが、彼にとって腕の中にいる少女は、『表の存在』であり、一種神聖な世界の人間である。
もう少しオーバーな言い方を抑えるとすれば、悪影響になりそうな汚い言葉に過敏な親御さんだ。

「ああァ?テメェにやァ関係ねーだろォが。つか、このガキは普通の『表』のガキだ。下らねェこと聞かせるンじゃねェよ。テメェのクソアバズレっぷりが感染るだろォが」
「!?」
ビクリと肩を震わせたのは番外個体。
これくらいの反撃なんとでも言い返せるはずなのに、彼女にとって衝撃だったのは、彼が見ず知らずの女を庇うように切り捨てるように言葉を放ったこと。
いつもの通りにじゃれ合いの様な言い合いではなく、ハッキリと自分の相手をしないという意思表示。
一方通行には当然そこまでの意識は無い。こんなガキの前であんまり教育上宜しくない言葉遣いをさせまいというただそれだけの事なのだが、どうやら様子がおかしい。
いつもなら真っ先に憎まれ口を叩いてくるはずの番外個体が黙っていることに気付く。俯いている彼女の表情は一方通行からはわからない。


「番外個体?」
「う…ッく…」
「オイ…どうした番外個体?」
「ひっく…グス……」
「え、ちょ、番外…個体さン?」

顔を上げた番外個体は目に溢れんばかりの涙を浮かべていた。

「うわぁぁぁぁーーーーん!!!一方通行のバカヤローーーーーーー!!!糞中二ロリコンモヤシーーーー!!!」
「またかよチクショォォォォーーーーーーーーーー!!!!!!!
「ビヤァァァーーーーーーー!!!」

ガン泣きである。


「ミサカぶっちゃけ空気じゃね?」

ひっそりと呟く御坂妹。
勿論、実況は怠らない。ブレない女はいい女の証拠だとばかりに。


「くんくんくん…すーはーすーはー」
「うッヒ、ひゃァァァァーー!!!深呼吸すンなァ!!」
「すーーーーはーーーー」
「自重してくンないィィィ?」

44 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 17:28:13.34 ID:KVww07Y0


「で、結局その佐天さんっていう子が入り浸ってるわけか…あ、欲しい素材あるんだけどさ……まぁ心配する必要もなかったな」
「何だよ、何か言いたげじゃねェか…まだ持ってなかったのかァ?」

午前中で補習を終え、おそらく学園都市最強のコンビであろう二人はいつものごとく、ダラダラと過ごしている。
補習を終えた上条が仕事を終えて暇を持て余している一方通行にメールを入れてファミレスで合流するというパターンだ。

「ガンスってムズいだろそれ」
「慣れるまではなァ。コツを掴ンじまえば大したことァねェよ。俺が中学生のガキに何かするとでも思ってたのかァ?」
「いや、そうじゃなくてさ。お前のことだから変な事に巻き込みたく無いって言ってはねのけるんじゃないかって思ってた。
俺が心配してたのは、それが手荒じゃなかったのかっていう点だよ」

この不器用さが服を着て歩いているような男は、下手をすれば能力を使って脅しかねない。
悪役をやることには慣れきっているのだと、自分で自分を納得させてしまう。

それでは寂しいではないかと、常々上条は思っていた。


「最初はそうするつもりで部屋に呼ンだンだがなァ」

ジョウズニヤケマシタ~♪

「そうしなかったと。何かあったのか?ま、まさかひとめぼれ…流石はアクセロ」
「はり倒すぞォ三下ァァ…」
「すんません」

ロリコン疑惑が再燃し始めているだけに、一方通行は非常に敏感になっている。
特にラ行の発音なんかにはピリピリしている。ラ行[ピーーー]!!というまでにだ。

昨日ネットサーフィンをしていたインデックスが発見した書き込みは凄まじい反響であった。

確か内容は

セロリこと一方通行が「中学生はなァ…ババァなンだよ」
ではなく「中学生はなァ…食べごろなンだよ」だった件についてお前等どう思う?とミ○カはフラグ体質を発現し始めたセロリについて悪意と何故か苛立ちを持って書き込んでみる。

こういう内容だっただろうか。
レスが凄まじい速度で増えていき、中には携帯やデジカメから取った画像や動画をアップする者まであった。



45 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 17:32:34.09 ID:KVww07Y0

「しかし、お姫様抱っこで空を飛ぶって……ラブコメ系のラノベのキャラでせうか」
「うン、スッゲー今イラッときたンだがァ…チッ、まァ実際みっともネェ真似しちまったのは確かだァ」
「お礼っていうと、やはり上条さん的には色々なピンク色な感じのエロコメイベントを想像するのですが?」
「お前さ、ほンとあのシスターとそういう風になってから頭の湧きっぷりに拍車が掛かったよなァ…
そもそもお前が聞きたいのかァそんなことをよォ?日常茶飯事だろうが」

「わかってない、わかってないなあーくん。上条さんのお礼イベントはあくまでも言葉の通り。
俺は自覚してるんですよ、そういうイベントは後ろに『ただしイケメンに限る』って付くことを。
故に、無駄な期待はしない。もしかしたら自分に限ってはオイシイラブコメが待っているんじゃ…
なんて期待はとうに捨て去りましたともさ」

ちっちっちと指を左右に振る気取った仕草にイラッとする。
その指をへし折るぞと言いたいが、本気でそう思っているようなので、一方通行は黙る。
この男の鈍感さ加減、無自覚なフラグメイカーぶりは伊達じゃない。

(超電磁砲も気の毒によォ…)

気分は報われない妹を持ってしまったお兄ちゃんだ。
一万人の妹を持つお兄ちゃん。胸熱だなぁとのたまったのはイカレグラサンアロハだったか。


「まぁいい…あのガキの話だったな。俺はよ、とりあえず話を聞くだけ聞いてから、部屋からつまみ出そうと思ってたんだ。
俺みたいなのにあンなガキが近づいていいはずがねェからなァ。最悪能力使って脅してやってもよかった」

「やっぱり使おうとしたんか…で?」

「珈琲でも飲むかって缶コーヒー出そうとしたら、俺ン家のドリッパー目敏く見つけやがってよ。で、当然淹れて飲まないのかっていう話しになったわけだァ」

「そりゃあ、そうだろう」

袋いっぱいに缶コーヒーを買う男がコーヒー好きじゃないはずがない。
部屋にドリッパーや豆など本格的なものがあれば尚更だ。それなのに缶コーヒーを奨めるというのは不思議に思うだろう。
上条は冷めかけたポテトをかじる。

「正直気が進まねェ。前に淹れてみたら飲めたもんじゃなかった。ンで、この前も淹れてみたら見事に泥水が出来上がったわけだ」
「わお。珍しい。お前料理とかできるのにな。滅多にしないだけで」
「ああ、レシピさえわかってりゃあ大体できる。能力でどうにでもなるしなぁ。
けどよ、どうにもああいう技術云々よかコツがいるモンは出来ねェ」



46 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 17:35:41.66 ID:KVww07Y0


『うめェ…』

思わず口からこぼれた賞賛の言葉。
ツンデレキングこと一方通行が素直な賞賛を口にすることなど、青ピーのナンパが成功することに匹敵するほどのレアさである。

番外個体であろうとも、結標淡希であろうとも、彼に手料理を振る舞って素直に美味しいと言われたことなどない。せいぜいが悪くねェ止まりだ。

『好き→嫌いじゃねェ』

『なかなか美味しい→食えなくもない』

と変換されてしまうのだ。


『ホントですか?良かった~――― 特訓しておいて…』
『何だって?』
『あ、いえいえ、何でもないです。でも一方通行さんて器用な感じがしたんですけど、結構不器用さん?』

『うるせェ。悪いかよォ…』

『ああ、気を悪くしないで下さいよ。でも、珈琲好きなのに、豆があっても美味しく飲めないって結構生殺しじゃないんですか?』

『わ、わかるか?』

密かに己の抱えるジレンマに共感されたことが、一方通行の心をくすぐる。

『お仕事から帰って熱い珈琲を飲みたいなって思ってもコンビニで缶コーヒー買うわけになっちゃうんですよね?』

『お前…わかってンじゃねェかッ。ケッ…ガキのクセになかなか話せる奴だなお前』

友達いない歴が年齢の9割近くを占める一方通行は自分の気持ちに対して理解されることに極端に弱い。
ある意味においてメンタルが弱いのだ。
打たれ弱いのではなく、ガードが甘い。
悪意に対しての打たれ強さ、ガードは鉄壁であるというのに。
そんな長期政権を保有する王者が、好意的な感情を前にすると、とたんにグリーンボーイになってしまう。

悪意はベクトルで操作出来ても、イマイチ好意は操作出来ない一方通行だ。
悪意以外自分に向けられる感情など無いとばかりにオート反射スキルは伊達じゃない。
だから上手く反射できない好意は一方通行にとっては「魔法」のようなものなのだった。


47 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 17:36:58.47 ID:KVww07Y0

『だったら、私が教えてあげましょうか?美味しい珈琲の淹れ方』
『それが礼ってやつかァ?』
『駄目ですか?缶コーヒーの味に飽き飽きしてる一方通行さんの日常に、ひとときの安らぎを!!』
『安らぎ…?』
『そうです。想像してみて下さい。仕事から帰ってきた、今日は大変だった、身も心も疲れている…お仕事ツライでしょう?』
『ああ…仕事はしンどいンだわ、確かに』
『そんな時、熱々の湯を用意する。ゆっくりと湯を注いでいく。ドリッパーから滴り落ちる滴の音、部屋に広がる香ばしい珈琲の香り』
『ああ……』
『一口飲むと口に広がるほろ苦く、深みのある豊かな珈琲の味わい…』
『ごくり…』
『そんな珈琲を淹れられるようになりたくはありませんか?』
『な、なりてェ…』
『教えて欲しくはありませんか?』
『欲しいぜェ…』
『私が教えちゃいます!!』
『た、頼ンじまってもいいのか…?」
『全然オッケーです。だからメアド教えて下さい!!』
『ああ、わかったぜ』
『これで一方通行さんに安らぎの日々をあげられます』
『安らぎ…安らぎかァ…く、くれンのかよォ…?』
『あげいでか。あげますよ。っていうかむしろ私をあげます!!』
『くれンのかァ!?(安らぎを)』
『あげますとも!!(佐天涙子を)』
『マジでかァ…お前…俺みてェな外道にそこまで…』
『お礼ですから』
『お礼ってだけで…くッ…眩しいなァ…これが光の世界の住人って奴か…』
『気にしないで下さい』
『そういう訳にはいかねェよ…でっけェ借りを作っちまったみてェだ』
『だったら、交換条件で通ってもいいですか?』
『ああ、教えてもらうンだからなァ』
『ほ、本当ですか?だ、だったら、合い鍵とか…ほら、入れない時とか困りますし、先に来ちゃって』
『わかったぜ、ホラ、こンなモンでよけりゃァ』
『えっへへへ~~~ありがとうございます!!』


「と、まァそういうやりとりがあってだな。あンなに親切なガキを突っぱねるなンざ俺にはァ出来なかったンだよ。ヘッ、いいぜ?情けないヤロウだって蔑んでくれてもよォ」
「上条さんは今までお前がキャッチセールスに引っかからなかったこと寧ろ感謝したいですよ、ホントに…」

やばい、コイツ思っていた以上にピュアな人だと、上条はドン引きしながらこのいろいろな意味で白い子の今後が心配になった。

53 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 20:08:08.60 ID:xeephTco
番外個体とミサカ置き去りかよww

59 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 01:22:28.73 ID:llRuvQc0

「あ…」

短い声が佐天から零れる。思わずといった声に、咄嗟に口に手を当てて一方通行を見る。
二ィっと得意げに笑う。
くいっと顎でカップをしゃくり、肩を竦めてみせる。
気取った仕草が妙に可笑しく、そしてちょっと可愛いと佐天は思う。似合っているだけにだ。
イケメンじゃなかったら失笑ものだろう、本当に得な生き物だイケメン。あいつ等もう別の生き物だよ。


「どうだァ?中々のもンだろうが」

自分用のカップに淹れた珈琲を一口飲むと、フンと満更でもない様子。
ううぅと唸りながら佐天がずずずとわざとらしく音を啜る。
美味しいことは美味しいのだが、正直ブラックはそんなに飲めない。
子供扱いされるのがわかっているので口にはしないが。


「まァ、まだお前のには及ばねェがなァ」

「ふふ~ん、そうそう簡単に追いつかせませんよ~」

「ケッ、言ってろ」


佐天は飲み干したカップを流しに置くと、そのままセーラー服の上からエプロンを身に付けていく。
黒い色は彼女らしくない重いカラーリングであるが、佐天としてはこれでいい。
というかこれじゃなきゃ嫌だった。
何故なら、これは一方通行のエプロンだから。
コレを身に着けるだけで、佐天はむふ~と満足げになる。ご満悦だ。



60 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 01:25:00.67 ID:llRuvQc0

「つーか、イイのかァ?メシなンざ適当に…」
「駄目です。そう言って放っておくとお肉しか食べないじゃないですか一方通行さん」

ファミチキ五千円分相当を見た時は卒倒しそうになった。

「番外個体みたいなこと言いやがる…」

番外個体という名に、微かにピクリと口元が引きつるが、一方通行はそれに気付くはずもない。
そんな細やかな配慮の出来る男のはずが無いのである。


「誰でも言いますよ。それにお料理するの好きですし」


しかもそれが気になる人に作るのだったら尚更燃える。
やる気満々だ。授業中にこっそり料理本を覗き見る回数と、教師に怒られる頻度が上がったのはご愛嬌。

ちらりと視線を戸棚に何気に移したところで佐天は何気に気になったことがある。


「そういえば一方通行さんって紅茶とかは飲まないんですか?」
「紅茶ァ?」

初めて聞いたぜそんな言葉、そう言いたげに眉を顰める一方通行に、妙案が浮かんだとばかりに佐天はにこっと笑う。

何かを企んているような笑みに、一方通行が見覚えがあった。

打ち止めが彼に我がままを言う時、悪戯を仕掛ける時、こういう笑みを浮かべたと思い出す。
清々しいほどに屈託がないというのに、滲み出る胡散臭さ。


「何か警戒してません?」
「!?テメェ……さては思考を…」
「読めませんから。無能力者ッすから自分」

この人予想以上にわかりやすいなぁ~と佐天は密かに思う。
顔芸というか、顔に感情がありありと出ている。


61 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 01:30:11.13 ID:llRuvQc0

(いや、そうじゃないのか。多分オンオフみたいなんだ表情が)

攻撃性を出すか、無表情か。それだけなのだ、彼は。
御坂からレベル5がどのような子供時代を送ってきたかは聞いたことがある。
一番親しみやすい御坂でさえも子供らしいことをせずに成長してきた。
その反動で、あのようなイタイ…もとい子供らしい趣味を持っているくらいだ。

いや、キャラパンはキツイッスよ御坂さん、と何度佐天は思ったことだろう。
着替えで、お尻にデカデカと『オス、自分ゲコ太ッス。御坂の姐さんには可愛がってもらってるッス』と来た時にはドン引きした。

初春が言うには学園都市で一位と二位だけは“最初から一位と二位で不動だった”と聞いた。
一体それは彼がいくつの頃からだろうか。
感情の動きを攻撃性でしか表現できないようになってしまうのは一体。
不審そうに佐天を見る一方通行の姿に、一瞬野良猫を連想してしまうのは佐天の勝手な妄想だろうか。


「そうだ。今度明日私紅茶持って来ましょうか。淹れてあげますよ」
「いや、別に紅茶とか…ッてかお前また来るつもりかァ?」
「まぁまぁいいじゃないですか。美味しいですよ私の淹れる紅茶。
友達に常盤台のお嬢様がいて、その子直伝なんですよ。常盤台ですよ常盤台です」


「常盤台かよォ…いいイメージねェンだが」



脳裏に浮かぶのは自分を財布代わりに扱う憎たらしいクローンの中二達の顔。
無表情?冗談じゃない。アレを見てください。ありァあ悪魔の顔ですよ、エエ。
過去に何度買い物に付き合わされたことか。それだけならばまだマシかもしれない。


62 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 01:33:19.85 ID:llRuvQc0

それ以上に厄介なのが個性の分化。
最初は人形そのものであった妹達に徐々に個性が芽生えていくのを、一方通行は内心喜ばしく思っていた。

口に出したことは無いが、彼女達がそれぞれ普通の少女達のように、何気ないことに喜びを見出し、何気ないことに怒り、泣き、笑いそして幸せを感じる。
そうなってくれたら、それはどれほど良いことか。

自己満足であり、自己欺瞞であるのを承知で、一方通行はそうなることを望んだ。
彼女達に個性が芽生えていくことを心より願った。


そう思っていた時期が俺にもありましたァ。



『オイ…こンな夜中に何で人の部屋にいるンだァ…?つか、その首輪は…』
『あ、あの……雌豚って…ミサカの顔を雌豚って言いながら踏みつけて…キャッ恥ずかしいってミサカはミサカは…』
『ェェェェェ……』


『なンでお前このクソ早い朝っぱらからゴミ捨て場にいンだァ…?』
『ハァハァ…ぐ、ぐぐぐぐ、グッモーニン…せ、セロリタン……ミ、ミサカに…ミサカにセロリタンのその今にも捨てようとしている使用済み下着のゴミ袋を…
いえ、代わりに捨てておくだけです。ええ…ハァ、そんなハァハァいかがわしいことになんてハァハァ…ちょっとクンクンモグモグするだけで…ハァハァ……
おかしなことにはハァハァハァ…うッ……ふぅ…』
『最後の“ふぅ…”って何だァ!?』
『……いえ、何でもありませんよ?ただミサカ達は一体何処から来て何処に行くのかが気になっただけで…』
『お前今賢者タイムに入ったろォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーー!!!』



「一方通行さんどうしたんですか?」
「いやァ…個性ってなンだろォなァ…」




63 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 01:37:01.92 ID:llRuvQc0

土御門元春の目の前には、ソファに腰掛ける結標淡希と、彼女の隣りには学園都市最強の憎いアンチクショウこと一方通行。
ロリっ子好きの同士だと思っていたら、ボインちゃん好きの噂流しに奔走するという度し難い裏切りをかましてくれた男である。

一方通行は不機嫌そうに口元に箸を運んでは荒っぽく咀嚼する。
じっと一方通行を見つめる結標の視線は真剣そのものであり、一方通行といえば白い顔色をさらに白くさせている。
手の中にある弁当箱の中身を空にすると、心の底から疲弊しきっているかのような溜息を吐く。

ちらりと、土御門は視線を斜め向かいに向ける。
海原(偽)ことエツァリは、いつものごとく感情の読めない胡散臭い爽やかな笑みを浮かべる。


若干、そこに苦笑めいたものが浮かんでいるのは、土御門の気のせいではない。


「ン…まァ、悪くはねェンじゃねェの」

一方通行はかろうじてそれだけ言う。
声が…凄く震えています。


「本当?この前よりも美味しい。まだまだ用意できるけど?」


人はコレをムチャぶりと言う。


「調子に乗ってるンじゃねェよ。誰も美味いなンて言ってねェだろうがよォ」

箸を置くと、一方通行はソファから立ち上がる。
おそらく帰るのだろう。今日の依頼は予想外に早く終了している。
早く帰って横になりたいに違いない。土御門と海原は同じ思考に行き着く。


「そう…」

一方通行の置いた箸と弁当箱を片づけながら、結標の声はどこか暗い。
意気消沈しかけた結標に、一方通行の表情に焦りが浮かび上がったのを土御門は見逃さなかった。



64 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 01:44:45.02 ID:llRuvQc0

「……まァ、この前よかはマシなンじゃねェかァ?
言っておくが、マシになっただけだ、マシになァ。勘違いしてンじゃねェぞ!」

舌打ちと共に大変素直ではない言葉が出る。
しかし、一方通行とそれなりのつき合いである土御門にはどれほどデレているのかがわかる。
(いっつーさんのデレいただきましたにゃー!)等と内心喝采を上げる土御門元春。
正直、かつての一方通行に比べればデレ期に完全に突入しているとしか思えない。

「まぁ、俺としちゃァ、もう少し薄味でも良いンじゃねェかと思うがなァ」

本当はすっごく味を薄めて欲しい。切に願う。
だって噛んでる最中にガリガリ音がしたンだもン。その言葉をグッと飲み込む。
無性に薄味の煮物が食べたいなどと、疲れたサラリーマンのお父さんのようなことを思う。

「そうなんだ…」

一瞬結標は無垢な、年相応の表情を浮かべるがそれを打ち消すように唇を尖らせる。

「って、そっちこそ何勘違いしてるのよ!どうせ自炊しないだろうアンタに同情したから残飯やってるだけなんだから。
味に注文付けるなんて片腹痛いわよ」

「ああァそうかい。そいつァ悪かったなァ。ったく、人がせっかくアドバイスしてやってンのによォ…」
いや、ほンと塩の塊とかキツイっスよ淡希さンと一方通行が思ったのかは定かではない。
しかし、アドバイスは事実を指しているのだ。
「よ、余計なお世話よ!!」

しかし、結標はカァっと赤くするとふんと、鼻を鳴らす。
一方通行は結標の相手はおしまいだとばかりにきびすを返す。
早く寝たい。疲れきった身体を癒したかった。一刻も早く。

「何よ…何だかんだ言ってきっちり食べてるじゃないの素直じゃない奴!!」
「それをお前が言うなっていう話しだにゃー」
「ですね」
「な、何よ!!」

ムッとした顔で睨みつけてくる結標に土御門と海原はやれやれと肩をすくめる。

「鏡見たほうが良いんだぜい。耳まで真っ赤だにゃー」
「あと失礼ですが、顔が緩んでますよ」
「一方通行が鈍い奴で良かったにゃ。いや、悪かったのか?」
「あにゃッ!?」


65 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 01:46:50.47 ID:llRuvQc0

ニヤニヤと土御門がからかうと、結標は更に顔を林檎のように染める。
服装こそ露出多めの痴女ッ子丸だしのクセに、随分と初な反応だ。
土御門のいじめっ子属性がくすぐられる。

「それにしても盛大な残り物だにゃー。
学園都市御用達の保温性の高い弁当箱に入れてるのを差し引いても出来立てみたいだったにゃー」
「ええ、今の季節だと湯気が立ち上っているのがよくわかりますね」

海原ものっかる。

「な、ななななによ…レンジで昨日の夕飯の残りをチンしたのよ、そうよ、それだけよ!!」
「ほほう。ところで結標よ知っているかにゃ?お前の頬にソースが付いてるぜ?まるで調理してた時に付いたみたいだにゃー」

「!?」

とっさに頬に手を当てるが、結標の手には何も付かない。

「何もないじゃない!!」
「そうだにゃーでも、ドジっ娘は見つかったようだな」

暗部モードの有無を言わせぬ口調に結標の顔が凍り付く。
ゴゴゴゴゴという効果音と共に、にやりとした土御門の笑みがいやらしく深みを増す。

「健気だにゃー。そうは思わないか海原よ」
「ええロシアから彼が帰ってきてからですよね。
やたら一生懸命に苦手な自分の座標移動を克服したと思ったら、わざわざ帰って作って来るんですから」

「きっと味付けも明日は薄目にするんだぜい」


67 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 01:54:15.73 ID:llRuvQc0

くすくす、にやにや、ひそひそ。

土御門と海原はちらちらと結標を横目に見ながらわざとらしく声を潜めて頷きあう。
こめかみをひきつらせながら、林檎のように顔中を真っ赤にさせた結標は、しかし土御門達の追求に二の句がつげられない。
何故なら全てが図星だから。

「アンタ等…今すぐに衣服だけ残して飛ばしてあげてもいいのよ?海原は常盤台にまっぱで飛ばしてあげようかしら?
愛しの超電磁砲に軽蔑の眼差しでも向けられることね」


剣呑な視線を向けながら、結標はわなわなと震える手に軍用ライトを取る。
半ば本気だ。しかし、土御門はもちろん、海原にも動揺は見られない。
土御門は結標は本気でやれはしないだろうとわかっていたし、海原にとってはやるやらないなどそもそも問題ではないからだ。


「御坂さんに裸を見られて、ゲジゲジを見るような目で見られる?
蔑みの眼差しで見られると?罵倒されるという目に遭わせると、そう仰るおつもりですか?
僕のアステカ式わんぱく棒ズを腐った蛆虫を見るような目で御坂さんに見られると!!
それなのに僕は裸に亀甲縛りで身動きが出来ずに転がることしか出来ない状況に甘んじるしかない。
そんなシチュエーションに僕を突き落とそうとするおつもりですか!?」

「い、いや…そこまでは…えっと…」

あわきんドン引き。


「ふふふ……甘いですね結標さん」
「海原…?」
「おい…どうしたんだ…海原…」
「そう、貴女がこっそりつけている『あわきんダイアリー』よりも甘いですよ!!」
「あ、アアアアアアアアアアア、アンタッ!!な、な、にゃんでそれを…ッ」
「その程度で僕が恐怖に竦むとでも?くくくく…僕の御坂さんへの愛はその程度では挫けません!!」

バンッとテーブルを叩くアステカの魔術師。


「あえて言いましょう。寧ろ望むところですよ、と」

「望むの!?」



アステカの魔術師にとって、御坂美琴の蔑む視線などご褒美らしい。アステカ、さすがはアステカといえよう。
ロマンと神秘に彩られた未知の世界には我々の常識にはない概念と価値観が山と存在するようだ。ストーキング行為を純愛とし、軽蔑の眼差し、罵倒をご褒美とする。結標淡希は初めてアステカという世界に戦慄を抱いた。




69 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 01:57:59.38 ID:llRuvQc0

「それでさぁ、一方通行さんたらさぁ、結局『まァ悪かねェな紅茶もよォ』とか言っちゃってるくせにさ」

「はいはい」

「顔がほわぁって柔らかくなってるのに気づいてなくてね」

「ほうほう」

「その顔が無邪気っていうのかな、いつもみたいに眉間に皺寄せたり、二カァって笑ってる時と全然違ってて凄く可愛いの」

「へぇぇ~」

風気委員の雑務をこなしながら初春飾利は気のない返事ここに極まる。

正直仕事の邪魔、ぶっちゃけうざい。

その言葉は親友であるが故にグッと噛み堪えながら親友ののろけじみたテロにも匹敵する言葉の五月雨に耐える。
若干頭の本体さんも元気が無い。
しょぼんと花は萎れ

「飾利よ、涙子嬢のコレは一体いつまで続くんだ?」

と初春にい問いかけているかのようだ。
初春の精神をガリガリと削り取っている佐天涙子の表情には僅かたりとも罪の意識など垣間見えない。

無自覚の罪って一番罪深いよね何時の時代も。

「最初は頼りになる人かなって思ってたんだけどさ、最初っていうのは助けてもらった時ね。
実際に付き合ってみると可愛いんだよね」

「へぇ~付き合ってるんですか」

「やだなぁ初春。付き合うっていうのはそういう意味じゃないってば。
ま、まぁ、私としてはそういう意味になるのも全然オッケーつーか、むしろバッチ来いなんだけどさ。あははははは…」


それにしてもこの佐天さん、テンション実に高い。


70 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 01:59:50.41 ID:llRuvQc0

(はっぱでもやってるのかなぁ佐天さん…)


思わずとてつもなく失礼なことを思い浮かべてしまうは、いい加減にして欲しいという初春の限界の顕れ。
手にした「美味しい珈琲への道」をぺらぺらとめくりながら、普段であれば快活さと華やかさの中に凛々しさを秘めたその表情はだらしなく緩んでいる。

どうしてこうなった、と尋ねれば自分のせいであるのだが。

最初は面白がって佐天の後押しをしたのは確かであるが精々適当にはぐらかされて終わりだろうとたかを括っていた。
勿論、佐天が弄ばれるという意味ではなく、子供扱いされて追い出されるものだろうと踏んでいたのだ。
彼は自分に表の世界の人間、すなわち自分や佐天のような人間が関わることをよしとしない。

故に、佐天を遠ざけると思っていたのだ。だからこそ楽観的に見ていた。
佐天が様々なアプローチを掛けていくのをこっそりカメラにハッキングして覗き見て、普段からかわれている復讐の材料に使うのも良い。
危なくなったら白井と共に助けに駆けつければいい。
初春にとっても命の恩人にあたる一方通行は調べれば調べるほどある単語に集約されていく。


それは『義賊』。

御坂美琴がお熱を上げている上条当麻をヒーローとすれば彼は偽悪的もしくは悩むヒーロー。


上条当麻がウルトラマンならば一方通行は仮面ライダーであろう。


キカイダーも捨てがたいが、ちょっとわからない人にはハードル高いから仮面ライダー。
どちらかというと昭和だ。平成はもっと下らないところでグルグル悩んでるから。



71 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 02:03:11.76 ID:llRuvQc0

初春は佐天が深入りなどせずにさっさと切り上げざるを得なくなると予想していた。

しかし実際には異なった。
佐天の淹れた珈琲にすっかり気に入ってしまった彼は佐天が訪ねてくることを許容するようになってしまった。
もしくは、初春が気付かぬ『何か』に一方通行が魅かれて…そこまで考えて初春は思考を切り替える。
自分がアレコレ考えて結論の出る問題でもない。


「でも良かったですよね、一週間珈琲淹れる特訓した甲斐がありましたよ」
「ホント、ありがとう~~。初春には感謝してもしたりないよ~~」
「お礼なら寧ろ私達風紀委員の方が言わないといけませんってば。
佐天さんの珈琲が徹夜作業の唯一の慰めだっていう人多いんですから」

それから珈琲を淹れてくれる佐天さんの笑顔も、という言葉は言わない。
彼女の輝かんばかりの笑顔にこの一週間どれほどの風紀委員が使い物にならなくなったことか。
佐天が来ていないと途端にテンションだだ下がりの牙を抜かれた犬共の存在など露ほども知らずに、佐天はニコニコしている。

牙を抜かれた男共は、更には佐天がたった一人の男の為に美味しい珈琲の淹れ方を練習していたという事実を知ってから牙どころか去勢された犬に成り下がった。

奴等は既に駄犬だ。べりーしっと。初春は心の中で敗北主義者に舌打ちを見舞う。
佐天は先ほどからちらちらと時計を見ているが、今日もそろそろというわけであろうか。


「おや、もうこんな時間だ。あんまり長居すると迷惑になっちゃうから私は帰るね初春。また来週学校で」

長居しすぎて迷惑だなどと言ったことも無いくせに、最近はすっかり夕方には引き上げていく佐天。
彼女の向かう先などわかっている。タイムセールがあるのだろう。
そして向かう先は恩人の部屋。

「やれやれだなぁ」

初春は気晴らしに雑務を放り投げPSPのスイッチを入れる。
もう狩るしかねぇってばよ、得意の片手剣が今日も唸る。


この後帰ってきた白井に大目玉を食らうのは15分後の話である。
ドンマイ、初春。




84 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 18:55:27.11 ID:llRuvQc0

「それで、相変わらずじゃん?番外個体は」
「うん、今は10032号が中でお話してるけど、MNWを切ってるから状況がわからないって、ミサカはミサカは一人仲間外れな状況への不満を大人の余裕で耐えてつつヨミカワに報告してみる」

初めて出会った頃よりも背が伸び、アホ毛も凛々しくなったミニサイズの御坂美琴こと打ち止めがドアの前でジャージ姿の美女に心配そうな顔を向ける。
家主である黄泉川は視線をわずかにドアに向けると、髪をかきあげる。

「まったく……泣きながら帰ってきたと思ったら引きこもって一週間じゃん?いい加減顔くらいきちんと見せてくれないと安心出来ないじゃんよ」

打ち止めは、MNWが切れていることを確認すると、黄泉川をリビングへ手招きする。
万が一にも部屋の中にいる番外個体と御坂妹には聞かれたくない内容だと察すると、黄泉川はうなずく。
リビングのテーブルに向かい合い腰掛けると、打ち止めはミルクを一杯注いで飲む。

「番外個体はああ見えて一番幼いの。ああいうキャラだし、悪意を集めやすいっていう設定だからメンタルが強そうに見えるけど、それはミサカ達の悪意に慣れてるっていうだけ。
それって幼い自我だった番外個体にとっては自分の感情と変わらないんだよって、ミサカはミサカは今後の新巻の内容によってはデタラメにしかならないだろう番外個体の新事実を打ち明けてみる」

打ち止めさん、メタな発言は控えて頂けると、その、助かります。



85 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 18:56:47.63 ID:llRuvQc0

「う~ん…要は他人の悪意と違って、自分の心の恨み言が鮮明に聞き取れてるだけっていうことじゃん?」

「当たらずとも遠からずだよ。ミサカ達は自我の何割かをみんなで共有してる。だから個々の自我が邪魔をしないで『ミサカ』という『群体』としてあの人をサポート出来てる。
未熟なミサカだったり、心が弱っているミサカによっては、他のミサカ達の感情に巻き込まれちゃって自分の感情と区別が出来ないの」

「そうなると、アイツの一方通行への態度は何なんじゃん?」

「番外個体は知識でしか知らなかったあの人とロシアで出会ってから、急速に自我が成長したの。
心は入れ物、器である身体に引っ張られて成長していくものだから、それは他のミサカ達よりも早いものだった。
黄泉川や芳川達と此処で暮らすようになってからの番外個体は悪意以外の感情を芽生えさせていってるんだよ。
だから、幼いながらも自我がはっきりと彼女の中で育っていったんだってミサカはミサカは黄泉川と芳川の保護者スキルにGJをしてみる」

グッジョブ。打ち止めは小さな親指でサムズアップする。

「照れるじゃん。それで、それで?」

「うん。けど番外個体がミサカ達のあの人への悪意を受けていることは変わらないの。
もちろんMNWでそれを修正するようにゲコ太のお医者さんと協力体制で取り組んでるんだけど、
すぐには上手くいかないの。悪意とは言え、いきなり感情を刺激するものがなくなれば
番外個体の精神は不安定になってしまうから。だから今、番外個体の中で二つの感情が
ぶつかり合ってるの」



86 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 18:58:47.89 ID:llRuvQc0

黄泉川はぱちんと得心が行ったように指を鳴らす。

「そっか、つまり自分の感情だと思いこんでるアイツへの悪意と、番外個体自身のアイツへの感情が喧嘩してるってことじゃん?」

「うん、だからチグハグな態度に出ちゃうのってミサカはミサカはよく出来ましたって優しい先生のように黄泉川を絶賛してみる!わーパチパチパチ」

小さな手を叩いて喜ぶ打ち止めがちょっぴり小憎らしかったので、黄泉川はおでこにでこピンをする。
はうっとのけぞると、打ち止めは涙目で唸る。

「それで、アンタはいいじゃん?」
「何がなの?」
「御坂妹の話しじゃ、アイツが女の子連れ込んだって話しじゃん?昔みたいにミサカはミサカはアナタの浮気を疑ってみる~~!!って行かないじゃん?」

打ち止めの手からコップを取ると、ミルクを注いで一息に飲む。
メーカーは当然皆の、巨乳の、固法先輩の味方ムサシノだ。

「そもそもアンタって最近アイツにそっけないじゃん。アイツ寂しそうにしてたじゃん、この前」

折角打ち止めの為に、彼女が欲しがっていたぬいぐるみを持参してやってきたというのに、
殆ど部屋に篭って会わずしまいだった。


一方通行といえば、

『は、ははは、ま、べっつにィ~~クソガキの相手とかマジ疲れっからァ~?
イインですけどねェ~』

とテンプレの如き強がりの後にしょんぼりだ。

しょんぼりっぷりがあんまりにも可哀想だったり可愛かったりで、黄泉川は思わず
ぎゅっとしてしまったのだが、それは余談である。



87 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 19:01:07.93 ID:llRuvQc0


「本当は甘えたいけど、あえて我慢するの」

「甘えたい盛りの子供が我慢するのはよくないじゃん。親や兄弟に甘えたい気持ちなら尚更」

「そうなの、兄弟が問題なのってミサカはミサカはヨミカワの口にしたワードに触れてみる」

「何がダメじゃん?アイツ相当素直になったから多分甘えさせてくれるじゃん。問題ないじゃん」

「ミサカは今まであの人とべったり一緒にいたがってた。
けど、そうするとあの寂しんぼウサギはすぐに『家族愛』で一括りにしたがるのってミサカは
ミサカはロシアで見たあの人の無邪気な笑顔を思い出しときめきと不満を覚えてみる」

「ええっと……つまりアレじゃん。あんまりくっつきすぎて家族としか見られなくなるのは困るってことじゃん?」

「そう!!素っ気なく振る舞ってあの人に、ミサカもお年頃の女の子であることを意識させる。
それから徐々に成長して光輝いていくであろうミサカを見せつけるの。
今誰とつきあっていようが、最終的にミサカがあの人の隣に立てばいいわけであって、
それまでは大目に見るつもりだよってミサカはミサカは大人の余裕を見せつけながら
『ミサカ五ヵ年計画』の概要を打ち明けてみる」

ふんす、と鼻息荒く力説する打ち止め。
自分が11歳の時はこんなにもガッツいていただろうか。黄泉川は十何年前の記憶を辿る。


「ああ……それで、番外個体は結局どうするじゃん?」
「あの子は意固地だから、多分素直に説得されないと思う。だから最終的には自分で答えを見つけるしかない
とミサカはミサカは甘いだけの姉とは違うのだよと言ってみる」

「つまり放置ってことじゃん…御坂妹…頼りにしてるじゃん…」



保護者としてのふがいなさを噛みしめながら黄泉川は番外個体と御坂妹がいる部屋へと視線を向けた。



88 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 19:03:18.94 ID:llRuvQc0

一方通行さんのピュアさんっぷりに上条さんがちょっとドン引きしちゃった日の夜。
場所は上条さんの意外にも小奇麗で、正直高校生の癖にと思わないでもない男子寮である。




「へー、あくせられーたーって案外おバカさんなんだね」
「まぁ、馬鹿っていうかアイツの場合人と接することに慣れてないからさ、疑ってかかるか、逆に素直に言葉を受け止めちゃうしかないんだよ」

上条がアイロンをかけた洗濯物をインデックスが畳んでいく。
家事スキルを順当にマスターしていく彼女を指してインなんとかさんwwと呼ぶものはいない。シスター服を着る必要がなくなり、白いブラウスにブラウンのスカートを履く姿はどこにでもいる可愛らしい少女でしかない。
そこにはえげつねぇ処置をされていたり、その気になったらチートキャラすぎて蚊帳の外に置いておかれたりする姿はどこにもない。

「あくせられーたは人を無意識に善人か悪人で分けちゃうところがあるんだよ。だから極端に言葉の裏を読みとったり、純粋に信じちゃったり二分されちゃうのかも」
「極端から極端に走るっていうことか?」
「うん。とーまも同じことが言えるんだけど、とーまの場合は単純に頭の巡りが悪いせいなんだけどね。一方通行の場合は完全な経験値不足なんだよ」

人生経験はともかく、コミュニケーションの経験値が絶対的に足りてないかも、と膝の上でリズムよく畳むのは上条のパンツ。
ふと、隣のインデックスが畳むマイパンツに目をやると、そのままインデックスの膝に目がいく。
スカートからのびる膝と、黒と緑のストライプのニーソの絶対領域が不可抗力的に上条の網膜を突き抜け、青い衝動に火を点ける。


【上条REASON:90/100】




89 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 19:08:03.43 ID:llRuvQc0

ニーソか網タイツかガーターか。
この譲れぬ主張を巡り、上条当麻、浜面仕上、そして一方通行の三人の学園都市の英雄が血で血を洗う戦いを行ったことは、記憶にまだ新しい。

人はこれを『千日っぽい戦争(ニューサウザンドウォー)』と呼んだ。

上条の説教が風を切り、浜面の巧妙かつえげつねぇ罠が炸裂し、一方通行のプラズマが周囲を焼き尽くした。

上条の腕が吹き飛び、うっかり中からドラゴンさんがこんにちはしたり、浜面が召還魔法むぎのんによって自らの首を絞め、一方通行の黒翼が唸りを上げた。

上条さんがドラゴンっぽいのと合体して「俺は前世だか向こう側の世界だか、なんだかんだで魔王サタンだったりする」と言えば、それに対抗するのはダークヒーロー担当一方通行さん。
一方通行はエンジェル化して、エイワスを倒した時に手に入れた力で「じゃあ俺はルシフェルだコラァ!!!」と中二病を悪化させたりもした。

その頃になると僕等の凡人、浜面仕上さんはむぎのんに追っかけまわされていてそれどころじゃないし滝壷さんはそんなはまづらを応援していた。
戦いは、結局インデックスが網タイツを履き、番外個体と結標淡希がニーソを履き、滝壺がガーターを履いたことにより互いを尊重することの大切さを学んだ三人の自主的停戦によって終結した。


上条はその時の網タイツに包まれたインデックスの白くしなやかな脚を思い出す。
まるで陸に上がってしまった幼い人魚姫のような、すらりとした、穢れ一つ無い脚。正直ムラムラすると上条はごきゅりと生唾を飲み下す。

「うふふ、とーまったらいやらしいんだよ目が」
「いや、何を言ってるのでせうかインデックスさん。上条さんは別に…」
「嘘ばっかり。とーまは隠し事をするときは頬をかく癖があるんだよ」
「んなことねぇよ」
「でも安心かも。一時はとーまってば本気でアレが使い物にならないんじゃないのかなって、幻想殺しの影響で、とーまのきかん棒にあるはずの思春期が打ち消されてるかもって思ってたんだけどね」

上条さん枯れ過ぎだろうと、誰もが思っていた。
もしかして彼はいつしか仙人の領域に…などという疑惑が学園都市、イギリス中を駆け巡ったりもした。
しかし、現実はそうではなかった。所詮というべきか、流石にというべきか、上条も漲るお年頃。
流石の幻想殺しも上条の思春期まではぶち殺せなかった。

顔を背け頬をかこうとした指をインデックスが掴む。
可愛い顔して、可愛い声で、そうとうキワドイことを口走るほとんど幼女に、上条は……正直ムラムラした。

インなんとかさんネタを乗り越えたインデックスは様々なスキルを操るようになっていた。
今の彼女はさながらインモラルさん。そして、夜では上条さん相手にインファイトさん(意味深)になる。

まったく10万3001冊マジぱねぇなぁ。



90 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 19:09:28.68 ID:llRuvQc0

「ほら。言ってるそばから~とーま?」
自然とインデックスが下から上条を見上げる形になり、ブラウスの胸元が上条の視界に留まる。

(な、何だと!!)

なんと、そこには白い肌。胸元が普段よりも開いたブラウスから地肌がのぞいている。つまりは…

(付けていない!!)

【上条REASON:75/100】


上条の視線に気づいたのか、インデックスが胸元をわざとらしく押さえる。にんまりと笑った顔はイタズラを企む童女のそれだ。

「とーまが帰ってくる前にお風呂に入ってたんだよ。下着は乾かしてる最中だったから付けてないの。っていうかとーまのせいだもん」
「なぬッ!?」

インデックスは口元に妖艶さを貼り付け微笑する。
白い肌が羞恥でほんのり紅色だ。



「だって、とーまのせいでお風呂入れなかったもん。そのまましようって朝まで」

「Oh…Miss Index?」

このシスターは何をいきなり言い出すのだ、といきり立とうとするものの、
上条はそこで己のわんぱく棒ずがいきり立とうとしている事実に気づく。

上条は己の相棒にして、不肖の一人息子を叱責する。

め、お父さんとお母さんは今とても大事なお話をしてるんだから起きてくるんじゃありません。


91 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 19:15:45.79 ID:llRuvQc0

「あッ…とーま?もう、ほんとにとーまはとーまなんだね。でもね、そんなとーまの為にインデックスはしっかり準備しておいたんだよ?」
「じゅ、じゅんび…ですと…」
「うん、とーまの好きな桃のボディーソープ。ほら、桃の匂いがするでしょ?」

インデックスが身体をすり寄せる。
その際、ふにゃんと柔らかいものが当たる感触に上条は唸り声を上げる。

「Shit!Shit!Very shit!!」

【上条REASON:45/100】

しかし、上条はそれを鋼の精神で押さえ込む。
紳士たれ。紳士であれ上条当麻。昨日さんざんイタしたというのに、お前はちょっとスリスリされたらもうこのザマか?
大切にするんだろ?守り抜くんだろう?泣き顔なんて見たくもないのだろう?だったらこれくらいの(誘惑の)プロローグで挫折してるんじゃない。誰だって紳士になりたいんだ。

しかし、このけしからんニンフェットは、更に上条の防壁をつき崩しにかかる。


「ほら、ほら、とーまってば。黙ってないでなんとか言うんだよ。ほら、ほら」

すりすりすり、ふにゅふにゅふにゅ。
いけないシスターは上条の幻想殺しを無効化していく。
耳にかかる吐息は竜王の吐息ならぬ妖精の吐息。

(効果は抜群だ!!)

【上条REASON:20/100】


「ねぇ、とーま。とーまったら。……いんだよ?」
「なに…?」
「我慢しなくてもいいんだよ?」
もじもじと、一転して恥ずかしがるインデックスはちらちらと赤い顔で見上げながら上条の裾を摘む。
「は、恥ずかしいけどね、とーまが我慢するくらいなら…いいんだよ?それに、とーま明日は補習もないし、お休みなんでしょ?」
「おう…」
「だから、とーまの好きな桃のやつで洗ったり…私も実は期待してたかも…」

恥ずかしいにもほどがあるとばかりに顔を伏せるインデックス。
彼女は気づいていなかった。
その仕草はヨハネのペンモード、通称「ペンデックスさん」時のクールビューティーっぷりを上回る色気を放っていることを。
インデックスの限界を超えたインデックスであることを。


92 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 19:16:56.95 ID:llRuvQc0


『これがインなんとかさん。そしてこれがその限界を超えた……インデックス』
『つまらない変身なりにけるの』
『その限界を更に超えたこれが…ペンデックス……そしてこれが!!』
『!?』

『はったりですよねインデックス…』
『まさかあの子に更にその先が…』

『時間が掛かっちゃったかも。まだこの変身に慣れてないんだよ。これがインデックス3……いえ、』



『淫デックスさん』である。



93 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 19:18:22.11 ID:llRuvQc0

「い、い、いいいい、インデックス。か、かみ、上条さんのライフポイントという名の理性はもうやばいのですが…」
「うん、私はシスターだから。もう元がつくけどシスターだから。とーまの思春期でパンパンに膨らんだ暴れん棒だって受け入れる所存なんだよ?」

淫デックスさん全開である。
そして上条当麻の普段は常人の半分以下しか活動していない脳が急速に回転を始める。
淫デックスさんの言葉から、彼女の本心を引き出していく。
その処理速度は凄まじく、10万と3001冊の魔道書から組み合わされた暗号を解読していく。
その処理速度は、嘗て聖歌を歌い上げた一方通行の行使した魔術にかぎりなく迫るものだった。


(い、インデックスから桃の香りが
⇒インデックスの桃尻?
⇒インデックスが食べてくれと言って桃尻を上条さんに差し出す?
⇒インデックスの桃尻?否、断じて否。あれは丸ごと上条さんの桃じゃあありませんか
⇒インデックスがわざわざ磨き上げてくれた上条さん専用桃尻?
⇒寧ろインデックスが上条さんにとっての果汁たっぷりの桃?
⇒インデックスが美味しく頂かれる為に自らを上条さん専用の桃に…?)


そして解き終えた暗号の先にあった彼女の隠された本心にたどり着く。
上条当麻は辿り着いたのだ。ずっと聞きたかった本心がそこにあった。
同時に、渇いた音がした。それは上条の中の『鎖』が崩壊する音。


【上条REASON:0/100】


人によってはその鎖を『理性』と呼ぶ。



94 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 19:23:37.16 ID:llRuvQc0

「ウガァオオオオオオオオオオオオオオーーーーーー!!!!!!」

上条当麻のわんぱく棒ず、もとい暴れん棒は、すでに『棒君』へとワープ進化を果たしていた。


「オレ、インデックス、二、スグ、イン、スル。ナイテモ、オレ、ケッシテ、ヤメナイ。
オレ、インデックス、イタダキマンモス!!」


四つん這いになった上条は、すでに神浄すら超えている。

さぁ、戦争を始めようかインデックス。

魔道書の貯蔵は十分か?

ハイライトの消えた瞳、御坂妹などに使われる瞳 ――― 通称レイプ目、若い人には種割れ目と言うべきか。

上条の瞳にはどんよりとした魚の腐ったような濁り色のみが浮かぶ。
光なんざ映る必要など無い。
だってこれからは夜の戦いなのだから。でも、本当はライト全開で行いたい。
くっきりはっきりしゃっきり見ながらやりたいのだ上条当麻は。
しかし、紳士はそんなことはしない。男は黙ってサーチライト。


そんな紳士を鎮めることの出来る最後の希望は、ゆっくりと両手を広げた。

「delicious545…」

それはインデックスの新たなる魔法名。
『献身的な子羊は獣に美味しくいただかれます』を意味する。
その夜、制限時間三時間の三本勝負が始まった。
開始から四時間経過し、無制限デスマッチに試合形式が変わったことを。

佐天涙子直伝の珈琲術の研究に余念が無い一方通行は知らなかった。

そして知る必要もなかった。だって、どうせファミレスで聞かされるんだもの。



95 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 19:26:32.87 ID:llRuvQc0
「おかえりなさ~い」
「……お前…また来てやがったのかァ…」
セーラー服にエプロンという上級コンボを繰り出す少女に、かける言葉の諦観の色が滲んでいる。
既に恒例と化しているやりとりに、受け手の少女佐天涙子はまともに取り合うつもりも無いのか視線を鍋に向けたままだ。
一方通行はコンビニ袋から缶コーヒーを取り出すと順繰りに冷蔵庫に放り込んでいく。

「お前…なに勝手に」

見慣れぬものがいくつか冷蔵庫に見受けられる。プリンであったり紅茶のケーキであったり、どう見ても自分が食べるものではない。
甘いものが苦手な一方通行でなければ犯人は佐天だろう。

「いいじゃないですか。一方通行さんの分もありますよ」
「俺は甘いものは嫌いなんだよォ…っていうかお前いいのか?」
「何がですか?」
「だからよ…お前らの年だと友達ってのと遊んだりすンだろうが。
馬鹿みてェに意味も無く集まっちゃァダベったりすンだろうが」

がしがしと頭をかく。わかっている。
どうにも自分らしくないことを言っている。
その自覚は十分にあるのだ。

「ちゃんと遊んでますよ。心配させちゃってすみません」
「ハッ、馬鹿言ってンじゃねェよクソガキが」
「ちょっとぉ、私には佐天涙子っていう名前があるんですから、ちゃんと呼んで下さいってば」
「わかったわかった、わかったってクソガキ」
「もう!!学園都市第一位ってもっと大人な感じの人だと思ってたのに。
こんなに意地悪だなんて」



96 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 19:27:40.82 ID:llRuvQc0

ぶつぶつ言いながら佐天はできた料理を次々と並べていく。
肉じゃが、インゲンの和え物、サツマイモの味噌汁、鶏のささみとキュウリのサラダ。

「いろいろ文句は言いたいですけど、まずはご飯にしましょう」
「番外個体といい、俺ん家は花嫁修業の場所かァ?楽だからいいけどよォ」

しっかり自分の分まで作っている辺り良い根性をしている。
不思議とその図太さというか、抜け目なさが鼻に付かない。

「番外個体さんって、あの御坂さんのお姉さんの?」
「……まァな」
クローンであることは伏せ、御坂美琴の姉ということにしておいた。こんな普通に表の世界で生きている少女が知るようなことではない。
「あれから来ねェからなァ、正直お前がこうして飯作ってくれてるのはありがてェ」

結標淡希や番外個体が聞いたらいろいろな意味で卒倒しそうな言葉。彼にしては大盤振る舞いのほめ言葉だ。

「何だか悪いことしちゃいましたね」
「いいンだよ。どうせ暇つぶしに来てたんだろうが。飽きて来なくなるってンならそれに越したこたァねェ」
「…あの人が嫌いなんですか?」
「……いや、そうじゃねェ」

言葉を濁して、一方通行は味噌汁をすする。サツマイモの甘さが心地よい。
番外個体との関係をうまく佐天に伝えられる自信はなかった。そしてそれ以上に伝える気は起こらなかった。

「まぁ、あんまり俺の存在は教育に良くわねェからなァ」
「あっははは、何ですかそれ。お父さんみたいな台詞ですよそれ」
「みてぇなもンだ。つーか、結局コーヒー淹れてるよかこうして飯食ってる時間の方が長ェな」
「安らぎを与えますって約束したじゃないですか~安らぎません?母の味肉じゃがですよ。女の子に男の子が惚れる定番料理ですよ」
「馬鹿言ってンじゃねェよ、クソガキ」


97 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 19:28:22.88 ID:llRuvQc0

安らぎ。確かにそうかもしれない。
こうして温かい食事をしながら穏やかに誰かと言葉を交わすのは久しぶりだ。
結標淡希や番外個体との憎まれ口の叩き合いも存外嫌いではないが、佐天とこうしている時間はまったう別ものだ。
学園都市最凶の悪魔と、一方通行ともあろう者が随分と腑抜けたものだ。

「あ…」

佐天の声に我に返る。物思いに浸ってしまっていたようだ。
つくづくどうかしている。佐天は目を丸くして一方通行を見ている。

「なんだァ?」
「い、いえ、なんでもないです、ええ、ほんと、なんでもないですよ!!」
「そ、そうかァ」
佐天は誤魔化すようにご飯をかき込む。
頬を赤くしているのは気のせいであろうか。

(今…笑ってたぁ…にこぉって…えへへへ)

佐天は嬉しくなってくる。
ずっと、憧れていた存在。『学園都市第一位』などと言う現実味の無い、名前だけしか聞かない存在。
一体どのような人間なのだろうかと想像の翼を広げていた頃が嘘のようだ。あの頃は勝手な想像が頭の中に溢れていた。
その頃の自分が今の自分を見たら『嘘ォ!?』と叫ぶだろう。
今こうして自分が食卓を囲んでいることが不思議だ。

まるで憧れのスポーツ選手といる子供のような浮ついた気持ちが佐天の中にあった。



100 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/12(日) 20:21:39.41 ID:IrqpA7g0
この上条さんはいろいろとダメだなwwwwww
それにしてもモテモテだな、一方通行。

111 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/13(月) 23:23:50.26 ID:ZIi8HSk0



「あら、アンタ達だけ?」

結標淡希は心なしか落胆したように呟く。


「愛しの一方通行は仕事だにゃ。今回のはアイツ一人で十分だからな。残念だったにゃあわきん」
「だ、誰が愛しのよ。あとあわきんと言うな!!」

ニヤニヤと笑う土御門を睨みつける。

「昨日から悩み事があるみたいですね、彼は。何かあったのでしょうか」
「昨日じゃないわよ、先週からずっとよ」

ふと、思い出したように本物よりも人気のある偽者こと海原光貴(偽)が眺めていた雑誌から顔を上げる。
『月刊 御坂美琴 冬の増刊号』という表紙を見なかったことにすると、結標は表情をかすかに曇らせる。
しかし、思わず口にした言葉に、ハッとなる。案の定というべきか、土御門と海原のによによ、にやにや、てかてかした笑みが結標を眺めている。

「あら、よく見てますこと。やっぱり気になるあんちくしょうのことはすぐに気が付くんでしょうかにゃ~海原さん」
「先週からずっとガン見してたなんて、まったく、若いって素敵ですわね、土御門さん」


ホント、若い頃を思い出しますわね奥様、あら、奥様こそまだまだお若い、と胡散臭い小芝居を繰り広げる。
暗殺などといったダークな仕事よりも、学園都市上層部の遺物でもある研究施設の残りの破壊といった方向へとシフトしつつある。
施設の破壊などグループにとっては造作もない。故に、彼らは暇を持て余すことが増えていた。


結果、一方通行の凱旋後、すっかりと変わってしまった結標をからかうことを、土御門と海原はライフワークとしているのである。



112 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/13(月) 23:27:30.67 ID:ZIi8HSk0

「あ・ん・た・た・ち…」

「しかし、どうやら恋するお年頃なのはあわきんだけじゃねーみたいだにゃ~」

青筋を浮かべた結標がゆっくりとライトに手を掛けようとするタイミングを外すように土御門が不意打ちを放つ。



「え?」
ライトに伸ばした手はそのまま硬直させ、結標は土御門の顔を凝視する。


「物思いに耽っては切ない溜め息まで吐いて。あれじゃあ憧れの君を想うなんとやらだにゃ~」

あわきんみたいに、と意図的に土御門はその言葉を含ませる。
結標はゆっくりと彼の言葉を脳裏で咀嚼する。

「いいのかにゃ~?あわきんがツンツンしてる間に一方通行はかっさらわちまってるかもしれないぜい?」
「な、なななな、なに言ってるにょ、言ってるのよ」
「彼のように自分に向けられる好意に気づかない、もしくは信じられないタイプにツンデレは鬼門ですよ。ツンの部分しかキャッチしてもらえないですから」

まるで見てきたことのように、しみじみと語るアステカの魔術師の言葉に、結標は顔を青くした。

「ま、頑張るんだぜい。一方通行のお相手はパンピーみたいだからにゃー」
「……無能力者っていうこと?」


113 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/13(月) 23:28:33.40 ID:ZIi8HSk0
「ま、平たく言うとそうだ。意外と庇護欲の強い一方通行的にはある意味うってつけかにゃー。
あわきんが勝つには健気属性を前面に押し出すこと。そしてその効果を倍増するために ―――」


土御門はがさごそとカバンから何やら取り出す。
土御門の取り出した『ブツ』を目にするや、結標の口元が引きつる。


「この土御門元春の最高傑作。十字教と陰陽道、アステカの奇跡のコラボレーション。『小悪魔ドジメイド』を着ることで、健気属性は界王拳20倍並に倍増するんだぜい!!」

「何その無駄な合作!?」


「これは意中の相手に見られると中が透けて見えるという新素材(特許申請中)で出来ているんだにゃー」
「アステカの魔道書を盗み出した甲斐があろうというもの。古代アステカ文明において、マンネリに悩んでいたカップルの声に応えるべく生み出された術式が役に立とうとは」
「そうだぜい。あたかも逆裸の王様状態。好きな人の目にだけすっぽんぽんに見えることによって安心かつ快適なプレイを」

「メイド服の意味無いじゃないそれじゃあ!!どんだけ本末転倒なのよ!!」




「「………?………――――― ハッ!!!」」
「おそい!!」



114 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/13(月) 23:30:03.15 ID:ZIi8HSk0

「今日は何にしよっかな」

スーパーの特売品を眺めながら口にする言葉とは裏腹に、買い物籠に商品を入れていく手際に澱みなど無い。
既に特売日の品はチラシで把握済みなのだ。

「手羽先と大根を煮たやつ結構美味しいんだよね」

通常の半額になった手羽先のパックを早々にゲットし、意気揚々。
大根も手に入れた。昨日作ったきんぴらはおそらくまだ残っているはずだ。
メニューの味付けが濃いようなら汁物は味噌汁ではなくお吸い物にしようか。何処かうきうきしながら歩く佐天の前を学生カップルが通りかかった。
一人はツンツンとワックスで髪を立てた高校生くらいの少年。
もう一人外国人の少女。彼よりも頭一つ分背の低い少女だ。

『とーまってば、もやし買い過ぎなんだよ』
『もやしは安いんだって。安いは偉大なのでございますよ?』
『それでいつも買い過ぎて腐らせてたら意味が無いんだよ。そういうの“ほんまつてんとう”って言うんでしょ?』
『ぐ…インデックスに主婦スキルで負けた…だと?だがそんなインデックスもまた良し!!』

(わぁ~あれってプラチナブロンドっていうんだよね。キレーっていうか日本語上手~)

まるでお人形のように顔貌の整った少女に見惚れる佐天。
会話からして二人は同棲をしているのか、或いはそれに近い親密な仲のようだ。



115 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/13(月) 23:30:52.25 ID:ZIi8HSk0


『ねぇとーま。お肉お肉。お肉買おう!!鶏肉でいいんだよ』
『お肉はブルジョワの食べ物なので認めません。それが例え地を駆けようとも空を飛んでいようとも関係ありませんとも』
『うううーーー!!』
『お、噛むか?噛むのか!?』
『いいもん……ああ…折角今日は“懺悔室”を解禁しようかなぁ~って思ってたのに。とーまにはがっかりかも』
『!?ざ、懺悔室をしてくれると…』
『お肉食べなかったら力が出ないから出来ないかも~チラり…』
『く…口でチラりとか…いや、その…ぐぬぬぬ…と、鶏肉ならば…』
『わーい!!とーま大好き~~!!今日は懺悔室に“聖体礼儀”も追加しちゃうんだよ』
『イェフゥゥゥゥーーー!!マンマミーア!!』


カップルの言っている言葉の意味の半分も理解できなかったが、仲睦まじいことだけは把握できた。
そして、多分それ以上の理解なんざ必要ない。知らなくても何の差し障りも無いのだから。
周囲の客が微笑ましくもドン引きする可愛いカップルを眺めながら佐天もあらあらうふふな視線を向ける。
仲良きことは素晴らしきかな。

(私もあんなラブラブカップルになりたいなぁ~)

カップルになるには当然相手が必要であるとはたと気付く。
では、誰と。一体誰とそうなりたいのだろうかと己に問い質す。佐天の脳裏にすぐに一人の人物が思い浮かぶ。
白くて赤くて細いあんにゃろうだ。顔が一気に熱くなる。

(いやいや、そんな。流石にそこまで。会ってまだどんだけよって話しでしょうが。アンタはそんな惚れっぽいのか佐天涙子)

そうは言いながらも火照った顔から熱は中々抜けてくれない。




116 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/13(月) 23:33:21.41 ID:ZIi8HSk0


場所はグループのアジト。
ぷんすかぷんとばかりに怒って出て行ったあわきんの怒りの余韻が尾を引く中、男が二人、ソファに腰掛ける。
一人はグラサン金髪。一人は胡散臭い爽やか、っていうかウザやかイケメン。

「結標さん。受け取ってくれませんでしたね、小悪魔ドジメイド」
「そうだにゃー。一体何が行けなかったのかにゃー色使いか?いや、レースが足りなかったのか?」
「露出が足りなかったのでは?」
「そ・れ・だ!」

結標によって引き裂かれたドジメイド衣装を自前のアステカ式ソーイングセットからアステカ式縫い針とアステカ式縫い糸を取り出しちくちく補修する海原。
隣りでは土御門がテーブル一面に様々なデザイン案を広げている。ゴスロリ仕様からビッチ仕様、本場英国メイドまで。
この男にこれほどの絵心があったのか、と上条当麻が見ていれば驚愕に震えずにはいられないだろう。

「それにしても意外でしたよ。貴方がまさか結標さんを応援するなんて」
「何言ってるにゃー。土御門さんは恋する乙女諸君の味方なんだぜい。まぁ、それ以上にメイドさんの味方であり、妹と呼ばれる者の味方であるんだがにゃ」

こめかみをこりこりとペンの頭で?きながら土御門は海原を見ずに答える。
苦笑を浮かべながら海原は器用に縫い糸を通していく。



117 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/13(月) 23:33:49.87 ID:ZIi8HSk0

「意外なのはその喋り方もですね。『そのキャラ』は友人限定では?僕達に仲間意識など無かったはずですが」
「んーまぁ確かに殺伐とした関係なのは否定しねんだがよぅ。上やんの言葉じゃねぇけど、これからも殺伐としてなきゃならねってわけじゃないからにゃー」
「新しい関係の構築というやつですか。さしずめこのドジメイドはその第一歩だと」
「流石に、結標が一方通行とくっ付く保証なんざないけどにゃーそれはまぁいいとして」
おや、と海原は土御門の言葉に含みがあることに気付く。

「その言い方だと、単純に結標さんを応援するだけじゃなさそうですね。一方通行が無能力者の表の世界の子と交流を持っているのと関係でも?」
「鋭過ぎると気味が悪いな。それもアステカの魔術か海原よ?」
「急に変わらないで下さい、違いますよ。ただ、御坂さんのことを見守っていれば、自ずと彼女の交流関係にも目は届くわけですので」
「佐天涙子。出来ればあの娘は関わらない方がいい。闇の世界なんて知らないに越したことはない。一方通行もそれがわかってるはずだ」


野暮だとはわかってるんだけどな。
苦味を含んだ土御門の言葉が重く響いた。




127 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/14(火) 23:08:37.78 ID:BQbw8is0


「最近佐天さんが輪をかけておかしいんですよ」
「それを私に言ってどうしますの?」
優雅な仕草で紅茶を一口飲む。
目の前の腹黒少女の愚痴は必ずといって良いほどどうでも良いことだ。まじめに取り合うだけバカを見る。

「おかしいって、どういう風におかしいの?」
御坂美琴は、黒子とは逆に、心配そうに身を乗り出す。
数少ない友人のこととなれば、根本的に優しくお節介なこの少女が心配しないはずもない。

「確か、一目惚れしちゃったっていう人のところに料理作りに行ってるんだよね」
佐天のことは初春から間接的に聞いていただけの御坂の認識はその程度である。
直接のろけ話に付き合わされていた初春にとってはその程度の認識ではすまない。

「もう何て言うか押し掛け女房ですね。珈琲の美味しい淹れ方とかもう口実ですらなくなってますから」
「押し掛け女房…すごいね佐天さん」

先天的な恥ずかしがり屋のせいか、会う度に致死量の電撃を浴びせるという強烈極まりないツンが炸裂しまくっていた。
それが災いしてか、未だに家に行ったこともなく、名前でさえまともに呼べない。


128 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/14(火) 23:09:54.98 ID:BQbw8is0

そんなウブでネンネな気質の御坂にとっては、出会って一週間で押し掛け女房となれる佐天の積極性は心底羨ましかった。


「上手く行ってるんじゃないの?」
「ある意味行ってるというか、予想外だったというか」
「はっきりしませんのね、初春」

要領を得ない初春の言葉に、黒子が眉を潜める。
初春はグラスの中をストローでくるくるとかき回す。
水っぽくなってしまったソーダの中で氷がからからと音を立てて回る。

「正直なところ、今回のはミーハーな気持ちで終わるんじゃないかって思ってたんです。相手はあまりにも世界が違う人だし、いずれは……」

「佐天さんがその殿方への気持ちを諦めてしまうだろうと思ったのですわね?」

「はい。佐天さんはすごくそういうところシビアに線引きする人だから、というか私がそう思ってただけなのかな」

「そういう言い方をするということは、諦める気配はないと」

水っぽくなったソーダの残りを不味そうに飲み干すと、初春は顔をしかめる。

「授業中なんか上の空で、溜め息吐いちゃったり、空をずっと眺めてたり。
あと一番変なのが、私のスカートをめくらないことなんです」


「「それはおかしい」」



129 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/14(火) 23:11:04.85 ID:BQbw8is0

御坂と黒子の声が重なる。

初春へのセクハラとイタズラが趣味から日課の領域へと達している。
そのライフワークを怠るなど。

戦慄が常盤台のツートップの間を駆け抜ける。


「そ、それは相当重傷ですわね確かに」

「でしょう?佐天さんがあそこまで本気になるなんて正直思いませんでした」

そこまで深みに入るとは思わなかったが、それ以上に、自分に構ってくれないことが初春は寂しかった。

一方で、御坂は手の中にあるカップのミルクティーに目を落とす。
佐天の気持ちが御坂にはわかる。
一人のことを思うと、その人以外のことへと思いを配れなくなる。

御坂はそんな思いとかれこれ一年以上付き合っているのだから。


「ういはる~?貴女が背中を押して差し上げたのでしょう?
寂しいのはわかりますが、もう少し応援する姿勢になってもよろしいのではありませんか」

う、と初春は言葉に詰まる。



130 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/14(火) 23:16:09.37 ID:BQbw8is0

「だって、、寂しいんですよ~最近遊んでくれないし、構っても上の空ですし~」

一番の親友が遠くに離れて行ってしまうような、嫉妬とも焦りにとも取れる感情が初春の中をぐるぐると回る。

「まったく……それが本音ですのね…ってお姉さま?」

黒子の隣りで御坂は己が掌を見つめる。

「私は常盤台の超電磁砲……出来る。私ならできる。大丈夫、大丈夫…」
「お、お姉さま…?」

ぶつぶつと独り言を繰り返す御坂に若干引き気味の黒子。
御坂は荒い息を吐きながら繰り返す。大丈夫、大丈夫、と。

「お礼…そうよ、お礼にお茶に誘うところから始めれば…」
「お姉さま…また…」

無駄な努力を、とは言わなかった。
あの類人猿がぁ~~とテンプレな嫉妬をするには、この一年余りにも涙ぐましい努力と空回りを繰り返してきた御坂。
それを思えば、失敗を願うことは酷に思えた。


131 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/14(火) 23:19:31.00 ID:BQbw8is0

今日は何の仕事もなく一日をソファに寝転がって過ごしていた一方通行は長針が刻む音を聞きながら目を通していた雑誌から視線を上げる。

そろそろだろうか。あのお節介というべきか、物好きなガキが来るのは。
と、この二週間ですっかりと覚えてしまっていることに気付く。舌打ちをしながら、雑誌をソファに放り投げる。

読んでいる雑誌はファッション雑誌であったり、上条が置いていった普通の少年漫画であったり、
番外個体が置いていった少女マンガであったりと日によってマチマチだ。

決してLOとか、そんなものは読んでいない。絶対だ、絶対。
一方通行の読むものにそこまでのこだわりはない。

彼のキャラ的に

『ハッ、くっだらねェ。学園都市第一位に少女マンガ読んで泣けってかァ?あぎゃは!!』

等と言いそうだがそれはちょっと違ったりする。

厳密には何でもいいのであって、どうでもいいのではない。
今まで切り捨ててきたものへの興味のベクトルがあらゆる方へ向いているから、何を読んでも興味深く読み込んでしまうのだ。


132 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/14(火) 23:21:42.63 ID:BQbw8is0

一方通行は空になったマグカップを手に取りキッチンに行く。
洗い場に置かれた青いマグカップ、一体いつから置かれていたのか、いつの間に置いていったのか。

手に取り、そこに何かが書かれているかを読み取ろうとするように紅の瞳がじっと眺める。
暫くしてから、ケトルを手に取りミネラルウォーターを注いでいく。

火を付け、フィルターとドリッパーを用意する。
冷蔵庫から豆の缶を取り出すと、一掬いフィルターに入れる。


「………」

再び冷蔵庫を開ける。
ミルクを取り出し、鍋に入れると火を掛ける。
さて、砂糖の入った瓶は何処だっただろうか。

一方通行は『らしくない』ことを自覚しながら戸棚を漁る。

グラニュー糖で良かっただろうか、ダイエットシュガーもあることはあるが、いや、そんな事にまで気を遣うなど馬鹿馬鹿しいか。
つまらぬ葛藤をしている間にすっかり熱したミルクを青いカップに半分程注ぐ。
ドリッパーには濃い目の珈琲を淹れ、雫がコーヒーサーバーに落ちるのを眺める。


自分がこのような静かな時間を過ごしていることが、急におかしなことに思えた。



133 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/14(火) 23:23:09.23 ID:BQbw8is0

ゆっくりと半分がミルクで満たされたカップに珈琲を注いでいると足音が聞こえた。
一方通行の視線はカップに向けられたまま、猫が物音に反応して耳だけを動かすように、ぴくりと片眉が動く。

鍵穴にキーを差し込む音がする。そこから暫しの沈黙。

『あれ~?』

間の抜けた声にやれやれと溜息を吐く。
あれ~じゃねェっての、と呟きながらグラニュー糖をひとさじ、ふたさじと入れていく。
阿呆みたいに警戒心の無い足音の時点で誰の足音かなどわかるのだが。
ガチャリとドアを開ける音、パタパタと玄関から近づいてくるのは打ち止めに少し似た落ち着きの無い慌ただしさ。


「今日は早かったんですね」

買い物袋をガサガサと音を立てながら佐天涙子が真っ赤な頬っぺたで微笑む。
寒い中を走ってきたのか、息が弾んでいる。

「ガキかァ…ッたく」

珈琲セットを片付け終えた一方通行が椅子に腰掛けたまま佐天に呆れたような一瞥をくれる。
夕食の材料とあれこれと取り出す佐天の姿をぼんやりと眺める。
てきぱきとした手付きで必要な食材を冷蔵庫に入れ、使う食材だけを並べていく。

「我が物顔よくもまァ頼まれてもいねェ飯作りに来るわ……モノ好きなやつ」

そうは言ってもお金をきっちり渡しているのは、一方通行が元々律儀な性格であるからだろうか。



134 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/14(火) 23:25:24.50 ID:BQbw8is0

「あ、何飲んでるんですか?」

あれ?と佐天は青いカップが一方通行の前に置かれていることに気付く。
いつもなら確か白いカップを使っていたはずだがと不思議そうにコートを脱ぎハンガーに掛けていると、フンと不機嫌そうに一方通行がそっぽを向く。

「俺のじゃねェよ。飲みたきゃ飲め。いらねェなら捨てろ」
「え?」

思わず佐天は一方通行とカップを見比べてしまった。

「え?」
「チッ……鬱陶しいんだよクソガキ。じろじろ見んな。ンなに珍しいンですかァァ?笑いたきゃ笑え。
どうせ暇つぶしに淹れただけなんだ。泥水の方がマシかもなァ、かかか」

憎まれ口、本当によくもまぁここまですぐに憎まれ口が叩けるものだなと佐天は呆れる。

一方通行の対面に座ると、青いカップを手にする。

くすりと、笑みが零れてしまった。一方通行が剣呑極まりない視線を投げてよこすが、どうにも決まらない。
散々羨んだキメが細かく、雪のように白い肌はこのような時に不便だ。
佐天の目の前には、耳まで赤くなった一方通行の不機嫌な横顔がある。


一口飲んでから、感嘆の溜息が漏れる。


「美味しい…」

心からの言葉だった。

「そォかい。そいつァよかったなァ」

どうでもいいとばかりにそっけない言葉を返すが、赤い顔では格好がつかない。
佐天はもう一度、くすりと笑みを零した。




135 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/14(火) 23:28:37.48 ID:BQbw8is0


わかっていたはずだ。

とっくにわかっていて、そして諦めたはずだった。

何を今更気にする必要があるのだろうか。
それはとうに乗り越えたはずじゃないのか。

去年、救いようのない過ちを犯してしまった夏。
もう少しで大切なものを失ってしまうところだった。
そして、大切なものをたくさん手に入れることが出来たはずだったのだ。
掛け替えの無い仲間たちと駆け抜けた夏の日。
あの思い出があるから自分は前を向いて歩いていけるのだ。

「涙子~どうだった~?」
「ううん~やっぱ駄目駄目だぁ~」
「私もだよ。まぁわかっちゃいたんだけどね」
「先生ってばもう慰めすら掛けてこないんだもん、嫌んなっちゃうよね」
「ほらほら、落ち込んでないでさ。それよりもお昼で終わりなんだからどっか遊びに行こうよ」
「涙子ってばホント変わったよね~」

そうだ、自分は変わったはずなのだ。
そのようなものに惑わされたりなどしない。

自分は自分なのだ。

『レベルなんて関係ないよ』

そうだ。そう彼女も言っていたじゃないか、『レベル0もレベル5も関係ないよ』と。



136 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/14(火) 23:30:11.45 ID:BQbw8is0


「でもさぁ、最近先生お決まりの台詞言わなくなったよね」
「ああ、そうだよね」
「お決まりの台詞?」

「ほら、『常盤台の御坂美琴さんも元はレベル1だったのを努力でレベル5になったんだ。だから皆さんも努力次第で云々かんぬん』て」


そう、その言葉を掛けてくれたのは『レベル5の』彼女だったではないか。
レベルなんて関係ないからこそレベル0の自分とレベル5の彼女は友達になれたのだ。

「そういや噂なんだけどさぁ。本当はレベル5になれる人間ってあらかじめ決まってるって、
DNAマップでわかるらしいよ」



「―――― え?」


今、彼女は何と言ったのだろうか。

「だから、御坂美琴はレベル5になれるからなれたっていうわけ」
「げぇぇ~~何それ~~じゃあカリキュラムって意味ないじゃん」
「結局0には何かけても0かぁ~~やってらんな~~い」




137 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/14(火) 23:30:51.89 ID:BQbw8is0


それじゃあ、一体自分は何をやってきたというのだ。
何のために“あんなもの”にまで手を出して、皆に迷惑を掛けてしまったというのだろうか。
最初から知っていれば。いや、そもそも、それでは何の為に此処にいるのだ。
レベルなんて関係ない?それを言うのか、彼女が。


「ま、いいじゃん。それよか遊びに行こうって、ね、涙子…てお~~い涙子?」
「あ、何?」
「何?じゃないよ。ボーッとして。今から遊びに行くんでしょ」
「うん、ゴメンゴメン。何処行こうかなって考えててさ~」


関係ないと、彼女が言うのか。
持つ者の彼女が、ニコニコと笑って。

佐天は自分が上手く笑えているのかわからなかった。




138 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/14(火) 23:34:04.55 ID:BQbw8is0

すっかり街は夜の空気を漂わせ、街灯やコンビニの灯りが街の輪郭を浮かび上がらせている。


「すいません。わざわざ送ってもらっちゃって」
「今更だなァ。そう言うならもっと早く帰ろうって思わねェのか?いつもいつも飯食って行きやがって」
「えへへへへ~」

ぺろりと舌を出す佐天に、一方通行は何も言わずに溜め息を吐く。二人は肩を並べて歩く。杖を付く一方通行の歩調に佐天が合わせる。

月を見上げながら佐天はぽつりとつぶやいた。


「ねぇ、一方通行さん。第一位って…どんな気持ちですか?」


一方通行は僅かに目を見開く。

向けられた質問にではない。
その質問自体はいつか向けられると思っていた。彼女は無能力者であるのだから。


一方通行が驚きに言葉を失ったのは、彼女の声。
いつもの佐天の声とは思えないほどに悲痛な声にだ。


知り合ってまだ二週間にもならないが、いつも笑い、驚き、明るい彼女は、一方通行からすればひまわりのような少女だ。


「……さァな。俺ァ超電磁砲とは違う。最初から一位だった。
だから達成感だとか、努力の秘訣だとか聞かれてもわかンねェ」


そォいう話しなら超電磁砲に聞けと、噛み締めるように呟いた。
自分に彼女を励ます気の利いた言葉が吐けるとは思っていなかった。

しかし、佐天はゆっくりと首を振る。



139 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/14(火) 23:37:28.16 ID:BQbw8is0

「御坂さんは能力なんて関係ないって言ってました。友達もみんなそう言ってます」

御坂美琴ならそう言うだろう。そういう少女だ。

「今日、能力測定があったんですよ。結果は相変わらずです。わかってたんですよ。それくらい」


けど、やっぱり悔しい。
消え入りそうな声でつぶやく。

一方通行は言葉を見つけあぐねる。
何となくだが、この少女の胸につかえていることの根本が見えた気がした。
御坂美琴ではその根本を理解しきることができないということもわかった。


「着いたぞ」

「あ…」

何時の間にという佐天の呟きを聞かぬフリをする。
自分にどうしろというのだ、という苛立ちがあった。
佐天の部屋のドアが目の前にある。思わず答えを委ねるように一方通行を振り返る。
佐天の目に映ったのは、自分に背を向ける一方通行の姿。

華奢な一方通行の背を見た瞬間、佐天は思わぬ衝動に突き動かされた。



背を向けた一方通行の裾を握ったのは反射的なものだった。



「不意打ちが上手ェなァ…お前は」
「待ってください。待って…」

裾を握り締める手が震えていることに、気付かぬフリをする。
溜息がひとつ零れた。



140 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/14(火) 23:39:02.39 ID:BQbw8is0


「俺に話してどォすんだ。どォして欲しいンだ?」

「………」

佐天がぎゅうっと裾を握る力を強める。

鬱陶しい、そう思っているのは本当なのに。

けれども一方通行はその手を不思議と振りほどく気になれなかった。
らしくも無い己の感情に戸惑うのは果たして何度目だろうか。
沈黙が、針のように降り注ぐ。頬が、首が、肌という肌が痛い。
耳鳴りがする。まるでこの沈黙を拒否しようと呻いているようだ。


その不思議な痛みが、大切に思っている人を、心ならずも傷つけようとすることから来る『罪悪感』であると、一方通行にはわからない。


「………そうですよね」

それは押し潰される寸前の悲鳴のような呟きだった。
今にも消えて無くなってしまいそうな、か細い泣き声だ。

「一方通行さんにはわからないですよね………私の気持ちなんて」
「あァ…?」

それは能力の事だけを指した言葉ではなかった。
普段可愛らしいとさえ思っている彼の鈍感さが、この上なく憎かった。
気にも留めない、留めてくれないこの少年が恨めしかった。

心の奥底に押し込めてきていたコンプレックスが、まとめて目の前の一人の男に向けて噴出そうとしているのを、
何処か冷めた頭で佐天は眺めていた。



141 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/14(火) 23:42:53.78 ID:BQbw8is0

「レベルなんて関係ない……よく言うよ。そんなもの、自分には有るから言える言葉なのに。
特別だから、特別なんてどうでもいいなんて言えちゃうんだ。
そんなの…そんな言葉言われても…喜べないよ……全然、全然嬉しくなんて……ない…」


握った裾に力が篭る。

少女の手を振りほどくことなく、少年はじっと言葉を受け止める。
少女の足元に小さなシミが浮かんでいることに気付かぬフリをしながら、一方通行は佐天涙子の言葉を待つ。


「そんな風に、無神経に気を遣って欲しくない……同情されても嬉しくない…ッ」



顔を上げた佐天涙子の大きな瞳には、透き通るような泪が湖面のように満ちていた。

月灯りを浴びて、小さな結晶の輝きのように光る雫が、顔を上げた拍子に零れる。

佐天の足元のシミが増える。



「見下した優しい言葉なんて ――― いらなかったッ!!!」


パタパタと零れ落ちる滴が、月色に彼女の瞳の淵を、頬を飾る。
赤く染まる頬の上を澄んだ泪の道が走る。

一方通行は不覚にも、僅かに息を呑む。

綺麗だ、言葉に現すとすれば、一方通行のその時の心情はその一言に言い尽くせる。
頬を赤くして、苦しげに眉を寄せて、潤んだ瞳は月明かりを浴びてぞくりとするような色気を放っている。

頬を伝うひとつひとつに佐天の思いが込められているように思えた。




142 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/14(火) 23:44:20.18 ID:BQbw8is0


「俺にはわからねェって言っただろう。無能力者の気持ちなんざァよ」


結局一方通行が向けることの出来る言葉はこれだけだった。
その言葉が少年の口から出た瞬間の佐天の表情を何と表現すればよいのだろうか。
わかっていたことだと納得、諦めの表情の中に、隠しきれない落胆と失望。
そして、裏切られた、堪えきれない哀しみがあった。
信じていた者、縋っていた者、期待していた者に、伸ばしたその手を払われた者の浮かべる表情の色。

それは一言で言ってしまえば『絶望』という色だ。

しかし、絶望の色に染まりきる前に、佐天の熱で赤くなった頬を白い手が覆った。
細長い指が佐天の目尻の泪を拭う。


「けどなァ…」


自分のしているおかしな、珍妙な、不可思議な振る舞いについてのツッコミを後に、一方通行は言葉を自分の中から探る。
引っ繰り返して、何か出てこないか振ってみる。
何が彼女にとって最適な言葉であるのかなどわからない。
自分はあの真っ直ぐな電撃姫でもなければ、目を覚ますような痛烈な言葉をぶつける幻想殺しの少年でもないのだ。
ただの語るに及ばぬ悪党。


143 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/14(火) 23:48:06.62 ID:BQbw8is0
だから、この少女の目の前に広がる霧の存在を察知することは出来ても、晴らしてやることなどできようか。
そう、少なくとも一方通行は思っている。思い込んでいる。
だから、これは、単なる気まぐれだ。優しさなんかじゃ決して無い。
愚図る幼児を、下手にこれ以上騒がれたら面倒くさいからあやすようなものだ。それ以外であろうはずもない。


「お前にもわかんねぇよ。俺の、俺達の気持ちなんざよォ……」
「え…?」

不意に頭を撫でられた。
白く細長い指が絹のような髪を梳くように、優しく、柔らかに撫でる。
とくんと胸の奥が悦びに痛む。


「あァ……きっとわかンねェよ。俺がどんだけお前に      かをなァ」
     


聞き取れぬほどに小さく絞られた言葉に、佐天は何かを擽られたように過敏に反応した。
呟いた彼の唇が余りにも優しい曲線を描いていたせいなのかもしれない。
俯けていた顔を上げようとすると、乱暴に撫でられる。佐天の行動を見越していた一方通行の方が上手だった。
くしゃくしゃと、乱暴に、そして優しさを多分に含んだ撫で方が、彼が打ち止めにしてやるのに似ていた。
もっとも、それを佐天が知ろうはずもない。


「じゃあな。くだらねェ話はしまいだ。ガキは夜更かししねェでさっさと寝ろよ」


かかか、と意地悪く笑うと、一方通行は今度こそ踵を返し、階段を降りていく。
佐天は裾を掴んでいた手を、そっと一方通行の撫でてくれた場所にあてる。まだ温もりが残っているように感じた。
愚痴ぐらい言わせてくれてもいいのに。相談にくらい乗ってくれてもいいのに。アドバイスの一つくらいくれたらいいのに。
言ってやりたい不平不満は山ほどある。山ほどあったのだ。
それなのに、佐天に出来ることは、彼の放った言葉を反芻するに留まる。
口からは悪態の一つも出てこない。

冬の夜風を浴びても、尚一向に引く気配を見せない頬の熱に戸惑うことすら忘れて、
佐天は一方通行の去っていった方向をただ立ち尽くし、見つめていることしか出来なかった。



144 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/14(火) 23:49:21.73 ID:BQbw8is0
だから、この少女の目の前に広がる霧の存在を察知することは出来ても、晴らしてやることなどできようか。
そう、少なくとも一方通行は思っている。思い込んでいる。
だから、これは、単なる気まぐれだ。優しさなんかじゃ決して無い。
愚図る幼児を、下手にこれ以上騒がれたら面倒くさいからあやすようなものだ。それ以外であろうはずもない。


「お前にもわかんねぇよ。俺の、俺達の気持ちなんざよォ……」
「え…?」

不意に頭を撫でられた。
白く細長い指が絹のような髪を梳くように、優しく、柔らかに撫でる。
とくんと胸の奥が悦びに痛む。


「あァ……きっとわかンねェよ。俺がどんだけお前に      かをなァ」
     


聞き取れぬほどに小さく絞られた言葉に、佐天は何かを擽られたように過敏に反応した。
呟いた彼の唇が余りにも優しい曲線を描いていたせいなのかもしれない。
俯けていた顔を上げようとすると、乱暴に撫でられる。佐天の行動を見越していた一方通行の方が上手だった。
くしゃくしゃと、乱暴に、そして優しさを多分に含んだ撫で方が、彼が打ち止めにしてやるのに似ていた。
もっとも、それを佐天が知ろうはずもない。


「じゃあな。くだらねェ話はしまいだ。ガキは夜更かししねェでさっさと寝ろよ」


かかか、と意地悪く笑うと、一方通行は今度こそ踵を返し、階段を降りていく。
佐天は裾を掴んでいた手を、そっと一方通行の撫でてくれた場所にあてる。まだ温もりが残っているように感じた。
愚痴ぐらい言わせてくれてもいいのに。相談にくらい乗ってくれてもいいのに。アドバイスの一つくらいくれたらいいのに。
言ってやりたい不平不満は山ほどある。山ほどあったのだ。
それなのに、佐天に出来ることは、彼の放った言葉を反芻するに留まる。
口からは悪態の一つも出てこない。

冬の夜風を浴びても、尚一向に引く気配を見せない頬の熱に戸惑うことすら忘れて、
佐天は一方通行の去っていった方向をただ立ち尽くし、見つめていることしか出来なかった。



158 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/15(水) 22:20:52.20 ID:plvK0H60


世話になっている黄泉川家、その一室に番外個体は間借りしている。
一方通行に借りを作ることなど真っ平ゴメンだとばかりに噛み付いたものの、『打ち止めを守るためには側にいた方が楽だろォ』という言葉に渋々従うことになった。

学園都市を始めとしたあらゆる闇から守れという彼の依頼を引き受けてしまった手前もある。

約束を反故にすることに抵抗があるあたり、番外個体もまた御坂美琴の律儀さ、真面目さを根本では受け継いでいるのかもしれない。


「だからぁ、何でミサカがあのバカん家に行くのは全部あのバカを殺す為なんだっての!!」


ベッドに寝転がりながら、宙に視線を向けたまま声を荒げる少女こそが、この部屋の主である番外個体。

下着姿にワイシャツ一枚という、はしたない格好でゴロゴロとベッドを転がる。
腕の中には目つきの悪いウサギの人形。
部屋を見渡せば所狭しと並ぶぬいぐるみの数々。
枕元には三頭身の可愛らしくデフォルメされた人形が四人仲良く座っている。
右から順に

一方クン(ウルトラマン)
一方クン(ダダ)
一方クン(冬)
一方クン(黒翼)

となっている。学園都市でも話題の三頭身のぬいぐるみである。
ちなみに芳川桔梗プロデュース。ネットオークションで高値で取引されている要因は製造数の少なさ。
一方クンは一番人気の上条クンに次ぐキャラクターである。
一番人気の上条クンは最低一万個売れると予想していた為、製造数を多めに作っておいたのに対して、一方クンはコアな人気だと当初芳川は踏んでいた。
蓋を開けて見れば予約が速攻で5000越え。上条クンを購入してくれたそっくりな顔をした一万人の女子中学生達の三割が一方クンの購入に走ったのが要因である。

これについて、芳川Pは『まさか、数字が後半になるにつれて一方派の割合が増えるなんてね。興味深いわ』とコメントをしている。


「はぁ!?何で抜け駆けなんだよ。意味わかんねぇっての。つーかさ、何度同じこと言わせるんだよ糞姉共が」

忌々しげに番外個体が舌打ちるする。
端から見れば独り言をぶつぶつ言っている危ない少女にしか見えないのだが、彼女は立派に会話をしている最中だ。


159 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/15(水) 22:23:44.59 ID:plvK0H60

会話の相手は彼女にしか見えない妖精さんだったりキューピット様であったり、スタンドでもない。
ミサカネットワーク、シスターズ同士の脳波によるネットワークによって、遠く離れた姉達と彼女は会話をしているのだ。

このままでは埒が明かないので、彼女達の会話を覗いてみることにしよう。


『出たーー!!ミサワさんの48の殺人技の一つ、『殺す殺す詐欺』だーーー!!
とミサカはいい加減マンネリと化してきた番外個体の口癖をディスってみます』
『大体、殺す事とセロリのヤツに飯作ってやることに何の関係があるんだよ。いい加減通い妻だって認めちまえよww』

「ちっげーし。あんなロリコンどうでもいいし。興味ねーっていうか、寧ろ目障りなくらいだし。
野菜嫌いのバカセロリに嫌がらせするために決まってるって言ってんだろう!!」

『その為に料理本に幾ら使ってるんだか…とミサカは試食に付き合わされて体重が3キロ増えた悪夢の日々を思い出し涙します』
『その挙句に、JCお持ち帰りしてきたセロリ見て泣きながら帰るし。
『ちょw修w羅w場w』ってwktkしながら全裸待機してたミサカの時間を返せww』


「泣いてねーし。あのモヤシが中学生どうしようが知らねーよ。大体どうしてミサカが泣かないといけねーんだよ」

『そう言いながらもメソメソ引きこもっている番外個体なのであった』

『wwwww』
『wwwww』
『wwwww』
『wwwww』

脳内で示し合わせたように広がる哄笑に、番外個体のこめかみがビキィと悲鳴を上げる。
噛みあわせた奥歯が軋みを上げる。
そして、頬、耳、首が見事に真っ赤に染まる。

怒りと屈辱と、羞恥にぬいぐるみを抱きしめた腕に力を込める。



160 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/15(水) 22:28:35.95 ID:plvK0H60

「メソメソしてないんだっての!!全然平気だし。あんな糞モヤシのことでミサカがウジウジ悩むこと自体ありえねぇから。
明日にでもあのバカん家襲撃かけて嫌がらせしてやるつもりだし。
あの中坊がいたらセロリ確定だねって弄り倒してやんよ。ぐげげげげけけけけ」

口元を歪に歪めると、挑発するように厭らしい笑い声を上げる番外個体。
端から見ると怖い光景であるが、それはこの際どうでもいいことだ。


((((一番お姉さまの負の面を再現しちゃってるよコイツ))))


何人もの妹達の溜息がミサカネットワークに木霊する。


ミサカネットワークの接続を切ると、番外個体はせいせいしたと鼻を鳴らす。
そうだ、あの憎くて憎くてしょうがないムカつく糞野郎に何の遠慮が必要だろうか。
深夜だろうと早朝だろうと、襲撃をかけてやろう。
そうだ、あの馬鹿の意思など関係ない。必要ない。

あの気に入らない第一位が嫌がる顔、困った顔をするのが自分の存在意義にして、一番の楽しみなのだ。
一方通行の呆れたような、困ったような、番外個体にだけ向けられる表情を思い出すと、
知らず知らずに頬が緩む。

「よっと」

しなやかな脚を上げ、スプリングを軋ませて勢いよくベッドから跳ね起きる。
立ち上がった拍子にきゅぅと小動物の鳴き声のような可愛らしい音がお腹からする。
あの日以来食欲が何故か湧かなかった為碌に食べていないのを思い出した。
そうと決まればまずは食事だ。


ふと鏡を覗き込むと、ボサボサの髪に、一層濃くなった隈。
何よりも日の光を浴びず、食事も碌に摂っていなかったせいか顔色が悪い。
唯一の救いは肌が荒れていないことだろうか。若さのおかげと言えよう。
しかし、それを差し引いても無惨な顔だ。年頃の娘の顔ではない。


こんな顔をぶら下げて一方通行に会うのか、とふと考える。




161 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/15(水) 22:34:33.58 ID:plvK0H60

「……食事したらお風呂だね。そう、あの糞っタレの中二もやしをいたぶりに行くんだから。
その為にはしっかり栄養取ってリフレッシュしておかないとね。うん、それだけそれだけ。
それ以外ありえねーし」

ブツブツ言いながら枝毛が無いかチェックをする。
枝毛が無いことに、うん、と何に対してか頷くとリビングへ足を運ぶ。


「ねーヨシカワ~~何か食べるもの無い~ミサカお腹空いちゃっ…… ――― た……?…」
「よォ。こンな時間まで寝てるなンざァ、いい身分だなァ」

テーブルで芳川桔梗と向かい合っているのは、先ほどまで話題の中心になっていた学園都市最強の真っ白しろすけ。
芳川は淹れたてであろうコーヒーを一方通行の前に置こうとしている。
番外個体は一方通行の姿を、一週間ぶりの姿をまじまじと見る。
顔色が良い。自分がいない間の食事はどうにかしていたのだろうか。
というか何を暢気に茶をしばいてやがる糞野郎。
大体誰のせいでミサカがずっとブルーだったと思ってるンだ。
少しは申し訳無さそうにしろよ、マジ屑男だな。
言いたい文句、罵詈雑言が浮かんではシャボン玉のように消えていく。


「しかしよォ。お前寒くねェのか?この冬にンな格好曝してよォ」

眉を顰める一方通行の視線を番外個体はゆっくりと追って行く。

シャツのボタンを殆ど留めずにおいた胸元からは薄水色のブラ。

胸元からはくっきりはっきりとした谷間がこんにちは。

姉とは似ても似つかぬ、妹達の血涙交じりの嫉妬を一身に浴びる困ったちゃんなバストがデンと存在を主張している。

引き締まったウエストには可愛らしいおへそがちょこんと収まっている。

そして、薄水色のブラとお揃いの薄水色のパンツと、そこからすらりと伸びた優美なラインを誇る脚。

ようやく番外個体は自分の格好を把握した。
そして、一方通行がそれを見ているという現状も把握する。


「死ね!!糞助平モヤシ野郎!!!!」
「ぶふッ!?」

気付けば憤怒と羞恥に真っ赤に顔を染めた番外個体は手にしていたぬいぐるみを全力で一方通行にぶつけていた。



162 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/15(水) 22:36:18.85 ID:plvK0H60


佐天涙子はパスタの陳列棚の前でパスタを手にしたままぼんやりとしていた。
一方通行と会わなくなって一週間が経つ。
一方通行に弱音を吐いた夜。彼が呟いた言葉が耳から離れない。
翌日は食事の用意だけして一方通行には会わずに帰った。
会うことに抵抗があった。一方通行に特別な非があるわけではない。
気まずいと勝手に佐天が思っているだけだ。一方通行に食事を作ることに抵抗はない。
元々面倒見の良いだけに放っておけば肉ばかり食べる一方通行の食生活は心配になる。


初春に話したこともあったが、一方通行を見ていると、佐天は無性に胸が痛くなることがある。

肩肘を張っている姿がどこか痛ましく思えることがある。

あの儚げな背中に、母性本能が擽られることがある。

けれども、三日前、帰りが早かった一方通行と鉢合わせてしまった時、佐天は逃げ出した。

自分を見て、一瞬の躊躇の後、唇が動くのを最後まで見ることなく、脱兎のごとく彼の前から走り去った。おかしな女の子だと思われただろう。
思えば第一印象からそうだったのかもしれない。
訳の分からない面倒くさい子供。そう思っているにちがいない。

パスタを棚に戻す。

「……止めよ。行きづらい」



163 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/15(水) 22:41:03.70 ID:plvK0H60

期間を開ければ開ける程行き辛くなるのはわかっている。
それでもどうしても一方通行の顔が見られない。

自分に向けた優しい笑み。

自分を撫でてくれた手の温もり。

そして、自分にくれたあの言葉。

彼がなにを思って言ったのかはわからないが、甘くて少し掠れた声を思い出す度に何故か頬が熱くなる。
今日の買い物はやめにしよう、そう無理矢理結論付ける。
佐天は考えごとをするあまり、俯きがちに振り返る。


「きゃッ」

ドンという衝撃とバサバサと本が落ちる音。

「あ、あの、ごめんなさい。私考えごとしてて」

謝りながら、慌てて相手の落としたであろう本を拾っていく。


「いえ、私の方こそよそ見してたから」

ぶつかってしまったのはよくよく見れば佐天とあまり年の変わらぬ少女だった。
細いラインに、グラマラスな身体。
髪を二つに結んだ少女は、一つか二つくらい年上だろうか。
整った顔立ちは、子供っぽさが抜けつつあり、可愛いというよりも綺麗と称されるものだ。自分には無い大人っぽさに目を奪われる。

(うわ、綺麗な人……大人っぽ…)

こんなに大人っぽいならば一方通行に子供扱いなどされないだろうに。
自然とそんなことを考えてしまうあたり重症であるが、佐天に自覚はない。
佐天は拾い上げた本を整える。自然と表紙が目に留まった。



164 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/15(水) 22:42:38.76 ID:plvK0H60
「お料理好きなんですね?」
「え?」
「あ、ごめんなさい。いっぱい料理の本買ってるなって思って、つい」

少女は手渡された本を受け取ると、困ったように眉間に皺を寄せる。

「まだ好きって言えるレベルじゃないんだけどね。目下練習中っていうところ」
「ああ、だからそんなにいっぱい買い込んでるんですか」

カートに乗せられた二つの買い物かごに目が行く。
一人分の食料には見えない。


「って私、いきなり会ったばかりなのに何立ち入ったこと言ってるんだか。気を悪くさせちゃったらごめんなさい」
「ううん、いいのよ。そういう貴女も買い物かしら?見たところ何もまだ買ってないみたいだけど」

少女の目線の先には空の佐天のかご。

「あはは、冷蔵庫の残り物でまだまだいけるなぁ~って気づいちゃって。今野菜高いし節約しないと」

本当は習慣と一方通行に食事を作りに行くつもりで来ていただけなのが、それを初対面のこの少女に話しても意味が無い。
少女は、佐天の言葉に少しだけ驚いた顔をする。何をそんなに驚いているのだろうかと首を傾げる。

「貴女って見たところ中学生みたいだけど、残り物とか作って料理出来ちゃう人?」
「え、ええ。まぁ」
「もしかして、料理得意だったりする?」
「得意かぁ…そうですね。一通りは作れますよ~」

事も無げに放った言葉は少女にとっては衝撃であったのか、口元ひくつかせる。

「一通りは…って、あっさり?そんな当然のスキルなの?」
自分で呟いた言葉にダメージを受けたのか肩を落とす。
「そっか~……そうね、貴女いかにも家庭的っぽいものね。料理なんて簡単なんだろうね」
「えっと、どうかしたんですか?」
「…気にしないで。ちょっと自己嫌悪に陥ってただけだから。野菜炒めすらまともに作れないだけだから」


165 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/15(水) 22:43:19.11 ID:plvK0H60

気にするなという方が無理な話だと言いたくなるほどにわかりやすくしゅんと項垂れる少女。
なにやらナーバスになるような切実な問題であったのだろう。佐天は急激に罪悪感に駆られる。
自分よりも大人びた少女が子猫のように項垂れる様は、一層痛ましい。こうなってしまっては、放っておけない。
佐天の世話焼き属性がムクムクと頭を擡げる。


「あぁ、あのですね。いきなりかもしれないけど、もしですよ?もし、よかったら何ですけど私で良かったら聞きましょうか?もしかしたらお役に立てるかもしれないし」
「役にって…料理の?」
佐天はにっこりと笑い、頷く。
「人の経験談って案外参考になるんですよ。ちょっとした失敗を直すだけで料理って結構味とか変わってきますし」
少女の瞳が驚きに丸くなる。
「いいの?本当に」

「ハイ、お姉さんが宜しければ。私も……ちょっと予定が無くなっちゃってて。だから全然オッケーですよ。あ、私、佐天涙子っていいます」

期待を瞳に秘め、少女がおそるおそる伺う。これではどちらが年上かわからないなと佐天は苦笑する。

「そっか。私も用事済んじゃったから大丈夫だよ。私は結標。結標淡希。よろしくね、佐天さん」

二つ結びの少女 ――― 結標淡希は何か慣れぬ事をするように頬を染めて、微笑む。
美人は笑うと更に美人なのだなと、佐天は感心と共に内心羨望の念を抱いた。



166 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/15(水) 22:45:37.28 ID:plvK0H60


「恥じらいを持つなンざァ…アイツもなンだかンだ言って成長してやがンだなァ……」

顔を真っ赤にした番外個体は荒々しくリビングを後にする。

彼女の出て行った方を見つめながら、しみじみと、感慨深げに呟いた一方通行に噴出す。

「なンだよ?」
「それ父親の台詞よ丸っきり」
「いいだろォが別に」

打ち止めだけではない。
番外個体、そして他の妹達は彼にとって守るべき家族である。
完全な庇護すべき対象として見る姿勢は兄というよりも父親。だからこそ、彼女達から向けられる暴言も受け止められるのかもしれない。

さながら思春期の娘を持った父親。

どれだけ暴言を吐かれようと邪険に扱われようと、娘を守ることを放棄する父親が居ないことに似ているのかもしれない。


「ま、それはいいとして。なるほどね…」

芳川桔梗が一方通行の前に彼専用のカップを置く。熱々の湯気が立ち上るカップを手にすると、一口だけ飲む。
安っぽく、舌にべとつく苦味。
インスタントの味に顔を顰める。すっかり自分が佐天の淹れる珈琲に慣れ親しんでいることに気付く。
その事を考えぬよう舌に絡まるべとつきを気にしながらコーヒーをもう一度口にする。
くすりと芳川が小さく笑う。


167 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/15(水) 22:47:01.29 ID:yWhf7A6P
ニヤニヤすんなぁwwww

168 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/15(水) 22:47:28.60 ID:plvK0H60

「まさか貴方が無能力者の娘と仲良くなるなんて」
じろりと睨まれても、涼しい顔で芳川は自分のカップを傾ける。
舌打ちをすると、一方通行は顔を伏せる。

「仲良くなざァねェ。あのガキが勝手に入り浸っていやがっただけだ」

吐き捨てるように呟くと、コーヒーを一気に飲み干す。
熱くないのかしらなどと、気の抜けたことを思いつつ芳川は口を尖らせる一方通行を微笑ましく見る。

彼は気付いているのだろうか。
自分や黄泉川の前でだけは子供じみた仕草をすることを。
生い立ちが生い立ちだけに、それをおかしいとは思わない。

「その割には随分と元気がないのね。フラれた男みたいよ?それとも女房に逃げられた駄目亭主かしら」
くすくすと薄い唇に笑みを浮かべる。
舌打ちをするだけで何も言い返さない一方通行に、おや、と芳川は眠たげな瞳を僅かに見開く。

罵声、毒舌、挑発、憎まれ口、彼がその形の良い口から吐き出す言葉は悉くが碌なものでない。

それが誤解を招き、誤解が不和を呼ぶ。

彼を人から孤立させる要因であり、彼の望みでもある。

その言葉の裏の真意に、彼の性根に気付けるものにとっては精一杯虚勢を張っている子供にしか見えず可愛いのだが。

「で、能力の無いことへの苦悩をそっけなく跳ね除けたことに後悔してるわけだ」
「してねェよ。ンなモンするかよ。わからねェもンはわからねェし、仮にわかってたって俺に言えるかよォ」

役目があンだろうが、と苛立ちを言葉に込める。
やれやれ、本当にこの少年は。



169 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/15(水) 22:48:50.38 ID:plvK0H60

「優しいんだから」
「ああ゛ァ?」



剣呑な視線をそよ風のように受け流しながら芳川は苦笑を浮かべる。



「能力なんて関係無いなんて、そういう“無能力者を無意識に見下した能力者”が言うような言葉が
彼女にとって何の救いにもならないんだってわかってるんでしょう」

「 ――― 」



170 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/15(水) 22:52:02.88 ID:plvK0H60

持つ者が持たざる者に『持つことなど大したことではない』と言うこと程残酷な言葉はない。
それが悪意ではなく、純粋な善意、友愛、親切から来る言葉であればあるほど、
言葉を向けられた者はそれを受け止めなければならない。

悪意であれば、悪意を持って跳ね返せるけれども、善意を跳ね返すことは出来ない。
それが互いに善良な心根を持つ者であれば尚更。

無邪気さ、正直さは時として何よりも残酷なものになる。
優しさが悪意よりも鋭い言葉となることもあるのだ。
それを自覚していれば、上手く受け流すことも出来ようが、たかだか14年の人生しか生きていない少女には出来ようハズもない。


持たざる者の持ってしまった者への無理解から来る純粋な憧憬、嫉妬という形によって、一方通行はそれを十分に理解出来る。
そして、それは一方通行という少年がそれだけ傷ついてきているということを意味する。


だからこそ、一方通行はかけるべき言葉にためらったのだ。

「でもね、一方通行」

芳川桔梗は、一方通行の心を本当の意味で沈めてしまっている理由を指摘する。

「貴方、本当はその子が欲しがってる言葉をわかってるんでしょう?」
「………なンの話だ」
「その子が欲しがってる言葉よ」

だからこそ口から零れてしまったのだろう。


『あァ…きっとわかンねェよ。俺がどんだけ           かをなァ』

などと言う言葉が。

「何を躊躇う必要があるのかしら?きっと佐天という子も望んでいると思うわよ?その言葉」

そして、その『先』も。



171 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/15(水) 22:53:52.21 ID:plvK0H60

「わかンねェよ…」

伏せた瞳を二、三瞬きさせる。一方通行の長く整った睫がふるふると揺れる。
そうか、要は怖いのだ。
自分の抱く感情を拒まれることがではない。
自分の抱く感情が分けがわからずに、混乱している現状そのものが。
それはまるで途方に暮れた子供のようだ。


抱きしめてあげようかしら。

芳川はらしくもない考えを抱く。
黄泉川が時折一方通行を抱きしめていたのを目にしていたが、なるほど、そうかと納得が行く。

学園都市最強のレベル5、裏世界を闊歩する最凶の化け物。暴君。
勝手にへばりついてきたこれらの肩書きは真実である一方で、欺瞞に満ちている。

彼が時折覗かせる幼さや脆さ、臆病さや危うさを知るとそのことがわかる。

そんな時、あの母性の強い親友は堪えられずに抱きしめるのだろう。
我が子を抱く母のように。
そして、一方通行は口では憎まれ口を言いながらも身を委ねるのだ。

10歳にも満たない打ち止めにすら母性を感じさせる程に、一方通行は脆く儚い。

「ま、それならそれでいいわ。わかるまで悩みなさい」
「はァ?」
「どうせ貴方のことだもの。私がこれはこうよって説明したって素直に聞かないでしょう?だったら答えがわかるまで精々悩みなさい」

学園都市最高の頭脳なんでしょう?と芳川はウインクをよこす。
悩んでいる自分が、その悩みを芳川に相談しようと足を運んでいたことが、その事にようやく気付いたことが一方通行は無性に馬鹿馬鹿しくなった。

「チッ…役に立たねェ保護者だなァ」



200 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 00:01:42.74 ID:Ao8RpfQ0


「だって濃い味好きだって言ってたからさぁ」
「それで塩一掴みはやり過ぎですって。塩は基本最後にちょっと整える為の一つまみ、二つまみくらい入れるだけ。
それに煮物の味見は煮始めは薄いなぁって思うくらいで丁度いいんですよ」


というか味が薄いからと言って塩を一掴み。

豪快過ぎる。

見た目からして蓮っ葉な少女だとは思ったが料理まで何というか荒々しい。
まるで手掴みで取った魚を丸ごと焼いてそこに拳で砕いた岩塩を振りかけて『魚の塩焼きです』とでもほざきかねない。

そいつァ違うぜと、心の中だけでツッコミ。
佐天は結標の料理法に軽く腰が引けた。

「あと、濃い味としょっぱい味は違いますからね。醤油で安易に味付けしちゃうと結構失敗しちゃいますよ」

「え、ホント!?」

「一応聞きますけど…どんなくらい追加したんですか?」

「えっと……カップ2杯?」


おうふッ、と呻く。
コイツは予想以上のベイビーちゃんだぜと佐天は戦慄をもって結標を見る。



201 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 00:04:08.04 ID:tx9S1z.0

「身体壊しちゃいますよソレ。よくその人食べてくれましたね…っていうか平気でしたね。
醤油で味付けするんだったら少しずつ。
もっと安全パイで行くなら麺つゆとかおススメですよ?」

「ええ~麺つゆ?」

「ああ、今麺つゆディスりましたね。麺つゆ出来る子なのに。汎用性高いのに。
何でも使えますよ。元々あれ自体にかつおやら昆布やら使ってるから手っ取り早く
味にコクが出るし」

結標はふむふむとメモを取りながら頷く。
佐天は冷めかけていたカフェ・オレを飲む。

苦味と甘みが程ほどにあっているが、正直普通の味、無難な味というやつだ。


「なるほどね。佐天さんって凄いのね。
本当に料理が作れるんじゃなくて“出来る”のね」

「弟いますからね。子供って正直なんですよ。特に兄弟なんて言ったらもう遠慮なんて欠片もないくらい。
折角作ってやっても『不味い』だの『これ食べたくない』だの。もうホント、言いたい放題なんですから。
アンタこれ作るのにどんだけ手間掛かったかわかってるのか~~!!って頭叩きたくなっちゃう」


実際叩いちゃうんですけどね、と舌を出して笑う。

結標はそんな佐天を羨ましいなぁと思う。



202 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 00:09:30.61 ID:tx9S1z.0

「佐天さんは可愛いわね」

「え?いやぁ、照れちゃうな、結標さんみたいな綺麗な人にそう言われちゃうと。
あははは」

羨ましい。心から結標は思う。目の前の少女は、真っ当に“普通の女の子”をしている。
そのことが堪らなく羨ましい。

明るさと華やかさ。

可憐さと頼りなさ。

自分がこの目の前の少女のようであったら。
もし、そうであったならば、一方通行はどう思っただろうか。

「ホント…佐天さんみたいな可愛げがあったらなぁ…」

「ああ、そうすればもっと彼氏さんに大事にしてもらえるのににゃ~ん、っていうわけですね」

にんまりと笑う佐天の笑顔を前に、結標は自分が呟いた言葉にようやく気付く。

「いや、彼氏とかじゃないから、あんな奴!」

「あんな奴…ほうほう、片想いだと。
じゃあやっぱり料理を作ってあげてたのってお世話になってる保護者さんじゃなくてその人に」

「作ってあげたって言ってもホラ、毒見よ毒見。料理くらい上手じゃないとね、ホラ、女として?」

「女の子として見てもらいたいっていうことですよね、うんうん、わかりますよ」

「そ、そそ、そういうわけじゃなくて…」

「毒見なら自分ですればいいのに…」

「アイツに食べてもらわなきゃ意味ないじゃない!!」

「アイツってホラ、やっぱり意中のあんチクショウじゃないですか」

「だから違うんだってばぁ~~!!」


墓穴ってこういうことなのだろう。
墓穴を掘るまいとして、墓穴から目を逸らす為に他所に穴を掘る。
もぐら叩きの如く、墓穴だらけだ。佐天はさながらハンマー片手に出てくるあわきんモグラをぴこんちょと叩いていく図式。


佐天涙子、ゲーム得意です。(キリッ



203 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 00:12:09.01 ID:tx9S1z.0

スカート捲りスキルとイジリスキルに掛けて佐天涙子は一家言持ちだ。
チェシャ猫の如くしししししと笑う年下の少女に対して良い様にからかわれているあたり、
日常生活におけるコミュ力の決定的な差が現れる。


「でも…食べてくれる人がいると料理って楽しいし上達も早くなりますからねぇ」


テンション一転。佐天は瞳を伏せる。

スプーンでコーヒーをくるくるとかき回しながらポツリと佐天が呟く。


おやおやぁ?と結標淡希は佐天の言葉の端になんともいえないものを感じる。
言葉の響きがなぁんとなく『甘い』のだ。
もっとも、それを嗅ぎ付けることが出来るのは、結標 ――― あわきんにも同様のものがあるのだからこそだ。


だがその事にはツッコンではいけない。
ツッコメば林檎のように彼女は顔を赤くするだろう。

あ、もうとっくにそうだった。


「ふふぅ~ん。貴女にもそういう人がいるわけね」
「そうですね、確かに料理を食べさせてあげたいなぁっていう人、いますよ」


「貴女あっさりと恥ずかしげもなく…」



204 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 00:15:40.84 ID:tx9S1z.0

もうちょっとこう顔を赤面させて

『ち、ちち、違います!!そんな人なんて私には…もう!!イジワル!!』

みたいなリアクションを期待していただけに結標は肩透かしを食らう。


どもりまくりで照れまくりの自分は一体なんだというのだ。


中学生の方がもしかして大人じゃね?

あれ?私見た目お姉さんなのに経験値負けてね?


そんなことを思ったかどうかはわからぬが、結標の期待に反した素直な反応はカウンターのように結標を打ち据える。


「ところで“貴女にも”っていうことはやっぱり結標さんもそうなんじゃないですか。
認めちゃいましょうよ」


「はうッ!?」


今度はあわきんのターンかと思いきや、佐天はカウンターであわきんの柔らかいところを突く。
認識の外から打つパンチを人は究極のパンチというが、正に今のがそれである。
宮田君ばりのカウンター。

結標はとうとう観念したかのようにテーブルに突っ伏す。
耳まで真っ赤にしながら、潤んだ瞳を伏し目がちに泳ぐ。

呻くように

熱い吐息を吐くように

身体の中から、堪え切れない想いを解き放つようにぼそりと。


205 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 00:16:34.35 ID:tx9S1z.0



「そうよ…ええ、そうよ、そうなの、そうですよ。


 どうせ好きですよぉだ」




206 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 00:23:10.59 ID:tx9S1z.0

頬を赤く染め、唇を尖らせる。
ピンクサラシでヘソ出し、肩出し、腋出しな上にミニスカ姿というとてつもねぇ格好をしていたオナゴとは思えない恥じ入りっぷりだ。

もっとも、今は冬のせいか自重しているが、おそらく冬でなくともしないだろう。


一度、あわきんは一方通行の前でポロリをしてしまった。



幸いだったのは一方通行しかいなかったことだろうか。

どちらにとって幸いかは推して知るべしだ。
とにもかくにも、サラシが取れたという事故が起こって以来、あわきんの露出は随分減った。
その際、あわきんをフォローしようとして一方通行が、


『あ…あァ…気にすンな。恥ずかしがるもンじゃねェよ。
えっとだ…おォ、寧ろ誇れるレベルだぜェ?
思わずむしゃぶりつきたくなっちまうくらいによォ』


などと言うとてつもねぇ発言をしたのだが、それは特に語る程でもなかろう。

『女の子をフォローするときは、とりあえず褒めるべし!!』(by浜面)

を間違った遵守の仕方をしてしまっただけなのだから。




207 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 00:24:43.09 ID:tx9S1z.0

「ようやく白状しましたね~うんうん人間素直が一番」
「貴女…よく恥ずかしげもなく言えるわよね」

佐天は白い頬朱に染めると、やわらかな笑みを浮かべる。

「そりゃあ恥ずかしいですよ私だって。でも否定しようにも否定出来る要素が薄いというか…う~ん」
「それは違うって自分にいいわけが出来ない?」


「言い訳…そう、言い訳ですね。上手い言い訳が見つからないっていうか、
誤魔化す材料がどれだけ探しても見つかんなくて…
もういっそ認めちゃった方が楽だなぁって」


佐天は小さくはにかむと、くるくると髪を指に絡めては解く。
彼女は彼女なりに照れているのだ。


如何せん、自分は聞き手が多いし、仲良しメンバーで集まる時は御坂美琴オンステージなのである。

正直、自分のこういう感情を人に話すのは慣れていない。



「認めちゃった方が楽かぁ…」

思うところがあるのか、結標は小さく吐息を吐く。
カランと乾いた音を立て、彼女のアイスティーの氷が溶ける。

「認めちゃったら認めちゃったらで、また今度は色々悩んじゃうんですけどね。
今までの自分の言動とか振り返って、あれ無しにならないかなとか」

特に初対面でノゲイラばりのタックルからガン泣きとか。

くんかくんかすーはーすーはーとか。


思い出すだけで床を転がりたくなる。
というか、自室では何度転がったことだろうか。

嬉しいことを思い出しては転がり、恥ずかしいことを思い出しては転がる。

最近の佐天さんの部屋では、顔を真っ赤にして枕を抱いたまま転がる彼女の姿が毎日のように見ることが出来るであろう。


208 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 00:27:25.21 ID:tx9S1z.0

「ああ、わかる。そういうのってすごく…」

ショタコン疑惑だけは晴らしたい。
ただ、小さい男の子が可愛いと思うだけで、決してやましい気持ちなど自分にはないのだと、知ってほしい。


「案外気にしてないかもしれないんですけどね。凄く鈍い人だから」

それはそれで困り者なのだが、佐天は憂鬱そうに溜息を吐く。
最近溜息が増えたと初春からよく言われる。


「ああ、貴女のところもそうなの?」
「そういう結標さんも?」
「うん。もうね、すっごく鈍感。しかもデリカシーが無いのよ!!」

苛立ちの籠もった声に興味を引かれたのか佐天が身を乗り出す。

「興味あるなぁ。どんな人なんですか?結標さんみたいな美人さんに
惚れられる人ってどんな人ですか?」

「惚れ…そうやって言葉にされると恥ずかしいんだけど」
「まぁまぁ、ここまで話した仲なんですから、とことん話しちゃいましょうよ!!」
「そうね…そうよね、恥ずかしがることもないものね」
「で、初めての出会いは?どういうのだったんですか?」





「……詳しくは言えないけど、ブン殴られた」


それも顔面真正面からだ。


209 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 00:29:06.01 ID:tx9S1z.0

「殴った!?女の子の顔を?最悪じゃないですか!!ってごめんなさい…」

「ううん、いいの。私も同感だし。まぁ、私が悪かったんだけどね」

「それでも女の子の顔殴るなんて酷いですよ!!男女平等パンチとかちゃんちゃらおかしいですってば」

「そうなのよね…私だって腹は立ったし。

最初はもう憎たらしいやら悔しいやら怖いやらで…

とにかく大嫌いな奴だったなぁ…」


思い出すのは、憎まれ口を叩いていた頃。
今もそれは変わらないが、決定的に違っていたのは心から憎く思っていたこと。

「でもそうじゃなくなったと?」

暫く考えて、はにかみながらも結標は頷く。

「きっかけは何かあったんですか?こう劇的な何かとか…」



「きっかけか…」

多分明確にこれというのは無い。
きっかけと言えるものに一応の心当たりが無いこともない。
しかし、それで恋に落ちたということはなかった。


「きっかけっていう程でもないんだけどね。ただ…」
「ただ?」


興味津々に瞳を輝かせた佐天にどう答えたものかと顎に手を当てる。


「見直すきっかけ…はあったかな」



210 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 00:31:12.98 ID:tx9S1z.0

一方通行がロシアから戻ってから、グループに入る仕事が極端に減った。

特に殺し関係の仕事が無くなったのが大きい。

暫くして、暗部に指示を下す者、学園都市上層部に大きな変化が起こったのだと知った。
土御門が調べた話しでは、一方通行が上層部に掛け合ったという。
交渉でも取引でも懇願でも妥協でもなく、上層部が一方通行に対して「何らか」の恐れを抱いているのだという。


それが何かはわからず、当の一方通行も何も語らなかった。


ただ、わかっていることは一つ。


彼が自分や自分達のような弱みを握られ、使い捨ての駒として消耗される者達を解放させたこと。
そして、それによってすべての闇を彼が引き受けることになったという事実である。
それを知ってから、結標は一方通行のことを目で追うことが増えた。


「へ~じゃあ、その人嫌な奴っていうわけじゃなかったんですね」
「ええ、そうね。寧ろ…」


優しい。
酷く不器用で乱暴だが、そうなのだろう。


「そういう佐天さんはどうなのよ?」
「私ですか。私はもうベッタベタですよ。不良に乱暴されそうになってたところを助けらたんです」

北斗の拳みたいなモヒカンに、と手でとさかを作っておどける。
実際、本当に見事なモヒカンだった。


しかし、おどけた態度とは裏腹に、佐天の顔は自慢する子供のように輝いている。
本当は聞いて欲しいことなのに、いざとなったら恥ずかしくて冗談めかしてしまう子供のように。


211 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 00:32:58.89 ID:tx9S1z.0

「それで一目惚れ?」
「ひとめ…ぼれ…なのかな」
「?」

意外にも煮えきらない答えに結標は首を傾げる。

「そ、そうだ。それで結標さんの好きな人って、いくつくらいなんですか?」

「うん、同じ年…かしらね。佐天さんは?」

はっきりと年齢を口にしないが、少なくとも高校生の年だ。

「私は年上ですね。三つ年上…かな。とってもカッコいいんですよ。
コワイケメンって感じですね」


人相は悪いが、一方通行は基本端正な顔立ちをしている。
威嚇するような態度を取らず、力を抜けば普通にイケメンだ。



「でも寝顔が凄く可愛いくて、キュンって胸に来ちゃいました」


一度佐天が料理をしている間に眠りこけていた時ことがあった。
普段の険が抜け、幼さすら漂わせるその寝顔は綺麗であり、


そして、息を呑む程にあどけなかった。


普段の彼が如何に肩肘を張って生きているのか。
周囲に対して強くあろう、強くみせようとしているのか。


それを思った時、胸の奥に言いようのない痛みが走った。



212 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 00:35:25.18 ID:tx9S1z.0

「そうよね、普段ツッパってる癖に寝顔可愛いとか反則よね」

「わかりますか?」

「うん、私も偶然見ちゃったことがあってね」


グループのアジトのソファで眠り込んでいる姿を見て思わず写メに撮ってしまったのは内緒の話しだ。

正直ずるいと思った。
もう少しだらしない間の抜けた寝顔だったり、歯ぎしりやイビキが酷ければ気にも留めなかったのに。
あれではまるで母親の帰りを待っている間に眠ってしまった子供だ。


「ああいうのって母性本能擽られますよね」

「そうよねー普段は凄く強気の癖に。っていうか寧ろ凶暴?」

「口調も乱暴で、素直じゃないっていうか天の邪鬼というか…」

「ああ、そうそう。そのくせこっちがシュンってなると結構焦ってフォローしてくるのよね」

「口べただから全然フォローになってないんですけどねぇ。年上の癖に妙に子供っぽいというか、すぐにムキになるし」

「男の子だから負けず嫌いなのよ基本」

「私なんて弟いるんですけど、たまに接し方同じ時ありますよ。
好きなおかず作ったら機嫌直っちゃうところとか一緒で」

「へぇ、そうなんだ」

「強くて頼もしい癖にそういうところが可愛いなって思っちゃうんですけどね」

「可愛いっていうのはあるわね。言うと怒るから言わないけど」

「男の人って可愛いって言葉に過敏に反応する人っていますよね」

「そういう人ばかりじゃないの?」

佐天は顔をしかめて首を振る。


213 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 00:38:04.99 ID:tx9S1z.0

「まっさか~女の母性本能に甘えようってわざとらしく可愛さアピってくる奴、結構いますよ?」

大概そういう男はキモいんですけど、如何も嫌そうに顔を歪める佐天に思わず結標は噴き出す。


「そういうのは気持ち悪いわね確かに」

可愛くない男の可愛さアピールほど気持ちの悪いものはない。

「可愛い人に限って自分は可愛いのとは無関係だぜっていう態度とってたりするんですから。
もう!!そういうところが可愛いんだってって、言いたくなっちゃう!」

「そういう人なの?危ないところを助けてくれた白馬の王子様みたいに聞こえたけれど?」

ぴくりと、佐天の肩が揺れた。

「王子様…か。最初はそう思ってたんですけどね。結標さん。結標さんは…レベルっていくつくらいですか?
もし良ければ教えて欲しいんですけど」

一瞬の間を置いて、結標はぽそっと答えた。



「………レベル4」


4という数字を佐天は口の中で転がす。
その数字に何か重要なものが秘められているかのように。



214 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 00:39:51.09 ID:tx9S1z.0

「私は0なんです。ようは無能力なんです」

「そう」

同情を込めるべきか、興味など全く無い風にするべきか。
迷った挙げ句、結標は素直な感情をひっそりと乗せることにした。


小さな憧憬を。



「最初は私舞い上がって、押し掛けちゃったんですよ。
カッコいい!!ヒーローだ!!って、王子様だって。
ミーハーな気持ちで。ただ、なんていうかちょっと違ったんですよ」


もちろん凄く強い人なんですよ?

そう前置きをして、佐天は言葉を一つ一つ、ひとかけらずつ手に取り眺めて確認するように舌に乗せていく。


「私にとって、あの人は憧れだったんです」

顔も知らない頃から。そう、「学園都市第一位」などと呼ばれている存在を知った時から。
一体この街の頂点に立った人が見る景色はどのようなものだろうか。
もし自分に学園都市最強の力が手に入ったら、そんな無意味なIFを何度思い浮かべたことだろうか。

「だから気づかなかった。本当はどんな人なのか…
会って話して、実際に向き合ってみるまで知らなかった」



215 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 00:41:27.80 ID:tx9S1z.0

あんなに寂しそうな背中をした人を初めて見た。
華奢で、薄くて、儚げな背中。
守ってあげたいと思わずにはいられない背中。
キッチンに立って、彼が珈琲を淹れている時に、ふと思うことがある。


その背中をぎゅうっと抱きしめてあげたらどんな顔をするだろうか。



「誰も私の気持ちなんてわかってくれないって、どこかでいじけてたんです」

御坂美琴にさえ、心の底で思っていた。
それを一方通行は見抜いていた。
そして彼が去り際に放った言葉がある。


「でも、私もわかろうとしてなかった。あの人の気持ちも」


寂しそうな、打ち明けたい言葉を飲み込んだ子供のような瞳でつぶやいた言葉。


「本当は強い以上に寂しい人。寂しがり屋で、甘えたがりなんだと思います。
それがわかっちゃってから正直、すごく困ってしまいました」

「それは…」

じっと佐天の言葉に耳を傾けていた結標が真っ直ぐに佐天を見る。



「幻滅した…ということ?」



216 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 00:45:16.95 ID:tx9S1z.0

佐天は困ったように首を振る。
頬を赤くしながら、指先でカップの縁をなぞる。

「逆です。憧れとか、浮ついた気持ちで。なんていうかノリが入ってたからあれだけどんどん近づけてたのに、

今ではもう…恥ずかしくて」

「本当に好きになっちゃったんだ?」
「おかしいですよね。会ってまだ一月もしてない相手に思い込んじゃって」
「そうかしら?」

結標は窓の外に視線を移す。


「落ちちゃうときは多分一瞬でしょ」


恋はするものではなく落ちるものだから。
使い古された陳腐な言葉だが、真理だと結標は思う。
落ちてしまうまでの時の長短など関係ない。
落ちてしまえば一緒だから。
そう、落ちてしまったら、もう観念するしかない。



「そうですかね」
「そうよ」
「そうですか」
「ええ」

奇妙な沈黙が降りた。
何というか、今日会ったばかりだというのに自分達はどうしてこんな話をしてしまっているのだろうか。


御坂はおろか、初春にもしていないというのに、佐天は不思議に思った。


それは結標も同じだったようで、二人は顔を見合わせた。

「そうですね」
「ええ、そうよ」

落ちてしまったのだから。



218 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 00:50:03.91 ID:fZa1VsMo
マジ最高ですやん……あわきん可愛いよあわきん。

223 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 11:40:32.01 ID:sDx1OGQo
修羅場ルートかハーレムルートか

233 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:34:59.60 ID:2OChoWQ0

補習が終わり、上機嫌で上条当麻は下校の路に着く。

上機嫌なのは普段よりも補習が早く終わったから。
これから向かうのはスーパーであるが、狙うのは特売ではなく文房具。
頭の足りていない上条が、一念発起して勉強に精を出すことにしたという話ならば小萌先生感涙であるが、話は少し異なる。


上条が買うのはインデックスの為のものだ。


最近になってイギリスが手を回したのか、インデックスがこちらで本格的に学校に通えるように手はずが進んでいるのである。
いつから学校に通うことになるのか、何処の学校になるのかはわからぬものの、通えるようになることは確かである。


普段、上条の帰りをスフィンクスと一緒に寂しくお留守番をしていた彼女の姿に胸を痛めていただけにこれは吉報である。


まだまだ、依然として彼女の魔道書を狙う輩がいることはいるのであるが、激減したリスクと、
彼女の喜ぶ顔を秤に掛ければどちらを優先すべきかは一目瞭然である。


彼女を守る覚悟なら出来ている。


上条とていつまでもそげぶ(笑)のままではない。
『主役って言ってもさ、一方通行とか美琴に比べると映像映えしないよね』と言われるままでは済まさない。
本格的な格闘技を習い覚えようとしているのだ。
浜面と最近はボクシングジムに通ったりもしている。


デンプシーイマジンブレイカーをお披露目出来る日も来るかもしれない。


腰の強さには自信があるのだ。毎晩鍛えてますから(キリッ



234 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:39:15.85 ID:2OChoWQ0


『わたしも学校に行けるんだよ。えへへへ、とーま、勉強おしえてね』

そう言ってはにかみながら頬を染めていたインデックスに萌えたというのもある。
自分の高校の制服に身を包んだインデックスを想像して、授業中に顔面が崩壊したのはご愛嬌。
土御門に『壮絶にキモイにゃーかみやん』と言われたが気にしない。



だってアイツもメイド義妹に手を出しているもん。



「壁薄いんだよな、あそこ…」


実に意味深な呟きをする。


ちなみに、上条さんは聞かれることに抵抗など無い。
寧ろ、聞かれることに羞恥心を覚えるインデックスさんの姿に「んんッ!!」となる。
流石は『ことラノ』第一位の男だ。


『ことラノ』とは『今年一番爆発すればいいと思うライトノベルキャラランキング』のことである。

けっしてこのラノと混同してはいけない。メタは逃げだ。


235 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:46:15.49 ID:2OChoWQ0

上条は思春期全開の妄想に浸りながら歩くので当然周囲はドン引きだ。
スキルアウトの皆さんでさえもからむにからめない。

上条が普段の通学路の途中にある公園に足を運んだところで彼我に返る。
その表情には露骨な警戒心が露わになっている。



「や、や、やっほー…」

顔を赤く染めた美少女が、ぎこちなさげに手を振る。
そこには自販機キラー、学園都市家電達の怨敵、常盤台中の猫かぶり電撃姫こと『超電磁砲』御坂美琴の姿があった。

「戦略的撤退!!」
「え、ちょ…!」


文房具はまたの機会でいいんじゃないだろうか。

うん、そうだ、急いで買う必要があろうか。

文房具は決して逃げたりしない。

そうだ、そういえば今思い出した、急に思い出した、今日は小萌先生のお家に行くのだった。

彼女の同居人が野菜を買い込み過ぎて食べきれなくなった為にお裾分けを頂きに行くことになっていたのだ。

今は野菜が高い時期だというのに。

奮発してタマネギ、清水の舞台から飛び降りる覚悟を振り絞って四分の一カットの白菜を買う上条にしてみれば
その同居人はブルジョワジーだ。
先生の話では、好きな男に振舞う手料理の練習用とのことだそうだが、まったくもって果報者な男もいたものだ。


もげてしまえばいい。


そう顔も知らぬ小萌先生の同居人の想い人(ややこしいな)にジャブ程度の悪意を抱きながら、
元来た道をダッシュする上条の顔の真横を一閃の光が走った。


上条の眼前の警備ロボが『解せぬ』とばかりに黒煙を吹き沈黙する。




236 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:52:39.90 ID:2OChoWQ0


「アンタはぁ~~スルーするのに飽き足らず人の顔を見るなり逃げ出すとかどういう了見なのかしらぁ?」

流石に登場シーンの派手さでは右に出るものがいない我等が電撃姫である。

何と言うかオーラが違う。

そう、さすがはとあるシリーズの稼ぎ頭である。

ボーカロイドで言えば初音さんくらいに。

稼ぎ的な意味であって、決してバストサイズではない。
寧ろそれだとリンだとか言ってはいけない。


「ま、まぁ、別に、あ、アンタが構ってくれないから怒ったわけじゃないんだからね!!」


擬音語に「ツン!」とか「デレ!!」とかそんなものが聴こえた気がしたが、それらのTND拡散力場は全て上条の右腕にぶち殺される。

掌の中に電気を滞留させながら近づく女子中学生に上条の背筋に冷たい汗が流れる。
可愛い顔と可愛い胸をしておきながら、この女子中学生がエゲツない電撃をぽんぽん撃ち出すことを嫌という程している。

骨身に染みるという言葉があるが、まさしくこのケースなどそれにあたる。

一方通行戦のダメージって大半がこの少女にやられたようなものだ。


237 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:54:22.51 ID:2OChoWQ0

「な、なんの用でせうか御坂さん…上条さんはちょっと用事があるのですが」

気分はカツ上げされるいじめられっ子だ。
違うところは何かといえば、致死量の電撃をかましてくるかどうか。
電撃女子中学生こと御坂は急に顔を赤くするとモジモジとし始める。

「何って…その特別な用っていうか…そのね…」

モジモジ、モジモジ。
指をこねこねと胸の前で合わせる姿は何処にでもいる美少女中学生。

ああ、じゃあ、何処にでもいるというわけではないか。


「ほ、ほら、私さ、結局ちゃんとお礼したことなかったじゃないの」


妹たちのこととか、黒子のこととか、と更にモジモジ。


「ああ、そんなこと気にするなよ。全然、大したことじゃないんだから」


お前にいつも不意打ちで食らっている超電磁砲に比べれば、という言葉は飲み込んでおいた。
多分言えば即超電磁砲だ。
対上条限定では、一方通行よりも沸点の低いこのお嬢様は心臓に悪い。

出来るだけ上条は刺激しないように言葉を選ぶ。



238 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:58:13.98 ID:2OChoWQ0

「俺が勝手に首突っ込んだだけなんだからさぁ。
助かってくれただけで俺にとっては十分なお礼っていうか。
大体そんな事気にするなよらしくないぜ御坂。
お前はいつも通り明るい御坂でいてくれればそれでいいんだからよ」


そして出来れば電撃は自重してくれないかなぁと心の中で付け加える。

基本ヘタレですから。




御坂はというと、上条の飾らない言葉に顔を林檎のように赤くしていた。
彼女の中では先ほどの上条のセリフがリプレイされているのだ。


『いつものお前でいてくれよ。いつものお前が一番イカしてるんだからさ』(キリッ



言ってません。


「い、いやぁだ…もう、いきなり何言ってるのよ~」

上条の言葉が、多少の脚色をされた上で御坂の脳裏をリフレイン。
基本、自分だけの現実が強い人は思い込み強いんです。
手を胸の前で合わせて湯気が出そうに真っ赤にする御坂は上条から見ても十分可愛らしかった。
普通の男ならその仕草だけでノックアウトされるだろう。


だが、上条は違った。

この状態になった御坂を下手に刺激すると、ふにゃーっという叫びと共に10億ボルトだ。
世界のリーダーを頼んでもいないのに自称する国在住の『アイツ』と双璧をなしつつある
国民的ネズミの実に一万倍。

それを如何に刺激せずに、速やかにこの場を去るか。

(誰かモンスターボール持ってきてくれよ、ハードル高いッスよこのピカチュー)


言葉には出さずに上条は叫ぶ。
基本ヘタレっすから。


239 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:59:25.45 ID:H.CweI.P
いいノリだwwwwwwww

240 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:59:57.34 ID:2OChoWQ0

「………んじゃ、これで」
「待ちなさいよ」
「あふん!」

ビリッと来た。

右手以外は普通の頭の悪い高校生の上条さんの左肩を電撃を帯びた御坂さんの手がガッチリ掴む。

そして電撃。

電撃ってメジャーな能力だけど、電気で痺れるって何気に日常で味わうことが無い。
正座をした時か電気風呂に入ったときか静電気でビックリしたときくらいだ。
故に、上条さんは過敏に反応する。
びりってきた。スタンガンを押し当てられたみたいなものだ。

エグイ。実にエグイ。


「あ、あの御坂さん?」
「だ、だからね、そ、そうよ、お茶。お茶おごってあげるわ。どうせアンタいつもひもじい思いしてるんでしょうし。奢ってあげるわよ」
「ェェェェェェェ……いいよ別に。お礼とかそういうのは」
「うるさいわね。つべこべ言わずに付き合いなさいよ」
「夕飯の仕度もあるし(インデックス待ってるし)いいって。気持ちだけ受け取っておくからさ。じゃ…」

被せるように頬を風圧が掠めた。
ゲームセンターのコインがたちどころに近代兵器に。
これが常盤台のエース、御坂美琴の代名詞でもある超電磁砲。
放て刻んだ夢を未来さえ置き去りにして。 未来を置き去りにしたら本末転倒だと思う。

「いいからお礼させなさいよ。これ以上四の五の言うようなら超電磁キャッチボールよ?」
「此方から投げ返さないものをキャッチボールとは言いません」

打ちっぱなしって、それはサンドバックだ。
怖いので言えないが。

「で、付き合うわよね?」
「御坂さん…自分の発言の矛盾点に気付きませんか?」
「う、うっさいわね!!わかったんなら付き合いなさい!!」

逆切レールガンに手を引っ張られながら、上条は久しぶりにおなじみの言葉を吐いた。


「不幸だ……」





241 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 22:04:59.42 ID:2OChoWQ0

それはまったくの偶然だった。

結標淡希が一方通行に会ったのは、彼女がお気に入りとしているパン屋。
カフェとパン屋が一つになったそのお店は木目調のログハウスを意識した造りで、彼女の好みに密かに合っていた。
無機質な学園都市において何処か時間がゆったりと流れているように感じさせる店だ。


ぼぅと考え事をしたい時、一人になりたい時、疲れた時、彼女は此処を利用する。

この店で一方通行に会ったのは今日が初めてであった。


「あ…一方通行…」
「……よォ」

無愛想此処に極まれり。僅か二文字足らずで挨拶を終える一方通行だが、これでも随分な進歩だ。

以前であれば無視。
酷ければ『気安く話しかけてんじゃねェぞクソがァ』という不当な罵声コースだ。
かなり丸くなったといえる。

結標は窓の外を見ている一方通行にバレぬようにさり気無く深呼吸をする。
脳裏に浮かぶのは先日友達になったばかりの無能力者の少女。
彼女との語らいを無駄にするまいと、結標は意を決する。

「と、隣りいいかしら?」

上ずった声に気付くこともなく、一方通行はちらりと結標を一瞥する。

「好きにしろ」

ぼそりと呟かれた言葉はぶっきらぼうであったが、拒絶ではない。


242 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 22:08:03.07 ID:2OChoWQ0

(やったわ!!佐天さん、頑張ったわよ、私!!)

心の中でガッツポーズをとると、結標は一方通行との距離を気にしながら椅子を引く。
あまり近過ぎると心臓に悪いが、かといって離しすぎてしまうのも何だか勿体無い。
せわしなく微調整をする結標を怪訝な目で見つめながら一方通行はカップ珈琲を啜る。

結標は一方通行の持つトレーに目をやる。

ツナサンド二つ。
カツサンド三つ。

以上。


「相変わらずお肉ばっかり……野菜もっと摂りなさいよ」
「うるせェ。お前には関係ねェだろうが」


取り付く島もないとはこのことかと溜息を吐く。

「いっそ、私が今度作りに行ってあげようかしら」
「そういう台詞は飯が上手く作れるようになってからほざきやがれ」
「じゃあ、一方通行の部屋で料理の練習でもしようかしら」
「間に合ってンだよ。そういうのはァ……」


「……え?……それってどういうこと……?」
「何でもねェ。忘れろ」


聞き捨てならない言葉に、追求したい気持ちがムクムクと湧き上がる。
しかし、ヘタレな結標は結局その言葉を言わずに収める。

一方通行は結標と会話をするつもりなど無いのか、窓の外を眺めている。

何処となくその横顔が寂しそうに映り、結標の胸の奥にちくりとした痛みが走る。
何を思っているのだろうか。
そもそも、一方通行がこんな時間に起きて活動していることが不思議だった。



243 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 22:10:43.69 ID:2OChoWQ0

「貴方がこんな所に来るなんて正直意外だわ。ていうか今まだ朝の7時よ?」
「ケッ……たまには俺だって、たまにはこンくらいの時間に起きンだよ」
「たまにはじゃなくて、もっと規則正しく生活しなさいよ」
「はッ……規則正しくたァ恐れ入った。まさかお前の口から出る言葉たァ思わなかったぜ」

くかかかと、三日月のように口を開けて渇いた笑い声を上げる一方通行に、結標はひと睨み利かせる。

一方通行の憎まれ口に顔を顰めながらも、これからもっと一方通行が早起きをしてくれれば
こうして朝食を共にする機会が増えるのではないだろうかと考える。


それともいっそ彼の部屋に料理を作りにいってやろうか。

一方通行の部屋で朝食を作って、一緒に食べる。



(駄目……想像が付かない……)

まず、手際良く朝食を準備している自分の姿が想像できない。
当然、それに連なる食事シーンも。
浮かぶのはせいぜい、グループのアジトで行われている毒見の風景。

やはりもう少し上手くなる必要がある。
佐天涙子に教わったレシピは試してみたら中々小萌には好評だった。
もう少し練習を重ねれば。などと悶々と考え込む結標を横目に見ていた一方通行は彼女のカップにふと視線を向けた。
ミルクとコーヒーが混ざり合い小麦色に染まっているカップをじっと見つめていることに結標はようやく気付く。



244 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 22:12:57.61 ID:2OChoWQ0

「カフェオレが珍しい?」
「ンなわけねェだろォが。ただ……女はやっぱそういうやつが好きなンだなァ」

一瞬、瞳を伏せる一方通行。
内心首を傾げながらも、それ以上は触れない。

「まぁ一概に言えないけれど、ブラックが好きっていう人よりは多いんじゃないかしら。
 口当たりがいいし。好きなように自分で作れるしね」

「お前がかァ?」

「何よ……料理がぶきっちょだからって言っても、コーヒーくらい淹れられるわよ。
何だったら今度淹れてあげましょうか?」



「……まァ、気が向いたら頼むわァ」


てっきり『テメェの淹れたコーヒーなんざ誰が飲むか。泥水飲ンでた方がマシなンだよ』とでも言われると思っていた。
呆れたわけでも馬鹿にしたわけでもない。
ただ、そういうものなのかと確認するような声のトーンに結標は違和感を覚える。
てっきり女子供の飲み物だと馬鹿にしてくることを予想していたのだ。

思わぬ反応に肩透かしを食らう。
いつもブラックばかり飲んでいるのだから、興味が湧いたのだろうか。

一方通行の方はといえば、話しはそれきりだとばかりに視線は既に外を向く。
遠くを見るようなその視線が無性に気に食わなかった。

「何か変わったわよね、一方通行」
「あァ?何急に言い出すンだァ?」
「ホラ、そうやって何だかんだ言って反応するじゃない。前は徹底的に無視してたのに」



245 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 22:14:49.94 ID:2OChoWQ0

少し前の一方通行はコミュ力ゼロのもやしだった。
周りの声など雑音。
必要最低限の言葉を交わすだけの関係。

それは結標にとっても同じだ。目の前の男など恐怖と嫌悪の象徴ですらあった。


「それに、私の料理ちゃんと食べてくれる」
「ハッ…てめェが食えって言ってンじゃねェか」
「本当に食べたくなかったら捨てればいいじゃない」
「捨てて欲しかったのかァ?」
「嫌に決まってるでしょ。馬鹿じゃないの?そんな事されたら私泣くわよ?」
「……チッ……どうしろってンだァァ…」

がしがしと頭をかく。ぼやきたくなるのも最もだろう。
一方通行にとっては半ばイチャモンを付けられているような気分だ。

しかし、事実、以前の一方通行であれば結標の失敗した料理など口にしようともしなかった。
それどころか容赦なく彼女の前でゴミ箱に捨てるなり、たたきつけるなりしても不思議ではない。


「だけど最近はもっと変わったよね」
「?」
「わからない?」

指をすっと鼻先につける。

「その目。最近、ホントこの数日。ずっと遠くを見てる。寂しそうな目で」
「…くっだらねェ……何か変なドラマでも見たのかァ?俺が寂しいたァ…」
「そんな気がしただけよ。怒らないでよ?」
「イチイチそンな程度でキレてられるかよ…ッたく」
「ふふふふ」

子供のように拗ねる仕草が微笑ましくて結標の口に笑みが浮かぶ。
肩を震わせて小さく笑う結標に舌打ちをすると、一方通行は頬杖を付いてぷいっとそっぽを向く。


どうにも結標といると最近戸惑うことがある。



246 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 22:20:52.66 ID:2OChoWQ0

不意に向けられる視線に含まれる感情に戸惑うのだ。
それが何か、一方通行には解析できない。それが一層彼を戸惑わせる。

「あ、そうだ…一方通行、アンタ今日って暇でしょう?」
「なンだよいきなり…つーか、何決め付けてくれてやがンですかァ?」

まぁ、暇なのだが。
それを即座に認めるのは悔しい気がするので黙っておく。

「アレ?予定でもあるの?というか貴方に友達なんて…」
「ムカつくなァホントにお前は……誰もダチと予定があるなンて言ってねェだろうが」
「え?友達じゃないなら…か、か、彼女とか…?」
「誰もいねェなンって言ってねェだろうが……ってオイ、なンでそこで涙目になる!?」
「う、うううう、うるさい。何よ、そンなのいるなンて…ぐす…」

目に泪を浮かべながら俯く結標に焦ったのは一方通行だ。


(何だ、何だよ、何ですかァァァァァーーーー!!!俺は何か最近したのか!?またコレかよォォォォォ!!)


軽い気持ちで、それっぽく振舞った結果がコレだよ。
これも一万人の少女を手に掛けた呪いなのであろうか。
周囲の白い目が白いもやしに突き刺さる。美少女が泣いている姿はそれだけで目を引く。
その相手が凶悪な顔をした少年であれば尚更だ。
性質の悪い男に酷い目に遭わされているいたいけな少女の図式が出来上がっているのかもしれない。



『ちょ、オイ、あの白髪野郎…』
『あんな可愛い子を、しかもナイスおっぱいを!!』
『一方通行様……ミサカともお茶して欲しいです』
『戸惑いセロリタン萌えス』
『チィィ!!今年もクリスマス終了宣言だというのに』
『いいなぁ~私もああいう彼氏欲しいな。ドSチックのビジュアル系とか…』
『何泣かせてやがるんや!!あんな子おったら僕なら速攻土下座からの靴舐めコース一択やっていうのに』

というか、かもしれないじゃなくて、確定していた。

(オイィィィィィィィィーーーーーー!!!何だ、何だよ、何ですかァ!?)

247 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 22:23:55.78 ID:2OChoWQ0

一方通行の背筋に嫌な汗が流れる。


「(アイツといい女ってなァどうしてこうもホイホイ泣けちまうんだかなァ…)オイ、結標。泣くな」

「泣いて…泣いてないもん…」

「トナカイみてェな鼻しておいてかァ?嘘ならもう少しらしく付きやがれ」

「だ、だから、な、泣いてなん、なんか」

「どもりながら言っても説得力がねェンだよこの馬鹿女。
ッたく……冗談を真に受けてンじゃねェってンだ」

その言葉に結標が顔を上げる。
赤くなった鼻をおしぼりで隠しながら、潤んだ瞳で一方通行を見つめる。

「冗談?」
「俺に彼女なンてもンがいるように見えますかァァ?生憎とそンな物好きな女に心当たりなンざねェンだよ」

自分で言っていて悲しくなってくるが。



248 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 22:28:32.72 ID:2OChoWQ0

「そ、それじゃあさ」

おしぼりを手の中でいじりながら、おそうおそると言うように結標が一方通行に視線を寄越す。

「……ちょっと付き合ってよ今日」
「はぁァァ?何で俺が……て泣くな泣くな!!わかった。暇だから何処でも付き合ってやらァ!!」
「本当?」
「ああ…ッたくじゃねェと泣き止まないだろうが」
「えへへへ、私行きたい映画あったんだよね」


心の底から嬉しそうに微笑む結標。

「………」


何処にでもいる女の子が一方通行の目の前にいた。
一方通行は不意にその笑みに見惚れた。
暗部の人間とは思えぬほど、裏の世界など知らない人間のような、屈託の無い笑顔。


黒いシャツにピンク色のカーディガン。
七分丈のジーンズという格好は確かに何処にでもいるような女の子である。
しかし、それ以上に結標の浮かべる笑みが、一方通行にとある少女を連想させた。

そう、一方通行に佐天涙子を連想させた。

何故あの少女を思い出すのかはわからない。


ただ、結標の浮かべる笑みは、決して佐天に見劣りするものではないほどに、どうしてか輝いて見えた。

笑顔だけではない、その瞳。
結標の瞳もそうだ。
彼女が自分を見つめてくる瞳に、上手く説明の出来ない感情が上っていると感じるのだ。

それは佐天にも共通する。
彼女達の瞳の奥にあるものが一方通行にはわからない。


ただ、わかっていることが一つだけ。その瞳に見つめられるとどうにも調子が狂う。


普段他者にそうするように、冷然と突き放すことが出来ない。
居心地が悪いが、不快でもない。では一体何かと問われても、わからない。


結標の抱いている感情の機微を察するには、この学園都市第一位は余りにも感情が幼過ぎた。



249 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 22:48:02.94 ID:2OChoWQ0


お礼をしたい
⇒いいって別に
⇒電撃食らいたくなければお礼させろ
⇒ェェェェェ…
⇒四の五の言ったら超電磁キャッチボールな
⇒不幸だ…←今此処。


(上条の)生と死が交差するとき、新たな物語が生まれる。

「超電磁お茶会なう」
「何言ってるのよアンタ?」
「ちょっと書き込み」

フォローとかいらない。
ただ、今の不幸を吐き出しておきたかった。

御坂はモジモジてれりんと言わんばかりに赤面のまま上条を例によって例のごとくファミレスに連れ込んだ。


「(佐天さんも頑張ってるんだから私も頑張らなきゃね)そ、そういえば最近アンタどうなのよ。学校とか」
「お前は子供との話題に困ったお父さんか」
「う、うっさいわね!!アンタが相変わらず惨めな補習ライフを送ってるんじゃないのかって心配してやってるのよ」
「ううッ…痛いところをお突きになる…あたってるだけに何も言えませんが…そうだな、変わったと言えばダチのことかな」
「ダチって…土御門さんとか?」
「うんにゃ。一方通行」
「ああ……」


250 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 23:01:45.32 ID:2OChoWQ0

御坂が複雑な表情になる。
一方通行との遺恨は既に無い。だって本編終了後だから。

打ち止めを始めとした妹達の事情を御坂は既に知っている。

御坂にとって一方通行は非常に複雑な立ち位置にある。

一万人の妹の命を奪った仇であると同時に、それ以上に一万人の妹達の命を救ってきた恩人。

自分が例の実験後、妹達の問題が解決したと暢気に思い込んでいた裏で
ずっと彼女達をぼろぼろになりながら守ってきたのは一方通行だ。

御坂は恨みと同時に、本来姉である自分が責任を持って負うべき使命(と少なくとも御坂は思っている)を担い続けた負い目がある。

故に、複雑なのだ。


「この前飯食った時にも話してたんだけどさ」
「仲良いわよねアンタ達」
「おう、たまに泊まりに来たり、泊まりに行ったりしてるからな」


そしてもう一つ複雑になる理由がここにあった。
上条と一方通行はやたらと仲が良い。
気の合う親友というべきか、戦友というべきか。似た者同士だからだろうか。
未だに上条の家に行ったことのない御坂としては、お泊り会とか、正直羨ましい。



251 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 23:06:01.89 ID:2OChoWQ0

「最近アイツさ、ある女の子に気に入られちゃったのか、押しかけられて世話焼かれてるんだよ。
口では鬱陶しいとか邪魔臭いとか言ってるくせにどうも満更じゃないんだよなぁ~」
「押しかけって…アイツの家に?」
「そそ。夕食作りに来たりしてるみたいでさぁ。もう押しかけ女房だよ」
「それって番外個体じゃないの?」

ここでも番外個体の通い妻っぷりは有名らしい。
密かに番外個体が一番自分に似ているのではないだろうかと、御坂はにらんでいる。
色々な意味で。

「いや、違う違う。普通の女の子みたいだ。中学生って言ってたかな」
「そ、そうなの!?」
「まぁ、いくら中学生とはいえ、押しかけ女房だなんて羨ましいですよ上条さん的に

通い妻っていう方がいいのか?などとどうでもよいことで上条は首を傾げるが、御坂はそれどころではない。
佐天のように積極的な少女がいることに御坂は驚く。
もしかしたら、今時の女子中学生はそれくらいするのが当然なのだろうか。
ならば自分はそうとうアピールが下手ということになってしまう。
そんな焦る御坂の様子になど欠片も気付かず、気付くはずもなく、上条はコーラを暢気に飲んでいる。

「?アンタさぁ」
「おう?」
「随分嬉しそうじゃないの」


そう、御坂が言うように上条は上機嫌に一方通行の話題を出していた。
口では羨ましいといいながら、妬みや僻みは上条の表情にはない。



252 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 23:06:28.28 ID:2OChoWQ0

「まぁな。実際嬉しいんだよ」
「どうしてよ。アンタには厳密には関係ないことじゃないの?」

そこまで喜ぶべきことだろうか。
疑問に答えるように、上条は飲み干したグラスを置くと、柔らかな笑みを浮かべる。
御坂はあまりにも優しい笑みに思わずどきりとする。


「だってよぉ、アイツのことを好きになってくれたんだぜ?何の関係もない、普通の女の子がさ」

そう、一方通行と何の因縁も無い相手だ。
打ち止めや番外個体のような一蓮托生であったり、悲劇や学園都市のどろりとした汚い闇によって引き合わされたわけではない、
もっとありきたりで、他愛もない出会い。
一方通行の、その素を、囚われるものの無い少女が好きになってくれた。
上条は素直にそれが嬉しかったのだ。

「アイツって未だに壁作ってるところがあるからさ。そういうの無しにしてくれたらなって思ってるんだよ。
これを切欠に、もっと遠慮なく表に出て来てくれたらなってさ、そう思って」
「そっか…」


御坂はこのお人好しめ、と熱っぽい視線で穏やかな上条の横顔を眺めていた。



281 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/20(月) 22:33:06.63 ID:InxzDA20


「なぁ…いい加減泣き止めよ」

というか泣き止んで下さい結標さン、と切に思う。
ぐしゅぐしゅと鼻を鳴らし、何度も涙を拭ったせいか、目尻が赤く腫れている。


「う、うん、ゴメン。でも、ううう」

「ハァ…」



周囲の視線が痛いということはない。
映画館の地下に位置するカフェに来ている一歩通行と結標であるが、
周囲も結標と似たり寄ったりだ。

パンフレットを抱きしめてうっとりとする者。

友人と語り合いながら、思いだし泣きをするもの。

女連れの男には一方通行と同じくどうしたものかと途方に暮れた顔をしている者もいる。

見ず知らずの男達に一方通行は奇妙なシンパシーを覚える。


「まァ、良いけどよ…」

泣き止めと言って泣き止むものではない。
それを経験上よく知っている一方通行は無理に泣き止ませようという気はなかった。

「うん」

こくんと頷くと、結標はぽろぽろと流れる涙を丁寧に拭う。


282 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/20(月) 22:36:05.23 ID:InxzDA20

「ったく…面倒くせェな」


注文した珈琲を一口飲むと、苦いだけの後味の悪さに顔を思わずしかめる。
豆が悪いのかと思ったが、それは違うと即座に否定する。

以前佐天がインスタントコーヒーをびっくりする程美味しく淹れたことを思い出す。

そういえば佐天と顔を合わせなくなってもうすぐ一週間になる。

正確には四日程前に会っているのだが、その時彼女は一方通行の顔を見るなり逃げ出した。



(なンだよアイツ…人のツラ見て帰るとかケンカ売っていやがンのかァ?
つーか何でイキナリ来なくなンだよ)


思い出すとムカムカとした苛立ちが沸き上がる。

佐天が明らかに自分を避けていることが無性に面白くない。
そして、佐天に会えないことに苛立ちを抱いている自分のわけのわからなさも面白くない。

最近、正確には「この前の夜」以来佐天の行動は一方通行には不可解極まり無かった。
単純に来なくなるのではなく、一方通行が帰ると料理だけが作ってあるのだ。
置き手紙も何も無いのだがそれが彼女のものだとわかった。


味付けや、雰囲気、そして一方通行のエプロンに僅かに残る調理の残り香。


彼女のいた空気を敏感に感じ取っていた。



(くそっ…飯作っていきやがるならツラくらい見せやがれってンだ)

苛立ち紛れに不味いコーヒーを一気に飲み干す。


283 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/20(月) 22:38:39.12 ID:InxzDA20

四日前のことだ。

仕事も無く、一方通行は出かけることもせずに家でぼうっとしていた。

決して佐天がやってくることを待っていたわけではない。

ただ、何となく、このまま出かけずにおれば彼女に会うのではないかと思った。
だから、何となく出かけもせずに、時間がいたずらに経つのを待った。
鍵を開ける気配を察知した時、一方通行の中にちょっとしたイタズラ心が芽生えた。
それは自分を正体不明の苛立ちに落としてくれた少女への復讐も兼ねていた。


無警戒にドアを開けた佐天の目の前、玄関に一方通行は待ちかまえていた。


そして、結果。


佐天涙子は逃走した。



はぐれメタルばりに逃げた。
ダッシュで逃げた。
一目散に逃げた。


声を掛ける間などほとんどなく、走り去った少女の後ろ姿を呆然とみていることしかできなかった。

一方通行は佐天の顔が真っ赤になっていたことには当然気づいていない。死ねばいいのに。



(なンであンな態度取られンだァ?芳川の言ってたみてェに、アイツの望む言葉ってやつを
掛けてやンなかったから怒っていやがンのかァ?)


そこではない。そうじゃないんだと、誰も彼に突っ込むことはできない。

もげればいいと思うが、それも言ってやることは出来ない。




284 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/20(月) 22:40:39.60 ID:InxzDA20

「一方通行は」
「ンぁ?」


結標の声に、一方通行は一気に現実に連れ戻される。

「何とも思わなかったの?」
「?………ああァ…」

映画のことを聞いているのだ。一瞬何のことを言われているのかわからなかった。
結標はジッと涙で塗れた瞳で一方通行を見つめる。


不覚にも、その視線に一方通行はどきりとする。


「まぁカメラワークはいいンじゃねェかァ?ただ男がウジウジし過ぎだろォが」

映画の主人公を思い浮かべると、一方通行は顔を歪める。観ていてイライラする主人公だった。
やたらと感傷的で、理屈っぽく鼻に付いた。

傍観者を気取っている癖に、自分に想いを寄せる女の気持ちには全く気付かず肝心の部分が見えていない。

正直好きになれない主人公だ。


「もう。ロマンの欠片もないこと言うんだから」
「くはッ。俺にンな御大層なモンがあるよォに見えるんですかァお前は」
「あると想うわよ。貴方相当ロマンチストだものね、実は」
「て、テメェ…ッ」
「キャッ、こんなところで能力なんて使わないでよね?また来れなくなっちゃうでしょう」
「また来るつもりかよ…」

わざとらしく怖がるフリをする結標に起こる気力も萎えてしまう。
一方通行はあんな退屈な恋愛映画などにつき合わされるのかとうんざりする。

結標は上目遣いで一方通行を見る。



285 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/20(月) 22:43:58.82 ID:InxzDA20

「……嫌?」

そう、不安そうな顔で呟かれ、一方通行は言葉に詰まる。

寝言抜かしてるんじゃねぇ。

付き合いきれねぇ。

そんな言葉を言おうとして、彼の意思とは裏腹に口はぴたりと閉じる。
むぐむぐと行き場をなくした言葉を噛み砕くと、言葉を選び、一つ一つ押し出すように口に運ぶ。


「……アメコミだ。今度はこンなたりィ映画には付き合わねェ。
もうちっと見応えのあるモンにするぞ……」


スパイダーマンとかバットマンとか。
一方通行は意外なようで納得のヒーローもの好きだ。
一方さんは、というか禁書キャラは寧ろⅩ-MENに出てきそうだがそれは禁句だ。


そっぽを向く一方通行の横顔を見る結標の顔に徐々に喜色が浮かぶ。


「うん!!」


結標は頬を赤く染めると、はにかむように何度も頷く。
ちろりとそんな結標を横目に、不機嫌そうに一方通行はフン、と鼻を鳴らす。



「……オイ、さっさと行くぞ」
「?」

杖を手に、席を立つ一方通行を不思議そうに見上げる。
伝票を手に取りながら、結標の手を強引に引っ張り上げる。


286 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/20(月) 22:46:44.20 ID:InxzDA20

「飯だ。コレっぽちじゃ足りねェ」
「えっとお昼?」
「あァ?何当たり前の事言ってンですかァ?今日暇だっつただろうが。まだ映画観ただけだろォ」

結標は握られた手と一方通行の顔を何度も見比べている。
顔からは今にも蒸気が噴出しそうなほどである。
一方通行はとびきりの悪ガキのような笑みを浮かべた。


「俺ばっかり付き合わされるなンざ不公平だろォが。今度はお前が俺に付き合え」

「それって…」

デートってことなんじゃないのか、という言葉は恥ずかし過ぎて言う事が出来なかった。
握られた手を握り返しながら、結標は今更ながらに不安になる。

自分の服装は可笑しくないか。
メイクが崩れていないか。
そもそも、髪型は服装にあっているのか。

不安がグルグルと頭を占めていた。

一方通行は結標の手を握りながら、彼女とは別の意味で驚いていた。


(小っせェ…)

彼女の手の小ささに驚いていた。
女の子の手の小ささの比較基準が打ち止めか黄泉川という極端過ぎるため、驚く。
そういえば、番外個体も意外に手が小さかった。これが女というものなのかもしれない。


(アイツもそうなのかァ……?)



脳裏に浮かぶ、自分のエプロンを着て嬉しそうに調理をする佐天の姿が浮かんだ。


唇を噛むと、それを首を振って掻き消そうとしたが、脳裏には依然彼女の姿がぼんやりと浮かんでいた。


まるで、ひっそりと、そしてかたくなに存在を主張する真昼の月のように。



287 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/20(月) 22:48:37.82 ID:InxzDA20


一週間ぶりになるのだ。

佐天涙子が一方通行の部屋に来たのが。
彼に会おうと思って此処を訪ねたのがである。

佐天涙子は黒いエプロンをぎゅうっと抱きしめる。
一方通行のエプロン、自分が好んで身に着けるエプロンだ。
結標淡希という少女と出会い、話しをしたのはほんの数時間だった。
しかし、あそこまで、そう親友である初春以上に今の佐天の心情を吐露した相手は初めてであった。


こればかりは同じ悩みに直面している女同士でなければ分かち合えないのだ。
そして誰かに打ち明けてみて初めてわかることもある。




288 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/20(月) 22:50:32.06 ID:InxzDA20


自分の気持ち。


自分の一方通行に対する気持ちである。


最初は憧れ。
ピンチを颯爽と助けてくれたその姿に、心を奪われた。
御坂や初春の事を笑えない、自分にこんな乙女チックな面があるとは思わなかった。


自分の容姿が平均よりも上であるという程度の自覚はあった。
同級生からアプローチを受けたことは少なくなく、高校生からナンパを受けたこともある。
先日、不良に絡まれたのもナンパに端を発したものだ。
それらにイチイチ逆上せ上がったことはない。
イチイチ騒ぐ友人のノリに合わせながらも、内心は冷めていた。よく自分を知りもしないくせにと。

そこには無能力であることへのコンプレックスも手伝ってか佐天は自分の見目にだけ惹かれてくる異性に懐疑的であった。



そんな自分が、出会ったばかりの男の家に押し掛けている。
昔の自分が見たら目を白黒させるだろう。



289 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/20(月) 22:54:55.34 ID:InxzDA20


「いやぁ~~参った参った。あっはははは」


誰に対して誤魔化しているのか、佐天の大げさな独り言が誰も居ない一方通行の部屋に響く。
ぽりぽりと決まり悪そうに頬をかくと、佐天はスリッパを鳴らしながらリビングを後にする。


向かう先は、たった一つ。
佐天は、開き直りついでとばかりに、些か心の箍が外れている自分を自覚する。
だが、しかし。好奇心といつだって二人三脚な彼女は己の好奇心を留める術を知らない。
譲れない想いが今目覚めているというやつだ。

3LDKという一人暮らしの少年には大き過ぎる部屋の中の一室。
ドアを開けると、灯りも着けずにそろりと足を忍ばせる。

誰も居ないというのはわかっているのに、足音を忍ばせるのは自分がやましいことをしているという自覚があるからだ。

部屋に足を踏み入れると、佐天はとくんと胸に甘い痛みが走るのを覚える。


自然と手が胸を押さえる。
身体の奥が、身体の芯がじわりとした温かさに浸されるような心地。
もうこの感覚に、翻弄されることはない。その感情に身を任せればいいと知ったから。

ぼふんと倒れこむように佐天が身を預けたのは一方通行のベッドだった。
身体を預けると、枕を手繰り寄せる。ぱふっと顔を枕に乗せる。


「………えへへへへ」


だらしなく頬が緩む。
自分は匂いフェチではない。
匂いフェチではないのだが、仕方が無いだろう。


佐天は自分に言い訳をしながらゴロゴロと顔を押し付ける。


すんすんと鼻を子猫のように鳴らすと、ぎゅうっと枕を抱きしめる。



290 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/20(月) 22:58:09.45 ID:InxzDA20

「えへへへへ~~あくせられーたさんの匂いだぁ~~」

もう見てらんない。
ホント、この子些かデレ過ぎじゃない?というくらいにだらしない顔だ。
マタタビの匂いに酔っ払った猫のようである。

御坂さんがこの領域にたどり着くのと、上条さんと一方さんがフラスコ逆さ人間をはっ倒すのとどちらが先だというレベルだ。



「だってしょうがないじゃんね」



もしかしたら自分は相当変な奴だと思われているのかもしれない。
一方通行の顔を見るなり、恥ずかしさに耐え切れず顔を合わせずに走って逃げてしまった。
失礼で挙動不審な奴だと思われているだろう。

しかし、それでもいいじゃないかと思っている。
既にこれは開き直りにも似た思いだが、結標との会話を思い出す。



「落ちちゃったんだもん。しかたないぜ」


ぎゅっと枕を抱きしめて一方通行の匂いを吸い込む。

しようと思ってするのではない。

落ちてしまうものなのだ。

だから仕方が無いのだ。


「………何話そうかな」

ゴロゴロと転がりながら弾む声を抑えきれずにくぐもった笑い声が漏れる。
赤い頬を隠すように枕に顔を押し付ける佐天の耳に、ドアに鍵を差す音が届いた。


314 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/22(水) 00:21:01.57 ID:wzltZAE0


「あの、クソモヤシきっと嫌がんだろうなぁ~けけけけ」

食材をパンパンに詰め込んだ買い物袋を両手に、番外個体は弾む声を抑えきれない。
エレベーターの点滅する数字を自然ともどかしい思いで目で追っていく。

「この時間だとまだ帰っていないはずだよね」

ここ数週間、一方通行の家には行ってなかった。

彼が自発的に自炊するとは考えにくい。きっと外食かコンビニで済ませていたに違いないとあたりをつける。

「案外コーヒーだけで済ませてたりして。ぷくくくく、ますますモヤシになちゃっうじゃん」

買い物袋を足下に置くと、キーを取り出す。
くるくると指先で弄ぶ。無理を言って打ち止めと自分の分を作らせた合鍵だ。
鍵穴にキーを差し込んだところで、番外通行はドアが開いていることに気づいた。

「あれ…?もう帰ってきてるのかぁ」

つまんないの、と唇を尖らせる。

口調とは裏腹に顔がゆるんでいる。意地の悪い笑みである。
しかし、悪意からくる歪んだ笑みといううよりイタズラを企む子供のそれだ。


315 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/22(水) 00:28:52.66 ID:wzltZAE0

「オーッス、生きてるかクソ一位~死んでたら返事するなよ~ていうか寧ろミサカに殺させ…」

パタパタと足音を立ててリビングに入ったところで番外個体の口が言葉を失う。

番外個体は玄関にある靴を確認しなかった。

故に、それは完全に彼女にとっては不意打ちであった。

先ほどまでの笑みは立ち消え、瞳にすぅっと冷ややかな光が走る。


「あ…」
「何で貴女がここにいるわけ?」
「あの…」

番外個体は目の前の不審者、少なくとも彼女にとっては不審者である、少女に剣呑な視線を向ける。
番外個体の視線を受け、少女は僅かに怯む。

ぎりっと噛みしめた奥歯が軋みをあげる。

番外個体は一歩前に踏み出す。

少女に見え覚えはある。問題は、どうして彼女が目の前にいるのかということだ。
少女の身に付けている黒いエプロンが目に留まる。
見覚えがある。
当然の話だ。
自分が買ったのだ。

打ち止めと番外個体が、一方通行にプレゼントしたのだ。
打ち止めはプレゼントとして、自分は嫌がらせも込めて。
ピンク、青、黒と色違いを購入した。


『おそろいおそろい~~ってミサカはミサカは家族のようにお揃いのエプロンで料理する光景を想像してみる』
『ハァ?何言ってくれちゃってンですかァクソガキ。俺が料理作るとかねーだろォが』
『何処の亭主関白なわけ~?今時男が料理くらい出来なきゃ相手にされるわけねーし。
って、貧弱白アスパラガスには相手なんかいねーか』
『似合わないのはお互いさまだろォが…』
『似合わなくて結構だし。べっつにミサカ料理なんて作れなくたって困らないからさぁ』
『ミサカは作れるようになりたいよ~アナタの為に毎食毎食味噌汁を作る出来る妻に
なってみせ ――― おっとと、これ以上は五ヵ年計画に支障が…』
『毎食とか塩分過多だなァオイ…』
『いいこと聞いちゃった。じゃあミサカが毎食作りに行ってやろうかしらん?
塩分で殺しちゃうよ?』
『むむむっ!!番外個体の通い妻宣言にミサカはミサカは危機感を覚えてみる』
『アホか…』


316 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/22(水) 00:29:04.70 ID:p/MtJigP
修羅場来るかwwww

318 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/22(水) 00:30:45.03 ID:HR3aLT.o
これはwww

319 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[] 投稿日:2010/12/22(水) 00:31:09.52 ID:PHUqiz.0
これは…4人集合の流れ…!

320 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/22(水) 00:31:46.53 ID:wzltZAE0

馬鹿みたいなやり取りであったが、番外個体はそれを決して不快なものとは思っていない。
それだけに、その思い出のエプロンを身に付けている少女が苛立たしかった。


「何で貴女がそれを着けてるわけ?」

声が震える。
それが怒りなのか、悲しみなのか、番外個体にはわからない。
しかし、一つだけわかっていることがある。
それは自分が、今はっきりとショックを受けているということ。

打ち止めと三人で揃えたエプロンを知らない少女が着ているという事実に。

何よりもこの場所にこの少女がいることにだ。


「どうして…そこはミサカの…ッ」

「ひ…ッ」

バチッと青白い光が番外個体の体からはぜる。

番外個体の敵意を表したかのように、青い舌をチロチロと出す蛇のように電気が電気が彼女を取り巻く。

本来、番外個体は一般の人間に対して能力を行使したりはしない。
一方通行に堅く禁じられていることもあるが、彼女自身が好むところではないのだ。
最低限、スキルアウトに絡まれた時に行使する程度であろうか。

そんな彼女が、今目の前のたった一人の少女を威嚇するように能力を見せている。



321 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/22(水) 00:35:43.50 ID:wzltZAE0

(何?何やってんのミサカってば。何でイラついてるわけ?アイツの部屋に、この乳臭いガキがいただけじゃんか。
セロリが本当にセロリだったっていうだけだっつーの。大笑いしてやればいいいじゃんか)


バチッと一際大きく青白い火花が爆ぜる。

ぎりっと噛み締めた奥歯が軋みを上げる。

目の前の少女の怯えた仕草でさえも癇に障る。

どこから見ても普通の、無力なか弱い少女だ。

それが一層番外個体を苛立たせる。


(ホントにホントのパンピーなわけ?何?あのモヤシはそういうのがいいわけ?ハァ?マジ似合わないしー。
つーか、身の程知れよってんだよ。ムカつく)

自ら生み出した自らの負の感情に神経を逆撫でされていく。
その感情の正体がわからないことが番外個体の苛立ちをより加速させる。

目の前の少女が、ここで怯えて逃げたとすれば、番外個体の溜飲は下がっていたのかもしれない。

それが一時的なものにしろ。

しかし、番外個体の予想に反して、目の前の少女は怯えはすれども逃げる気配を見せない。

それが、その真っ当で健全な気丈さが彼女を苛立たせる。

その苛立ちは憎悪に近い。


322 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/22(水) 00:36:04.46 ID:vYjJhwAO
オラ、わくわくしてきたぞ

323 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/22(水) 00:40:16.29 ID:wzltZAE0


「これは…一方通行さんが使ってもいいって言ってくれたんです…」


『一方通行』の名に番外個体の瞳が細くなる。
どういうやり取りをしたのだ、すぐにでも目の前の少女の喉を締め上げて洗いざらい吐かせたくなる。
髪を引きずり回して、思い切り泣かせてやろうか。
凶暴な思考が暴れる番外個体を前に、少女は自らの言葉に首を振る。


「いや、そうじゃないか。私何一方通行さんのせいにしてるんだろ」

少女は俯きながら唇を噛みしめる。
自分の言葉を悔やむように、咎めるようにきつく一度瞳を閉じると、顔をあげ、真っ直ぐな瞳を番外個体に向ける。

その瞳の真っ直ぐさに怯むのは番外個体の番であった。


「私がそうしたくてそうしてるんです。一方通行さんに合い鍵も貰って」


合い鍵、という言葉に番外個体の眉がぴくりと動く。

握りしめていた手のひらに、爪が食い込む。

ぐぅっと握りしめた手を開くと、ひらひらと追い払うように、茶化すように振る。



324 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/22(水) 00:43:02.27 ID:wzltZAE0

「ははぁ~ん。アンタ何かあのモヤシに弱みでも握られてるのかにゃ~ん?この前のアレってアイツに拉致られてたわけでしょう?
それで無理矢理こんな陰気くてしみったれたところまでノコノコ来ちゃってるんだ。可愛い顔してるもんね。
あのセロリにぐっちゃぐちゃになるまで色々されちゃってたりするんだ?アヘ顔曝しまくってたりして~
アイツ鬼畜野郎だからそういうの好きそうだもんね~鬼畜っていうか屑野郎かな。
でもいいよ。もう帰っちゃって。ミサカからあのクソヤローには言っておくからさ。無理してこんなとこ来なくてもいいからさぁ
ホント、災難だったよね。そうだよ、そうでしょ?」


何を言ってるのか自分でもよくわからない。
ただ、番外個体にとって、今の自分はとても不愉快だということ。
生まれてから感じるなかでもっとも強い不快感を自身に覚えつつある。


「どうしてそういう風に言うんですか?」


番外個体の瞳をまっすぐに見つめて、少女は聞くに耐えないとでも言いたげに首を振る。


「どうしてあの人をそういう風に言っちゃうんですか?貴女も好きなのに」

向けられた何の飾り気も無い言葉に、何の駆け引きも探りあいも無い言葉に、番外個体はたじろぐ。

「は、はぁ?何言っちゃってるのかわかんない。ミサカが誰を好きなわけ?」



325 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/22(水) 00:52:46.48 ID:wzltZAE0

「一方通行さんを」

「!!……バカじゃねーの?」


ざらりとした感情が番外個体の喉を滑り落ちる。
掠れた声には、軽口を叩く時の歪な余裕は無い。瞳は目の前の少女を見ることも出来ず、宙をさまよう。
それでも、それでも言葉を搾り出そうと己の中にある感情を手当たり次第に拾い上げる。
不器用なパッチワークのように、整然さとかけ離れた言葉でも良かった。
目の前の少女に、苛立たせるこの女に何かを言わなければならない。
それが辛うじて番外個体に口を開かせた。

「ミサカがアイツを好きだなんてあり得ない。好きどころか寧ろ憎んでるんですけど~?
殺したいほど目障りで仕方がないんだけどさぁアンタ知らないの?アイツがどんだけ嫌な奴かって。
ていうか知ってたらこんなとこ来るはずないもんね~可哀想にさぁ、騙されちゃって」

嘲りを多分に含んだ言葉に、少女の眉が釣り上がる。
明確な怒りの表情。怒った顔一つとっても、素直でわかりやすく、そして曇りが無い。
番外個体の頬が微かに引きつる。


「あの人は凄く優しい人です!!ぶっきらぼうなだけで、すっごく優しい人なんですから!!」


「キャー!!熱い熱い~可愛い~~!!ムキになっちまってやがんの。あんな奴の為にムキになっちゃってさぁ。
すっかりかどわかされてんじゃん。馬鹿すぎて可愛い~ミサカ濡れちゃう~じゃあ、アンタは何?
もしかしてあのバカが好きだって言うつもりぃ?ぎゃははははははは!!!
まさかね、ないない。アイツのことを好きになるなんてそれがマジだったら超受けるわ」



326 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/22(水) 00:53:12.40 ID:wzltZAE0

お腹を抱え、身体をくの字に曲げて笑う姿は悪意に満ち満ちている。
まるで初めて一方通行に出会ったときの彼女のように。
嫌悪と怒り、苛立ちと怖気を与えるビニールが引っ張られたような醜い笑み。


「最っ高に最っ低のジョークだわ」


しかし、引き攣った笑みから洩れたのは、嘲弄など一切含まれていない言葉であった。
その一切を憎み、疎む鑢のような痛みを滲ませた声。

少女は、その声に一瞬怯む。
そう、僅か一瞬のみ。

そして、少女の唇はゆっくりと形を変える。


「 ――― ですよ」


「はぁ?」


「だから」


少女はチークのように朱色に染まった頬を僅かに緊張と羞恥に強ばらせる。
そして、そうっと慎重に、確かめるようにその一言を口にする。


327 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/22(水) 00:53:42.95 ID:wzltZAE0



「好きですよ」





328 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/22(水) 00:55:26.67 ID:wzltZAE0

ごくん、と苦くて重い塊を飲み下してしまったような気持ち悪さを感じた。


「は、ははは…はぁ?何マジ顔して言っちゃってやがんだよこの中坊が。あのバカと知り合ってどんだけっていうのよ?
つい最近でしょ?何勝手に思い入れてるの?思い詰めっぷりがキモすぎるんだけど?
ミサカも流石にちょっと引いちゃうんですけどね~~ぐけけ……けけけけ……」


震えてしまいそうな声を必死に抑える。


少女は頬を染めたまま、自嘲の笑みを浮かべる。
自分でも自分が不思議で、おかしいと自覚するように。


その素直な振る舞いが、番外個体の不安定な心を刺激する。


「ホント、その通りですよね。私もわかってるんですよ。これでも惚れっぽいなんて思ったこともないし。
アピられても結構客観的に見定めたり出来るほうだし。どっちかっていうと、こういうことに冷静なつもりだったから」

観念したように少女は、笑う。
自嘲の笑みではなく、晴れ晴れとした笑みを。

「でも、もうこうなっちゃってました。気が付いたら本当にびっくりするぐらいで。
貴女よりもあの人と知り合ってからの時間は短いんでしょうけど…でも、諦める気なんてないんです」



329 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/22(水) 00:58:03.52 ID:wzltZAE0

ざりざりと背中から心の芯までをやすりで擦られたような痛みが番外個体の中を走る。
とっさに返すべき皮肉や嘲笑、或いは軽口や減らず口がすべて霧散した。
悪意と負に満ちた彼女らしい、と、定義付けられている言葉の全てが霞のように消える。


そして僅かな間、番外個体の中に空白が生まれる。


不思議な間のようなものが二人の間に生まれる。


しかし、それは僅かなことであった。


空白になった番外個体の中に、次の瞬間すさまじい感情のうねりが沸き起こる。


「ざけんなよ…」


どろどろに冷えた溶岩のような、ぞっとするほど冷たく、何物も焼き尽くそうとするほど熱い感情。


「ふざけんじゃねーよ!!」


番外個体の叫びに呼応するように蒼い火花が散る。


「何が好きだよ。知り合った時間が短いけど関係ないって?はぁ?何だよ。何自分一人だけわかったような顔してんだよ。
ミサカの前でアイツのことわかったような顔してんじゃねーよ!!!アンタ何も知らないでしょ?
アイツのやってきたことなんて。何一つ。それで何でアイツのこと理解してますみたいな顔出来るわけ?」


生まれて初めて、番外個体は『一方通行以外の人間』に悪意をぶつけている。
それも、妹達から受信した一方通行への負の感情ではなく、番外個体自身の中から生じた負の感情だ。


330 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/22(水) 01:01:24.81 ID:wzltZAE0


「アイツのこと知ってたらアンタみたいな奴がアイツのこと好きになれるわけないじゃん。無能力者のくせに。
何も知らないで表でのほほんってしてるだけのガキの癖に。ウザいんだけど?
そんなガキが此処にいるなんていいわけないじゃん!!
表でのうのうとしてるアンタみたいなお嬢ちゃんにはわかるわけないだろ!!」


わかるのは自分達(妹達)だけでいいのだ。
拙く、いびつで、意固地な独占欲が番外個体の中を暴れまわる。
番外個体の剣幕に完全に少女は気圧されていた。
自然と荒くなる息を抑えるようにして、番外個体は唇を噛む。
自分の頭の中身が自分のものではないようだ。妹たちの意識が流れ込んでくる時の感覚とは異なる。
自分の知らない自分が、主導権を握って自分を操縦しているような感覚。未知の衝動に番外個体は困惑していた。
目の前の少女が、呆気にとられた顔をする。
番外個体の中に、ふっと影が忍び寄るように、唐突な悪意が降って湧く。



「そうだ…アンタ知らないんでしょう?知ってたら此処に来るはずないもんね」


これから話そうとすることに、番外個体の心に鈍痛が走る。
彼女の中の何かが軋みをあげる。

負の感情しか拾わないのではない、負の感情を拾いやすいということ。

つまりは負以外の感情も拾うということだ。




「アイツはね ――― 」



徐々に、目の前の少女の瞳が丸く見開かれていく。
そして、徐々に顔色が青ざめ、小さな震えが少女の身体に走る。
それは恐怖だと、番外個体にはわかっていた。
軋みが一層の高い音を立てていく。

彼女の中の、優先順位の下位にあたる感情。

軋みは番外個体の「良心」があげた悲鳴であった。



332 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/22(水) 01:07:46.88 ID:EJvtoYAO
番外固体さんそれ言っちゃダメー!

345 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 00:26:20.50 ID:Gj0DZH.0


昼食に選んだのはイタリア料理の店だった。

前に黄泉川の家に行った時、打ち止めと番外個体に教えてもらった店だ。
姉妹のように顔を付き合わせ雑誌を覗き込む二人を眺めていると、突然二人から連れて行けと言われたのだ。

煩わしいとそのときは思ったが、こうして役に立っている今は感謝せざるをえない。


席に着いてから、さて何を注文すべきかという段階になって一方通行は後悔と自己嫌悪に陥った。
何がおススメであるのか、事細かに二人に話されていたものの、聞き流していたことを思い出した。
メニューを前に、瞳を輝かせながら、嬉々とした表情を隠しているつもりの結標の前で締まらない振る舞いをすることに抵抗を覚える。


別段気取りたいわけではないが、それでも格好の悪い真似は御免だ。


男のチンケなプライドが邪魔をしてか、開き直って結標に何を頼むか委ねるもの癪に障り、結局
一方通行はランチセットという至極ありきたりで無難なものに落ち着いた。
それでも生ハムをふんだんに乗せたブルスケッタや、スズキをグリルで蒸したものは中々の味であった。

しかし、ブカティーニのこってりとしたソースに結標が眉を顰めているのを見かねて彼女の皿と自分の皿を交換したのは些か行儀が悪かったのかもしれない。
彼女は食べかけの自分の皿を一方通行が遠慮なく食べていくさまを顔を赤く染めて恨めしそうに眺めていた。



346 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 00:29:09.47 ID:Gj0DZH.0

ゲームセンターに行き、結標がダンスゲームが得意であることを一方通行は初めて知り、
一方通行が格闘ゲームで本人のイメージとは合わないキャラクターを扱うことに結標は
何度も画面と一方通行を見比べては笑っていた。

今まで暗部として付き合ってきた時間とは裏腹に、何気ないことで互いに知らぬことがたくさんあることを知った。

プリクラを撮ろうと言い始めた彼女に、また来た時に撮ればいいと言って聞かせてから、
また、と言った自分に戸惑う。


こうやって過ごす時間を自分は悪くないと思っているのだ、その事実にようやく気付いた。



結標とは結局夕食まで一緒に過ごしていた。
照れる彼女を半ば強引に送って行った。
彼の気遣いというわけではなかった。それは打ち止めや佐天を送っていく内に、
無意識に刷り込まれた一方通行の習慣であった。




結標と過ごす時間が決して不愉快なものではなかったことに、寧ろ心地よかった自分が理解できない。

一方通行は自分でも己の感情を持て余していた。

嘗ては利用するだけの間柄、自分と同じく暗部に属するロクデナシの外道だと思っていたというのに。

変わったと思う。

それはもちろん、結標のことであるが、同時に自分に対しても思う。
変わったと、彼女もまた言っていた。

何が変わったのだろうか。
確かに丸くはなったと思う。
外部に向けてひたすら発散し続けていた己の敵意を、今の自分は御することを覚えつつある。
少なくとも、一方通行はそう思っている。


しかしそれだけだろうか。



347 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 00:32:01.39 ID:Gj0DZH.0

コンビニに寄る気にもなれず自販機で買った缶コーヒーをちびちびと飲みながら帰路に就く。
飲み干した缶を握りつぶしながら、ふと見上げると自分の部屋の窓から灯りが溢れている。


「アイツ…来てやがるのか?」

この一週間まともに顔を合わせてくれなかった少女。

頼んでもいないのに夕食を作りに来ていた少女がたった一週間来なかっただけだというのに、
ずいぶんと長い時間会っていない気がした。


変わったといえば、自分はずいぶんとあの少女の前にいるときはらしくない気がする。
だとすれば、あの少女も自分を変えた要因のひとつなのであろうか。
ドアを開けながら、一週間ぶりに会う少女 ――― 佐天涙子に向けるべき言葉を考える。
芳川は言った。「自分で答えを見つけろ」と。
答えは未だにわからない。ただ、わかっていることは一つ。


自分はどうやらまたあの少女と話をしたいと思っているらしいということだ。




「……お前か」
リビングに足を運んだ一方通行は、低くぼそりと呟く。
ソファに深々と身を預ける番外個体の姿を、呆れたように見る。

「何よ…ミサカじゃ不満なわけ?がっかりした顔が露骨すぎてムカつくんだけど?」

「当たり前だろォが。いつもいつも憎たらしい口利いてきやがってよ。少しはのんびりさせろってンだ」

「けけけ…セロリ野郎が最もらしいこと言ってら」

「うっせよ。セロリっつーな。ブチ殺すぞ」



348 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 00:35:46.11 ID:Gj0DZH.0

番外個体の声に、普段の張りが無いことに気づかず、一方通行はジャケットをハンガーに掛ける。

「暇つぶしに来やがったのかァまた。お前もう少しマシなことに時間使えよ」

フィルターを用意すると、二人分の豆を入れる。

「何してるの?」
「何だ、生後一年のクソガキ2号は珈琲淹れるのもわかンねェのか」

馬鹿にしたような笑みを番外個体に向けると、すぐに視線を豆の方に戻す。
番外個体はクッションを抱きしめながら一方通行の背中をぼんやりと見つめる。
手際よく珈琲を淹れていく光景が、彼女には現実味がない。

「おらよ。ガキにはブラックは早いかもしれねェからな。適当にぶち込め」

シュガーポットを番外個体のカップの横に置く。
カップを手に取ると、番外個体が不審げに一方通行を上目遣いに見つめる。
何か、腑に落ちないことを探るように、見つけ出すように。

「コーヒーなんて…淹れてたっけ?」

「まぁ…最近覚えたンだよ」

はぐらかすように、切り捨てるように言い切る。
佐天との時間の話しを、わざわざ口にしようとは思わなかった。あの時間は彼女と自分が知っていればそれでいいだけの気がするのだ。
しかし、番外個体は、一方通行が一瞬浮かべた照れた表情を見逃さなかった。


番外個体の瞳に、昏い光が浮かぶ。



「あン?」

一方通行は番外個体が座る傍らに黒いエプロンが無造作に置かれていることに気づいた。
手に取った黒いエプロンにじっと視線を落とす一方通行。


「あの子なら帰ったよ」

不意に彼の耳朶をざらりとした声が撫でた。
番外個体の硬い声に、一方通行は顔を上げる。
声の響きに、異様なものを嗅ぎ取る。



349 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 00:45:09.44 ID:Gj0DZH.0

「……どうしたのさぁ。怖い顔しちゃって~。
愛しの涙子ちゃんに会えなかったのがショックだったのかにゃーん?」

「お前…」

「どうしたの~あんまりマジ顔されてもミサカ困っちゃうんだけど?キモ過ぎて直視できな~い。
っていうか笑いそうになるの堪えるのって結構大変なん―――」

言い終える前に番外個体は胸ぐらを捕まれる。
女に対する遠慮などない、一方通行は息も触れる距離まで掴み上げた胸ぐらを引き寄せる。
番外個体の瞳を紅い瞳が真正面から睨みつける。


「なにをした?」

「………はぁ?いきなり何言っちゃってるわけ?」
「とぼけンじゃねェ…」



番外個体の髪から、ヘアフレグランスの甘い香りが微かに一方通行の鼻腔を擽る。
キスでも迫るように、ほんの数センチの距離まで顔を近づける。
普通の人間ならば、卒倒するか怯える程の凄まじい眼光を浴びても、尚番外個体は涼しい顔を崩さない。

「見くびるなよ?わかンだよ。テメェの嘘くらいな。
ただおちょくってやがるだけの時かそうでないかの違いくれェな」

「ぎひゃひゃひゃ、イヤだ~一方通行ってばミサカのこと何でもお見通し~恥ずかしい~惚れちゃいそう」


一方通行の顔が赤く染まる。
瞬間的に吹き上がった怒りが血の気を上らせる。

「番外個体!!」




350 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 00:51:59.68 ID:Gj0DZH.0

余裕の無い一方通行の声が、鋭く番外個体の名を呼ぶ。
浮かべていた歪んだ笑みを打ち消すと、番外個体は怒りとも侮蔑とも取れる視線を一方通行に向ける。

「フン。ムカついたんなら殴ったらいいじゃん。ミサカはアンタみたいなモヤシに殴られても別に屁でもねぇーけど。
あ、でも泣き喚いてMNWに流してやろうか?一万人の妹にふくろにされる一方通行とか見てみたいし」

「チッ…」

舌打ちと共に掴んでいた手を離す。もう二度と傷つけないと決めているのだ。
打ち止めも、御坂妹も、そして番外個体とて例外ではない。

「……フン、ヘタレもやし。こんなに挑発されても一発も殴れないなんてとんだタマ無しやろうだよ」

番外個体の罵声を相手にせずに、一方通行は今しがた掛けたばかりのジャケットを羽織る。
何かを察したのか、番外個体の眉が不快にぴくりと動く。
番外個体のことなど見えていないかのように、腕の時計に目をやりながら、一方通行は歯軋りする。

「オイ、あのガキが出て行ってからどれくらい経った?」

瞳を眇め、一方通行は強張った何かを押し殺したように言う。
番外個体は答えない。
拗ねた子供がそうするように、あてつけがましく唇を尖らせ明後日のほうを向く。
一方通行の声が聞こえているはずなのに聞こえていないフリをしてみせる。

「オイ」

それでも答えずに、番外個体は視線をリビングの壁に飾られた時計に向ける。
今時珍しいアナログ式の時計。針はもうすぐ10時を指し示そうとしていた。

「番外個…「三時間」

苛立ちを叩き付ける様な声だった。
露骨な怒り。


「あの子が帰ったのは三時間も前。それで今更どうしようっていうのかなぁ。
追いかけて行って、それで一方通行はどうするつもりなの?」


その言葉に詰まり、一方通行は唇を噛み締めるように口を閉じる。
彼自身、明確な行動目的や理念がわからないのだから答えようがないのかもしれない。
葛藤と思考の渦の中、ようやく口を突いて出たのは呆れてしまうほどに普段の一方通行らしい不器用なものであった。


「お前には関係のない話しだ…」



351 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 00:56:05.74 ID:Gj0DZH.0

苛立ちと誤魔化しと、八つ当たりを込めて吐き出されたその言葉は彼らしいものであった。
一方通行を知る人が聞けば誰もがである。
それだけ素直ではない、捻くれ者の少年の吐く言葉には毒以上の虚勢が見え隠れしている。
しかし、今、この時に限ってはその一言が鋭い刃物と化す。


「関係ない?関係ないって言った……?」


その一方通行の一言が、番外個体の中の何かを刺激した。
彼女の声には、はっきりとした怒りと苛立ちが含まれていた。
一方通行に向けた、敵意ではなく、憎悪でもなく、純粋な怒り。
番外個体は表情豊かのようでいて、感情を見せなかった。

常に斜に構え、一方通行に向けて薄ら笑いを浮かべていることが常だ。
最近は、顔を赤くしたり、泣き出したりと、年相応に不安定な面を見せるものの、基本的なスタンスは変わらない。


馬鹿にし

嘲笑し

翻弄し

侮り

はぐらかし

そんな常に飄々とした番外個体がはっきりとした苛立ちを見せたことに、一方通行は一瞬言葉を失う。
一方通行が見せた僅かな怯み、躊躇いを番外個体は見逃さなかった。
番外個体の行動に一方通行が反応する前に、彼女の足は一方通行の足元を刈り上げる。
背中から落ちた衝撃で短いうめき声と押し潰された空気が一方通行の喉から漏れる。
起き上がろうとする一方通行の両肩を番外個体の両手が押さえつける。
細く長い指と伸ばした爪が肩に鉤爪のように食い込み、一方通行は顔を痛みに顰める。
そのまま腹の上に番外個体が跨る。馬乗りの姿勢になり、笑みひとつ浮かべぬ番外個体の視線が一方通行をぞろりと見下ろす。


352 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 00:58:22.73 ID:Gj0DZH.0

「テメェ……何しやが」

「関係なくなんて無い。無いはずがねーだろ!!っざけんなよ、糞モヤシ!!
ミサカがアンタと関係ないわけないじゃんか。関係ないのはアイツの方でしょう?
いい加減目を覚ましなよ第一位」


ぎゅうっと両の肩を押し付ける。
まるで一方通行を、この場所に縫い付けようとするように。


「大体さぁ、笑わせるよね。あんな如何にも汚れてなんかいませんって感じのお子様と
クソ溜めの中這いずってるようなアンタが一緒にいるっていうのがさ」

「……」


ぎゃはっと喉を震わせ、番外個体は唇を醜く歪ませる。


「あんな処女臭そうなのがいいなんて、本当にロリコンじゃないのアンタって?マジでキモイんだけど?」

「……」

「しかも、あのガキも何か変な幻想アンタに持ってたみたいでさ。アンタのことアレか、
王子様とかそういう感じで見てるとかかもね~ゲロゲロ、想像したら吐きそう。ねぇ、吐いてもいい?
アンタの顔に思い切りさぁ~ゲロ塗れの一方通行素敵~ってね、なるかもね。ぎゃはぁ」


「……」



354 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 01:02:42.87 ID:Gj0DZH.0

「けけけけ、何黙ってるのさぁ。今度会ったら何て言えばいいのかって考えてる?
何言われて帰ったかも知らないっていうのに。それとも学園都市最高の頭脳はそういうことも
わかっちゃうのかにゃ~ん?でもでも、もう遅いよって言っておいてあげる」


一方通行の耳元に、番外個体の形の良い唇が寄せられる。
グロスを塗ったように艶やかな唇が、するっと動き、言葉を吹き込む。


「全部言っちゃった」

一方通行の肩がびくりと震える。
番外個体の口の端が、ぐしゃりと歪む。
短く、一方通行の喉から漏れる息。
動揺を押し殺そうとするように懸命に抑え込んだ吐息に番外個体の瞳が歪な三日月のように滲む。



「ぎゃはッ。全部、そう、ぜ~んぶ」


一方通行の耳元から顔を離すと、番外個体は唇を捲るように引き攣らせる。
馬乗りになったまま見下ろす一方通行が何の言葉も返さぬことが気に入らないのか、番外個体は短く舌打ちをする。



355 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 01:06:14.39 ID:Gj0DZH.0

「アンタが一万人の人間を殺したって言ってやったよ。アンタが女々しく内緒にしてるっぽかったからさ、スパってね。
可哀想に顔真っ青にしてぶつぶつ子猫みたいに震えてたよん。それにしてもミサカってば優しい~
アンタの歯切れの悪さをカバーしてあげるんだもん。感謝してよね。
それにさ、アンタも変な期待しなくてもいいでしょ?あんな綺麗な子なんかと仲良くしけ込めるわけないんだからさ」

笑おうとして、番外個体は上手く呼吸が出来ないことに気付く。
荒い息をただ不器用に吐き出すだけ。

ひぃひぃと、呼吸困難に陥った人間のように、掠れた息を吐く。

肩で息をしてる番外個体の下で、一方通行は何も言わずにじっと視線を向ける。

それが、彼女の癇に障る。


苛立ちをぶつけるように、番外個体の手が、一方通行の頬張った。


「何黙ってるわけ?もしかしてミサカのこと馬鹿にしてる?くだらねー女だなぁって思ってる?」


もう一度、番外個体の手が、一方通行の頬を張った。

しかし、何も返してこない彼に、番外個体はいよいよ苛立ちを抑えきれず、一方通行の胸倉を掴み引き起こす。


「何とか言いなよ。それともミサカなんかと話したくないっていうの?
フン、生憎とミサカだってアンタなんかと話したくないし。
大嫌いっていうか憎いだけだもん。だから全然構わないんだけど?」


赤くなった一方通行の頬に視線を彷徨わせながら、番外個体は振り絞るように声を上げる。


「だから……早く能力でも何でも使えば?」


そう、いくら一方通行がひ弱であろうとも、女である番外個体に組み敷かれて身動ぎ一つ出来ないわけはない。
能力さえ使えば、番外個体など相手にもならない。
ロシアの時のように、ものの数秒で物言わぬように、捻じ伏せることなど造作も無い。

しかし、事実として一方通行は一切の、何の抵抗も見せない。



356 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 01:09:53.98 ID:Gj0DZH.0

「この期に及んで、妹達には手出しできないとか?アンタどこのマゾなわけ?」
「生憎となぁ、そんな趣味ねぇんだよ」
「はぁ?」

「だから、ねぇって言ったんだよ。そんな趣味は ―――― 」


一方通行は、苦いものを吐き出すように溜息を吐く。
それは単純に自分を殴る少女への怒りや鬱陶しいという感情でもない。
当然嫌悪感でもない。ただ、己の身体の裡に生じたやり場の無いドロドロとした熱を放出するように。
それは強いて言うならば苛立ち。
思うようにならぬことへの苛立ち。
忌々しいものへのぶつけようのない苛立ち。

何よりも己自身を忌々しいと思うように吐き出された重い吐息だった。






「泣いてるガキに手を上げるほど腐っちゃいねェンだよ」


「―――― え ―――………」




そっと、一方通行の指が、番外個体の目元を優しくなぞる。
触れた指の感触に、番外個体は思わず目を閉じる。
優しい指の動きに、番外個体の鼓動が跳ねた。

目元を通り過ぎた指先には、小さな雫。

促されるように、番外個体は己の目元を指でなぞる。
そこには、冷たい感触。熱が抜けた涙の感触があった。
そのまま指を頬にあてると、幾つもの雫が伝った跡。一体いつから自分は泣いていたのだろうか。
一方通行が、黙って自分の罵声を受けて止めていたことに思い至る。


357 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 01:13:35.85 ID:Gj0DZH.0

もしかしたら、最初から自分は泣いていたのだろうか。


「言ったよな。俺はお前らを守るって。泣いてるお前を放っておけるかよ」
「………何だよ。カッコ付けやがって……糞野郎……くそ…」


そこまでが限界であった。

張り詰めていたものが切れたように、隈の浮かぶ番外個体の瞳に涙の膜が盛り上がる。
それは、あっけなく決壊し、キメの細かな少女の頬を塗らしていく。


「…わかってるの?この…糞モヤシ…あんなガキ…じゃ、駄目だよ。ここは……」

泣き顔を見られまいと、俯く。
長いシャンパンゴールドの髪の隙間を縫うように、小さな滴が零れ落ちていく。
一方通行に跨ったままの番外個体の涙が、一方通行の服を塗らして行く。


「ここは……ミサカの、ばしょだもん……いてイイのは…ミサ、カだけ、だもん……」


番外個体は、ぽすんと一方通行の肩に顔を埋める。
両手でしがみつくように一方通行の服を握る。
番外個体の女らしい柔らかなラインの華奢な背が震える。

声を殺して、嗚咽を上げる番外個体は、何処にでもいるか弱い少女だった。

少なくとも、一方通行にはそう思えた。
頬の痛みは既に引き、代わりに沸きあがるのは、この少女の側にいてやらなければならないという使命感。

一瞬の躊躇の後、一方通行はその背に腕をそっと回す。

ぴくりと一瞬だけ震えた番外個体は、一方通行を跳ね除けることをせずに、再び嗚咽を上げる。

一方通行は回した腕に力を込める。
細くしなやかな少女の肢体を壊してしまわぬように、傷つけてしまわぬように。

優しく、自分に出来る範囲で、可能な限り。

それは恋人にするような甘いものではなく、妹にするような慈しみや庇護欲に満ちていた。


359 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/23(木) 01:21:26.95 ID:wQtaHas0
番外個体ォォォ!てめえ!
泣けば許されると想ってンのかぁ!かわいいじゃねぇかぁ!俺の嫁ぇぇえ!

366 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/23(木) 02:18:16.98 ID:nbi2zJA0
しかしどーするんだこの一方さん・・・
優しすぎるのも罪だ

379 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 23:11:45.71 ID:XQe47EI0

佐天は夜色の天井を眺める。
気付けば起きていた。起きてから自分が眠りに落ちていたことに気付いた。


どうやって帰ったのか覚えていない。

記憶が所々飛んでいる。

気が付いたら、そこはいつもの自分の部屋であり、時計を見れば、針はとんでもない時刻を示していた。

夜を示す時計から目を逸らし、一体どれほど時間が経過したのか。
天井を見上げながら思ったところでようやく自分がベッドに横になっていたことに気付く。
制服のまま眠ってしまっていたようだ。
皴になっちゃってるなとアイロンがけをしなければならないだろうとうんざりする。


黒く烏の濡れ羽色の髪がベッドに広がる中、起き上がろうとして気力が身体から抜け落ちてしまっている自分に戸惑う。


身体が活動することを嫌がっていると言えばいいのだろうか。
くんと鼻を鳴らすと、微かに汗の匂いがするような気がする。寝汗が背に張り付いているのが不快だ。

電気も付けない部屋の中をカーテンの隙間から差し込むか細い街の灯りが照らす。

緩慢な動きで手を顔まで持ってくると、べっとりとした不快な感触。
寝汗もあるが、それ以上に不快だったのは目尻に溜まった雫。


泣きながら寝ていたのか

寝ながら泣いていたのか

覚束ない頭では答えが出るはずもない。

力なく投げ出していた足に力を込めると、反動を付けて勢い良く身体を起こす。
ぼやけた視界とぼやけた思考の中で、それでも自分にとって必要な行動を選び取る。


380 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 23:20:46.88 ID:XQe47EI0

気力が根こそぎ不足している自分の身体が面倒だと疲労という形で不満を訴える。
不平を訴えるがごとき鉛のような気だるさを無視して、スカートに手を掛ける。

するりと、足元に落ちるスカートを跨ぎ、上着もずるりと脱いでベッドに放り投げる。

行儀が悪いというのはわかっているが、一刻も早く不快感を捨て去りたかった。
思考は未だに彼女の中になんら形付いていない。


浴室に足を運ぶと、洗面台の鏡を覗く。
当たり前の話しであるが、そこには下着姿の自分が映る。

泣き腫らした目に、眠っている間に擦った鼻が赤くい。

何度も涙が流れた頬がてかてかと濡れ、髪が幾筋か絡みついている。

櫛も通さない髪はばさばさと乱雑に広がる。

一言で言えばみっともない、無様な有様である。

大人っぽいと思って買った水色の下着も、所詮は子供のスポーツブラの範疇を出ない。
背中のホックに手を回すことすら億劫だった。
下着を脱ぎ終え、生まれたままの姿になる。決してナルシストではないが、
それでも同年代と比較すれば大人びた、恵まれた容姿なのだろうなと他人事のように思う。

そう、少なくとも昨日までは思っていた。
脳裏には親友そっくりの少女の顔が浮かぶ。
彼の部屋に来た少女。佐天よりもずっと以前から彼を知っているらしき少女。
佐天の知らない彼を教えてくれた少女。

胸こそ佐天の方がやや大きいかもしれないが、羨むほどに長くしなやかな脚。
そして、そこからヒップ、ウエストへ息を呑むほどに優雅なラインを描いていた。
それは、佐天のような発育の良い子供ではなく、大人になりつつある色気を放つ女の身体つきだ。
そう、結標淡希のような。

改めて鏡に映る自分を見つめる。

そこには、弱りきったただのありふれた中学生の女の子が立っている。

ただの何処にでもいる泣きべそをかいた子供だ。

その今更な事実に思わず苦笑が浮かぶ。


381 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 23:23:04.51 ID:XQe47EI0

シャワーを思い切り熱くして、頭から引っかぶる。
温まらない水が勢い良く噴出し、冬だというのに全身を容赦なく冷水が打つ。
いきなりの環境の変化に驚いたように鳥肌が立つが、徐々に落ち着いていく。
肌の熱を維持しようと皮膚の下から熱がゆっくりと表に現れる。

身体がようやく冷水に慣れ始めるころにはすっかりと温まった湯がシャワーから降り注ぎ、身体を一足遅れで温めていく。
頭の天辺から勢い良くかぶるシャワーの湯を、両手ですくい、顔にばしゃりと浴びせる。

それでは物足りなくて、シャワーヘッドを手に直に顔に当てる。

細かい針で叩かれたような微かな痛みに顔の皮膚が驚きの悲鳴を上げる。
強張っていた表情が無理矢理揉み解されていくのと同時に、薄く、じっとりと根を張っていた眠気が消えていく。


滴る水を払いながら髪を上げると、シャワーを止める。
十分に張っておいた湯船に身体を沈めると、大きく息を吐く。
熱めの湯に身体が一瞬痺れたように震える。


身体の輪郭が解けてしまうような、曖昧になる瞬間が堪らなく好きだった。
身体の中にしこりのように塊となっていた疲労や汚れ、澱のようなものがゆっくりと染み出ていく感覚。
瞳を閉じて、その感覚に浸ろうとすると、回転を始める気配を見せない思考とは異なり、
記憶は保存していたデータを再生し始める。

まだそれは正確なものではなく、チャプター化された断片的なものに過ぎない。
その断片が空っぽの思考を放棄した頭の中で勝手に再生されていく。

再生していく記憶が、繰り返すことで精度を増し、精度が増す記憶が思考を促す。

はっきりと鮮明になった思考が、まるで自分に逃げるなと問い掛けているようだ。


382 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 23:27:32.95 ID:XQe47EI0

『アイツはね、人を殺したことがあるの。うっかりとか、誤ってとか、事故じゃないよん勿論。
どう能力を使えば傷ついて、どこまで能力を出せば生命維持が出来なくなるのかをわかった上で。
その上で殺したの。それも一人や二人なぁんてけち臭い人数じゃなくてね、何と聞いてビックリ、
一万人ものいたいけな少女達を殺しちゃったので~っす』


ケラケラと壊れたような、渇いた笑いが耳の奥にこびりついてる。


彼の人の過去を告げられた。訳のわからない震えに耐え切れずに自分は逃げ出した。
一体誰から、何から逃げ出したのか。それを考えるといまひとつはっきりとしない。


友人にとても良く似た少女、悪意に満ちた彼女の視線に恐れを為したのか。

そうなのかもしれない。
青い火花を散らしながら犬歯を剥き出しにする少女を本能的な力の差を察知して自分は恐れた。
しかし、それが全てではない。


ならば彼女の語った言葉にか。
それもまた違う気がする。
顔に湯を軽く当てると息を吐く。それも違う。


彼女の言葉を自分はただ聞いただけだ。

その意味を解釈することも、把握することもしていない。というよりもピンとこなかったのだ。


「一万人…」

水音しかしない浴室に、呟いた声は予想以上に反響し、佐天涙子の耳に響く。
言葉に出す、そしてその言葉についてもう一度考える。
両手に湯をすくい、揺らめきの中に映る照明を見つめながら一万人と転がすように呟く。
実感の湧かない数値だ。


383 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 23:30:26.11 ID:XQe47EI0

佐天の脳裏に浮かぶのは、学校の自分のクラス。
30人くらいのクラスである。

単位が小さ過ぎると、次に浮かべるのは全校集会。
500~600人くらいだっただろうか。

まだまだ単位が小さい。そして思い浮かべようとして天井を仰ぐ。

低い浴室の天井のシミに目をやる。
先日の掃除で落としきれなかった水垢に目をやりながら、ならばと思考を巡らす。

大覇星祭。
学園都市中の生徒が集まる一大イベント。その人数ならばそれくらいいくのだろうか。

もしくは、それを見物すべく集まった人ごみなどをカウントするのならば、或いはそうなるのだろうか。

そこまで考えて、最早自分の中に浮かぶ映像が想像でしかなく、実感としては存在していないことに気付く。

佐天涙子という少女が思い浮かべることの出来るリアルな数字のイメージは精々が1000人が限度であった。

だからというわけではないが、一万人の人間を殺したということが実感として湧かない。
イメージが出来ない。
人を一人殺すことが許されないことだということは当然理解している。
御坂達と共に巻き込まれた事件の裏で人が死ぬこと、殺されることがあったのもわかっている。
少なくとも他の同年代の少女達よりも身近に接していると思う。


しかし、人を殺すような人間であっても、それが皆悪人であるわけではない。

人を殺さずとも、救いようのない人間は数え切れないほどいる。

一万人を殺した人間は、一人を殺した人間の一万倍悪人だなどという無茶苦茶な計算が成り立つ筈が無い事も須らく理解している。

それ以上に、そのような計算に当てはめてしまいたくはなかった、彼を。


ただ、人を殺す人間に共通しているのは何かと思えば、踏み越えてしまったという点。

その点においてのみ共通しているのだと、佐天はおぼろげに思う。

望むと望まざるとに関わらず、踏み越えてはいけない一線を踏み越えてしまった。
そこにどのような葛藤があったのかも、葛藤など欠片もなかったのかも、想像することすら出来ない。


384 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 23:33:35.34 ID:XQe47EI0

自分が逃げ出した理由はそこにあるのだ。
改めて、今湯船に浸かり思考に浸ることでようやく気付く。

あの少女の悪意の視線に恐怖を覚えたのでもなければ、過去の所業に単純に怯えたわけでもない。

何よりも、その重く彼に圧し掛かっているであろう十字架の重みにこそ、自分は気圧されてしまったのだ。



『あの馬鹿のこと何も知らないくせに、ズカズカ入ってくるな!!ここは、ミサカの場所なんだ!!』



自分の知らない彼の、一方通行の苦悩。
知らないはずなのに、それが事実だと確信させる少女の言葉。

そこに含まれる感情の昂ぶり。

自分では決して立ち入れないものを見せ付けるような言葉に、そう考えたところで無理矢理苦笑みを作る。

苦笑にすらならない引き攣ったような笑みだが。


「殺したって言ってたよね……信じられないけれどさ」



子供扱いに文句を言う時の面倒くさそうな眉の顰め方。

また来たのかと溜息混じりに呆れたように呟く声。

自分の料理を食べた瞬間に浮かべる嬉しそうな顔。

自分にカフェオレを入れてくれた時に必ず目を逸らす時に垣間見える赤くなった頬。

夜も遅くなってしまった時に送っていくと頑なに言う不機嫌そうな横顔。

料理をする自分の背に向ける無防備な幼子のような視線。

意地悪をいう時の無邪気な悪戯っ子のような笑み。

自分の頭を撫でる時に、無意識に浮かべてしまったであろう柔らかい微笑み。



佐天の中一方通行の様々な表情が思い浮かぶ。
それは瞼の裏に焼き付いたように深く刻まれている。
その顔を思い浮かべるだけで佐天の頬は、身体は、熱くなる。



385 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 23:36:37.46 ID:XQe47EI0

「確かめなきゃ……」

真偽を問い質さなければ。
本音としてはそんなことはしたくない。
鬱陶しい女だと、疎まれ、嫌われたくない。誰が好き好んで惚れた男の傷を抉るような真似をするだろうか。
語りたくない過去があれば、それを語ってもいいと本人が言わない限り聞こうとは思わない。

けれども、自分は既に知ってしまった。

聞かされてしまった。

今更聞かなかったことになど出来ない。
聞かなかったフリをして、それで何事も無かったように一方通行に会うことなど出来ない。

かといって、もうこのままフェードアウトしてしまおうという気持ちも更々無い。

あの少女が言っていた。


『ミサカとあの人がいる場所は貴女が入ってこられる場所じゃない』


そうなのかもしれない。
学園都市には深い闇がある。それこそ、自分ではその千分の一も知らない程に。
だが、それが理由になるのだろうか。納得が出来ない。


「………でっきるわけねーだろ!!」


ザバッと浴槽から立ち上がる。
同年代の少女達よりもひと回り、ふた回りも発育の良い肢体から雫がぽたぽたと零れる。


386 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 23:39:17.86 ID:XQe47EI0

握り拳を作り、佐天はふんと荒く息を吐く。

と、そこで目の前がぐらりと揺れた。


「―――― ……あれ?」



勢い良く立ち上がった直後、バランスを失ったように佐天の身体が傾く。
そして激しい水飛沫を立て浴槽に巻き戻しのごとく落ちる。
ゴツンと鈍い音を立てて後頭部を壁に強打する。
星が、比喩表現ではなく目の前に星が散る中、佐天は一つの答えに辿り着く。


(のぼせちゃった…たははは…)


何をやっているのだろうかと、自嘲気味に笑う。

湯に浸かり、熱くなったテンションが冷めると、不意に泣きたくなる。

浴槽のなかで、佐天は小さく、蹲る。
膝を抱え込み、膝頭にこつんとおでこを当てる。
不安定に揺れる自分を支えるように。
心の中から今自分が持て余している置き所の無い怯えが溢れてしまわないように


身体ごと自分を抱きしめる。




387 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 23:40:00.60 ID:XQe47EI0



細く頼りないこの腕が、もし彼の腕だとしたら。
馬鹿げている。
彼のことで掻き乱されているというのを忘れてしまったのか。
前提から誤っている。
誤っているが、隙間に入り込む水のように、するりと滑り込んだ甘い空想に今の佐天は抗えない。

自問自答の繰り返し。

14歳の想像力の限界。

身体から溶け出した疲労がのぼせた思考に混ざり込みそして佐天に逃避を促す。
そろりと右手を忍ばせる。

「ん……」


小さな、蚊の鳴くような声が浴室にぽつんと響く。反響するはしたない声に、羞恥に心が揺さぶられる。
しかし、佐天の指は彼女の恥じらいを裏切るように淀みなく滑る。

いつものように。



388 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 23:53:15.84 ID:XQe47EI0


心を押し潰そうとするような痛みが走る。

言葉に出来ない痛み。

胸の奥の奥、佐天自身でさえも把握しきれていない柔らかな部分を万力で押し潰そうとするような痛み。
身体から、心から、余裕を奪っていく痛み。
叫ぶような痛みではなく、ただ涙をぽろぽろと零してしまいたくなるような痛みだ。

この痛みを佐天はよく知っている。

彼に送ってもらって、自分の部屋に一人になると、急に得も言えぬ切なさに千切れそうになるときがある。

早く眠りに就こうとしても切なさに胸の奥が痛くなる。

そんなとき、佐天はこの秘め事に耽る。
枕に顔を押し当てて、出来るだけ声が漏れてしまわぬように。
終わった後の虚脱感、虚しさをわかっているというのに。刹那的な妄想に浸る。

彼を想って耽る秘め事に倣って、佐天の指は彼の代わりを勤めるように彼女の身体を昂らせていく。
考えなくてはならないこと、すべきこと、

それらを自覚しながらも佐天は逃避に身を委ねる ――― 一方通行を想って。



389 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/23(木) 23:57:57.77 ID:XQe47EI0

『アイツと過ごした時間も、アイツが過ごしてきた時間も、アイツがどんな風に傷ついてきたのも、
知ってるのはミサカ達だけ。貴女は何も知らないでしょ』

知らない。


『何の力も無い、何も知らない。それでアイツに何か出来るつもり?』

わからない。


『アイツの側にはミサカ達だけがいればいいの!!』

勝手に決めないで。


『アイツのことを憎むのも、アイツのことを大切にするのも、アイツのことを守るのも、アイツが守るのも、
アイツのことを許さないのも、アイツのことを許すのも、アイツが優しいのを知ってるのも、
アイツのことを嘲るのも、アイツの事を好きになるのも、全部ミサカ達だけでいいんだよ!!』

ふざけるな。



「……んん…ああ…はぁ…ッ」

甘い声が木霊する。

過ごした時間がなんだというのだろうか。
彼の過去を知ることが出来なかったから、だからもう遅いのだというのか。
電車に乗り遅れたからと、もう好きになる権利はないとでもいうのだろうか。

「そんなの嫌……いやだよう…」

佐天の頬を涙が流れる。
顎を伝い、熱い涙が湯に溶ける。


「あくせられーたーさん…」


答えを求めるように、少女が呟いた。

400 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/24(クリスマスイブ) 06:53:33.70 ID:sGSyS7Q0


深い微睡みは、ぬるま湯に浸る感覚に似ている。
身体も意識も、流れる時間はとても緩やかで、時間の感覚がすぐには追いつかない。

一方通行の白い睫が、微かに震える。
瞼がぴくりと動き、幕が開くように紅の瞳が姿を現す。

カーテンから差し込む日の光が青みを帯びているように感じるのは、冬の朝の冷たい空気のせいだろうか。

自分の傍らに温もりが存在することをかろうじて未だに覚醒しきらない頭が把握する。

ぼんやりとしたまま視線を向けると、シャンパンゴールドの髪が視界に収まる。
またかと、一方通行は些か慣れ始めた疲労感を覚える。

普段の険しさ、皮肉な笑みが消えた年相応の愛らしい番外個体の寝顔をのぞき込む。
彼女の両手は一方通行の服を掴んではなさない。
皺になっているだろうと、小さな溜息を吐く。



番外個体が落ち着くまで昨夜は彼女を抱きしめ続けた。



401 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/24(クリスマスイブ) 06:56:05.51 ID:sGSyS7Q0

番外個体は子供の癇癪のように喚き散らした。

「触るな、汚らしい」と罵声を一方通行に浴びせ、そのくせ一方通行が離れると、泣き始める。

一方通行に出来ることは、罵声を受け止めながらも、ずっと番外個体の身体を抱きしめることだけであった。

普段のように彼女の言葉が勘に障るということはなかった。
感情的な罵声の数々は、その言葉の大半が嗚咽に溶け、痛々しさしかもたらさなかったからだ。

しゃくりをあげながらも、ようやく流れる涙が止まったのを見計らって涙でグシャグシャの顔をした
彼女にタオルを押しつけ風呂に入れさせた。

黄泉川にこちらで泊まっていくという連絡を入れ終え、適当な服をクローゼットから見繕って彼女に着せた。

そのころになると、泣きつかれたのか、番外個体は大人しく一方通行の言うことを聞いた。


そして、彼女にベッドを提供すべくソファで眠りに就いたのが昨夜の最後の記憶だった。


しかし、いつの間にか番外個体はベッドに潜り込んできていたようだ。

ちょくちょくベッドに潜り込む彼女の行動を、嫌がらせ、もしくはからかっているだけだと考えていたが
どうやら自分は思い違いをしていたらしいと一方通行は考えを改める。


面白がって打ち止めの真似をしているのではない。
彼女はきっと、家族を求めるつもりでしているのだろう。


この世に生を受けてまだ1年なのだ。

身体付きこそ妹たちの中で最も大人っぽいものの、彼女は末っ子なのだ。



402 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/24(クリスマスイブ) 07:02:10.13 ID:sGSyS7Q0


(まだまだ親が恋しい年ってことか…)


番外個体の頭に顔を擦り寄せ、ぐっと彼女の身体を抱き寄せる。
男では持ちえない種類の温もりと、柔らかさ、そしてほんのりとした甘い香りが心を和ませる。
番外個体の手が、いつの間にか服から一方通行の背に伸びていた。

無意識の行動なのだろう。

親を求める幼子のように。普段の彼女からでは逆さに振っても出てこない無垢な行動に、
どこか救われた気持ちになる。


悪意しか知らない少女からこのような稚気を引き出せているとしたら。


少女が健やかな方へと向かっていることに、自分僅かでも貢献出来ているのだとすれば。


それは、何よりも甲斐のある話しだ。
自分のせいで望まぬ生を受けた番外個体に、悪意以外の感情が芽生えているのだとすれば。


それが浅ましい代償行為に似たものだとしても。

もう一度、番外個体の髪に、唇を落とすように顔を寄せる。
普段はヘアフレグランスを ―― 打ち止めとお揃いのものを ―― 使っている。
顔を寄せ合って、どの化粧品がいいだとか、服はどれが可愛いだとか話す様は仲の良い姉妹そのものであった。
しかし、今はそれはなく、当然ながら一方通行の使っているシャンプーの香りだけのはずだ。
にもかかわらず、一方通行には番外個体は明らかに自分とは異なる、それも甘い香りを放っていると感じる。


それはつまり女の子特有の香りだろうか。

番外個体とて立派な少女なのだから。

当たり前のことに今更ながら考えつく自分に呆れかえる。


403 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/24(クリスマスイブ) 07:04:33.93 ID:sGSyS7Q0

昨夜見せた番外個体の激昂について一方通行は考える。
ようやく回転し始めた頭の中では泣きついた番外個体の顔が浮かぶ。

もしかしたら、彼女は焦ったのかもしれない。
一方通行が佐天といることで、番外個体を、打ち止めを、そして妹達を
見捨ててしまうのではないかという不安を抱いたのかもしれない。

だとすれば、それは見当違いの考えだ。自分は決して妹達を裏切るつもりなどない。
必ず守り抜くのだ。そう誓ったことであり、今も変わらない。

それはどこか父親のような使命感に満ちている。

しかし、その憶測が当たってるとすれば、裏返せば番外個体は自分を家族と考えているということになる。


それは、正直嬉しいことだった。
自分が家族を求めていることへの自覚はロシアの頃からある。

黄泉川、芳川が母親か姉のような存在だとすれば、打ち止めは妹、むしろ娘かもしれない。
そして、番外個体が自分を少しでも家族としてみてくれていうというのならば、
それはすなわち自分にとっても彼女が家族であるということ。



番外個体の髪を優しく撫でてやりながら、一方通行は佐天涙子を思う。


それでは、彼女は一体何なんだろうか。



結標淡希は仲間。
家族にすら隠し続ける裏を知るという点では、もっとも自分を知る仲間だ。

番外個体は家族。さしずめ手の掛かる妹だろう。


ならば、佐天は一体何なのだろうか。

太陽を浴びた空の下で花が咲き誇るような佐天の笑顔がよぎる。




404 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/24(クリスマスイブ) 07:05:56.61 ID:sGSyS7Q0

能力もない、闇など知らぬ彼女は仲間であるはずがない。
なることも出来ない。
そして、彼女にそのような闇を知ってほしくもない。
それでは家族か。それも少し違う。
家族というには、二人の間には距離があった。
よそよそしさという意味ではない。
家族には見せない気遣いとでも言うべきだろうか。
静電気のようなぱちんとした小さな緊張が二人の間の空気に仄かに漂っている。
決して不快ではない。不快ではないが不可解ではある。


一方通行にとって、とりあえずのカテゴリーにすら迷う少女が、自分の過去を知ってしまった。

一万もの命を奪った罪を知ったのだ。

普通の感覚ではありえない話だ。
忌むべき過去という言葉では生ぬるい。
人一人の命を奪うことすら究極の禁忌とされているのだ。
その一万倍、それを14歳の少女がどのように受け止めるのか、
一方通行には想像も出来ない。
想像も出来ないとは、彼女がどのような感想を抱いたのかではない。
一体どれほど深い嫌悪感を抱いたのか。
一体どれほど大きな恐怖を抱いたのか。
一方通行の心をかき乱しているのはその度合いであった。


今、彼女はどうしているのだろうか。

今、彼女はなにを思っているのだろうか。

今、彼女はどんな顔をしているのだろうか。

今、彼女は自分をどう思っているのだろうか。


彼女に会って話しをしたいと願うのと同時に、畏怖の眼差しで見られることに恐怖を抱く。
会いたいという気持ちと会いたくないという気持ちが背中合わせとなって心の中を占める。


「くそったれがァ…」

縋るものを求めるように番外個体を抱きしめる腕に力がこもった。




405 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/24(クリスマスイブ) 07:07:32.74 ID:sGSyS7Q0

「………」

番外個体は、とうに目を覚ましていた。


昨夜の醜態をどう誤魔化すかを番外個体はずっと考えていた。
一方通行に罵声、嘲笑、軽侮をくれてやるいつもの展開にどう持っていくべきか。
彼女は眠ったフリをしながら必死に考えていた。


しかし、彼女の思考は、一方通行の思わぬ行動によって完全に打ち消される。
自分を抱きしめ、あろうことか、頭に顔を擦り寄せた。
気持ちが悪い、そう普段通りのテンションで言ってやろうと思ったが、番外個体の意志に逆らうように、
彼女の手は掴んでいた一方通行の服から離れ、彼の背中へと移った。

普段から、一方通行のベッドに忍び込むことは多々あった。
寝首をかいてやると言っては彼を困らせ、愉悦に浸っていた。
大概は朝になったら蹴落とされる。


しかし、こんなことは初めてであった。

まるで映画で観た恋人のように。


少女マンガで読んだワンシーンのように。


自分を優しく抱き寄せた一方通行の行動に、まともに思考が働かない。



406 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/24(クリスマスイブ) 07:09:13.00 ID:sGSyS7Q0

一方通行がかすかに微笑んだ。
気配でそれがわかる。心音が一段跳ね上がる。
不意に、一方通行の手が、番外個体の髪を撫で始めた。

(な、撫でるなーーーー!!!!)


身体の中心からボッと熱が溢れる。
顔中が真っ赤になっているのが自覚できる。
番外個体は、顔を見られぬように、一方通行の胸元に顔を押しつける。


そのときだった。

不意に、一方通行の呟きが耳に届いた。


苛立っているのがわかる。番外個体の行動にではない。
それが、彼が彼自身に苛立っている時に発する声だと知っている。

一方通行の戸惑いを己を抱きしめる腕ごしに感じる。

まっすぐな瞳の少女の顔がフラッシュバックのようによぎる。


彼女のことを考えているのだろうか。

そうだろう。きっとそうだ。

血の気が失せるほどきつく、唇を無意識に噛む。


一方通行が認めているかどうかは知らないが、彼は表の世界にあこがれている。
自分では決して踏み込むことの出来ない世界だとわかっているから彼の抱くその憧れは余計に強くなる。
上条当麻への憧れもそこにある。

裏の世界を知り、裏の人間を引き上げることが出来る表の世界の人間。

まさに悪党を更正させて仲間を増やしていく特撮のヒーローのようだ。


407 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/24(クリスマスイブ) 07:12:22.16 ID:sGSyS7Q0

その表の世界の象徴のような、陰の無い笑顔を持つ少女。

花のように可憐な少女から向けられる好意に、一方通行は知らず知らず引き付けられている。

側にいてくれるだけでホッとするような、そんな空気が彼女にはある。

本質的に寂しがりやで甘えん坊な一方通行は、無意識に自分を受け止めてくれるような女を求めている。
勿論、そんな分析は一方通行自身は否定するだろうが、しかし、誰もがそれに薄々勘付いている。

自分も、打ち止めも、他の妹達も、黄泉川も、芳川も。
もしかすると、自分の知らぬ他の女も知っているのかもしれない。




(ねぇ、一方通行知ってる?太陽に近づきすぎると焼かれて落ちちゃうんだってさ。
ミサカは知ってるよ。そういうのを分不相応っていうんだって。
ねぇ、ミサカだったらアンタのこと……)


そこまで考えて、番外個体は今し方思い浮かべた言葉をかき消す。

代わりに一方通行が気づかぬ程度にそっと抱きしめ返す。

まるで、今、この瞬間だけは決して彼を手放すまいとするように。




436 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 01:35:18.18 ID:c29MpCE0

耳の後ろを、硬い何か金槌のようなものでゆっくりと叩かれるような規則的な痛み。

叫びを上げるほど激しいものではなく、無視できるほど優しいものでもない。

膜をひとつ、ふたつ隔てたようにぼやけた痛み。鈍痛。


その正体を探ろうと気を張る。
身体の感覚をその痛みの出処に集中させていくうちに、自分がその感覚から久しく遠ざかっていたことに気付く。

痛みにではなく、感覚を研ぎ澄ませること、集中させること、感覚が繋がっていること。
つまり感覚というものを自身が把握することから遠ざかっていたということだ。
そして、思いいたるのは自分がそれまで一体何をしていたのかという根本的な疑問。


自分は一体 ――――


と、そこまで思考を広げたとき、目の前に新しい風景が広がっていた。
暗く、冷たい部屋。電気といえば、辺りに設置された計測器や絶えず稼動しているコンピューターのランプくらいであろうか。

手を伸ばすと、自分の手がゆらりと漂うように緩慢に動く。
漂うようにではなく、漂っている。
自分が水槽のようなものの中にいると気付く。

はて、と自分の置かれている状況に今更の疑問を抱くうちに計機類がけたたましく音を立てる。
まるでご飯が炊けたと言って知らせてくる炊飯器のようだなと、間の抜けた感想を抱いていると、
目に見えて水位が下がっていく。
自分を取り巻く水が排水されているのだ。
それならば自分が出来立てのご飯ということか。
そんな暢気な思考に付き合う気はないとばかりに、排水を終えた水槽がゆっくりと開いていく。

急に与えられた重力が足に重く圧し掛かる。
立ちくらみにふらつく足に力を込めると、回りを見回す。

人の姿は無い。元々いなかったのか、いなくなったのか。おそらく後者だろう。



437 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 01:37:03.55 ID:c29MpCE0

床には散乱した書類、端末、ボールペン。
それらは人のいた名残。


更には飲みかけのペットボトルに、割れたマグカップ。
それは人の息遣いを示すもの。


そして、つんと鼻に刺すような腐敗臭を放つ死体。
それは人だったものの成れの果て。


濡れた足に塩ビシートの床が張り付く。ぺたりぺたりと音を立てながら室内をとりあえず歩き回る。
それらに対する恐怖心はなかった。とうに慣れ果ててしまった光景に過ぎない。

ゴミ捨て場で見かける破れたゴミ袋に群がる鴉達、路地裏で見かける吐寫物と大差ない。

ぺたぺたと歩きまわりながら、時に転がっている死体を跨ぎながら計器類を弄り回す。
どうにかしようとしているのでなければ、好奇心に任せて遊んでいるわけでもない。
状況を整理する為に、それらの機材の役割を分析しているに過ぎない。
幸いにして、自分の頭は比較的出来が良い。

先ほどから鈍痛は止まない。
顔を顰めるほどではないが、どうにかならないだろうかと、頭を振る。
テーブルに置かれた書類の一群に目が行った。
そこに書かれている内容にではなく、クリップボードに書類と共に挟まれた写真に目が留まった。



438 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 01:37:53.28 ID:c29MpCE0


白い髪に赤い瞳。
目つきは鋭く、端整な顔はどこか中性的な空気が漂う。
不機嫌さを隠そうともしないむっつりとした表情。



自分は彼を知っている。

知らないはずがなかった。


「はははは ―――― ッ」



思わず喉を震わせていた。
掠れた笑い声は、悲哀と歓喜に満ちている。
嬉しい。素直に思った。覚束ない状況に覚束ない思考、覚束ない自分。
しかし、ひとつだけハッキリしていることがあった。

それは目的。

自分のすべきことなど決まっている。
とうに決まっている。
たった今決まった。
自分が決めた。


「一方通行ァァァ……ッ」


笑いとも怨嗟とも取れる呟きが、薄暗い部屋に満ちていく。



439 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 01:41:52.93 ID:c29MpCE0



夢とは、どれほど現実味が無かろうとも、不思議な質感を伴うものだ。


たとえその夢の中において、これが夢だと自覚していたとしても、
その現実味に呑みこまれてしまうことは往々にしてある。


今、自分が見ているものがそうなのであろう。

ぐちゅりと、踏み込んだ瞬間に響く粘着質な音。
鼻につんとくる嗅ぎ慣れた錆び臭さ。
鼻の奥が粘り気のある匂いに満たされる。



またか、そんな感想を抱く。


これが夢であることなどとうに気付いている。何度も何度も見ているのだ。
DVDであればとうに表面が傷ついて視聴出来ないほどに繰り返している。
わかりきったことを突きつける夢。
それでも、今尚見続ける夢。
きっとこれからも続く夢。


440 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 01:43:15.40 ID:c29MpCE0

水溜りの中を歩く要領で歩を進めて行くと、足はこつんと何かにぶつかる。
足元に目を向けると、無造作に投げ出された足 ――― 足だけである。
視線を千切れた足から、更に目の前へと向けていく。


洗濯物を脱ぎ散らかすように乱雑に転がる肉の塊。

既に、そこに人としての尊厳など無い、故に肉の塊。

道端に投げ捨てられた塵屑と同じ無価値な肉の塊。

それでも人であったころの名称でもって言うならばそれは少女である。


少女。

お揃いの制服に身を包んだ年端も行かぬ少女達。

一万と31の少女の死体。


胸糞の悪くなる統一感と、徹底した無造作、無慈悲、無感想、無機質、無遠慮でもって積み上げられた死体の山。

自分を迎える花道のように、少女達の血溜まりの山が人一人通ることが出来る隙間を作る。
自分にお似合いの、血と肉と骨と蛆と汚物に囲まれた獣道。
巨大な肉袋のオブジェは一種前衛芸術の如き非現実味さえ与える。


足元に転がる少女の頭を手に取る。

見開かれた瞳。胡乱な瞳。硝子のような瞳。

恨みも怒りも、憎しみも、そして恐怖すら映ることのない瞳。

441 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 01:44:07.26 ID:c29MpCE0
そっと、少女が安らかに眠れるように瞼を閉じさせる。大した欺瞞だ。糞にも劣る偽善だ。死ねばいい、舌打ちが零れる。
まるで謝罪をするような行動に、しかし意味など無い。死んでいる少女達へ向ける言葉を自分は持たない。
自分がどうしようもない屑だということをこうして夢の中で確認することしか出来ない。
少女の頭を子猫を抱き上げるように胸の中に収める。優しく、包み込むように、もう痛みを感じることなど無いように。
しかし、この行動にもやはり意味は無い。死んだ者に出来ることなど何もない。
だから血溜まりの中を歩く。何処へ向かおうとしているのか、自分でもわからない。それでも自分にはそれだけなのだ。
進むこと以外何も出来ない。何も許されていない。自分が許しはしない。



びちゃ、びちゃ、びちゃ。


ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ。


ざく、ざく、ざく。



折り重なる少女達に降り積もる白。
靴が踏みしめるものが赤い水から白い雪へと変わった。



ざく、ざく、ざく。


さく、さく、さく。


じゃく、じゃく、じゃく。


弱寂若惹寂寂寂。



442 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 01:46:21.71 ID:c29MpCE0

抱きしめていた少女の頭部が、重みを変える。
血に濡れていた手が、雪に熱を奪われた氷のように冷え切っている。
感覚の無い手で抱き上げるのは少女の頭部ではなく、自分が守り抜くと決めた幼い少女。
嘗てのように荒い息を吐いて、顔面を蒼白にした姿ではなく、死んだように静かに眠る幼い少女。
夢の中とはいえ、ホッと安堵の息が漏れる。
夢の中とはいえ、苦しむ少女の顔など見たくない。

白い息を吐いて歩く。白い手に力を込めて歩く。白い風の中を裂いて歩く。白い雪の道を歩く。

白い世界をどこまでも歩く。

白い音を踏み立てて歩いていく。

じゃくじゃくじゃく、じゃくじゃくじゃくじゃく、じゃく、じゃくと、無音の白の世界に己の踏み出す音だけがする。
じゃくじゃくじゃくじゃくと。

若惹寂寂寂弱寂若惹寂寂寂弱寂若惹寂寂寂若惹寂寂寂弱寂若惹寂寂寂弱寂若惹寂寂寂寂弱寂若惹寂寂寂若
若惹寂寂寂弱寂若惹寂寂寂弱寂若惹寂寂寂若惹寂寂寂弱寂若惹寂寂寂弱寂若惹寂寂寂寂弱寂若惹寂寂
寂若惹寂寂寂若惹寂寂寂弱弱寂若惹寂寂寂寂若惹寂寂寂弱寂若惹寂寂寂弱寂若惹寂寂寂若惹寂寂
寂弱寂若惹寂寂寂弱寂若惹寂寂寂寂若惹寂寂寂弱寂弱弱寂若惹寂寂寂弱寂若惹寂寂寂弱寂若
惹寂寂寂弱寂若惹寂寂寂弱寂若惹寂寂寂弱寂若惹寂寂寂寂若惹寂寂寂弱寂弱寂若寂弱寂
若惹寂寂寂若惹寂寂寂弱寂弱寂若惹寂寂寂若惹寂寂寂弱寂若惹寂寂寂弱寂弱寂若惹
寂寂寂若惹寂若惹寂寂寂寂弱寂若惹寂寂寂若惹寂寂寂弱寂若惹寂寂寂弱寂弱寂
若惹寂寂寂若惹寂若惹寂寂寂弱寂弱寂若惹寂寂寂若惹寂寂若惹寂寂寂弱寂
弱寂若惹寂寂寂若惹寂若惹寂寂寂弱寂弱寂若惹寂寂寂若惹寂若惹寂寂
寂弱寂弱寂若惹寂寂若惹寂寂寂弱寂弱寂若惹寂寂寂若惹寂若惹寂
寂寂弱寂弱寂若惹寂寂寂若惹寂若惹寂寂寂弱寂弱寂若寂若惹
寂寂寂弱寂弱寂若惹寂寂寂若惹寂若惹寂寂寂弱寂弱寂若
惹寂寂寂若惹寂若惹寂寂寂寂若惹寂若惹寂寂寂寂若
惹寂寂寂寂若惹寂寂寂寂若惹寂寂寂寂若惹寂寂
寂寂若惹寂寂寂若惹寂寂寂弱寂若惹寂寂寂
弱寂若惹寂寂寂若惹寂寂寂弱寂若惹寂
寂寂弱寂若惹寂寂寂寂弱寂若惹寂
寂寂若惹寂寂寂若惹寂寂寂弱
寂弱寂若惹寂寂寂若惹寂
弱若惹寂寂寂弱寂若
惹寂寂寂弱寂若
惹寂寂寂若
惹寂寂



音が止む。

443 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 01:48:26.12 ID:c29MpCE0

目の前には倒れ伏す少女。
仰向けに倒れる少女。

白い服に、花のように赤い雫を散らせた彼女の側に近づき、跪く。


どれほどの拳を浴びたのだろうかと思う程に醜く腫れ上がった顔。心の奥がきりきりと痛む。

既に知っている光景であり、現実にあった光景である。
それでも、何百回と見ても、心が慣れることはない。


片手で幼い少女を抱えたまま、目の下に刻まれた隈をそっと撫でる。

少女の瞼がうっすらと持ち上がり、どろりとした瞳が自分を見つめる。

硝子のような瞳とは対照的な濁った瞳。

湖の底の底を掬ったように、何も映っていない瞳は何もないのではない。

色々な感情が混ざり合い過ぎて、その結果何の色でも無くなったのだ。

腫れ上がり、裂けた血まみれの唇、本来は可憐な筈の少女の唇がゆっくりと開く。
少女の口にする言葉は決まっていた。
何百と聞いた言葉。夢でも現でも、何度も耳にした。
時に嘲笑と共に、時に哀絶と共に、時に溜息と共に、時に怒りと共に、時に冗談めかして、時に優しく。


少女の口にする、決まりきった言葉を、何百回目の覚悟と共に受け止める準備をする。
情けない話しであるが、何百と聞いても、心に走る痛みに慣れることはない。
こうして、覚悟を決めてもだ。


『貴方のせいだ』


あの日憎悪と共に吐き出された言葉は、ことんと、ビー玉を転がすようなあっけなさで自分の中に染み込んでいった。

それが全てを言い表していた言葉だから。

444 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 01:51:40.75 ID:c29MpCE0

少女の唇が開く。歯を食いしばる。


「どうして騙してたんですか?」


少女の口から、別の少女の声が発せられた。

別の少女の声は、初めての言葉を発した。


白い服を纏った、よく知る少女はそこにいなかった。

青と白を基調とした制服。
花の髪留めをつけた、艶やかな長く黒い髪。


「貴方と関わらなければ良かったです」

訴えるように、腕の中の少女は吐き捨てる。
片手に抱いていた幼い少女の姿もなく、白い、悪意の洗礼を浴び続けた少女の姿も無い。
ただ、両の腕で抱えているのは黒髪の少女のみ。

少女の声は悲しく、少女の瞳は切ない。

胸の中に堪えがたい疼きが走る。

違う。

そうじゃない。

そんなつもりはない。

騙すなんて。


全てが言い訳だ。
醜く、浅ましい言い訳の言葉が口の中でドロドロと気持ちの悪い粘液のように形を崩す。
そして雪のようにとけ、苦い余韻となって残る。


445 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 01:54:08.22 ID:c29MpCE0



「ミサカ達のことはどうでもいいの?」

「―――ッ」

つるりとした滑らかな刃物に刺されたようだった。
胸の中の隙間を通すように、冷たい冷気を伴った刃が差し込まれた気がした。


少女を抱いたまま、声のした方へと振り返る。

喉から引き攣ったように息が漏れる。



自分を責めるように見つめる幼い少女。

自分を蔑むように見つめる白い少女。

そして、二人の少女の後ろに立つ9969人の少女達。


何かを言おうとして、舌が凍りついたように動かない。
震える唇が、それでもせめてもの抵抗にと音も無く震える。



『俺はそンなつもりは ――――


声が出なかった。



446 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 02:00:17.86 ID:c29MpCE0

「キャッ」

可愛らしい悲鳴は目の前の少女から。
赤い髪を二つに結んだ少女の顔が息も触れそうな距離にある。
髪の色に負けず、赤く染まった顔で、硬直している少女に一方通行は不審な顔をする。

「あァ?なにやってンだァテメェ…」
「な、何じゃないでしょ。貴方が寝てたから、毛布をって。寒いし…風邪引くとその、アレでしょ?」
「毛布……?」

そう言いながら一方通行は赤い髪の少女 ――― 結標淡希の手にしている毛布に気付く。
そして、彼女の顔が何故近いのかも理解する。
自分が寝ぼけて彼女の腕を掴んで引き寄せたのだ。そうなると凄みを利かせて睨むだけ此方のバツが悪い。


そしてようやく状況を把握した。此処は『グループ』のアジト。
自分はソファーに横になったまま眠りに就いてしまっていたようだ。
どうにも、最近はグループで気を抜くことが増えてしまった気がすると、一方通行は顔を顰める。



447 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 02:00:49.31 ID:c29MpCE0

「チッ…余計なお世話だ」

バツの悪さを誤魔化すように舌打ちし、突き放すように結標の腕を放す。
結標は一瞬ムッとするものの、一方通行の素直じゃなさに慣れているのか、溜息だけで言い返さない。
そんな彼女の自分のお守りに慣れているような仕草にバツが悪くなるのは一方通行の方であった。
憎まれ口のひとつでも叩いてやろうか、そんなことを思いかけたところで視界にニヤニヤとした笑いを浮かべる金髪男の姿が留まった。
一方通行の瞳に、結標に対してのものとは違う、剣呑なものが浮かぶ。

「何見てやがンだァ?」
「いやぁ~~随分とうなされてたみたいだにゃ~。あわきんの心配っぷりといったらもう…むふふふふ」
「ちょ、土御門!!わ、私は心配なんて…」

「ンだそりゃ…」

ガシガシと髪を掻き毟ると、一方通行はちらりと結標を横目に見る。
一瞬目が合ったかと思うと、結標はぷいと逸らす。わけがわからない、一方通行は一瞬途方に暮れそうになる。



448 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 02:07:13.19 ID:c29MpCE0


「アステカー」

イラつくくらいに爽やかな掛け声と共に海原光貴がドアを開け放つ。


「お、海原。アステカー」

「「何その挨拶…」」


さも当然のように返す土御門と、初めて知ったよそんな挨拶と言いたげに声を揃える一方通行と結標。


「おや、目が覚めたみたいですね一方通行」
「あわきんの心配オーラが通じたんだにゃー」
「優しさのベクトルまでは反射できないと」
「誰ウマw」
「wwww」
「wwww」


顔を見合わせて大受けな土御門と海…アステカ。


「ェェェェ…何こいつら。すンごくウザイんですけど…」

「というか、どうやって喋ってるの?最後の」


449 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 02:08:37.74 ID:c29MpCE0

アステカはひとしきり笑い終えると、結標に声をかける。


「ああ、そうです結標さん。引き取りに行きたい荷物があるのですが、手伝って頂けませんか?」

「え、何で私がそんな…「あわきんは一方通行と二人きりになりたいんだにゃー」行くわよ!!行けばいいんでしょ!!」


かぶせ気味に言い放つと、結標はちらっと一方通行に気遣わしげな視線を向ける。
彼女の視線に含まれた意味に流石に気付いているのか、一方通行がそっけなく、しかしはっきりと応えるように手を上げる。

心配するなと、そう言いように。

それが嬉しかったのか、結標の顔が明るくなる。
一方通行は、そんな彼女の顔を見て、またもや不思議な感覚に捕らわれる。
上手く説明出来ないもやっとした感情。

佐天といるときにも抱く、解析不能の感情。
不快ではなく、しかし不可解な感情。

持て余すその感情に首を傾げている一方通行と、少しだけ素直に、ちょっとだけ優しくなった彼に
喜びを覚えずにはいられない結標は気付かない。

一瞬、海原と土御門が目で会話をしたことに。



450 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 02:14:56.21 ID:c29MpCE0

「さてと」

海原と結標が去ったのを確認してから、土御門がゆっくりと一方通行に視線を向けた。


「随分うなされてたにゃー。嫌な夢でも見てたかにゃーん?」
「うるせェテメェには関係ねェだろ。殺すぞ?」

切り捨てるように言い放つ。
土御門は気を悪くした風でもなく、にやにやと笑う。

「つれないにゃー。妹達を守れなかった夢を見たからってあたらないで欲しいんだにゃ」
「…ッ。テメェ…」

どうしてそれを、と言いたげな一方通行の視線をはぐらかすように、土御門は肩をすくめる。

「お前わっかりやすすぎ。お前がうなされる要因なんてせいぜいそんなもんだろ」
「チッ」



「ああ、あとは佐天ちゃん関連かにゃー」


昨日食べた夕食のメニューを思い出したかのように何気ない土御門の言葉に、
一方通行の表情が凍りつく。
つくづくわかりやすい奴と、土御門は内心苦笑する。


451 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 02:15:30.47 ID:c29MpCE0
「だから、わかりやすすぎんぜ。第一位」
「ハッ…まさか、テメェがそこまで人様のプライベートに首を突っ込んでくるたァな。何だ、その内教師の真似事みてェに人生相談でもする気かァ?」
「まっさかぁ。妹に夜中馬乗りにされながらだったら考えてみるがにゃ~人生相談」

けらけらと笑う土御門に、一方通行は苛立つ。

「オイ、いい加減言いてェことがあンなら言ったらどォだァ?これ以上テメェのくだらねぇ話しに付き合うきなンざねェンだよ」

ほう、と感心したように土御門が眉を吊り上げる。
土御門の口元から、からかうような笑みが消え、代わりに怜悧な空気が彼を包む。


「じゃあハッキリ言ってやる。半端な気持ちなら佐天涙子に近づくな」
「ああ゛ァァ?」

二人の間に、火花のような張り詰めた緊張が瞬時に生じる。

「ケッ…知らなかったなァ土御門クゥゥン?まさか、お前があのガキに執心だったとはなァ…」

一方通行は真横に引き裂いたような笑みを浮かべ、挑発する。
こめかみが引く付いているのは、内心の怒り、動揺を抑えていることを物語る。
土御門は、挑発に取り合わず首を振る。

452 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 02:30:59.85 ID:c29MpCE0
「自分の立場を考えて行動しろって言ってるんだよ……レベル5」

レベル5、その言葉が冷たく響く。
土御門の口にしたその言葉は、即ち、学園都市の根深い闇に結びつく。
それを察した一方通行が悔しげに唇を噛む。

「確かにお前が誰と恋人になろうが、何人セフレを作ろうが構わねーよ。ただし、それは裏を知る人間に限ってはだ」

トンと、テーブルを指先で叩く。

「裏を知る人間っていうのはつまりは生き抜く術を知ってる奴等だ。
能力、無能力に問わずな。お前の守ろうとしてる打ち止めにしても、それは例外じゃない。
妹達を一括りにすれば彼女達は余程の事がない限り自分の身を守る力がある。
番外個体と言ったな、レベル4相当の力を持ったあの子が打ち止めの側にいる今は尚更だろう。
結標もそうだ。レベル5に最も近いアイツも自分の身は自分で守れる。
いいか?彼女達と、佐天涙子は違う。佐天涙子は完全な表の人間だ。
自分の身を守ることも出来ない普通のな
今までお前が守ってきた者、共に戦ってきた奴とあの少女は全く別のベクトル上にいるんだ」

「だったら、俺が…」


土御門が舌打ちをする。


「守りきる覚悟か切り捨てる決心はあるのかどうかって聞いてるんだよガキ」

「――――― ッ!!!」



453 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 02:31:44.88 ID:c29MpCE0

一方通行の表情に亀裂が走るように動揺が浮かぶ。
想像さえしなかった事を指摘されたからか。否、そうではない。
真っ先に考えながら、蓋をし、目を逸らし続けた事だからだ。


「お前は打ち止めを見捨ててあの子を守ることが出来るのか?あの子を切り捨てて打ち止めを守りきるのか?
それとも、超電磁砲にあの子は守ってもらえるからいいや、なんて高をくくってるのか?」

土御門は容赦なく言葉を続ける。


「良いか。お前が何を守って何を守ろうが構わない。だが、それによって使い物にならなくなるのは困る。
だから聞いてるんだ。俺はある。その覚悟ならな」


義妹の為ならば、舞歌の為ならば何だって出来る。
彼女を守るためならば誰であっても切り捨てられる。


必要悪の魔術師達であろうとも、グループの仲間達であろうとも。
普段笑い合っている学校のクラスメート達であっても。
戦友となった上条当麻であろうとも。

例外はそこにはない。

土御門元春にとっての唯一の例外はたった一人なのだから。

故に、彼は問う。その覚悟を。


「お前はどうなんだ?一方通行」


一方通行は答えることが出来なかった。


464 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 22:38:47.90 ID:5egcb7o0


「なァ……」
「………」
「怒らねェからよ。ひとつ聞かせて欲しいんだが……」
「………」
「……コレは流行ってるのかァ?」
「ゴメンなさい…」


一方通行は軽くチョップを目の前の黒髪の少女の脳天に振り下ろす。


「なァンなンですかァお前はァ!なァンでまたタックルかまして来るンだァ?」
「ゴメンなさい~!!」

一方通行の胸に顔を乗せるように、佐天涙子が真っ赤な顔をしながら一方通行に抱きついていた。
此処は一方通行の部屋でもなければ当然佐天の部屋でもない。
街中。往来のど真ん中である。
人々の視線が集まるなか、抱きつくというか、押し倒していた。佐天が、である。
一方通行は、数ヶ月ほど前と同様に、ノゲイラばりの佐天のタックルに押し倒されていた。
それこそ、素で『佐天さん、レスリングとかやったらどうですか?』と尋ねたくなる程に鮮やかなタックルであった。
PRIDEを懐かしむ人にとってはノゲイラを髣髴とさせる鮮やかなタックルからのテイクダウンを美少女中学生が決めて胸熱状態だ。

「オラ、どけ。それともこのまま公衆の面前で押し倒してピロトークでもかましたいンですかァ?」
「す、すいません!!」

ただでさえ赤くなっていた顔を更に真っ赤にすると、佐天は慌てて一方通行の上からどく。


465 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 22:40:23.67 ID:5egcb7o0

「ン…」
「あ、ありがとう…ごじゃいます」(うあッ!!噛んだ)
「……」

一方通行は起き上がると、佐天にぶっきらぼうに手を差し出す。嘗ては考えられなかった気配り。
周囲の女性陣の教育の程が窺い知れる。


「………まァ…俺にも非があるンだけどなァ……」

「え?」

「何でもねェよ」

ぼそりと呟いた言葉は佐天には聞き取れなかった。


(情けなくていえるかよ…)

一方通行は彼女に会って、はっきりとさせようと思っていた。
自分の過去。番外個体が話したということの確認。

しかし、実際にはそれは余りにも唐突だった。ばったりという都合の良い言葉があるが、まさにそうだ。
偶然、彼女を見かけてしまった。それは余りにも早く突然過ぎた。
一方通行の心がはっきりと覚悟で固まる前のことなのであるから。

一方通行は、咄嗟に彼女にかけるべき言葉が思い浮かばなかった。

そして、一方通行の足は、意思とは逆に彼女から離れた。
つまりは逃げようとした。ヘタレめ。
彼女に会ったとき、露骨に避けられたら、あからさまな恐怖の目で見られたら。

そう一瞬でも考えてしまったのがいけなかった。

足は回れ右をし、逃げの体勢。この男、肝心な時に存外チキンである。


466 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 22:41:41.73 ID:5egcb7o0

しかし、一方通行が佐天の姿を見かけたとき、佐天も一方通行の姿を見かけていた。

佐天も一方通行のようにかけるべき言葉が浮かばなかった。

しかし、『逃げ』を選んだ一方通行とは違い、彼女は『追いかける』ことを選んだ。

追いかけること ――― からのタックル。
低空タックル。なにそれ、こわい。

言葉が出ないのならば、身体で語るしかない。

そんな若干脳筋気味な思考をしたのかはともかく、自分に背を向けていく一方通行を追いかけた。


「すごいたっくるー」
「グフゥッッ!!」


そして、冒頭のシーンに至る。
彼女には一方通行とは異なるところがあった。

覚悟の決まっていない一方通行と違い、彼女は覚悟だけならば既に出来ていた。



467 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 22:43:00.32 ID:5egcb7o0


「私の友達で、テレポーターの子がいるんですけどね」
「例の変態ツインテールってのかァ?」
「そうです。その子が初春が紅茶を零したときに、シミにならないように拭いてあげてたんですよ」
「変態だけど面倒見イイ奴なんだな」
「ハイ。凄くいい子ですよ。ちょっと変態なだけで。で、その時も初春が恐縮するのも構わずに拭いてあげてたんです。
凄くよく気のつく子なんですよ。でもね、ハンカチだと思ってたら ――― それ御坂さんのパンツだったんですよ」

「ブフッ!!」


一方通行が飲んでいたコーヒーを噴出す。


「しかも、ゲコ太のプリントの」
「~~~~ッッ」


堪えきれないのか、顔を伏せて肩を震わせ無言で笑う。
笑い顔を見せないのはせめてもの意地だろう。


「初春のスカートこの前捲ったんですよ」
「お前、その年でスカート捲りって…」
「そしたら毛糸のパンツで…」
「~~~~~~!!」

一方通行が突っ伏しながらテーブルを叩く。



468 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 22:44:18.61 ID:5egcb7o0

「もうお互い気まずくって仕方が無くなって」
「つーかソイツいつもお前の被害に遭ってネェ?」
「コミュニケーションですよコミュニケーション。そういうお友達って一方通行さんにもいるでしょ?」
「まぁ…な。だが流石にスカート捲りはしねぇなぁ」
「………あれ?お友達って女の人ですか?」
「ンあ?まぁ野郎のダチもいれば女のもいるなァ」


「ふぅ~~ん………そうなんですか……」

「?」



一方通行は内心、拍子抜けを覚えていた。
アレだけ悩んでいたのが何だったのだろうかと言いたくなるほどに、佐天の様子は普通である。
久しぶりの会話は呆気ないほどに進み、テンポのよさは肩透かしを食らう。
目の前の少女の笑顔は、前に見たものと同じ、明るく、心が落ち着くような、そんな笑顔である。


(番外個体の奴……ありゃあブラフだったのかァ?)



469 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 22:46:02.33 ID:5egcb7o0

そう一方通行が思っている傍ら、佐天は焦りを抱いていた。


(私の馬鹿~~~!!!学校の馬鹿話で笑わせてる場合じゃないってーーー!!
聞くんでしょ?聞くんだよね!?ちゃんとハッキリさせるんだよね、私!!)


肝心の話しに入ることが出来ないことに焦っていた。

久々に会って、ぎこちない会話になってしまうことを想定していたというのに、最初のタックルで歯車が狂ってしまった。

妙に緊張感のなくなってしまったまま、今こうしてファミレスでダベッている。
普段であればこれはこれでデートのようでオッケーなのだが、今ばかりは困る。
はっきりさせないといけないのだから。


しかし、一方で、久しぶりに顔をしっかりと合わせて話しが出来ていることに浮かれていることも確かだった。

自分の話しを楽しそうに、笑いを堪えながら聞いてくれることが嬉しい。

気まずい会話ばかりを想定していただけに、反動となって安堵を覚えると同時に気が抜けてしまった。


(でも、聞かなきゃ。中途半端なままは嫌だって、そう決めたんでしょ!!佐天涙子)


そう、親友に宣言にも似た心情を吐露した日を思い出す。



470 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 22:55:35.28 ID:5egcb7o0

穴があったら入りたいという言葉がある。
恥ずかしい行いをしてしまった時、特にその前に固い決意表明をしていたり、ドヤ顔だったりすると威力は倍プッシュ。
やぁってやるぜなテンションだったりするともう目もあてらんない。
佐天はまさに今自分がそんな状況にあることを自覚する。

ちなみに、穴があったら入りたいとは、
『抱きしめたいほど哀れだなァ~みっともねェ三下は穴倉に閉じこもって出てくンなクソ野郎』という意味である。(意訳)


「まぁ、佐天さんが一体何をしててのぼせちゃったのかについては問いません。
ええ、ナニをしていたのかについては」

「………そうして貰えると助かるよ初春…」


額に冷却ジェルシートを貼って横になる佐天の横で、初春がじとっとした視線を向けてくる。
『呆れました私、ええ、ホント呆れました』と書いてる初春の視線が痛い。とても痛い。
のぼせて浴槽から起き上がれなくなった佐天は、熱でクラクラする頭で辛うじて連絡をつける事が
出来た初春飾利によってようやくベッドに横になることが出来た。

正直裸のところをお風呂から救出されるというだけでも恥ずかしい上に、
『先ほどまで耽っていた行為』が行為なだけにむずむずとした気恥ずかしさがあった。

いや、思春期なのだから仕方が無いじゃないのさ、女の子だって色々持て余すんだもの!!
ぶっちゃけてしまえばそれに尽きる。
しかし、そんな事は言えない。言えるはずがない。自分は変態でも無ければ変態という名の淑女でもないのだ。
性癖カミングアウトとか正直ハードル高過ぎる。
一人遊びというかそういった悶々とした行為を赤裸々に語る趣味も無い。
某ツインテールのように、昨夜何度達したかだとか、その際のシチュエーションだとかを
官能小説張りの状況描写によって説明するわけには行かない。

仮に、自分のそういったシチュエーションが初春の中のノーマルの枠から外れていようものならばもうそりゃあ大変だ。


471 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 23:00:49.45 ID:5egcb7o0
故に、疲労とストレスでが湯に浸かったら途端に顕著になり、また、考え事をしていたらのぼせてしまい身体に力が入らなくなったというのが佐天の言い訳。
しかし、これは非常に苦しい言い訳だ。
フラフラになるならばともかく、腰まで抜けるとかどうなんだ。
ありえるのか?
そんなことを思うのは当然である。

当然の如く、初春の不審を買ったのは、佐天が腰が抜けて立てなくなったこと。
のぼせてしまえば腰が抜ける?否、んなこたぁない。
初春の瞳が痛い。気のせいか、彼女の頭部をガードする美緒蘭手(ビオランテ)さんからも不審なオーラが出ている。気がする。
そして、鋭く黒い初春飾利は何かを察した。佐天の腰が抜けてしまうような直接の引き金について。
また、初春と同じく洞察力に長けている佐天もまた、初春が『何を』察したのかを察した。


初春は『ははぁ~~ん、佐天さん、そういうことですかぁ~~』と言った感情を視線に乗せる。
佐天は『さてはて、いったいなんのことざんしょ?あはははは』と言った感情をもって見つめ返す。


結果、二人の間には大変気まずい空気が流れる。


「いや~それにしても冷えピタが冷たいままっていうのはいいよね。初春の能力って地味に便利だよ」


時折初春が佐天の額に手を乗せる。
彼女の能力によってジェルシートは一定の冷たさを維持している。

「冬とかだと最後まで冷めない紅茶が飲めるのはお得ですよ。手で触れてないと効果ありませんけど」

苦笑する初春に、佐天は唇を尖らせる。

「いいじゃんか~私なんてゼロだよゼロ。ゼロって響きだけはカッコいいんだけどさぁ。合衆国日本!!ってね」
「ツッコミませんからね?」
「初春冷た~い。でも冷えピタ気持ちいいから許す」
「それはありがとうございます」

472 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 23:01:49.25 ID:5egcb7o0

にへらと笑う佐天に、つい釣られるように初春も笑う。
佐天の柔らかくコシのある髪を指先に絡めながら、初春は静かに佐天の額を撫でる。
秒針の音だけが響く中、ひたすら沈黙が続く。


「そういえば……」

佐天が思い出したように呟く。


「初春とこうして二人で喋るのって何か久しぶりな気がする」

「そうですよ。今頃気付いたんですか?」

「あれ?もしかして初春ちょっと怒ってる?」

「ぷんぷんです」

頬を膨らませる初春に、佐天のいじめっ子センサーがびんびんに反応する。
もし湯中りしていなければハグからのくすぐり倒しのコンボに移っていたというのにと、悔しくなる。
ちらりと佐天を見下ろしながら初春は黒い笑みを浮かべる。


「佐天さんったら一方通行さんのことで一人遊びに耽るんですもん」

「ぶふッ!!ひ、ひ、ひと、ひとり遊びって、どうして、それを…じゃなくて、私そんな頻繁にはしてない……はず」

そう、精々一週間に四回程度だ。
四回?いや五回だろうか。一日に何回しようとも一回というカウントで良いよね?
一体誰にお伺いを立てているのだろうか。


473 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 23:03:33.53 ID:5egcb7o0

「何を焦ってるんですか?私は妄想の事を言ってるんですけど?
佐天さんたまに一人でニヤニヤしてるじゃないですか」

ニヤニヤだけではなく、部屋ではゴロゴロ転がっていたりします。


「ごふっ!!」

咽た。
佐天さんが咽た。


「それとも一方通行さんのことを思ってナニかしてたんですか?」

「むぐぐぐぐぐッ」


穴があったら入りたいに次いで、墓穴を掘ってしまった。
今日だけで一体自分はいくつの穴を掘るのであろうか。
えええい、面倒だ。シャベルを持てい!!今すぐ穴を掘りまくってやるわい!!

佐天、心の中でヤケクソ気味に吠える。

初春がにやにやと黒く、黒く、そして黒い笑みを浮かべる。
コイツは黒春だ、と佐天は心の中でツッコむ。
頬を引きつらせて初春を恨めしく見上げる佐天、その頬の赤みはのぼせたせいだけではない。
初春は三日月形ににやけた瞳から一転して、好奇心に目を輝かせる。


「佐天さん。ひとつ、教えて欲しいことがあるんです」


佐天はしばし考えてから、ひとつだけ心当たりがあることに気付く。
探るように、そっと一言口にする。


「一方通行さんのこと?」


初春はひとつ頷く。


「佐天さんはどうして一方通行さんのことが…好き、なんですか?」



474 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 23:05:04.20 ID:5egcb7o0

言われた佐天本人とよりも、初春の方が自分の言葉に赤くなる。
好き、その言葉を口にすることでさえも彼女には恥ずかしいことであった。
それでも、耳まで赤くしながらも初春は続ける。大切なことだから、決して言葉を濁してはならないことだから。

「前に佐天さんは言ってましたよね?可愛い人だって」


佐天はこくんと頷く。それは本音だ。
学園都市最強の能力者。
自分など足元にも及ばぬ存在。
自分の知らない修羅場を潜って来ているのだろう。


そして、一万人の人間を殺した男。


それなのに自分はそう感じた。未だに変わらない。


「私この前時間があったからちょっと一人の時に写真を編集してたんです。ホラ、制服取替えっこしたりした時のやつです」


475 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 23:06:25.34 ID:5egcb7o0
壮絶に常盤台の制服が似合っていた佐天さんの時だ。ぶっちゃ気電撃姫とツインテよりもお嬢様らしかった。
お嬢様がルーズソックスって…とか、未来の学園都市でもルーズソックスってまだ生き残っていたんだ、な常盤台だ。
まぁ、生き残ってるというか、御坂さんのセンスがぶっちゃけ……なだけなのだが、まぁそれはいいだろうこの際。


「あんた仕事中に何やってるのかね~?」
「えへへへ…まぁ、いいじゃないですか~」

呆れた。いつもそのことで白井に怒られているのは何処のお花畑だ。
佐天は起き上がりながら熱が引いてきたのか冷却ジェルシートを剥がす。
初春はぺろっと舌を出す。かわいいのであえて誤魔化されてやることにする


「御坂さんに白井さん、私に佐天さん。色々な事件に巻き込まれたり首を突っ込んだり。
ホント、去年の夏なんて目が回るくらいに色んなことがありました。
私なんて、殺されかけたこともあります。
それで学園都市で起こる事件を解決するのは風紀委員じゃなくて、
結局はレベルが高い人達なんだなぁって思ったんです」

佐天は何も言わない。それは覆ることの無い真実。
いくら強い正義感を持っていたとしても、様々な形で支援してきたといっても、
最後の決着を付けたのは御坂や白井であった。

「少し潜って調べると学園都市の裏側ではもっともっととんでもないことが起きてるんです。
それこそ毎日。それがどういったものなのかまでは詳しくわからないですし、
わかっちゃったら無事じゃ済まないんでしょうけど。
ただ、それらを解決しているのは噂だと能力者の集団みたいなんです」


476 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 23:07:59.20 ID:c29MpCE0

佐天もそれは薄々だが感づいていることだ。
その現場を目撃してしまったわけでもない、具体的に確信があるわけでもない。

ただ、時折、一方通行が酷く殺伐とした空気を、或いは消耗しきった表情を浮かべて帰って来るときがある。

学園都市最強の能力者を一体何がこうも追い込んでいるのだろうかと疑問に思ったことがある。
今にして思えば、それは初春のいうように裏で暗躍している能力者がいて、彼がその一人であるからなのかもしれない。

少なくとも、まともにアルバイトに精を出す一方通行の姿は想像が出来ない。


「僧侶ばかりじゃボスは倒せないんです。戦士がいて、魔法使いがいて、それで勇者がいて魔王を倒せるんですよ。
きっと私や佐天さんは僧侶なんです。私達だけじゃなくて、風紀委員の殆どがそう」


初春程ではないが、弟のゲームをやらせてもらったりしていた佐天は彼女の例えが何と無く理解できる。

でも…と初春は少し憂鬱そうに顔を曇らせる。

自分の口にしようとしている言葉に嫌悪するように、不味いものを口にしたように顔を顰める。

「でも、クリアしてからたまに思うんですよ。勇者がいるから魔王がいるんじゃないかなぁって。ゲームだから仕方が無いんです。仕方が無いんですけど。
でも、勇者なんて魔王が世界制服しようとしなければ必要ないじゃないですか?」

「まぁ…普通に生きていく分には伝説のなんたら~みたいなのはいらないよね」


477 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 23:09:57.09 ID:c29MpCE0

岩に刺さった伝説の聖剣よりも、どうせなら良く切れる包丁が欲しい。
佐天は主婦じみたことを考える。伝説の鎧よりも、汚れがすぐ落ちるエプロンが欲しい。
骨も残さず焼き尽くす炎の魔法よりもじっくり旨味を逃がさずに程よい火力のコンロが欲しい。

あっても困るものだからだ。
もっと昔であれば、そういうものへの憧れもあるが、今は自分にそんなものが扱えるとも思わない。
自分の手に余るだけだ。

「能力ももしかしたら一緒なんじゃないのかなぁって。強い能力が事件を解決してくれるんじゃなくて、
そもそも事件自体が強い能力の為にあるんじゃないのかって。
コナン君が推理してくれるから事件が起こるんじゃなくて、コナン君が推理力を発揮する為に事件が起きてるみたいな」


随分とキワドイ発言だ。


「たまに思うんです。とんでもない事件を解決してくれるのが強い能力者なら、
そもそもそのとんでもない事件を呼び込んでいるのもその強い能力者じゃないのかなって」

「そりゃ事件を起こす能力者もいるけど……御坂さんは、少なくとも御坂さんはそういう人じゃないよ?」


白井さんは性犯罪者の気が強いけどね、と半ば本気で佐天は思う。
中学生であの変態さは時折友人である自分も引く。というか正直6割の確率で引いてる。
自分が標的じゃないだけまだ他人事としてみているが、そうでなければ金属バットさんの出番かもしれない。
背筋に走る冷たい汗を感じながら佐天は苦笑する。



478 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 23:10:46.10 ID:c29MpCE0
「違います違います!!白井さんは確かに救いようの無いド変態だけど、違います。そうじゃなくて、その……引力というか、磁力というか……
事件に関係の有る無しじゃなくて、その人の持つ力とか、その人の心が引き寄せちゃうような…」


随分とオカルトチックな話しをするなぁと佐天は初春の言葉に耳を傾ける。
初春は両手を膝の上で組み合わせて、じっと瞳を伏せる。


「………そんなこと考えちゃう時点でどうかって思うんです自分でも。ただ、もし、もしですよ?
佐天さんが……一方通行さんに関わることで、そういうものに巻き込まれちゃったらどうしようって…」

幻想御手の事を言っているのだ。アレは自分の浅慮が招いたことなのに。
それでも初春にとって、親友の抱えていたものに、その根の深さに気付くことも出来ず苦しむ姿を見てしまったことは一種のトラウマとして残っていた。
一方通行が初春にとって命の恩人であることも知っている。初春から直接聞いたことだ。
それも佐天が一方通行に好意を抱くきっかけのひとつになっているのだが、そんな恩人を疫病神のように言わなくてはならないことに、初春は自己嫌悪を抱いている。
一方通行をそんな風に見ることへの憤りなどなく、そうまでして自分の身を案じていることが嬉かった。
佐天はそんな初春を愛しいと思う。一方通行に感じるものとは異なる愛しさ。
親友であると共に、何処か妹のようないじらしさ。
こんな優しくていじらしい妹がいたらと、そう思わせるものが今の初春にはあった。
そして、佐天涙子がそんな可愛い初春飾利に対して取るべき行動はたった一つだけだった。


「ぎゅうっっ!!」
「さ、佐天さんッ!?」


俯いていた初春を、佐天は思い切り抱きしめる。
花飾りに頬釣りをしながら、小さな彼女の身体を胸に抱き寄せる。


479 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 23:12:44.24 ID:c29MpCE0


「初春は心配性だねー愛い奴じゃ。愛い春だね~」
「苦しいです佐天さんってば!!」

初春の言葉を無視するように、佐天は初春の頭にぽすんと顎を乗せる。

「でもさ、そういう心配…してくれて本当に嬉しいよ」
「佐天さん?」
「正直ね、ちょっと色々あってへこんでたんだ……どうすればいいんだろうって」

御坂に似た少女の敵意に満ちた顔を思い出す。
悪意ではなく敵意。自分の心さえも傷つけるような悲痛な表情だった。
見てる方が痛くなるような、苦しさに顔を歪めた少女の言葉が過ぎる。


『ミサカの前でアイツのことわかったような顔してんじゃねーよ!!!アンタ何も知らないでしょ?
アイツのやってきたことなんて。何一つ。』


「どうすればって?」
「うん…まぁちょっとねぇ」


言葉を濁す佐天に、あえて初春は追求しない。
佐天は初春の頭を撫でながら、自分が思い悩み続けたことへの自分自身への反駁を口にする。



480 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 23:13:28.50 ID:c29MpCE0

「…私って中途半端なままが嫌なんだと思う。いや、違うのかな。単に凄く馬鹿だからかな……
馬鹿だからさぁ、何でも手を出して首突っ込んで、そんでもって痛い目に遭わないと懲りないんだ」


「………」

「懲りて、それでもうホント、反省しましたー!!ってならないと学べないんだよね。
そのせいで初春にたっぷり心配かけちゃったってわかってるんだけどね。
だからさ、先に謝っておく。ゴメンね」

「佐天さん……」

初春が深い溜息を付く。

「いいですよぉっだ。佐天さんが無茶して心配かけるのなんて今更なんですから」

「初春…ホント、どうしてこう馬鹿なんだろうね私」




ぎゅうっ初春を抱きしめる。
苦しいくらいに力を込められた腕に手を置きながら、初春は何も言わなかった。



481 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 23:15:11.41 ID:c29MpCE0


「とは言ったものの…いざとなったら勇気が出ないのが私クォリティーだよね」

「あァ?」

「いえ、何でも無いです!!」

パタパタと大げさに手を振る。
目の前の少年は怪訝な視線を送ってくるが、佐天には生憎とそこまで余裕が無い。
先ほどまでぽんぽんと繰り出されていた会話が、佐天が俯いたことで止む。
妙な沈黙が生じた。


天使が通るという言葉があったなと一方通行は温くなりつつあるコーヒーを飲む。

舌に温く、安っぽい苦味がへばりつく。
唇を真一文字に閉じる。あまりの不味さに思わず唇が強張る。
しかし、その不味さが、一方通行の思考を引き戻した。


佐天を見つめながら、思い出すのは土御門に言われた言葉。



―――― 半端な気持ちなら佐天涙子に近づくな ――――



わかっていた。そんな事言われるまでもなく。
そして、何が正しいのか、どうするのが最も確かなのかもわかっている。

その為の決断だ。

その為に覚悟をする必要がある。


タイミングは突然であったが腰抜けの臆病者の自分にはこうでもなければ覚悟は付かなかったのかもしれない。



482 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/26(日) 23:15:57.32 ID:c29MpCE0

「なァ……お前は聞いたのか?アイツから」


「………アイツ?」


誰のことだろうかと、佐天の瞳が問い掛ける。


「番外…ミサカにだよ」


奇妙な名を口にしそうになったところで、慌ててミサカといい直す。
御坂美琴の姉ということにしていたのだ。
佐天は、一瞬目を見開くと、何も答えない。


「そォか…」


彼女の沈黙が答えだった。


コイツは知っているのだ、やはり。


番外個体の言葉は事実であり、先ほどまでの目の前の少女の明るさこそがブラフだったのだ。
一方通行は、覚悟を決めるように、深い溜息を吐く。


「場所……変えるぞ。俺の部屋でいいか?」


佐天が頷くのを確認すると、一方通行はゆっくりと席を立った。



491 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/28(火) 00:15:45.26 ID:YzNGWyE0

鉛のような沈黙が降りていた。

目の前に淹れた二つのカップから立ち上っていた湯気はとうに消えていた。
どちらとも珈琲にはまったく手を付けていなかった。

珈琲が冷めるまでの時間はあっけなく感じる一方で気の遠くなるような時間であった。


俯いた佐天の表情はわからない。
膝の上で組み合わされた小さな女の子らしい手が、ぎゅっと力のこもっていることだけはわかる。


やはり言うべきではなかった、まずは後悔が胸の中に生まれる。
しかし、一方通行はどこか重圧が解けた心地を覚えていた。
後悔は確かにある、しかし、ホッとしているのだ。


暗澹とした安堵。


彼女に隠し続けることに対するうしろめたさから解き放たれたからだろうか。

そんなことを考える自分を酷く憎み、軽蔑する。

正直と誠実は違う。正直とは子供のものであり、誠実とは大人にのみ許された感情だ。
ただ自分の気が済まないからと何もかも話すことは正直であって、誠実ではない。
傷つけない為に時には自分を殺してでも優しい嘘を吐くことそれが誠実。

だとすれば、自分は土御門の言うとおりガキなのだろう。

冷めた珈琲に手を伸ばそうとして止める。


「今言った通りだ。わかったろ?俺がどンだけ救いようのねェ悪党かが」


俯いたままの佐天を、憂鬱な気持ちで眺める。

彼女の今の表情を考えることさえ心を重くする。



492 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/28(火) 00:16:45.48 ID:YzNGWyE0

「てめェがレベル5にどンなイメージを抱いてるのかはわからねェ。だがな、超電磁砲みたいな奴ばかりだと思うな。
アイツは例外だ。俺みてェなクソったれな悪党だっている。むしろそンな奴ばかりだ…」

そう、御坂美琴は希有な存在。
故に、自分は彼女を羨む。暗部に関わることなく、表で生きていける彼女に、嫉妬にも似た思いを抱く。


「だから…」

一瞬口ごもる。
この期に及んで、まだ躊躇う自分の愚かさ、臆病さ、情けなさ、脆弱さに反吐が出る。


「もう…ここには来るな。つーか気づけよ。お前騙されてたンだよ。
浮かれたメスガキの馬鹿っぷりがあンまり愉快だったからよ。
けど、そいつももう終いだ。いい加減メスガキの相手もウザったくなってきたからよ」

佐天の肩がびくりと震える。
一方通行の口から舌打ちが出る。

「目障りなんだよ…ッ」

苛立ちが声に滲む。
こういう風に突き放すことしか出来ない自分に向けた苛立ちだ。

佐天は何も言わずに俯く。

10秒、20秒、30秒。

沈黙が降りる。


一分、二分、三分。

沈黙が続く。



493 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/28(火) 00:17:50.27 ID:YzNGWyE0

十分が経過したのだろか。
一方通行は佐天からそらすように、自分の珈琲の表面を見つめる。

沈黙を破ったのは、佐天だった。


「わかりました」

ああ、と声にならないため息が喉を震わす。
自分でそうし向けたというのに、終わりを告げる言葉に、はっきりと打ちのめされている。
だったら、もう帰れ、そう口にするべく、顔を上げた一方通行は自分をまっすぐに見つめる佐天の表情に言葉を飲み下す。

佐天は柔らかく、微かに微笑んでいた。


「一方通行さん、やっぱり優しいですよ」


一方通行は息を呑む。
悪態を吐くことさえ、思い浮かばない。
思いも寄らない言葉に、思考が真っ白になる。
理解が出来ない。一方通行が思ったのはそれだけだった。

「そしてゴメンなさい。辛いこと、いっぱい言わせちゃって」

スカートを掴む手に力がこもるのがわかる。
更に一方通行は理解が出来ない。軽い混乱に陥っているのが自分でもわかる。

「お前…俺の話聞いてたのか?俺が何したのか、今話したよな、それで何でそうなる?ンなふざけた言葉がどうして出てくる」

優しいなんて言うな。
焦りと苛立ちに、唇を噛みしめる。

「お前は怖くねェのか?お前くらいのガキを殺したって言ってるンだぜ」
「それは怖いですよ。でもえ正直一万人を、っていう話がピンときてないのが本音です。ただ、一方通行さんが言ってることが本当のことなんだっていうのも
何となくわかるんです。だから怖いです。想像も出来ないっていうのが一番怖いです。ただ……それでも私信じていないんです」
「なに?今テメェが言ったことも忘れちまったのか。そいつはァ紛れもねェ事実だ。何だったら“ゴミ捨て場”から骨でも拾ってきてやろうか?」

真横に引き裂いたような笑みを浮かべる一方通行から視線を逸らさず、佐天は困ったような笑みを浮かべる。



「違います。私が信じないのは一方通行さんが悪党だっていうことを、です」



494 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/28(火) 00:20:39.31 ID:YzNGWyE0


「は ―――― 」

何を言ってるのだこいつは?何を言っている?

「ははは ――― かかかはははは、ははは ―――……」

悪党であることを信じない?俺が悪党ではないだと?

「……お前、本当に馬鹿だなァ……」

コイツは本当に馬鹿なガキだ。当たり前の常識すら知らない。

「お前、ちゃんとわかってンのか?一人だとか二人じゃねェンだ。過失でも、正当防衛でも、偶然でも、事故でも、冤罪でもねェ。
純然たる俺の意思でブチ殺してやってンだぞ?一万もの人間を。砕いて、焼いて、埋めて、轢いて、潰して、裂いて、抉って、切って…
思いつくことをやり尽して、殺してきたンだぞ?そういう奴を世間じゃ『悪党』って呼ぶンだよ」

そうだ、それが当然のことなのだ。
自棄になっているのではない。
自嘲で言ってるのではない。

それは真っ当な『事実』だ。

「そうかもしれません。でも、違うと思います」

まるで子供のダダだ。打ち止めがごねた時のような、どうにもならない苛立ちと困惑に言葉を失いかける。
冗談じゃない。こんなただの、普通の、無能力者のガキに、一体何を自分は乱されているというのだ。


「は、違う?じゃあ、何が違うンだァ?」

「だって……貴方の言ってる昔の貴方と、私の知ってる今の貴方は違うんだもん」

「………はァ?」

今の俺を見て、それで違う?何がだ?昔も今も、俺は俺だ。
コイツは話しを聞いていたのか。この話しは至ってシンプルなのだ。
学園都市最凶の怪物は『最強を目指して、更に強くなる為に一万人もの人間を殺した』それだけのことなのだ。
それに対する答えは『この人殺しの悪魔』という罵声が正しい。
それをわけのわからない屁理屈で。怒りがぐつぐつと湧き立つ。

「じゃあ、今の俺がお前的には悪党じゃないからノープロブレムってかァ?おめでてェなァ」

佐天は、もどかしげに首を振る。

「…ホント、上手く言えないんですけど……一方通行さんは確かに加害者で、罪をいっぱい背負っちゃってるって、それはわかるんです。私にだって。
でも…一方通行さんは悪党だって…私にはどうしても思えないんです」


495 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/28(火) 00:25:28.16 ID:YzNGWyE0

「………」

「私、あの御坂さんのお姉さんに言われてからずっと考えてたんです。考えて考えて、そんでお風呂でのぼせちゃうくらい考えて。
それでもやっぱりわかんなかった。一方通行さんがどんな気持ちだったのかっていうことが」

そんなもの、自分にだってわからない。
打ち止めに言い当てられた実験における自分の心情。
言い当てられたというぎくりとした焦りと同時に、疑う気持ちもあった。
そんなわけがないだろうと、都合よく解釈するんじゃないと、反発も抱いていた。

自分はそんなに繊細ではない。
自分もまた実験の被害者の一人であるような言い方は止めろ。
自分はそこまで考えて少女達に言葉を投げつけていたわけじゃない。

でなければ、自分は罪から逃れるための逃げ道に縋りついてしまいそうだ。


「だけど、私には一方通行さんの気持ちなんてわかるはずがないんです。だって、一方通行さんにだって私の気持ちなんてわからないでしょ?
んで、開き直っちゃうことにしたんです。わからないなら、そのままでいいやって。見てもいない一方通行さんのことを理解できなくてもいいやって。
ただ、私の知ってる一方通行さんのことを信じればいいやって。だから、信じません。貴方が悪党だって信じきってる貴方を、私は信じません。
私の信じるのは、私の知ってる一方通行さんだけです」


真っ直ぐに向けられる瞳と、拙いくせに迷いの無い言葉に頬を張られたように呆然とする。
学園都市最強のレベル5が、レベル0の無能力者の少女に圧倒されている。
一方通行は、その事実をハッキリと認識する。




496 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/28(火) 00:26:26.32 ID:YzNGWyE0


真っ直ぐに一方通行の目を見つめながら、佐天はけたたましく打っている自分の鼓動を感じる。
自分の言ってる言葉、言ってる相手、言ってる自分という存在。
全てに大して、何を偉そうに、という冷めた言葉が絶えず生じる。

何を言ってるのよ、私はそんな大した奴じゃない。
頭だって大して良くない。
顔も絶賛するような美人じゃない。
腕力だって並だし、当然運動神経だってそこそこだ。
趣味らしい趣味は無いし、人に誇れるような特技だってない。

そして何より自分には能力が無い。

それでも、それでも此処で引くことは出来ない。

「信じたいものだけを信じてるってことじゃねェかそりゃァよォ。テメェは結局都合のいいところだけを見てるンだろォが。
どんなイメージだか知らねェが、ソイツを俺に押し付けンのは止めろ」

赤い瞳がぎらっと光る。正直怖い。
それが本気で向けてるものとは思わない。殺気なんてものマンガじゃないんだからわかるはずがない。
それでも怖い。路地裏にいるスキルアウトなんて目じゃないくらい怖い。
端整な顔が苛立ちと嘲笑で歪むとこうまで怖いものなのだろうか。

「そんなんじゃないです。ただ信じられるから信じてるだけです」

本当に、それだけだ。何も小難しいことなど無い。
自分が接してきた一方通行に、どうしても自分は『悪』という文字を当てはめることが出来なかった。


「誰だってそうしてることだから。信じれるから信じて、信じられないから信じない。
特別なんかじゃ全然ないんです」

特別。自分には最も似つかわしくない言葉。
自嘲と共にそう思う。
一方通行は、呆気に取られたように赤い瞳を丸くしている。
ウサギみたいだ。場違いな感想が過ぎる。


497 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/28(火) 00:27:30.90 ID:YzNGWyE0


「………ウゼェンだよ」

唇を噛んだ一方通行が俯く。
苛立ちと共に、途方に暮れた声が絞り出される。

「変にメスガキに懐かれてこっちは苛立ってンだ。その上ごちゃごちゃとわけのわかンねェこと言いやがって……」

ぎしっとソファのスプリングが微かに軋む。
息を呑んだ。一方通行が身を乗り出すように、立ち上がる。
白い手が胸元に伸びると、そのまま襟首を掴まれた。

「痛ッ……」

乱暴に掴み上げられ、思わず声が出る。
一方通行が、嗜虐的な笑みを浮かべると、そのまま視界が反転する。

「あう…ッ」


ぎしっとソファが軋み、目の前に赤い瞳が映る。
視界の隅には天井。

「……ッ」

自分が押し倒されたことにようやく気付く。
目の前、鼻と鼻がぶつかりそうな距離にある白い唇から、小さく息が零れる。
頬を温い身体から零れた吐息が撫でていく。ぞくりと、背筋に奇妙な疼きが走る。
痴漢に遭った時のような嫌悪感ではない。



「血の巡りの悪ィ出来損ないの頭にわからせてやろうか?これ以上わけわかンねェこと抜かすとどうなンのか。
ぶち犯されて、グチャグチャにされて、痛い目っつー痛い目に遭わせらンなきゃあ懲りないタイプみてェだからなァ」


その通りです。そういう馬鹿なタイプなんです。心の中でそっと呟く。
一方通行の手が、胸元に伸びる。身体が一瞬、条件反射のように震える。



498 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/28(火) 00:28:15.49 ID:YzNGWyE0


「くかかかかか……ようやくらしい反応が出てきたじゃねェか?震えてるぜ?」



当然だ、そんな経験など無いのだから。

怖気づいた身体の蠢きを感じ取ったのか、一方通行の手が一瞬止まり、そしてシャツの胸元を一気に引き裂く。

「イァ……ッ」

外気に曝された肌がぶるっと震える。
年齢に似合わぬ、水色の下着に包まれた胸が一方通行の目の前に曝される。
身を捩り、隠そうとすると、両腕を片手で押さえこまれる。そして空いた手が乱暴に胸をわしづかみにする。

「……ンン……ふ…」

びりびりと痺れが胸から全身に走る。咄嗟に出そうになった声を押し殺す。
舌打ちが耳の側でする。見下ろす一方通行の瞳に、戸惑いと苛立ち。そして後悔が見えた。
一方通行に頬を掴まれる。引き寄せられると、更に彼の瞳が間近にくる。


「気に入らねェなァ……何耐えようとしてンですかァ?そうやって我慢してりゃァ俺が止めるとでも思ってるンですかァ?
目を覚まして、良い人に戻ってくれるなんて……思ってるんだとしたら、哀れ過ぎて可愛いぜェ…?」

「痛ッ!!」

遠慮なく、胸の頂点、突起を一方通行に捻り上げられる。
激痛に声が漏れる。口を押さえようとしても、両腕の自由が利かない。


499 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/28(火) 00:29:24.75 ID:YzNGWyE0



「んゥッ……ふうぅ……あン……ン……」



リビングには僅かな物音のみが広がる。
スプリングの時折軋む音。
衣がこすれる音。
二人分の息遣い。


そして、自分の喉から漏れる声。

リビングに溶けて行く音が、自分のものだとわかると身体が恥ずかしさで熱くなる。
時間はまだ大して経っていないはずだ。
一方通行の手が胸をまさぐり、彼の吐息が首筋に当たる。
何故か不思議だった。嫌悪感が一向に起こらない。


「ンうゥッ!!」

首筋にチクリとした痛みが走る。
首に元に顔を埋めているのか、視界の端に白い髪に覆われる。
熱い舌が首筋を舐める感触に、甘い声が溢れそうになる。ぐっと唇を噛み締める。
もう何も考えられない。頭の中が真っ白になる。



「……んでだァ……」

一方通行の声に、ぼぅっとしていた頭が現実に引き戻される。
目の前には困惑した彼の顔。不思議だ。

こうして押し倒されて好き勝手されつつある自分よりも、組み敷いているこの人の方がずっと追い詰められた顔をしている。




500 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/28(火) 00:36:58.15 ID:YzNGWyE0

「なンでだァ…どうして跳ね除けねェ?いい加減目ェ覚めたろ?それとも本当に犯られなきゃあわかンねェのか?
そうまでして痛い目に遭わないきゃ、クソッタレの外道だってわかンねェのか?」
「………わかりません。だってそれウソですもん」
「うそ…?」
「だって……そんなこと……一方通行さんはしませんから」
「……ッ……馬鹿か……テメェ……」


ねぇ、一方通行さん。気付いていますか?
ずっと自分の声が震えているのに。


「……どんなに悪いことをしたからって、それでこれからも悪い人でい続けなきゃ駄目なんですか?」


償うことすら出来ない。変わることすら出来ない。
そんなことあるのか。やり直すことは出来なくても、許されなくても、それでも許されてもいいはずだ。
償おうとすること、変わろうとすること、そう「しよう」とすることだけは許されなければおかしい。



「ったりめぇだろォが……「そんなの嫌です!」……オイ…」


「誰が認めちゃっても一方通行さんが認めちゃっても、私は認めてなんてやりません」


両腕の拘束が緩んだ。
圧し掛かっていた一方通行の身体が離れる。
赤い瞳が、彷徨うように揺れている。
それを追いかけるように、自由になった手は引き寄せられるように目の前に伸びる。
目の前の、途方に暮れた少年の頬に伸びる。

びくりと、今度は彼が震える番だった。




「だって……こんなに泣きそうな顔をしてる人を放っておくなんて出来ません」


ひくりと、一方通行の喉が震える。


501 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/28(火) 00:38:51.63 ID:YzNGWyE0

佐天の優しく、濡れた瞳を捉える。柔らかく開いた唇が目に着く。
両の頬に触れている手が微かに震えていることに気付く。何を今更。ついさっき、そう言って彼女を言葉で弄んだではないか。
ついさっき?果たしてそうだったのだろうか。本当はもっと前からかもしれない。だとすればいつから?
彼女の様子を思い返す。


―――― 膝の上で組み合わされた小さな女の子らしい手が、ぎゅっと力のこもっていることだけはわかる。 ――――

それが震えを誤魔化す為だったら?


『 ――― それは怖いですよ』

それは冗談ではなく本音だったら?


ぞくりと、身体を、心を、揺さ振るような感触が全身を撫でたような気がした。
彼女は怖いのだ。ずっと、今まで。その上で、自分と向き合っていたのだ。
彼女に向けた言葉を思い出す。

『俺がどんだけお前に      かをなァ』

自分の偽らざる本音。思わず零れ落ちてしまったのは、彼女が珍しく気落ちしていたから。そんな彼女を見ていられなかったから。
彼女の望む言葉の本質を感じ取ってしまったから。そして、今の彼女のあり方こそが、まさに自分が彼女に対して抱いている本質だった。
眩しいと、そう、目が眩むほどに眩しいと感じる彼女の強さ。魅力。本質。
自分の中の何かを掴んで引きずり出していくような気がした。
気付けば一方通行は飛びのくように佐天から距離を置いていた。

これ以上、佐天と一緒にいてはいけない。いてしまえば、自分の決意も何も無くなってしまう。
理解の出来ない感情。結標といるときに時折感じる感情。それよりももっと強い衝動。

一体自分はどうしたというのだろうか。
佐天が胸元を手で抑えながら、見つめてくる。

耐え切れず、一方通行は声をあげた。


「……悪ィ……帰ってくれ……今の俺は、わけが…もう、ワケがわからねェ…ンだ」


縋るように、請うように、学園都市最凶の怪物などという冠がウソのような、それはただの途方に暮れた少年の言葉だった。


502 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/28(火) 00:40:34.29 ID:YzNGWyE0

押し付けられるように渡されたコートは明らかに男もののレザーコートだった。
しかし、それに対して何かを言う雰囲気ではなかった。


自己嫌悪が佐天の中にある。

正直、あのまま彼にすべてを捧げてしまっても良いとさえ思った。
軽率かもしれないが、あの瞬間、自分は確かにそう感じていた。

自分はただ素直に、正直に、感情のままに行動した。

押し倒されたときは怖かった。
自分で触るのとは全く違う感覚に戸惑った。
自分が何を言い出すのか、自分でも抑制が利かなかった。
ただ、嘘だけは吐きたくなかった。彼にだけは。自分の痛みを隠さずに語ってくれた彼に応えるために。
けれども、それが一方通行を追い詰めてしまったのだろうか。
縋るように、請うように、願うように、頼むように。
最後に彼が吐き出した言葉は、それまでの嘲りの言葉よりも胸を突いた。

自分の何が彼を追い詰めてしまったのだろうか。
一体何が足りないのだろうか。
やはり想いだけではいけないのだろうか。



503 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/28(火) 00:41:21.12 ID:YzNGWyE0

「おぉ、可愛いじゃん。どうしたんだい?そんなにしょげちゃってよ。彼氏にでもフラれたのかい?」


頬が強張る。夜遅いというほどの時間でもないのに、既にこの手のナンパが来た。
学園都市では珍しくは無いが、この時間であれば風紀委員の目を嫌う者が多い。
ちらりと声の方を振り向くと、高校生くらいの男が立っていた。背は高く、長い髪は茶色。
ジャケットに、コートを簡単に羽織っているだけなのに、様になるのはスタイルのおかげだろう。


「い、いえ、そんなのじゃないんです。じゃあ…」

それだけ言うと、足早に立ち去ろうとする。
この時間であれば、一人に固執するよりも即座にターゲットを切り替える人の方が多い。

「まぁまぁ、待っててば。つれねーじゃんか」

しつこいな、と苛立ちを押し殺す。男の姿を改めてみると、そこらにいるチンピラとは比べられないほどに整った顔の男だった。
顔立ちは一方通行と同等に恐ろしく整っている反面、一方通行とは全くその種類が異なる。
彼の人を寄せ付けない、中性的、浮世離れした顔とは異なり、良く言えばわかりやすい、悪く言えば俗っぽい美形だった。

「あれ?泣いた跡があるぜ?もしかしてさっきのフラレたっていうの図星だったりする?」

「あ、あの私急いでるんです…だから…」

「そっけないね~彼氏にフラレたっての図星だったわけ?いやぁ…それとも ――――― 」

男がくすりと笑った気配がした。


「一方通行にフラレたのかな?」



504 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/28(火) 00:46:41.00 ID:YzNGWyE0



佐天がいなくなった後の部屋。

一方通行は椅子に座ったまま、虚空を睨んでいた。

ライトは付けず、月明かりだけが薄い靄程度の明度をリビングにもたらす。
蕩けるような輪郭のみの闇の中、一方通行は己の胸の鼓動に耳を傾けていた。
一体、あの感覚は何だろうか。
佐天や結標、時に番外個体にまで抱くもの。
それに翻弄されているのはわかる。
そして、それに翻弄されたまま、佐天涙子に自分を曝すことが恐ろしかった。
自分で自分がわからなくなってしまうような。
自分の中の大きなうねりに自分自身が飲み込まれてしまうような不安。

視線が何気なくテーブルの上に留まる。
湯気を立てる珈琲の側に乱暴に投げ出された黒いエプロン。

それを手に取り、抱きしめる。
甘い、柑橘類の香り。
ヘアフレグランスだけではない、佐天自身の香りが染み付いていた。
ほんの数時間前のことが過ぎる。押し倒した彼女から香る芳香。眩暈がした。
溺れてしまいそうな、恐ろしく染み込むような甘い匂いだった。

思い出すだけで、身体の芯が熱くなる。


「クソ……ッ」


ガシガシと頭を掻き毟る。苛立ちともどかしさが混ざり合う。
まったく自分らしくないことばかりだ。
一体何なのだろうか。何か自分はしたのだろうか。
どうして自分がこんなわけのわからない感情に翻弄されなければならないのだ。

そうして、肝心の決断も下せずに、突き放すことも、抱え込むことも出来ずに、無様にこの有様だ。



505 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/28(火) 00:51:45.19 ID:YzNGWyE0
静寂を突然破ったのは、一方通行の携帯であった。
煩わしさを抱きつつも、手に取ると表示に目を見開く。


『サテン』


おそるおそる取る。一体何を話そうか、話すべきか。
頭の中が目まぐるしく回転を始める。
覚悟を決め通話ボタンを押す。


『さっさと出ろよな~ったく、相変わらずムカつく野郎だなぁ第一位』


時間が止まった。


「…おま…え」

『なんだぁ?その反応は。電話越しとはいえ、折角の再会だっていうのによ』

何故コイツが出ている?

『それとも、第一位様は格下のことなんざ瞬間的に記憶から消え去るのかね~』

何故コイツがサテンの電話に出ている?

『つれねぇ~よなぁ』

何故コイツが……

『折角地獄から戻ってきてやったっていうのによ、なぁ一方通行?』
   
   ……生きている?

『涙子ちゃんにもそんなふうにつれなくしてたんだろ~?』

「!?お前……アイツに……」

『そんなんだから簡単に攫われちまうんだよぉ~』


「アイツに何をしたァ……ッ!」



『イイ声じゃねぇかよぉぉ、なぁぁおい、一方通行ァァァァァァーーー!!!』

「垣根ェェェェェェェェーーーーーーーーーーー!!!」


509 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/28(火) 01:01:04.04 ID:U02a7IA0
垣根ェェェェェェェェーーーーーーーーーーー!!!

514 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[] 投稿日:2010/12/28(火) 01:42:14.40 ID:fDmJqdk0
ていとくんが出てくるとなんだかワクワクするのはなぜ

530 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:05:21.31 ID:TW5Selw0



アレイスターへの直接交渉権などどうでも良かった。
それよりも、自分を消滅へと追い込んだ男が重要であった。
常に自分の上に立ち、そして追いついたと錯覚した瞬間に、更なる領域を見せつけ自分を一蹴した男。
ただ、自分がただの踏み台としての価値しか持たせて貰えなかった男。
その男との決着が、飢えと、餓えになって自分を駆り立てた。
強迫観念にも似た思いで、一方通行を探し当て、そして、今夜彼と戦う場を垣根帝督は用意した。

野晒しの朽ち果てたステージにお粗末な設備。
書き殴りの推敲無しの脚本。
監督もいなければ、演出もいない。
観客もいなければ、利益にもならない。
台詞とアクションの大半は役者のアドリブ任せ。
舞台としては最低だ。
しかし、それで垣根は良かった。

重要なのは主演。

自分と一方通行。

この二人が揃えばそれで良い。
それで良いのだと、垣根は月を見上げていた。




531 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:05:48.02 ID:TW5Selw0

こみ上げる怒りを排出するように、深々と白い息を吐きながら一方通行は空を見上げる。
時刻は日付を跨いだばかり、空を見上げれば月が見事な真円を描いている。
真っ黒な天井に空いた穴のようだ。佐天を送っていったある日もこんな月だった。
まるで穴のようだと思っていたら心を読んだかのように佐天が言った。

『お月様を見て穴だと思う人は不安な人なんだって私なんかで読んだんですよ』


「くっだらねェ……」


月のすぐ下には歪なビルが一棟。
他にそのビルに見合う高さの建物が無いせいか、やたらと目を引く。
どうにも目の前のビルに一方通行は違和感を禁じえない。
そもそもこの一帯でまともに形を残しているビルは限られている。
今にも月を貫こうと待ち構えているようにその一棟はやたらと目を引いた。
それを差し引いても、ちくりとした違和感があった。
GPSに目をやりながら、こんなビルがあっただろうかと、思いかけて思考を閉じる。
どうでもいいことに思考を費やしている暇など無い。余裕も無い。

結局土御門の言っていた通りになった。
巻き込んで、そして、まんまと攫われてしまった。
さっさと手放してれば良かったのだ。突っぱねて、少しくらい傷つけてでもこんな下衆から引き離してやればよかった。
きっとそうすれば今頃は温かい寝床に就いて、穏やかに眠っていたはずだ。


しかし、後悔は後でいい。


離れるのも後でいい。


今は真っ先にすべきことがある。


視線をそのままゆっくりと地上に下ろしていくと、一瞬、視界がぼやける。
うんざりとするその光景に煩わしさを吐き捨てるように舌打ちをする。
身体の感覚を麻痺させてしまうようなこちらの寒さとは無縁の熱気でむせ返ってしまいそうだ。
人の醸し出す音の重なり。寄り集まった肉の放つ熱。無数の息遣いが溶け合う空気。


「よくもまァ……こンなにカスを集めたもンだなァ……何だか見かけたツラばかりじゃあねェかァ?」



532 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:07:00.42 ID:TW5Selw0

けけけけと、唇を釣り上げて笑う。
初めて発した声に、目の前の集団がもぞりと身動ぎしたのがわかる。
怯えと、反発、憎悪と怒り。
各々が抱く感情が一方通行の声ひとつに反応するように震えたのだ。
その一種の連帯感、統一感は集団というよりも群体だろうか。
ジャケットに伸ばしかけた手を首にあてる。
ざらっと確認した人数が四桁に近いと判断すると共に、行動を変える。

グダグダやっている時間は無い。

内心の焦りを、不敵な笑みに切り替え、一方通行はありったけの悪意を込めて嗤う。

チョーカーのスイッチに指を掛ける。


「オイ、一方通行よ。そんな余裕ぶってていいのか?この人数相手によ」
「ああァ?」

集団の一角から声がする。震えを隠しきれていないお粗末さに怒りよりも呆れる。
震える声に虚勢を織り交ぜた声が、無理矢理笑い声を上げる。


「知ってるんだぜ?お前能力に制限が掛かってるんだって。すっかり弱くなっちまってんだろう?」
「そんなザマで俺らを相手に出来るのかよ」
「垣根さんだってこっちにやいるんだぜ?」


嘲笑しているつもりなのだろうが、生憎と一方通行には下手糞な役者の棒読み台詞にしか聞こえない。
最低最悪、ある意味では清々しいほどのやられ役台詞に、一方通行の唇が捲れるような笑みを形作る。


「オイオイ、集めに集めたりって感じだなァ。厳選されたカスばかりじゃねェかよ。くくく…かかかかか。
クソばかり集めたクソ山のカリスマにでもなるつもりですかァァ…?クソメルヘン野郎がァァ」



533 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:10:00.93 ID:TW5Selw0
邪悪な笑み、敵意と愚弄で塗り固めたせせら笑い。
少年からもたらされる空気の変化に気付いたのは集団の前面に立つ者達。
学園都市の夜を這いずり回る彼らが持ちえるスキルが後ずさらせる。能力も持たない、誇りも持たない、生き甲斐も持たない。
そんな彼らが、夜の学園都市を這いずり回る上で必須のスキル、それは強者と弱者の嗅ぎ分け。
その嗅覚が数において圧倒的に優位に立つ彼らの足を前にではなく、後ろに下がらせた。
自分達を捻り潰せる怪物の匂いにようやく気付いたのだ。
そして、恐怖は伝播する。
数百人という肉の塊とも呼べる集団に、じわじわと浸透していく感情。
後悔、恐怖、失望、諦観、自棄、反発、屈辱。
一方通行はそれらの感情の波紋が広がり、異なる波紋同士がぶつかっていくのを鋭くキャッチする。
チョーカーに掛けた指を滑らせる。

かちり。

渇いた音が、彼らの意識を一瞬、たった一人の少年に向けさせることになった。
数百もの人間が、一斉に息を呑む気配が闇空の下に声無きどよめきとなって広がる。
華奢な少年が、学園都市の闇を食い散らかす怪物に切り替わった瞬間を目にしたからだ。

「気が向いたら殺さないでおいてやるかもしれねェが……あんまり期待はすンじゃねェぞ?」
穴のような月を一度だけ見上げると、一方通行がカパリと嗤う。



歪なビルの最上階。ガラスがくり抜かれた窓枠に腰掛け、下で繰り広げられている光景に目をやる。
「お~お~、相変わらず強ェ~強ェ~。っていうか、あの野郎明らかに前より強くなってるだろうが」
いや、能力の使い方が上手くなってんのか、純粋に興味津々に呟く。
垣根帝督は楽しそうに声を上げ見下ろす。
まるでスポーツの試合を最前列で観戦しているような無邪気な声に、佐天涙子は困惑する。
佐天の困惑を感じ取ったのか、垣根がふっと視線を佐天に移す。
垣根はまるでクラスの悪ガキがからかう気安さで佐天をニヤニヤと見つめる。

「涙子ちゃんも見てみるかい?あの白モヤシ、すっげー必死な顔で雑魚ども蹴散らしてやがる。マジ受けるなぁ」
「どうしてこんなことするんですか?」
佐天は腕を動かそうとするが、手錠に繋がれた腕は鎖の音を悪戯に立てるだけ。
もどかしさと悔しさに俯きそうになる。垣根の視線は既にビルの下へと向いていた。
佐天からは見えないが、破壊音と、悲鳴、爆発音まで聞こえてくる。
まるで戦争でもしているのだろうかという程に。

「こんなことってのは涙子ちゃんを攫っちゃったことかい?
それとも、あのクソ野郎に喧嘩吹っ掛けちゃってることかい?」
おお、スゲェ吹っ飛んでらぁ、と子供のように歓声を上げている垣根に、佐天は怒りも露わに目尻を釣り上げる。

「どっちもです!!」


534 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:11:00.09 ID:TW5Selw0

「怒るなって。可愛い顔が台無しじゃねぇか。だってよ、仕方が無いだろう?」

窓枠から腰を上げると、垣根は身体を伸ばす。
まるで柔軟体操をするように肩をまわしながら、ダルそうに佐天に近づく。

「俺はさ、あの野郎に借りがあるんだよ。有体に言えば敵討ちっていうの?」
その言葉が示す先に、佐天はひとつの心当たりにぶつかる。
「敵討ち……一方通行さんがしていた実験っていう……」

驚きと共に垣根を見上げた佐天であったが、佐天の予想とは裏腹に垣根は感心したようにへぇと声を漏らす。
思いも寄らぬことを言われたと言うように。
垣根の表情に、それまで大してなかった興味のようなものが生じる。

「あのガリガリ君、そんなことまでお前に話してるのか?餌程度に連れて来たけど思いの外VIPみたいだなぁ」


そう言って佐天の黒髪の一房に触れる。
さらさらとした手触りを堪能するように指先で弄ぶ。
佐天が、嫌悪を剥き出しにして首を振る。指先から零れる黒髪を、残念そうに見遣ってから垣根はますます楽しそうな笑みを深める。

「可愛いねぇ。如何にも穢れてねぇ感じがして。あのモヤシ野郎わかりやすい趣味してんなぁ。
俺はもう少しビクビクしてくる子がタイプだけどさぁ。アイツは勝気なのが好きなんかねぇ」


くすくすと笑い声が、廃墟のように人気のないビルに低く響く。


「まぁ、いいさ。こちとらアイツをぶち殺せればそれでいいわけだし?教えてやるよ。俺の言う敵討ちってのは俺のだ。
俺を殺した敵討ちをしようって思ってるんだよ。リベンジだな」

「は…?」


意味がわからないと、佐天が間の抜けた声を上げる。
イチイチ素直な反応をしてくる彼女が面白いのか、垣根が噴出す。

「はははははッ!そうそう、そうだよな、そういう反応になるよな、普通はよぉ。その反応、わかるぜ?マジで。
俺だってきっと思うだろうさ。テメェ何沸いたこと言ってやがるんだってなるよなぁ。ははははは!!」


壊れたように笑い始める垣根に、佐天は怯えるように眉を顰める。
異常な無邪気さと、テンションの高さ、何も危害を加えられてもいないというのに、佐天は目の前の男に恐れを抱く。
笑顔にこそ狂気が映し出されるという。また、笑顔には威嚇の意味もあると聞いたことがある。
それは、目の前の男を見ていると納得がいく。
ひとしきり笑ってから、片眉を吊り上げながら垣根は唇を歪める。

535 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:13:51.57 ID:TW5Selw0

「けどよ、本当なんだぜ?俺はアイツにズッダズダにされてぶち殺された。いやぁ、それよかヒデェな。
脳だけにされちまってわけのわかんねぇ実験に使われてたんだからよぉ…ま、こうして生き返れたわけなんだがな」
「それでお返しっていうわけですか?第二位が第一位に勝つには人手を集めて人質まで取らなきゃ無理なんですね」

佐天の瞳が真っ直ぐに垣根を見上げる。垣根の浮かべていた薄ら笑いが消える。瞳に危険なものが浮かんでいることに気付きながら、佐天は睨むことを止めない。

「……言うじゃねぇか」

重く押し殺した声は、それだけでも失神してしまいそうな程の圧迫感を与えてくる。
背中に冷たい汗が流れるのを無視して、佐天は言葉を続ける。

「でも、あの人は負けませんから。子分集めなきゃ戦えない人なんかには、絶対」
「いいねぇ…命知らずっていうか、好きな男を信じきってる女っていうのは可愛いなぁ……けどさ」

がつんと鈍い音と共に、垣根の足が佐天の肩を無造作に蹴り飛ばす。
床に転がる佐天の背を固い革靴が容赦なく落とされる。
ぎりっと踏みつけた背を捻る様に更に踏みつける。
「ッ…はッ」
塊のような息が漏れる。
痛みと苦しさに佐天の目尻に涙が浮かぶ。それを苛立ち混じりの笑みで垣根が見下ろす。


「もうちょっと女の子は静かな方がいいぜ?やかましい女は嫌われやすいからよ。特に立場弁えてねぇ女は ―――― 」

言いかけた瞬間、今までよりも遥かに凄まじい破壊音が垣根の耳に飛び込む。
驚愕よりも、喜びの笑みが垣根の唇をきゅっと曲げる。
佐天は、痛みを堪えながら音の方へと視線をゆっくりと向ける。
涙で滲む視界には息を呑む光景。

闇にひっそりと浮かぶ華奢なライン。
月明かりを背に、銀色に輝かせた髪。
影になっている顔の中で、炎を閉じ込めたような赤い瞳が鮮やかに輝いている。


「ずゥゥいぶんわかりやすい小悪党してんじゃねェかよォォ、垣根ェェェ………」


536 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:15:24.82 ID:TW5Selw0

怒りと、憎悪と、苛立ちと、敵意と、殺意と、嫌悪を存分に秘めた声が夜の気配に溶けて行く。
声は低く、決して大きくは無いというのに、その声はどこまでも通っていくように、部屋の隅々にまで届く。
垣根の頬をぴりぴりとした細かな痛みが走る。まるで小さな針で顔を撫でられているような圧迫感。
「唐突にしゃしゃってきた悪役ってのはよォォ相場が決まってンだよ。小物かかませ犬かってなァァ……テメェの場合は両方か」
「オイオイ、随分じゃねぇか。まずは『情けないカス野郎の僕が調子に乗ってぶち殺してしまってどうもすみませんでした、カッコいい垣根様』って謝るのが先だろう?
学校で習わなかったのかよ第一位。悪いことをしたらまずは謝りなさいってな。常識だぜ?」
「常識?まさかテメェの口からそンな言葉が聞けるたァな。一度死んでちょっとばかりマシになったンじゃねェのかァ?クソメルヘン」
「じゃあ、お礼に今度は俺がお前をまともにしてやるよ。生き返る保証はねぇけどな」

くくくと、垣根は歪な笑みを浮かべる。
この語らいすら楽しくてならないようだ。
一方通行は鼻で笑う。

「安心しろ、こっから先は一方通行だ。テメェは黙って元いた場所に帰ンだな。まぁ……」

ちらりと、一方通行の視線が佐天に向けられる。
垣根に踏みつけられた少女の姿に、一方通行の目尻が微かに震える。
「……どの道テメェにの行く道はひとつだがなァ」
「何だ?もしかして、お前そうとう怒ってる?コイツを……」
佐天の背中を踏みつけた足を一度引き上げる。
「こうしたのをよ!!」
そして、勢いを付けてもう一度佐天の背に足を踏み下ろす。

「ッ!?」

垣根の靴底が剥き出しのコンクリートを踏みつける。僅かに見開いた目を、ゆっくりとめぐらせる。

「なんだよ…随分様になってるじゃねぇの、王子様役が。随分と人相の悪い王子様だけどな。ええ?一方通行」


537 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:17:52.89 ID:TW5Selw0
一方通行は瞬間的に足元のベクトルを操作し、佐天を引き寄せた。
佐天を胸に抱き上げ、紅の光芒が真っ直ぐに垣根を射抜く。
抱き上げられた佐天には何が起きたのか理解出来ていない。ただ、ひとつわかるのは、彼が自分の為に怒りを露わにしているということ。
不安と恐怖と、痛みから解放された反動のように、佐天は弱々しく一方通行の胸元の裾をぎゅっと握り締める。

「一方通行さん…」

自分の腕の中で、目尻に涙を浮かべ見上げてくる佐天の姿に、場違いな愛しさを覚える。
自分を純粋に頼るその姿に、いじらしさを抱く。しかし、すぐに一方通行は彼女の手が小刻みに震えていることに気付く。
当たり前だ。まだ14歳になったばかりの、何も裏のことを知らない少女が、このような目に遭わされれば平気なはずがない。
そして、その大半が自分の責任だ。自分が彼女に災いを招いたのだ。
唇を血が出そうな程に強く噛み締める。
垣根への殺意以上に、不甲斐無い自分自身への憎悪が湧き上がる。
自分はいつもそうだ。
一歩間に合わない。一歩届かない。一歩足りない。一歩遅れる。

“アイツ”のようには出来ない…


「安心しろ…お前は無事に此処から帰してやる……」

しかし、だからといって諦めるわけにはいかない。

「あのクソ野郎をぶち殺してなァ…」

これが最後だとしても、この少女だけは守る。

「だから、もう少しだけ待っててくれ…」

絶対に。

「ハイ」
「ハッ…いい子だ…」

力強く頷く佐天の頭をくしゃりと撫でる。
あの夜のように。無造作に、少し乱暴で、そしてとびきり優しく。

538 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:18:57.00 ID:TW5Selw0
頬を染めながら見上げた佐天は、表情を凍りつかせた。
一方通行の顔が、硬く、悲壮な色を浮かべていたのだ。


「あ ―――…」


佐天はその手を思わず取ろうとして ―――― 届かずに空を切った。

空を切った手は差し伸ばしたまま、彼女の目の前には、決然と立つ一方通行の背中。

その背中が遠いと、佐天は伸ばした手を胸に抱きながら呟いた。





「ラブシーンはもういいのか?何だったらキスシーンくらいは待ってやってもいいんだぜ?」

「ぎゃははは、無理すンなよ童貞野郎には刺激が強すぎンだろォが」

「チッ…折角お姫様との今生の別れを気遣ってやったっていうのによ。クソッタレな王子様だな。それとも勇者様か?」

「で、テメェはさしずめ唐突に復活してぶち殺される魔王サマってかァ?三文芝居だなァ垣根ェェ」



「じゃあ、一捻り加えてバッドエンドなんてどうだ?勇者様はゴミクズのように殺されて哀れなお姫様は魔王様の生贄にされました。ってなぁ
それだったら、ちったぁ観客も楽しめると思わねェか?なぁ……」

垣根の背から、仄かに発光する白い翼が出現する。
この世ならざる力を生み出す、美しくも禍々しい翼。


「真逆の結末を用意すりゃァ斬新ってかァ?ハンッ!チンケな芝居だったらせめて王道で締めるのがスジってモンだろォが。
下らねェクソ以下の魔王クンは、惨めッたらしくぶち殺されて地獄に舞い戻りました。ザマァ見やがれってなりゃァ少しは見れるだろォが、そう思うだろう…」

チョーカーのスイッチを入れ替える。
シニカルな笑みを浮かべた少年から、残虐な笑みを湛えた悪魔へと切り替わる。

「「テメェも!!!」」


539 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:20:53.75 ID:TW5Selw0

まるでゲームのようだ。不謹慎なのを承知でそう思ってしまう。
羽を生やした男と、白い髪の少年がぶつかる度に建物全体がゆすぶられているような。
レベル5の力を目の当たりにしたのは初めてではない。
御坂のレールガンを見た時の衝撃は未だに色あせることがない。
しかし、この目の前の戦いは一体何なのだろうか。
御坂のように、電気というある意味わかりやすいものではない、もっと概念から異なるような。
能力の無い佐天には、言葉に説明することができない。
いや、言葉を失う世界という方が正しい。

彼女の目の前には華奢な背中。
彼女のよく知る背中。
彼女の為に珈琲を淹れてくれるあの背中である。
佐天はそれが嘘のようだと思った。
あの頼りなく、儚い背中が、抱きしめたいといつも思っていた背中が今は酷く遠い。



弾丸のように、ブーメランのように、あるいは流星のように、撃ち出される羽を一つ一つ、一方通行は読みとる。
目視するのでは間に合わない。事前にAIM拡散領域から伝わる波長をベクトル変換しているのだ。
眼前に迫る淡く発光する翼が爆ぜる。
即座に反射を働かせるが、読み切っているのか、垣根は苦もなく背に負った白い翼を振るう。
撫でるように振るうだけでえ、反射した爆発はすべて霧散する。
垣根が翼を振るう。一方通行が反射する。
反射した光はすべて垣根に向かい、それはたやすく散らされる。
一方通行のベクトル操作をすり抜ける物質を垣根の未元物質が創製する。
一方通行が即座にその物質を解析し、反射の枠内に捻り込む。

創製
反射
創製
反射
創製
反射

激しく明滅するなか、酷く単純な攻防の中に組み込まれた非常に複雑な攻撃手段の応酬。
互いに演算を駆使して、相手の先手を取るべく動く。
垣根が光の未元物質に紛れて別質の物質を織り交ぜれば、一方通行がそれを解析する。
解析とはいえ、それは即座に特定するわけではない。
垣根が作り出す未元物質をピンポイントでベクトル設定することは不可能である。
故に、一方通行はそれらを可能性の一つとして読む。それらを含んだパターンを用意し、ベクトルに織り込む。
垣根は、一方通行が取り得るだろうベクトルの軌道を、その速度を、そして対象を読み取る。

540 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:21:56.36 ID:TW5Selw0
垣根は一方通行の先を読み。

一方通行は垣根の先の先を読む。

垣根は即座にその更に先を幾通りも読み。

一方通行はそこから派生する幾十通りも先を読む。

学園都市の頂点に立つ両者は、不敵な笑みのまま.

常に脳の中に幾億通りもの演算を組立て、訂正し、補強し、消去し、変更し、追加し、組合わせ、省略し、最適化していく。

しかし、拮抗する演算能力とは裏腹に、二人の立場は互角ではなかった。
垣根と一方通行の戦い、それはかつて学園都市のど真ん中で繰り広げられた時とは異なり、ビルの屋内、それも一つのフロア内という非常に限定された空間で行われていた。

「一方通行ァァァ!!能力の使い方に磨きが掛かってやがるなぁぁ!!」
「そういうテメェは鈍ったンじゃねェのかァ垣根ェェ」

上下、左右から風、光、熱、炎に混ぜ込まれた未元物質を、羽ごと弾き飛ばす。

「それにしてもマジでお前あの一方通行なのかよ?よくやるなぁ、そんなお荷物背負ってよ」


一方通行の背後の佐天に嘲りの目を向ける。
佐天の身体がびくりと震える。一方通行の脇をすり抜けるように、白銀の羽が佐天の目の前にするりと滑り込む。

「チッ…!!」

一歩踏み出すと同時に、弾丸のように佐天の前に踊り出た一方通行は乱暴に腕を振る。
目障りな蠅を追い払うように振るうと、未元物質が煌めきを放ちながら散る。


ひゅうっと垣根が嬉しそうに口笛を吹く。
佐天は、背中越しに覗く一方通行の額から一筋、汗が伝うのを見る。
そう、二人の立場は決して互角ではなかった。
佐天をかばいながら戦う一方通行。
自由に力を振るう垣根。
それだけではない、佐天をかばう為に、一方通行は垣根に割く以外にも演算を使い続けていた。
未元物質から、それがはぜる際の余波、失明しかねないほどの閃光。
電磁波、熱線、振動、音波、それらから守り、
反射した物質が佐天に向かぬように調整する。
破壊の爪痕が広がる中、切り取ったように、佐天の周囲だけが綺麗なままでいることが何よりもの証拠。
一方通行の表情に初めて焦りが浮かんだ。
佐天を守り抜いたものの、今初めて彼女へ未元物質の接近を許したのだ。
それは即ち、彼の演算が垣根の演算に追いつかなくなってきたということ。押され始めたことを意味する。



541 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:23:53.42 ID:TW5Selw0

「おいおい、危ねぇんじゃねぇの?涙子ちゃんに危うく当たっちまうところだったぞ?もっと気張れよ第一位」

「ハッ……テメェがあんまりスットロイから眠りそうになってたンだよカス。生き返り立てて垣根クンは調子が出てないンじゃねェのかァ?」

右腕を奮い、破片を更に細分化。瓦礫に含まれた釘、鉄骨を圧縮。
ベクトル操作によって粉塵と共に射出する。パチンコ玉サイズの音速の弾丸は、正確な精度と殺傷性をもって垣根に向かう。
しかし、垣根は翼でもって繭のように己の身を多い容易く防いでいく。

「さっきから随分とダラダラした攻撃してくれやがって…テメェから売ってきた喧嘩だろォがよォ!」

翼の隙間から、垣根吊り上った唇が覗き、一方通行の苛立ちを加速させる。
苛立ちというよりは焦りだろうか。一方通行は焦りに歪む表情を無理矢理挑発の笑みに変える。
ちんたらするなと、つまらないぞと。お前の力はこの程度なのかと、この雑魚野郎がと。
嘗てのように、傲慢と攻撃性を剥き出しにして来い。強く思う。
そうやって来たところで至近距離からあの目障りな翼をブチ折ってやる。
血液を逆流させてやる。
心臓を抉り出して熟れきったトマトのように握りつぶしてやる。
あの子を傷つけた死に損ないを完膚なきまでに叩き潰してやる。
殺意と共に、嘲笑を垣根に向ける。
しかし、垣根は涼しい顔で薄っすらと笑みを浮かべている。

「なに焦ってるんだよ。お前はあれか?遠足が楽しみで眠れないガキだったりしたか?もっと楽しめよ。
知ってるんだぜ?アレイスターの野郎はもう居ないんだろう?お前が…お前たちがやったんだろ?」

だから楽しめと垣根は謳う。邪魔する者はいないぞと。

「つーかよぉ。お前何でそんな能力も無いガキ相手にマジになってるわけ?夢でも見ちまったのかよ?
そいつらに関わってれば自分も表の人間になれるんじゃねぇのかって。普通のガキに戻れるんじゃねぇのかって。
だったら諦めろ。一万もの人間を殺した奴は普通じゃねぇ。異常だって言うんだ。
黒い翼なんぞ出して人を粉々にしちまう奴を何て呼ぶか知ってるか?バケモノって言うんだぜ?」

「今更何わかりきったこと言ってやがるンですかァ?そンなモンで今更揺るぐとかおめでたいことでも考えてンのかァ?
だったらカス過ぎるぜお前。頭の中にまで羽生えちまってるンじゃねェのかよ」

「だったら使ったらどうだよ?お得意の黒翼ってヤツを。それで俺を瞬殺してみたらどうだよ」

垣根の翼を弾いた一方通行の頬が引きつった。
それはほんの一瞬の変化。それを、しかし、見逃す垣根ではない。
垣根は狙い通りと言いたげに忍び笑いを漏らす。
一方通行は黒翼を使えない。否、使わない。それを見越しての攻防だった。
そして、垣根のもうひとつの予想も的中する。


542 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:25:39.49 ID:TW5Selw0

「一方通行さんッ!!」


悲痛な佐天の叫び。一方通行の膝から下が崩れ落ちる。
一方通行のわき腹に焼き切れた傷口が刻まれていた。
肉の焦げる匂いが鼻を突く。しかし、不快感を催すはずのその匂いが、垣根に実感をもたらす。

勝利の実感を。


佐天が己の身も省みずに一方通行に駆け寄った。
崩れ落ちる身体を支えながら、傷口に目をやり、佐天の顔が歪む。
コルクを抜いたようにすっぽりと引き抜かれた傷口が、見ているだけで苦痛をもたらす。
何で来たんだと、言おうとして、一方通行の口からは赤黒い塊が零れる。
血の塊が佐天の制服を汚していく。
互いの先の世界を読み合い続ける両者の攻防は拮抗していた。
しかし、とうとう此処にいたりそれは完全に崩れることになった。
苦悶の呻きを上げて膝を突く一方通行。
涙を浮かべながら一方通行を支える佐天。
二人を見下ろす形になった垣根は、ひとつ深く息を吐くと、その背の翼を折り畳むように消す。

垣根の心は達成感で余すところ無く満たされていたわけではない。
こんな形の決着など望んではいなかった。本音を言えば、それが垣根の正直な気持ちだ。
人質を取り、挑発を繰り返した挙句にようやく?ぎ取った勝利。
そう、垣根は決して楽勝だったわけではない。寧ろ、それは辛勝と呼べる。
何故なら、彼もまた一方通行と同様に余裕が無かったからだ。

『生き返り立てて垣根クンは調子が出てないンじゃねェのかァ?』

奇しくも、一方通行の放った挑発は、核心を突いていた。
それゆえに、垣根は焦った。
そう、焦っていたのは垣根の方にも言えるのだ。
培養機から抜け出したのが、10日前。
三等分されていた脳の復元と、クローニングされた肉体への定着。
本来ならば調整をしながら徐々に慣らすべきであった肉体を引きずり、騙し騙し使っていたのだ。
無理な演算のせいで、耳の裏から脳髄へと突き刺さるような痛みがじくじくと苛む。
この10日悩まされ続けていた鈍痛は、能力を使う度に酷くなる。
それでも、垣根はこの戦いを止めるわけにはいかなかった。
自分の全てを賭けて、勝ちたかった。
その為に些細な美学もつまらないプライドも捨てた。
そして、一方通行の弱点を突くべく、下らない、自分の美学に反するものを用意した。
数百人のスキルアウトを用意し、人質を用意し、このビルを用意した。全ては一方通行を下すために。

チョーカーのバッテリーを消耗させ、一方通行の集中力を乱し、そして ―――― 最後の最後のこの不意討ちを成功させる為に。


543 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:27:26.76 ID:TW5Selw0

「……そォか……このビル…どォにもおかしいと思ったが……」
「ようやく察してくれたかよ」

佐天に支えられながら立ち上がろうとする一方通行の腹に垣根の硬い靴のつま先が突き刺さる。
軽い身体は容易く倒れ、転がる。

「一方通行さんッ!!」
「邪魔だからちょっとどいてろ」
腹を押さえて呻く一方通行に駆け寄ろうとする佐天の髪を掴み上げ、脇へと追いやる。
短い悲鳴を上げ倒れこむ佐天を一瞥し、垣根は一方通行にゆっくりと近づく。
ゆっくりと歩くだけが精一杯だった。
頭痛は限界へと近づきつつあり、歯を食いしばることで立っていられた。

「お察しの通り。このビルは俺が作った。少しずつテメェの認識を狂わすようにっていう仕込みだ。
テメェほどのヤツのパーソナルリアリティを崩すのは心理掌握クラスでも容易じゃねぇ。けどよ、ちくちく積み重ねることは出来る。
壁紙の色、微かな塗料の匂い、僅かな震動、そして断続的な騒音。それらで人間なんてもんは簡単に壊れちまう」
「…か、は…だ ―― ら、あンな…チンケな攻撃ばかりシコシコしてたってかァ?ご苦労だったなァ…褒めてやるよシコ根クンよォ」
「ありがとうよ」

靴の裏で一方通行の顔を蹴る。白い頬に、赤い擦り傷が走る。
尚も起き上がろうとする白い頭を踏みつけ捻る。

「でもよォ。正直黒い翼を出さないかは賭けだったよ。せっかくバッテリー切れ狙っても、テメェが自棄になっちまえばお仕舞いだからな。
そういう意味じゃあ、この勝利のMVPは涙子ちゃんかな」

「え…?」

短くも、驚愕の声が佐天から零れる。
一方通行の元へ駆け寄ろうと、立ち上がりかけていた少女の動きが止まる。
垣根に踏みつけられながら、一方通行は何も答えない。それを愉快げに見下ろすと、垣根はフンと嗤う。

「何度か黒翼出そうとしてただろ?わかってるぜ。お前がその度にこの女を巻き込むことにビビッて引っ込めてたってな。
とんだ寸止め野郎だ。その挙句バッテリー切れになる前に、自滅してるんだからな」

「………」

それは紛れもない図星だった。
黒翼を制御する自信が一方通行には無かった。
正確には、狭い範囲で回りに被害を及ばないように精密操作を出来る自信が無い。
万が一にでも佐天が触れることがあろうものならばたちどころに彼女は塵芥と化す。
その万が一がとてつもなく恐ろしかった。
そして、バッテリー切れを起こせば、黒翼は完全な暴走状態になる。
それはつまり一方通行の制御下から外れるということ。
それらが縛りとなって一方通行の演算を鈍らせた。
それこそが垣根帝督の狙いであった。

544 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:29:45.66 ID:TW5Selw0
「くくくくかかかか……満足か?相手の自滅狙いの待ち態勢で偶々拾っただけの勝ちに」

垣根は答えずに、再び翼を生み出すと、払いのけるように一方通行を打つ。
弾むようにとび、壁に打ち付けられ一方通行の身体がごろりと力なく転がる。
頭の痛みを噛み殺しながら、垣根はゆっくりと翼を持ち上げる。鎌を振る下ろそうとするように。

「手段は正直気に入らねぇ。だが、結果だ。俺はてめぇに勝った。てめぇは俺の前に屈した。
それが全てだ。第一位とか二位とか関係ない。俺が、俺の未元物質が一方通行に勝った」

それは確かに正論だなと、一方通行は他人事のように思う。
自分達はスポーツの試合をやっているわけでもなければ、ルールのあるゲームに興じているわけでもない。
互いの手札を持ち寄って、切れる札を切る。賭ける物は命であり、得るものは結果のみ。
垣根は自分の持つ『弱み』というカードをフルに使っただけなのだから。
鎌首をもたげた翼が振り下ろされた。

しかし、それはいつまでもやって来なかった。
伏していた身体に力を振り絞って起き上がる。一方通行は、目の前の光景に息を呑む。

「な……オイ…お前何やってンだよッ!!」

目の前に翼を寸止めにされながらも、逃げるそぶりを見せずに、その少女は立っていた。
両腕を広げて、いじめられっ子を庇う正義感の強い女の子のように。
踏みつけられた背には、くっきりと靴跡が刻まれ、掴み上げられた拍子に黒髪は乱れている。
それでも、少女は構わず立っていた。佐天涙子は、両の足に力を込めて立っていた。

レベル0の無能力者の少女が、レベル5の学園都市最強の少年を守るべく、決然と、凛然と立っていた。

「……はは、凛々しいじゃねぇか涙子ちゃん。惚れちゃいそうだ。だけどよ、そうやって立って一体どうするつもりなわけ?」
一瞬呆気に取られていた垣根が、馬鹿にした笑みを浮かべる。
猫とライオンの戦いの方がまだまともな戦いになるだろうに。
哀れみすら伺わせる笑みで、戯れに翼を振るう。そう、撫でるように。

「キャァッ!!」
しかし、その一撫でで、佐天の身体は容易く吹き飛ばされてしまう。
羽を爆発させて、彼女を塵にするのに瞬き一つの間も掛からないだろう。
それだけに、垣根は純粋な興味として、佐天に相対することにした。
或いは、生意気で愛らしい子猫の戯れに付き合う心境だろうか。
頬を煤で汚した佐天は、ふらつきながら立ち上がる。
そして、一方通行の前に立つと、先ほどと同じように垣根を真正面に見据える。

「へぇ…大した根性だ。普通女の子は萎えるよな、こんだけ蹴られたり吹っ飛ばされてりゃあ」
「修羅場だったらこれでも結構潜って来てるんですよ?」


545 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:32:18.30 ID:TW5Selw0
震える声に、精一杯の虚勢を張る。
それがわかり易過ぎて垣根は噴出す。
佐天は明らかに怯えているのだから。
そう、あと翼の一撫ででも食らわしてやれば、それだけでへたり込んで泣き出すだろう。
何せ、彼女は普通の女の子に過ぎない。
しかし、それでは面白くない。
プライドも美学も投げ打って得た勝利なのだ、少しでも噛み締めていたい。
それは油断でもなければ慢心でもない。
垣根帝督が佐天涙子に負ける筈などありえないのだから。

「修羅場ねぇ。勇ましいじゃねぇの?それくらいじゃなきゃ一方通行の女は名乗れないってか。いいねぇ~一方通行には勿体ねぇよ。
けどさ……勇ましいだけじゃどうにもならないだろう?この状況ってよ。超電磁砲がいたってどうにもならねぇんだぜ。
第三位ごときじゃ俺の未元物質の前じゃ涙子ちゃんと大差ねぇんだからよ」

そう、この凛々しい、ご立派な少女は無能力者なのだ。
一体どうすれば状況が好転するというのだ。

「それにさ、正直涙子ちゃんが必死になって守る価値がソイツにあるのか?俺もびっくりの大虐殺野郎だぜソイツ。その中には俺も入ってるわけだけどさ。
涙子ちゃんのいる世界に比べればクソもクソ。ドロッドロに汚い肥溜めの中を這って生きてきたヤツなんだよ。だから、見捨てちまえよ。
俺も殺すつもりなんてないし。家に帰ってシャワー浴びて、呑気に学校に行ってダチとだべる生活に戻れよ。それで何もかもお終いになるだろうさ。
この世から、一匹害虫が消えるだけの単純な話しだろ。だから……」

白銀の翼が翻る。佐天の身体が風に煽られ宙を舞う花のように軽々と弾かれる。
息が、喉を震わせ口から漏れる。少女の華奢な身体がコンクリートに強かに打ち付けられた。


「無能力なガキはさっさと消えろよ」


軽蔑と嘲りと苛立ちを持って、垣根は倒れ伏した佐天の身体に向かって言葉を投げつける。
一方通行は、痛みと怪我と失血で動かない身体に信号を送り続ける。
今だけでもいいから動いてくれと、目の前で弄られ続ける少女を助けなければならないのだ。
自分のような屑のために、どうしてあのひまわりのような少女が傷つかなければならないのだ。
せめて、もう立たないでくれと、一方通行は悲壮な願いにも似た思いを抱く。
少し強く払い過ぎただろうかと垣根はかすかに後悔する。
折角楽しもうとしていたのに、と舌打ちをする。
いずれにせよ、もう立てはしないだろう。
形こそ違えども、一方通行と垣根が同じ結論に達したとき、二人の超能力者は瞳に動揺を浮かべる。
制服を砂と埃だらけにしながら、佐天はずるずると身体を引きずって立ち上がったのだ。
顔を上げた佐天の頬は赤く腫れあがり、鼻から唇にかけて流れた鼻血が滲んでいた。
顎を伝う血を拭い、佐天はそれでも一方通行のそばに駆け寄ろうとし、そして弾かれる。
垣根の翼が彼女を苛立ちまじりに払い除けたのだ。


546 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:33:25.40 ID:TW5Selw0

「気持ち悪いんだよ……お前さぁ、無能力者なんだろう?だったら何しゃしゃってくるわけ?どうにか出来るとか、マジで思ってんのか。
そんなクソ野郎庇って、ボッコボコになって、何かがどうなるのかって。大体、何でそこまで出来るんだ?そんな悪魔にさ」


垣根の表情に浮かぶ先ほどまでの嘲りの笑みが、わずかに引き攣っていた。
痛みと恐怖に身体を震わせ、それでももぞもぞと立ち上がろうとする少女に吐き捨てるように言う。
しかし、佐天は、血で赤くなった唇を微かに苦笑まじりに緩める。
まるで、垣根の言っていることなど百も千も承知しているのだとばかりに。
その表情が更に垣根の表情に罅を入れる。

「悪魔?誰ですかそれって……」


立ち上がる力が無いのか、佐天はスカートが汚れ、傷つくのも構わずに一方通行の側まで這う。
信じられないと、どうしてじっとしていないんだ、と非難と自責に歪んだ一方通行の表情を見て、佐天が瞳を和らげる。
可愛い人だなぁ本当に。
こんなに身体が痛くて、こんなに怖くて、こんなにボロボロだというのに。
それでも、佐天は何故か嬉しいと感じた。
自分のために、自分を心配して、一方通行が泣きそうな顔になっていることが。
それが無性に嬉しいのだ。


「私は別に悪魔なんて守ってるつもり…無いです。
不器用で意地っ張りで。口下手で、口が悪くて。照れ屋で、短気で、鈍感で無神経で。
そのくせ心配性の過保護で。寂しがりやで、カフェオレを淹れてくれる優しい人。
エプロンが似合わない、とっても可愛い人……それが私の知ってるこの人…」


そっと、一方通行の血の気の失せた白い頬をなでる。


「それだけで……十分です」

「それだけで……十分?」

掠れた声で、縋るように垣根は言葉を漏らしていた。
このガキは何を言っているのだ。
無能力者がレベル5を守る?いや、問題はそこじゃない。
どうして、そんな振る舞いが出来るのかということ。
能力もない、何の力も無いガキが。


547 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:34:11.80 ID:TW5Selw0

「そうなんだ……私ホント馬鹿だ…こんな時にならないとわからないんだもの…能力なんて関係ない」


佐天は自嘲気味に笑う。能力なんて関係ない。それは以前も言われた言葉。救いにならなかった言葉。
もっと他にいい所があるのだから、気にすることなどないと、そんなものは嬉しくない。
能力の無いことに苦しむ事実は変わらないのだから。
能力のある人間の優越感だと、穿った目で見てしまった言葉。


一方通行の言葉が甦る。


『俺がどンだけお前に     かをなァ』 ―――― 俺がどンだけお前に憧れているのかをなァ』


きっと一方通行の目に、自分はさぞかし贅沢者に見えたのだろう。
色々なものを失くして、諦めて、奪われて、壊されて、捨ててきた彼。
そんな彼にとって自分は無いもの強請りばかりする駄々っ子に映っただろう。
それを思うと恥ずかしく思う。自分には能力以外にもあるのだ。


「私は無能力者…それはきっと変わらない。でも、そんな自分でも負けない、言い訳になんてしない。
守りたい人を守ることに、能力なんて関係なんて無いんだもん」


守りたいから守る。
その為に、無能力者の自分を受け入れて、能力者と向き合っていく。
そして、それに負けない。自分の気持ちを譲らない。
そう、対等であろうとする気持ちを自分は決して譲らない。
自分にはもっと色々の可能性がある。もっと誇れるものがある。

一方通行が、息を呑んだのに佐天は気付かなかった。



548 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:35:08.21 ID:TW5Selw0

もし、仮に垣根帝督にプライドがなかったら。
もし、仮に垣根帝督がもっと無神経な男だったら。
もし、仮に垣根帝督がもっと諦めの良い男だったら。

すべてが既に片付いていただろう。羽虫を潰すように佐天を瞬きする間も与えずに殺していたはずだ。
木原数多のような、救い様のない外道、生まれながらの邪悪、自ら望んで墜ちた者ならばそうしていただろう。
しかし、垣根帝督はそうではなかった。彼は墜ちざるを得なかった者だ。
許されざることに手を染めるという自覚を持ち、その結果を受け入れ、更に深みに落ちることを理解し、行いを正すことを拒んだ。
その選択をしたのは紛れもない彼の意思であり、彼は納得した上で悪に染まった。
彼は善人でもなければ、特別優しい人間でもない。
しかし、それでも尚確かなことは垣根は自ら望んでその選択をしたのではない。
その選択肢しか知らなかったのだ。

故に、戸惑う。

だからこそ、怯む。

佐天の姿に、その後ろに、あり得たかもしれないものを視る。
一方通行と同じように、垣根帝督もまた佐天涙子に憧れを見る。



「ハ………ンだよォ……そンなことだったのかよ」



苦笑交じりの声が静かに透き通るように響いた。
それは確かめるまでもなく、一方通行の声だ。
しかし、彼の目は驚きに見開かれる。
それは佐天も同様である。
視線の交わる先、それは一方通行の背 ―――― から噴出す黒い翼。
初めて見るソレに、佐天は純粋に驚いていたが、垣根は違った。
嘗て目にした、ぞじて自分を屠った黒い翼は、怒り、憎悪、殺意を噴出剤にするような炎の如き代物であった。
しかし、今目にしてるものは違う。
ゆらゆらと冬の空の下で揺れる湖面のように穏やかなもの。
自分の知るものとは全く異なるものだった。



549 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:35:52.86 ID:TW5Selw0

「コイツは欲張り過ぎんだよ。能力が無いだの何だのと言って気付きやしねぇ。能力しか無い俺達がどんだけ欲しがってるのかも知らずによ。
山程綺麗なモン抱えてるくせに不満を言ってるガキだ。無いモンばかりに目が行っていやがるのさ」


一方通行が、見えない糸に引かれるようにゆっくりと立ち上がる。


「けどな、その抱えてるモンに救われちまってンだよ、俺は」


そろっと佐天を見下ろす。その視線の柔らかさに、佐天は見惚れる。

佐天涙子は抱えたものを分け与えることを知っている。佐天涙子だけではない、自分が守ろうとしている者たちは皆それを知っている。
だからこそ、守る。だからこそ、守りたい。
そうだ、悲壮感でも使命感でもない。義務とか権利等という無粋な言葉など入り込む隙間はない。
信念だ正義だと小難しく考える必要もない、もっとシンプルなものだ。


したいからする。


それだけだったのだ。贖罪も何もかもがつまらない言い訳だ。
たったそれだけの子供の理屈。それこそが動く理由。
切り捨てる覚悟?背負う決意?
土御門の言葉に唾を吐く。そんな雑魚共の狭い正論などゴミだ。


守りたいから守る。


守るから離さない。


誰であろうと、自分がそう決めたら他の言葉など知った事か。
一万人の命に少し上乗せが出来ただけじゃないか。
一方通行の口元に笑みが浮かぶ。


550 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:42:29.25 ID:TW5Selw0

自分は幻想殺しの少年によってつまらぬ幻想を砕かれた。
誰が守るか等関係ないという言葉に。
それでも、気付かぬ内に自分はまた作っていた。
彼のように生きようという幻想に囚われていた。

自分は自分。上条当麻ではないのだ。

自分は自分の課したルールに従う。それが窮屈だろうが、自分勝手だろうが構わない。

垣根は、佐天は、その時確かに聞いた。

氷が罅割れる音を。

硝子が砕ける音を。

幻想が殺される音を。

此処に来て、一方通行は自らの生み出した幻想を自らぶち殺す。
そこには幻想殺しの少年は必要ない。


「天使……」


佐天の声が静かに流れる。
光り輝く膨大な煌きを持った翼。
黄金にも白銀にも見える光の輪を頭上に掲げ、静かな眼差しで垣根を見つめる。
その場の中心、己の幻想を殺し、己の殻を破った少年。


一方通行


―― 粒子加速装置


――― 理の流れ(ベクトル)を解析し、新たなる理の流れ(ベクトル)を創り出す者 ――― アクセラレイターが立っていた。



551 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:55:45.68 ID:TW5Selw0

「な、なんだよ……それは……」

垣根帝督は、静かな面差しの少年に、思わず後ずさりする。
それは少年の持つ力への恐怖ではなく、もっと根源的な何かだ。
がりっと、踏みつけたビルの欠片の音に我に返る。足元に落ちていた欠片が粒子となって消えていく。
そして、垣根帝督は此処に至って悟る。

この舞台の結末を、だ。
魔王は、お姫様を救いに来た勇者に敗れる。
そう話した目の前の少年の言葉を思い出す。
なるほど、それが当たり前の結末か…
垣根の唇が自嘲の笑みに歪む。

「けどなぁ!!」

犬歯も露わにした垣根が吠える。
紛い物の、翼がそれに呼応するように開いていく。

「俺の未元物質に、そんな常識(セオリー)は通用しねぇ!!!」

飛翔。
既に粒子の渦と化したビルの中心。
佐天を片腕に抱えているアクセラレイターに引き絞られた矢のように飛び出す。

しかし。

垣根の纏う翼も、創製した物質も。
全てが解析され、分解されていく。

「くっそ…やっぱり…俺はテメェには……」

ダイヤモンドダストのように光を放ちながら舞い散る粒子の中。

垣根が最後に見たのは、白い少年が振り下ろした左の拳だった。


557 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/29(水) 03:38:02.31 ID:1igU6rc0
一方さんマジ天使

588 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/31(金) 01:26:23.58 ID:CbCB7h20


「まったく。事後処理をする身にもなってほしいにゃ~」

土御門元春が、苦笑混じりに辺りを見渡す。
ビル群が立ち並んでいたはずの一帯は見事な荒野と化している。これを一体どうやって情報規制すれば良いのか。
考えるだけでため息が出る。
親船統括理事長代理の力を借りなければならないだろう。
昨年までに比べれば影響力の衰えが著しい統括理事会にどれほどのことができるのか甚だ怪しいものだが。

「学園都市だから仕方がないと、案外皆それで納得するかもしれないですよ」
足下に転がったスキルアウトを足で蹴飛ばしながらにこやかに海原光貴が言う。
確かにそれも一理ある。
そもそも、今回の垣根の暴走にしても、理事会の杜撰な事後処理に問題がある。
プラスマイナスゼロどころではない。
学園都市第二位の能力暴走の危険性を防いだ点で言えば交渉材料にさえなり得る。

「それにしても……気づかないものなのですね」
「ああ、新しいビルがひとつ増えててもなぁ。毎日目にしてるビルが立て壊されてると、何があったか思い出せないことなんてざらにあるだろ」
「案外いい加減ですからね。人間の記憶力なんて」
「この辺は廃ビルも多いしにゃ~。廃墟マニアじゃない限り気にも留めないだろうぜい」

それを見事に逆手に取られた。
垣根はどうどうと隠すことなく一方通行を迎え入れる為の罠満載のダンジョンを作り出せたということだった。

「まぁ、いずれにせよメンドウなことには変わりないんだぜい」

数百、千にも届くスキルアウトを一方通行は一人で蹴散らしたわけではない。
街中の、一方通行に恨みを持つスキルアウト、未だにきなくさいことに首を突っ込んでいるほとんどの連中が一カ所に集結しようとしている。
そのような大移動を土御門が事前にキャッチできないはずがない。



589 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/31(金) 01:27:39.87 ID:CbCB7h20

「いいじゃないですか、無事に事なきを終えたのですから」
「否定はしねーけどにゃ」
「ところで、今回のは彼からの依頼だったんですか?」
「いやぁ、アイツからあったのはあわきんをこっちに寄越してくれってだけなんだぜい」
「おやおや、僕たちは用無しでしたか」
「基本自分一人でやってやる気だったみてぇだしな」
「じゃあ、今回のは仕事ではなく」
「ま、かみやんじゃねーけど、仲間だからお節介焼いてやったってことにしといてくれると嬉しいにゃー」

もっとも、利益になりそうな材料集めは怠るつもりは無い。
にっそりと笑う。

「それに、お前だって似たようなもんじゃねーのかにゃ?」
「ふふふ、そうですね」

にっこりと心根の読めぬ笑みで彼女達の方を見る。
佐天涙子が、仮に名も知らぬ、関係も無い少女であれば、さほど問題としなかっただろう。
一方通行の為に、といってもそこそこの手伝いをしていたくらいであろう。
万が一不幸な結末に終わろうとも、気の毒にという当たり障りもなく、他人事で済ませただろう。
しかし、彼女は御坂美琴の親友である。
敬愛するもの、慕う者は枚挙に暇がないが、一方で対等の付き合いをしてくれる友人が少ない少女は、きっと親友が死ねば嘆き悲しむだろう。
それではいけない。
海原光貴の行動理念は全てそこに集約されているのだから。
彼女の笑顔が守られるのであれば、裏に生き、他の男との恋を応援することもやぶさかではない。
彼女の幸せが守られるのであれば、名も知らぬ彼女の友人であろうとも命を賭けて守る。
御坂美琴の世界“も”守る上条当麻と異なり、海原光貴は御坂美琴“の”世界を守るのが彼のすべて。



「んで、主役の極悪王子様はどこにいるんだにゃ?」
「お姫様と共にあちらへ」


海原と土御門は自覚している。自分はヒーローではないと。

故に、たった一人の少女を守ることしか出来ないのだ。

そして、彼らの強さは、一人しか守れないことを嘆くのではなく、唯一の人を守りぬければ十分だと割り切っているところにある。
そして、上条当麻と同等に、我が侭に手にした者達を守ろうとするヒーローの方へと視線を向ける。
海原の指す方へ視線を向けると、土御門の口がにんまりと楽しげにゆがむ。

「おほほぉ~う。こいつは見物だぜい」


590 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/31(金) 01:28:50.94 ID:CbCB7h20

「ビルが丸ごと未元物質とかありえないわよ。座標移動が全然出来ないもの」

結標淡希が、疲労と安堵の呟きを漏らす。
本来ならばすぐさま佐天を座標移動させるつもりだったのだ。
しかし、未元物質の力場に干渉されて、使えなかった。

一方通行が未元物質をすべて粒子へと分解したことによってギリギリ気を失って落下する二人を助け出せた。


「まったく……私たちが駆けつけなかったらどうなってたか…無茶ばかりするんだから」


「コイツはそういう死にたがりのバカ野郎なんだよ。ホントムカつく」


手のひらで釘を弄びながら不機嫌な表情で番外個体が一方通行を睨む。
スキルアウトの100人や200人を蹴散らしたくらいでは気が晴れなかったようだ。


普段であれば言い返すはずの一方通行は、力を使い果たしたのか気を失っている。

番外個体の不機嫌の理由は一方通行が無理をしたことだけに対してのものではない。


「………ねぇ…」

「ん?」


どこか堅さを帯びた番外個体の声に、結標が膝に落としていた視線をあげる。

「なんでさっきからアナタが膝枕してるのさ、その人のこと」

番外個体の細められた視線は、結標に、彼女の膝の上に向けられている。

彼女が視線を向けていた先、それは一方通行の寝顔があった。



591 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/31(金) 01:30:25.48 ID:CbCB7h20

「いけなかった?」

「別にどうでもいいけど~ミサカとしては瓦礫と一緒に転がしておけっていう話しっつーか」

「じゃあいいわよね」

「うぅ…それはぁ…そうだけどさ」

「それともアナタがしてあげたかった?」

「ば、ばっかじゃねーの!!そんな気持ち悪いことするわけねーし。
 つーか想像するだけで鳥肌ものなんだけど!」

「ふ~ん。そう」

慌ててそっぽを向く番外個体を、興味なさそうに見やると、
結標は一方通行の白い髪をそっと撫でる。

さらさらとして、癖もなく、引っかかることの無い絹色のような髪の感触が心地よくて
結標は何度も指を潜らせる。

一方通行はその撫でる結標の手が気持ちいいのか、猫のように体を丸めると結標の膝の上に乗せた頭を結標のお腹に擦り寄せる。



「………なにこの可愛いいきもの」
「ミサカも……ハッ!?」


いい掛けてから番外個体はハッと気づく。
結標のにやぁっとチェシャ猫のような笑みが番外個体を愉快げに眺めているのだ。


「ミサカも?その後は何かしら?」

「み、ミサカも、もう帰ろうかな~ヨミカワ達心配してるだろうし」

「そう?じゃあ気をつけてね。私はもうすこしこうしてるから」

「やっぱり残る…!!」


592 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/31(金) 01:32:56.17 ID:CbCB7h20

佐天は未だに把握しきれない状況のなかにいた。

覚えているのは、天使のごとく頭上に光の輪を頂き、あらゆるものを浄化するような光の束のような翼を背負った一方通行の姿。
落下する自分を抱きしめ、優しい、子供のような無垢な笑みで見つめてくる彼の顔である。

意識はそこでぷつりと切れ、そして今にいたる。


「結標さん?」

「佐天さん、もう落ち着いたかしら」

黒のダッフルコートに、薄紅色のマフラーを巻いた結標は、複雑そうな笑みを浮かべる。

「………結標さんがここにいるっていうことは」

「うん、そういうことになるね」

互いに騙すつもりは無かったが、いざこうして唐突に事実が発覚してみると、次の言葉がない。
互いに、隔意などなかっただけに、怒ろうにも怒れない。
驚くにしても、大げさに驚くようなタイミングを逸してしまった。

「そうですか…一方通行さんは?」
「大丈夫。気を失ってるだけ。応急手当しておいたからね」
「良かった…」
「うん。助けるのが遅くなってゴメンなさいね」
「いえ、そんな…私が勝手に巻き込まれただけだし」

「ホント、そうだよね。そんでもってモヤシやろうに助けられてちゃ世話ないっての」

番外個体が面白く無さそうに呟く。
痛いところを突かれたのか、佐天は言葉もなく俯く。
結標が責めるような視線を番外個体におくるものの、当の彼女は知らんぷりをする。

番外個体は、彼女自身認めたがらないが、純粋に怒っていた。
なぜ、この女のせいで一方通行が傷つかなければならないのだろうかと。
佐天が巻き込まれたのは、彼女が進んで一方通行に関わったからだ。いわば自業自得と言える。

それなのに、一方通行は命賭けで彼女を助けた。

妹達以外の女を。

それが番外個体には気に入らない。腹立たしい。憎たらしい。

そして悔しい。


593 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/31(金) 01:34:42.64 ID:CbCB7h20

「……えっと…」
「………」

何とか言葉を捜す佐天。
顔をそむけ膨れる番外個体。


「もう、そんな子供っぽい態度取らないの。そんなんだから一方通行に娘扱いしかされないのよ」

「んぎぃ!!うっさい!!アンタだってムカつかないの?」

「別に~だって佐天さんお友達だもの」

「大体こんなお気楽そうなぽっと出にさぁコイツを…」


「貴方語るに落ちるっていう言葉知ってる……?それって一方通行を…」
「ああ!!今の無し。今のミサカの発言は無し!!」


「ふぅ…少なくともお気楽じゃないわよ、だって ――― 」

結標の手が佐天の頬に触れる。
佐天の赤く腫れた頬に。


「女の子がこんな顔にされても頑張るんだもの。半端な気持ちじゃないわよ。ね、佐天さん」
「結標さん…」

ホッと、気が緩んだのか佐天の瞳の端にじわりと涙が浮かぶ。
それを指先で拭ってやりながら、結標は佐天の頭を優しくなでる。
一方通行がするような乱暴な撫で方ではなく、優しく、髪を梳く様に撫でる。
そう、母親が娘にしてやるような柔らかい手で。


594 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/31(金) 01:35:20.16 ID:CbCB7h20

「むすじめさん…」
「よしよし。よく頑張ったわね。佐天さん。それに……」

そっと膝の上の一方通行に目をやる。
一方通行の折れかけた心を支えた、そういうレベルではなかった。
一方通行が垣根帝督を打ち砕いた力。
その源はパーソナルリアリティの補強ではなく、再構成。
それをさせたのは佐天の存在だ。



「コイツのこと、守ってくれてありがとうね?」

「ふん…」


不機嫌な表情を崩さないものの、番外個体も否定の言葉は口にしない。
気に入らないが、憎たらしいが、それでも認めざるを得ないことを理解しているのだ。
結標は苦笑しながら、佐天の頭をなで続けた。
佐天は、涙をぽろぽろと零しながらも笑顔で応える。






「……なんだか修羅場回避っていうのはつまらないんだにゃ」
「ま、いいじゃありませんか。仲良きことは美しき哉、善哉善哉」

裏の読めぬ笑みで、海原は頷く。

「お前ホントにアステカの人?何で日本語そんなに堪能なのかにゃ…」



595 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/31(金) 01:36:22.91 ID:CbCB7h20


カーテンから差し込む光が瞼の裏側からでも伺えた。
薄く目を見開くと、見慣れつつある天井。
天井、壁紙に染み付いてしまった消毒液の臭い。
そして、清潔なシーツ。
一体今は何日の何時であるのだろうか。
覚醒した頭で時間を探るが、時計らしきものは見当たらない。
ふと、そこでおなかに圧し掛かる重みに気付いた。

クソガキかァ?

そう思いながら視線をゆっくりと下ろす。
黒い髪が目に留まる。

「……あァ…」

想定していたピョインと伸びたアホ毛が雄々しい茶色の髪ではなく、しっとりとした艶を放つ黒髪がそこにはあった。
一方通行につむじを向けるその髪は、太陽の光を浴びて輪を描いている。
掛ける声を失い、自然と手が伸びた。
思わず自分が取った行動に驚く。
緩く、優しく、慈しむように、普段の自分ではまず考えられない穏やかな手付きでそっと撫でる。
起こさぬように、驚かさぬように。
くすぐるように撫でると、小さくむずがる声を上げる。
一方通行のお腹に突っ伏すように眠っていた少女が寝返りを打つ。
少女 ―――― 佐天涙子の顔が一方通行からようやく見えるようになる。
それだけで、少し嬉しくなってしまう己のお手軽さに、やや呆れる。

俺はいつからこンな腑抜けキャラになったンだァ?

そうは言いつつも、撫でる手を止めるつもりは毛頭ない。
数日前まで、いや、意識においてはついさっきまで胸の中に巣食っていたわだかまり。
佐天を巻き込むことへの不安。
彼女と会わないようにしなければならないという強迫観念。
そして、もし自分が迷うことで打ち止め達を、そして彼女を守れなかったらという恐怖。


596 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/31(金) 01:37:27.50 ID:CbCB7h20

しかし、そんな幻想は既に無い。

自分でぶち壊したから。そして、ぶち壊せるだけの力をくれたのはこの少女だ。

『守りたいから守る』

それだけのシンプルなことだったのだ。
理屈も理由も、後付けに過ぎないのだと、ようやく知った。
何が学園都市最高の頭脳だと嗤う。
佐天の顔が微かに位置を変える。白いシップが頬に貼られてることに気付くと、奥歯が軋みを上げるのがわかる。
自分の不甲斐無さが彼女を傷つけたのだ。
垣根を退けたのは、奇跡の力でも何でもない。自分の力だ。
それも以前、幾度も行使したことのある力。それを出し惜しみした結果がこのザマである。
自業自得のクソッタレの自分の腹に穴が開く程度ならばまだいい。
この無能力の少女が傷ついてよいはずが無い。


「悪い…悪かったなァ……」


少女の頬に掛かった髪を、ゆくりと一筋一筋、丁寧にかき上げていく。
そっと、シップの貼られた頬を撫でると、首のチョーカーに手を伸ばす。
能力を使用可にすると、シップを慎重にはがしてく。
赤黒い痣に、思わず顔を顰める。それでも垣根に殴られていた時の腫れはすっかりと引いている。
おそらくあの医者の腕のなせるわざだろう。
一方通行は血流を操作していく。
じわじわと、上から鮮やかな色を重ね塗りしたように、少女の頬から見る見る間に痛々しいあざが消えていく。
完全とはいわずとも、殆ど気にならぬ程度にまで薄くなった痣をもう一度撫でる。



597 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/31(金) 01:38:10.84 ID:CbCB7h20

「たくさん傷つけちまって、巻き込んじまって」


中途半端に近づけて、中途半端に遠ざけた。

中途半端に優しくして、中途半端に傷つけた。


欲しいなら欲しい。
いらないならいらない。
いつだって自分はそうしてきた筈なのに。
そして、自分にとってこの少女がどちらにあるのかなど当にわかっているというのに。
自分は無意識に畏れていたのかもしれない。

上条当麻に出会い、打ち止めに出会ったことで変わった。
黄泉川愛穂と過ごし、芳川桔梗と過ごした時間。
番外個体に向けられる感情と抱く感情。
結標淡希に向けられる感情と抱く感情。



全ての変化がそれまで拒絶するばかりで何一つとして手に入らなかった自分にとっては眩暈がする程の目まぐるしさだった。

だから怖くなったのかもしれない、背負うことが。
打ち止め達を守るか、それ以外か。
いつしか抱いたつまらぬ幻想。

そうではない、守りたいか守りたくないか。

一万人の妹達に少し加わるだけだ。
結標淡希が、黄泉川愛穂が、芳川桔梗が。
そして、佐天涙子が。
今更それがどうしたというのだ。
一万人の背負う命が一万五人になろうと、一万十人になろうと。
自分が守りたいと思えば、それが全てなのだ。


598 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/31(金) 01:38:48.55 ID:CbCB7h20

自分を守ろうと、震える足に力を込めて立ち上がる少女の背中は瞼の裏に焼き付いている。
心が震えた。感情のうねりに喉まで焼き尽くされたように熱くなった。
彼女に頬を撫でられた時、涙が溢れそうになった。自分の根幹を揺さ振るような衝撃に身体が痺れた。
自分の中のつまらぬ幻想の砕ける音が聞こえ、新たな自分だけの大切な現実が生まれた。

嘗て無敵を目指した男が、たった一人の無能力者の少女に、心から圧倒されたのだ。


自分は嘗て彼女に言った。羨ましいと。それは、上から目線の言葉ではない。
能力に縋るしかなかった自分とは違い、能力が無いくらいで落ち込める彼女への妬みがあった。
こんなにも眩しいというのに、一体何が不満なのだろうかと。

第三位と親友で、第二位に決然と立ち向かい、そして第一位の自分をこれほど翻弄する。
能力でただ野良犬のように牙を剥いていた自分よりも余程、


「お前のほォがよっぽど無敵だぜ?わかってやがるのか」


ツンツンと頬をつつく。


「………で、一体いつまでお前は寝たふりを続けてやがるンだァ?」



むにぃーっと佐天の頬を突然引っ張り始める。

少女の頭部が即座に跳ね上がる。


599 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/31(金) 01:40:57.00 ID:CbCB7h20

「き、きき、き」
「サルの真似ですかァ?」
「き、気付いてたんですか!?」

真っ赤な顔になって慌てふためく佐天を、馬鹿にしたように笑う。

「俺を誰だと思ってる?」
「うううぅうぅ…だって、途中までは本当に寝てたんですよ?でも、一方通行さん突然髪撫で始めてさ、起きると止めるだろうって思ったら、そのままでいいかなって」


あははと、照れ笑いで誤魔化そうとする佐天を呆れたように見ると、ため息をつく。


「ま、元気みてェでよかったぜ」

そう言って一方通行は能力を切る。
佐天は、すっと笑みを消すと、申し訳なさそうに表情を暗くする。
何かを察したのか、一方通行も笑みを消して、まっすぐに佐天を見つめる。
言うべきこと、最初にまず言う言葉をとうに決めていた。まるで互いに申し合わせたように。


「巻き込まれてゴメンなさい」
「巻き込んじまってすまなかった」

そして、二人は表情を一転させる。
佐天は意を決したように口を開く。
一方通行が覚悟を決めて言う。

600 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/31(金) 01:41:46.96 ID:CbCB7h20

「でも、もう来るななんて言わないで下さいね」

「もう来るななんていわねェよ」


そう言い合うと、二人は顔を見合わせて笑った。
佐天はひまわりのように、明るく元気な笑みを浮かべる。
一方通行は、悪ガキのように無邪気に笑う。



601 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/31(金) 01:42:46.08 ID:CbCB7h20

「ねぇ、一方通行さん」

「なンだァ?」

「ホントに、私側にいてもいいんですよね?」

「当たり前だろォが…つーか放さねェから観念するンだなァ~」

「じゃあ、これからもよろしくお願いします…でいいのかな」

「言われなくても勝手に背負う。俺の我が侭でなァ」

「背負うって……もう、じゃあ、一つ約束」

「約束?」

「たまには背中からおろしてください。私だけでも」

「あァ?」

「だってそんなに細っこいのに背負い続けたらバテちゃいますから」

「だから俺の我が侭だって……」

「その代わり。膝枕で休ませてあげます」

「俺が勝手にやることをお前がそこまで気にすることかァ?」

「膝枕………いりませんか?」

「――――………いる……」

「でしょう?」

「チッ……」

「うふふふ」

「ンだァ?それじゃァ俺ばっかりいい目見てるンじゃねェのか。我が侭通して、ンでもって膝枕でお休みコースもセットかァ」

「お得でしょう?」

「あァ……逆に気後れしちまうよ」

「じゃあ、私のワガママもひとつ聞いてくれますか?それでギブ&テイクです」

「おう、何でも言えよ。なンであろうと聞いてやるよ」


602 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/31(金) 01:44:38.67 ID:CbCB7h20



佐天は、椅子から立ち上がり、一方通行の上にのしかかるようにして、顔を近づける。
赤い瞳と黒い瞳がほんの数センチの距離まで迫る。
突然の佐天の行動に呆気に取られた一方通行の表情が妙に幼い。

内心、やかましく鳴り響く鼓動を誤魔化しながら佐天は距離を更に縮める。


少しずつ。

少しずつ。





「じゃあ、私のワガママです」

「お、おゥ…」



603 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2010/12/31(金) 01:47:55.81 ID:CbCB7h20


「それじゃあ……ん―――…」


「―――― ッ」



ちゅッ



「……えへへ~~」

「お、おま…」





「嫁にしてください!」














626 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/03(月) 17:36:20.04 ID:PAtYjb20


「ゴメン、ちょっと待って」


口唇に押し当てられた柔らかく温かい感触に、思考の大半を麻痺させながら辛うじて呟いたのはブレイクのコール。
コイツは新年早々チキンな発言ときたものだと、思うこと無かれ。
だって一方通行にとって、これは生涯初のヴェーゼ。ファーストチッスなのだ。
思考が麻痺してもおかしくはない。

「?」
「いや、『?』じゃねェだろォが」

至近距離で小首を傾げる佐天涙子に、イヤイヤちょっと待ちなさいよキミィとばかりにかぶりをふる一方通行。
佐天の方も佐天の方で、ファーストキスなのだ。故に、顔が真っ赤なのに、彼は気付くそぶりすら見せない。

「少し待て。自分の言った言葉をもう一回よく頭の中で反芻しろ、な?」

その言葉に、佐天はこくんと頷く。
そして、暫しの沈黙の後。


「嫁にして下さい!!」


『!』が一つ増えた。


「何故二度言った?」
「大事なことなので二度言いました。ちなみに三回言うと願いが叶うそうですよ?」
「なンで流れ星と混ぜた?寧ろ俺のSAN値が燃え尽きそうだよ」

ちなみに、今一方通行は両肩を押さえつけられて馬乗りになられている。
佐天の髪から漂う甘い香りやら、息遣いやら、柔らかそうな…というか柔らかいことは以前押し倒した時に確認済みなのであるが、
ともかく佐天涙子のあらゆるパーツが一方通行をここから先の一方通行に進ませんとしていた。一体何を書いてるだかよくわからんが、まぁそういう按配だ。
一方通行は何とか佐天を思いとどまらせようと言葉を頭の中で配置していく。
回転率を上げろ、見落としは無いか、最適ではない、最善の説得とは一体何ぞやと一方通行の頭脳が唸る。
そんな学園都市最高の頭脳が(このコピーを使うのそろそろ飽きてきた)目まぐるしい演算を行っている最中、無能力者にしてある意味最強の少女の一言が
すべての演算を止めた。


627 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/03(月) 17:37:01.59 ID:PAtYjb20


「嘘つき……」


気付けば、目尻に涙を薄っすら涙を浮かべた佐天の恨めしげな視線が真っ直ぐに一方通行を貫いていた。
息を呑む一方通行。その瞳には、佐天の手に握られた目薬なんざ入っちゃいねぇ。


「何でもお願い聞いてくれるっていったのに……」

「いや、しかしだなァ…」

「自分の人生のすべてを賭けて叶えてくれるって言ってたのに…」

「いや、それは言ってねェだろ…?」

「学園都市第一位は約束も守ってくれないんですね…」

「そ、それはだなァ…」

「やっぱり私が無能力者だからどうでもいいんですね」

「ンなわけねェだろ!!俺はそんなこと関係なく…」

「じゃあお嫁さんにしてくれるんですよね?」

「そこに戻る前にだな、まず自分の人生ってヤツを考えてだ、お前はまだ中二のガキなンだしよ」

「そのガキ相手に押し倒したくせに……キスマーク付けたくせに」

「ブフッ!?」


事実だった。





628 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/03(月) 17:38:51.12 ID:PAtYjb20
佐天の首筋に赤い痣が鮮やかに浮かんでいる。
首筋に吸い付いた時についたのであろう。
脅しのつもりだったのだから、何も痕なんかつけるんじゃなかった。
そこまで気合入れるんじゃなかった。
そんな後悔を他所に、佐天は遠い目をする。


「はじめてだったのに……胸も弄られて……キスだって奪われて…」

「いや、後者はお前から」

「女の子に責任を委ねるってヒドイです…」


などと言われてしまえば一方通行には何もいえない。
たとえ、それが少女マンガで最近読んだ台詞だとしても、知りようが無い。
故に、少女の切実な言葉として突き刺さる。マジこの第一位ちょろいな。


「決して離さないって言ったのに……」

「うぐ…」


それは地の文であって、決して言葉にしてはいなかった気がするのだが、そんなことをツッコム余裕は彼にはない。
ぐすんと、涙を零す佐天に、一方通行は自己嫌悪の深みに嵌っていく。自己嫌悪させたら多分禁書一である。
垣根との戦いの際に自分自身に誓った言葉を思い出す。

守りたいから守る。

守るからには離さない。

それなのに、今自分はその守るべき者を泣かせている。


まぁ、ウソ泣きなんだけどね。


(クソ…ッ俺は一体何やってンだァ?守るって決めた矢先にこれかァ?チッ…)


「まったく…相変わらず情けねェ……そうだよな。守るって言ったンだ、だったら責任取らないとなァ…」



629 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/03(月) 17:39:31.69 ID:PAtYjb20

一方通行の呟きを、聞き逃さない佐天は表情を一転させる。
泣きの演技はともかく、こっちは素だ。
彼女だってファーストキスを捧げた相手で、そんな相手にマウントポジションになっているのだ。
決して心中落ち着いてなどいない。いられようはずもない。
正直今だって、こんなに接近しているが、汗臭くはないだろうかとか、やっぱり一方通行さんいい匂いするなとか、てんやわんやだ。
しかし、それを表に出さずに不敵に大胆に振舞えるあたりが佐天涙子の佐天涙子性と呼ぶべきものであるのかもしれない。
要は一方通行がヘタレだという理解でおk。


「責任取るって……じゃあ…」
「ああ……お前の言うとおり、嫁に……」



「よくわからないのに女の子をお嫁にするっていうのは感心しないわね、一方通行」



「「結標(さん)!?」」



二人の間に割って入った声の主は、結標淡希。
さも何でもないように振舞ってはいるが、こめかみが若干引く付いている。
そして、その隣りには口に手を当てて、顔を真っ赤にしながら驚愕の表情を浮かべている番外個体と打ち止め。
まったく同じ仕草をしていると、姉妹にしか見えないなぁと、一方通行は場違いな感想を抱く。
人はそれを現実逃避と言う。



「な、ななな、なん、何盛ってやがるんだよ、このクソモヤシ!!キモイ!死んじゃえ!!グス…」

「ロリコンじゃないっていう貴方の言葉を信じて五ヵ年計画を立てたのに、中学生はOKだったの?
制服が着られる年ならOKだったの?ってミサカはミサカは夫の浮気現場に遭遇した妻の心境を齢1歳にして実感してみる」


「いや、何言ってンだかわかンねェし。とりあえず病院内だから静かにしろ!!」

電撃ミサカ姉妹のわかりやすい動揺に、一方通行まで動揺する。


630 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/03(月) 17:39:59.85 ID:PAtYjb20
一方の結標と佐天はといえば、互いに友情を結んでいる間柄故に、少々複雑な様子だ。
結標はムッとした視線をヘタレモヤシに向ける。
佐天に当たるわけにもいかない。彼女は結標から一方通行を奪ったわけではない。
彼女は彼女なりの覚悟を持って彼との距離を詰めたに過ぎないのだから。
そして、ならば怒りや不満がぶつかる先はといえば、このナイスボート野郎だ。



「?なンだァ?」

「……別に……側にいてくれって言ったくせに…佐天さんと平気でこういうことしちゃうヤツだったんだぁ~って思ってね」



「「「なんだって~~ッ!?」」」


MMRばりに声がハモる三人。
聞いてねぇぞこの野郎!!テメェいつの間にそういう話してたんだコラ!!
突き刺さる視線が一方通行にぶつかる。
しかし、一方通行は、一体何をそんなに怒っているのか、よくわからないとばかりにきょとんとしている。
やがて、思い当たる節があったのか、一方通行は「ああァ」と声を上げた。



「結局あの言葉はウソだったわけ?別に……私は気にしてないけどさ」


結標は俯きながら唇を尖らせる。
徐々に声が尻すぼみになっていくあたりに、一体何処がきにしていないのか聞きたいものだ。


「ハァ?なンでウソだって決め付けてやがンだァ?」
「え?」

瞳を潤ませた結標が顔を上げる。
真っ直ぐにこちらを見つめる一方通行。



631 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/03(月) 17:41:43.21 ID:PAtYjb20

「(仲間としても)側にいて欲しいって思ったのはウソじゃねぇ」
「そ、そんな……でも佐天さんだっているのに…」

真剣な一方通行の表情に、結標の頬が赤みを増す。
その様子に一方通行は怪訝な顔をする。

「意味がわかンねェンだが…?」
「じゃ、じゃあ……これからも…側にいてもいいの?」
「ああ、勿論だ」

「ちょ、一方通行さん!!」
あっさりと頷く一方通行に、佐天が慌てる。
オイ、テメェスレタイ忘れやがったのかと、言わんばかりである。

「……佐天さんみたいに…私も守ってくれる…っていうことでいいの?」
「結標さんまで!?」

指先をモジモジとさせながら結標が、おそるおそる尋ねる。
一方通行はふむと、一瞬考え込む。

「(ン?話が急にトンでねェか?いやしかし…)まァそういうことになるな」
(確かに守るって決めたモンな)

そうだ、自分自身にそう誓ったのだ。

「……その、それって私の事も大切に(恋人として)想ってくれてるって……そういうこと?」
「ああ、大切に(仲間として)思ってる。だから(守るからには)お前を離すつもりはねェよ」

そして、改めて己の誓いを確認し、力強く一方通行は頷く。


「にゃッ!?は、はにゃさない…それは一方通行の(女として)側にいろっていうこと?」

「(まぁ、照れくさい話だが、守りたてェヤツが側にいてくれた方がいいしな…)
ああ、そういうことになるな。お前も(大切なヤツとして)側にいろ」

頬をかきながら、照れたように、視線を逸らす一方通行。
非常に紛らわしい。誤解を招く。ツンデレがたまにデレたと思えばこのザマである。


(うにゃーーー!!ぷろぽーず!?え、いやだ、そんなまだ早いわよ…って『も』?)
「お前『も』って、二股!?いや、もっとたくさんの子がそうして欲しいって知ってるの!?」

「(妹達のことかァ?やれやれ、そんな心配させちまってやがるのか……情けねェぜ…)ああ、わかってるさンなこたァ」


フッと自嘲気味に笑みを浮かべると、一方通行が番外個体と打ち止めに視線を向ける。


632 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/03(月) 17:42:39.42 ID:PAtYjb20

「だがな、もう(背負っていくって)決めちまったんだよ俺はなァ」

「そんな……勝手よ!!(私的にはきっちりその辺させておきたいのに、複数だなんて……)私の気持ちはどうなるのよ」

「確かにお前の気持ちを無視しちまってるのは認める。いや、お前だけじゃねぇ、番外個体の気持ちもな。けどよ、俺は決めたんだよ。
垣根の野郎と戦ってるときにな。コイツの……佐天を守ると。こいつだけじゃねぇ、守りたい奴等を守ると。守りたいから守ると。
だからよ、これは俺のワガママだ。お前らの気持ちを無視して、勝手に俺がやってることだ。
だから、俺はどんなにお前らに疎まれようとも守る。どんな手を使ってでも守り抜く」

確かに、レベル5に近いって言われてる能力者の結標にとって、打ち止めのような少女、無能力者である佐天と一緒にされるというのは屈辱だろう。
力があるのだから、自分のようなロクデモない男に守られずとも平気なのだろう。
しかし最初からわかっていることだ。これが自分のワガママだと。だからこそ、一方通行は腹を括る。
あらゆる罵声を覚悟しながら、あらゆる軽蔑の眼差しを覚悟しながら。
それでも、あらゆるものに挑戦するように、不敵な笑みを浮かべる。


「絶対離すつもりはねェよ」


「そ、そうなのね……どんな手を使ってでも(私は貴方の女にされちゃうのね)」



(そんな……何てワガママなの?でもそういう強引なアナタに胸キュンしちゃうってミサカはミサカはいけない男に弱い自分を再確認してみる)
(べ、べつに…頼んでねぇけど~でも、コイツに苦労掛けるのは、まぁ、ミサカの生き甲斐っていうか…それが一生モンなら愉快痛快だから、ま、まま、まぁ、いいかも…)


顔を真っ赤にして、会話を聞く二人とは対照的に、一人勝ちが年明け早々覆された事実に、不服そうに拗ねる佐天。
ちなみに、絶賛マウントポジション中である。
そんな佐天に、一方通行は悪戯っ子のガキ大将のような無邪気な笑みを見せる。
犬歯を覗かせ、やんちゃな表情で佐天の頭をわしゃわしゃっと撫でていく。


「悪いなァ……けど、今更撤回しねェよ。お前も守る、離さねェ。観念するんだなァ」


その代わり守りぬくからと、柔らかく呟く。
ぷくぅっと童女のように膨れていた佐天であったが、やがて諦めたように深い溜息を吐く。
仄かにその頬は赤い。


633 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/03(月) 17:44:09.92 ID:PAtYjb20


「いいですよぅだ。これからもっと攻略して、私一人しか目に入らないようにしちゃうんですから!!」

「(?そんなに俺が他のやつらを守るのが気に食わねェのかァ?)まァ、好きにしな」

「好きにします!!結標さん、それに御坂さんの妹さんにも、絶対負けませんからね!!」

「ふふふん。受けて立つわよ佐天さん」


好敵手と認め合った笑みを浮かべる佐天と結標。
一方、番外個体は、首まで真っ赤にすると、意地の悪い笑みを無理矢理作る。

「み、ミサカは別にカンケーねーし。つーか、セロリなんかに守られたくなんて……」
「テメェの意思なンざ知った事かボケ」
「何だと糞モヤシ!!」

やれやれと溜息を吐く一方通行に突っかかる番外個体。
一方通行は、腹を括った意思の通った不敵な表情で番外個体を真っ直ぐに見る。

「テメェが嫌がろォが、俺は俺の意思で勝手にテメェを守る。苦情は聞いてやるが………
離してはやンねェよ」

「ふ、ふにゃッ!?」

真っ直ぐ見つめられると、番外個体は最早何もいえない。
真っ赤になって口から零れる言葉は、姉譲りの猫語である。
遺伝子レベルで耐性ねぇな、この姉妹。




「うう……これは五ヵ年計画のプラン389から421までを短縮する必要があるかもしれないなと、
ミサカはミサカはプランの修正の必要性に焦りを抱く…ッ」


フラグ構築率こそ上条属性の3割にも満たない代わりに、フラグ回収率がイチロー二人分以上の
『一方属性』について、真剣に議論すべき時が来ていることを打ち止めはひしいひしと感じていた。


637 名前:あはっぴぃにゅうにゃぁ2011![sage] 投稿日:2011/01/03(月) 18:11:32.74 ID:sOo4m2so
なんという全打席ホームラン

638 名前:あはっぴぃにゅうにゃぁ2011![sage] 投稿日:2011/01/03(月) 18:18:40.44 ID:r0930CQo
3打数5安打は当たり前ですね

644 名前:あはっぴぃにゅうにゃぁ2011![sage] 投稿日:2011/01/03(月) 20:44:39.73 ID:K/VGpUAO
グッとガッツポーズしただけで何人も落とすのかwwwwwwww

652 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/03(月) 23:50:40.56 ID:qpfI9No0



「やぁ、皆。元気かな?皆のヒーロー、上条当麻だよ」
「あ、お姉さン。ホット二つ」


一方通行と上条当麻は例によって例の如くファミレスで駄弁っていた。
もう、こういうのが恒例と化してきているのは気のせいではない。


「いやぁそれにしても、上条さんの空気っぷりはハンパねぇなマジで」

当然このお話の中においてである。

「まァ、お前メインじゃねェしな」

ずずずぅとコーヒーを啜りながら映画情報誌のを眺める一方通行は気のない返事だ。

「普通はラストバトルで上条さんの出番でしょ?もしくは佐天さんを遠ざけたお前にそげぶするとか、そういう友情の拳的な?」
「語尾に的とか付けンな。つーか疑問系で締めるな」
「後半の出番の無さのあまり、上条さんに出来ることはインデックスの腋をくんかくんかぺろぺろすることくらいでしたよ」
「テメェのそういう言動がシリアスから遠ざけてるンだっていい加減気付こうなァ?」

ぷんすかぷんとばかりに肩を怒らせる上条。
可愛くない。実に可愛くない。
男がやってもこれっぽちも可愛くない。

「シリアスwシリアスとかww中学生に手を出しておいてシリアスッスかアクセロリータさんwww」
「……ゴメン、ちょっと九割殺しさせてくンない?」

拳をガッツリと握り締める。

「いやいやいや、ゴメンゴメンストップストップ。だけど相手は中学生なのは確かでせう?」
「………フンッ…」

相手にせずに一方通行の視線が再び雑誌に戻る。
決して図星を突かれたわけじゃないのだ。そう、痛いところを突かれたわけじゃない。
セーラー服着たままって結構燃えるという情報が学園都市最高の頭脳の中に新たに追加されたとか、それは多分関係の無い事だ。

653 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/03(月) 23:51:22.83 ID:qpfI9No0
上条はそんな手元の雑誌をじろりと恨めげに眺めながら、ブルジョワめと呟く。実に忌々しげに。

「映画デートとか……金持ちですなぁ~今時のJCの嗜好を満たすような映画の研究に余念が無いとか…」
「テメェも行けばいいだろォが……」

いい加減鬱陶しいと感じたのか、一方通行が投げやりに返す。
正直、コイツをヒーローと憧れていた時期が黒歴史化していく流れだ。


「甘いな、甘すぎるぞ一方通行!!映画のチケット二人分なんて一週間分の食費に匹敵する大金だぞ?そう易々と使える金額じゃないのですよ」
「相変わらず甲斐性ねェなァお前。バイトしたらどうだ?」
「何故か店が潰れたり、魔術師の攻撃に巻き込まれて大破したりするんで一週間まともに続いたことがございません…」
「幻想殺しハンパ無いな…」

コイツは将来公務員か揉め事処理屋になるしか無いのではないだろうか。
少なくとも共に簡単に潰れる職ではない。


「まぁ、映画館でスるか、家でスるかの違いなんだけどな…」
「TPOを考えろよヒーロー…」
「某イラストの腋出しインデックスのエロさ!!!修道服ってさぁ、下が裸だともう……モザイク必要よ?」
「テメェの頭を今すぐ修正掛けてェなァ……」
「だって、そういうのって燃えるだろう?お前だってわかってるはずだぜ!!」
「声デケェよ」
「あの天使の歌声で(聞いたシスターは漏れなくペンで鼓膜破ります)、舌足らずの口調で喘ぐんだぞ!!??」
「声デケェって言ってンだろォがァ!!」
「お前だってセーラー服とかで色々ヤッてるだろ!!緊縛プレイとか…」
「うるせェ!!あ、店長さンですか?すンませン、今すぐ、ホント、こいつ今すぐ黙らせますンで…ッ」





そんなやり取りから早一週間。
上条が居残りを終え、ふらふらのよろよろで帰ると、そこには驚愕の光景が待っていた。



654 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/03(月) 23:52:14.78 ID:qpfI9No0

「ぐしゅぐしゅ…」

「どうしたっていうんだインデックス!?どこかの魔術師にでも虐められたっていうのか!?」

帰宅するなり台所で涙を拭っているインデックス(ピンクのエプロン)の姿に、上条は慌てふためき、咄嗟に魔術師達の殺し方を三万通り検索する。

もしかしたら彼女の頭の中にある魔道書を狙った輩が現れたのか?

もしかしたら彼女の服の下にある柔肌を狙った肥溜め野郎が現れたのかもしれない。


だとすれば、殺すしかない。
上条当麻は当然人なんて殺しませんよ?殺すのはただの虫けらですから、ノーカンですとも。
まぁ、しかし、まずはインデックス(上条の趣味でニーソ)の涙を拭くことが先決である。

涙目インデックスとかご褒美だけど!!

しかし、残念なことに上条は現在拭くものを持っていなかった。
ティッシュなどという使い捨ての紙など持っての他、そしてタオルは洗面所にしかない。
そこまで取りにいってる間に更にインデックス(絶賛涙目)の涙が溢れ出もしたらエライこっただ。



Q:ならばどうする?どうするんだ上条当麻!!

A:舌で舐め取るしかないじゃねぇ?


自問自答即完了。
自問と自答の間には一瞬の感覚も無い。
それ即ち最初からわかりきっている答え。自明の理ということになる。ならば後は実行のみ。


ぺろんちょぺろんちょしてやれいとばかりに上条式房中術の一つ『ルパンダイブ』の体勢に入ったところでインデックス(白いワンピース)の手の中のタマネギに気付く。


「ゴメンね、とーま。心配かけちゃった?」


涙をエプロンの裾で拭うインデックス(ポニテとか誰得?上得)の前には確かに美味しそうな香りを漂わせるクリームシチューの鍋。
そうかそうか、なるほど得心行った、チィッ、気付くんじゃなかったとばかりに上条さんは頷く。ルパンダイブの体勢のまま。


「今日はお外が凄く冷えるんだよ。舞歌がジャガイモとタマネギお裾分けしてくれたから作ってたんだよ」

「な~るほど。ついに上条さんの手伝いなしに料理を作るようになったわけですな。インデックス……大したヤツだ」

「えへへへへ~」



655 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/03(月) 23:53:04.76 ID:qpfI9No0

駄目シスターの汚名返上に余念が無いインデックスは、上条の言葉に素直に頬を染めはにかむ。
しかし、ふと上条が未だにルパンダイブの体勢を解いていない事に気付く。

「あれ…?どーまどうしたの?どうして上条式房中術の一つルパンダイブの体勢になってるの?」

目尻に涙を浮かべたままのインデックスがこてん、と可愛らしく小首を傾げる。これで確信犯じゃないってんだから恐ろしいものである。


「インデックスさん。上条さんはてっきりインデックスさんが誰かに泣かされたんじゃないかと思ったのですよ。
それで色々考えて考えて、考えた挙句に、ルパンダイブしかないと思ったわけです」

「その理屈はおかしいんだよ」


まったくもって正論極まりないインデックスのツッコミ。
しかし、道理を無理で押し通すのが上条クォリティー。
言ってること視野狭窄なのに正しいことのように聞こえるのが上条クォリティー。


「ふぉぉぉぉぉぉーーーー!!!無理じゃ~~~!!無理なんですよ。上条は急に止まれない!!」

「きゃぁああーーー!!」

「大丈夫、シチューは時間を開けた方が美味しくなるから!!」


ルパンダイブの体勢から獣と化した上条、否、上獣が無垢な銀髪腹ペコシスターに襲い掛かる。





「――― っていうことが昨日あってさ。まったくインデックスには困ったもんだ」

「そォか。かく言う俺も今すげェ困ってるンだがなァ…」


ずるずるとジンジャーエールをストローで啜りながら一方通行は溜息一つ。友達に飯に誘われて来てみれば惚気という名の猥談をされれば溜息だって出る。
何せ上条の話は生々しい。語彙こそ脳みそ的に貧相な上条であるが、それを補う情熱、相手に伝えようとする気迫に満ちている。
結果、団鬼六先生がいらっしゃれば唸らずにはおれぬであろう猥談が繰り広げられ、周囲にいる男客は前かがみに、女客は虫けらを見る目でそれを見るという実に正しい光景が展開されている。


「それにしてもインデックスのあの食欲はどこから来るんだろうな。やっぱり性よ「言わせねェよ!!」」


空になったグラスの底で上条の額を小突く。空っぽ同士故に、実にいい音がする。
ふと、空になった皿を下げに来たウエイトレスと目が合う。



656 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/03(月) 23:54:55.38 ID:qpfI9No0

「あ、すいませン。この子ちょっとかわいそうな子なんです。いや、ホントいつもご迷惑おかけしてます」

「い、いえ、気になさらないで下さい」

引きつりながらも懸命に営業スマイルを浮かべるウェイトレスのお姉さん。
プロぱねぇ。マジでぱねぇ。光の世界の住人すげェ。



「何だよ。一方通行も話せばいいじゃねーか。彼女さんとのアレコレ。三人もいればエピソード満載だろ?」
「うっせ、いきなり振るんじゃねェ。ってか三人って何だ。三人って」
「え?」
「え?じゃねェよ。何で確定事項みたいに言ってンだよ。一人だよ、一人しかいねェだろ」
「お前プレゼント上げてたじゃねーか」
「あのなァ。流石に俺も世話になってるヤツらに何もやらねェ程不義理になっちゃいねェ。そういう義理人情を重んじてこその真の悪党ってェもンだ」
「でも指輪上げたんじゃ…」
「示し合わせたようにおンなじモンねだってきやがってよォ。一辺に済むから楽でいいンだけどよ」


『オイ、プレゼントだけどよォ…何がいい?』
『何でもいいですか?』
『流石にガキが欲しいとか言われても年齢的に推奨しねェがなァ』
『ば、バカッ!な、ななな、何言ってるんですか、エッチなんだから!!』
『かかかか、冗談だ』
『もう…えっと…じゃ、じゃあ指輪なんて欲しいなって…』
『構わねェが……大丈夫なのか?校則とかあるンじゃねェのか?』
『その辺結構緩いんで。で、できれば、そ、そそそ、その…右手の薬指にぴったりのがいいなぁって…』
『?おォ、わかった』



『結標……お前何か欲しいモンあるか?』
『何よ急に…』
『ン……まァ、普段世話になってねェこともねェからなァ……その、礼だと思ってくれ』
『そう…なんだ。じゃあ……指輪、がいいな』
『またか』
『何か言った?』
『いや、なンでもネェ。わかった。指輪だなァ』
『そ、それで、右手の薬指がいいなぁって』
『…?…別意構わねェぜ』



657 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/03(月) 23:58:05.03 ID:qpfI9No0

『指輪とかキッメェ!!マジそんなモン買いに行くモヤシとかあり得ないんだけど』
『まァいらねェならいいが……』
『いらないとか、言ってねぇし!!』
『わけわからネェ…』
『ミサカ最近指輪の収集に凝っててさ。ホントだよ?この日を当て込んだとかじゃなくてね?』
『おォ……メリケンサックみてェになってるなァ…』
『そ、それで丁度さぁ、今右手に薬指だけ指輪嵌めてなくてさ。ホント、偶然って怖いにゃ~ん、あひゃひゃひゃ』
『まぁ鼻輪にしようがテメェの勝手だからいいけどよ』


『ミサカも欲しい!!左手の薬指に!!』
『アホ、まだ早ェ!!そういうのはだなァ、ちゃンとした彼氏が出来たときにだなァ…』
『ミサカの彼氏は一人しかいないもん!!』
『な、何!?いるのか!?最近の小学生は進ンでンだなァ……よし、今度連れて来い。見定めてやらァ』
『………刺されちゃえばいいのにってミサカはミサカは一度痛い目に遭うべきだとアナタに警告してみる。
 寧ろミサカが刺すかもしれないけど』


「てなことがあった」
「………ちなみに指輪の種類は?」
「あァ?確かダイヤだかプラチナだったか忘れた。つーかその程度なンでもねェンだよ。第一位の財力舐めんな」
「まぁいいさ、レベル5って確か多重婚出来るんだもんな。優秀な遺伝子を残すとかいう理由で」
「競走馬かっていう話なンだが一応そうなっちゃいるなァ。あって無い様なもンだが」

ムキになって法案取り消すほど当時レベル5はいなかった故にすり抜けて可決された法律を思い出す。
もしや、それすらもアレイスターの思惑通りだったのだろうか。

「じゃあいいじゃねぇの、いっそ三人と結婚しちゃえば?経済的に余裕だろ」
「アホか。ンなもン、女に失礼だろうが」

ジンジャーエールを飲み干す一方通行。女性関係には基本真面目である。

「まぁ、真面目って言っても中学生に手を出してるロリコン野郎なんですがね~」
「ウッセ!!てめェだって似たようなモンだろうが!!」
「違います~インデックスは中学生じゃないもん!!」
「年齢不詳って便利な設定だなコラァ!!」


「あのお客様お静かに…」


658 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/04(火) 00:02:21.55 ID:cgQXtCI0

その夜の上条宅にて。

「インデックス何やってるんだ?」

風呂から出ると、インデックスが鼻歌を歌っている。それ自体は珍しいことでもなんでもない。
上条も明日が補習も何も無いお休みだと上機嫌で鼻歌を歌ったりするし。
『三百六十五歩のマーチ』は上条さん的には神曲№1だ。
もっとテンションが上がっていればオンリーマイイマジンブレイカー(上条さんは英語変換できません)を歌ったりもしよう。


何せ、翌日休みっていうことは何処までも無茶だったり苦茶だったりなことを出来るし、
要求できるし、受けて立てるのだから。(意味深)


上条式房中術だって平日においては僅か13式しか出せないが、翌日が休みであれば30式まで挑戦できる。
ちなみに上条流房中術は父、刀夜から授けられた48式に加えて、
様々な死闘の中で(魔術関係であったり科学関係であったり、学園生活であったり、ベッドの上であったり)
上条自身が編み出した52式を加えた計100式から構成される。


「あ、とーま。お風呂掃除してくれた?」

「おう、ばっちりだ。で、何見てたんだ?」

上条が先ほどから気になったのが『それ』であった。インデックスが上機嫌で鼻歌を歌っていること自体は珍しいことではない。
上条が気になったのは彼女の手の中にあるもの。A4サイズの紙の束である。
嬉しそうな顔で上条の隣りに身を寄せると、インデックスは上条に見えるように束を見せる。

「学校の編入手続きの資料なんだよ!!小萌がね、私も学校に通えるように取り計らってくれたんだよ」
「へぇ~ってお前IDは?」
「ふっふっふ~実は内緒にしてたけど…ジャーン!!」

そう言ってインデックスが上条の眼前に突き出したのは学園都市おなじみのIDカード。
しかし、以前と異なるのはシスター姿の偽造とは異なり、私服の少女がにこやかに写ったもの。

『上条 インデックス』と記されている。


659 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/04(火) 00:04:25.08 ID:cgQXtCI0

「上条…インデックスって」
「しいなが後見人になってくれたんだよ」

お父さんの存在をするっとスルーしたことをスルーして上条はマジマジとカードを見る。

「本当に本物っぽいな……ってことはこれでインデックスも学校に?」
「うん!」

頬を朱に染めて頷くインデックス。頬を染めた理由が嬉しさ以外に

『上条インデックスって、とーまと結婚したみたいなんだよ』

とか乙女チックなことを思っているなどということにこの愚鈍、朴念仁、鈍感の名をほしいままにする男にはわからないし、言ってはいけない。
多分、それを言った瞬間に萌えた上条が上条流房中術の一つ、『三日殺し』を放ちかねない。
ちなみに三日殺しとは、インデックスの足腰が三日立たなくなることから付けられた名である。


「いやっほー!!これでインデックスと放課後教室制服プレーが出来るンバ!!!」
(コレでインデックスも普通の女の子として青春を謳歌出来るってことだな)

「いやだよーとーまってば。本音と建前が逆なんだよー」

正解:『コロンビア』のごときハイテンション且痛々しいリアクションにさえインデックスは恥ずかしそうに頬を抑える。
マジ恋って盲目だ。
しかし、直後にインデックスは申し訳無さそうにしゅんと肩を落とす。


「でもね、とーま。残念だけど放課後制服プレーは出来ないんだよ」
「ウゾダドンドコド~~~ン!!ど、どどどどどどどどど、どういうことなんでせうかインデックスさん?
あ、もしかして土御門とか青ピに見られるんじゃってそういう心配をなさっていたり?それでしたら火急的速やかに始末して…」


物騒なことを口走ろうとする上条を制するように首を振るインデックス。


「だったら制服が破れたり汚れたりすることが心配で?だったら気をつけるから。善処するから!!」


決してしないとは言わないあたり、正直な男である。
しかし、それに対してもインデックスはふるふると首を振る。
それにしてもこの上条必死過ぎである。


660 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/04(火) 00:05:30.41 ID:cgQXtCI0

「じゃ、じゃあ、何で?どうしてそんな残酷なことを!?」

「だってね…とーまとインデックスじゃ学校が違うんだよ」

「違う…まさか中学とかいうオチじゃ…」


そう言いかけて上条は初めてインデックスの後ろにあるモノの存在に気付く。
新品のテッカテカに輝く眩きアイテム。目に痛い程の眩い『赤』




「ランドセル……だと……?」

カタカタと震える上条。
そして、先ほどインデックスが見ていた資料にもう一度目を通す。
『保護者の方へ ○○○小学校 編入についてのお報せ』
何度目をごしごしと擦っても『小』の字である。


「インデックスさん…?貴方確か以前白井に『自分より年下のくせに』とかなんとか…」
「うん、日本人って以外と年齢の割に顔が老けて見えるでしょ。かおりとか…」
「アレが特殊なんです!!」

スゲェの比較対象にもってきたよこの子は、と思いつつも、最初に見たのが神裂だったりステイルだったり実年齢詐欺な連中である。
インデックスの価値観が歪んでしまうのも無理は無いのかもしれないが、最早上条にとってはそんなところはどうでも良かったりする。
問題は、それによって上条クンが一体どういう立場になってしまうのかということ。

小学生である。

上条クンが守ると誓った少女は、大切に思っていた少女は、上条流房中術の全てをぶつけていたのは、上獣を解き放っていたのは、まだ小学生の少女なのである。




661 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/04(火) 00:06:46.94 ID:cgQXtCI0



「とーま?どーしたの?」


そう言って心配そうに上条を覗き込む少女。否、幼女。
そうだ、そうなのだ。仮にインデックスが15歳前後の少女であればあのぺったんこはあり得ないはずなのである。
おそらく大きくなったらローラ・スチュアートばりのわがままバディになるインデックスが、そんな成長期の後半に差し掛かった段階でアレな筈がないのである。
そんな簡単な答えにどうして気付かなかったのだ上条当麻。お前、本当は気付きかけていたのではないか?
インデックスが打ち止めとタメ年っぽさで喋ってる場面に出くわした時とか、気付くきっかけは山ほどあっただろう。
気付いてたんじゃないのか?気づいていて気付かぬフリをしていたんじゃないのか?


どうなんだ、ええ?上条当麻。



「とーま、とーまってば…」
「インデックス…俺は…俺は…俺は!!」





「という衝撃の新事実がありまして…って何か引き気味じゃね?一方通行」
「ンなことねェよ。おめでとうございますゥ。良かったじゃネェか彼女に普通の生活させてやれてよォ、ロリ条クゥゥゥンン」


ぱちぱちぱちと心がすげぇ篭ってない拍手を打つ一方通行さん。
ロリ疑惑払拭運動に取り組んでいた努力は無駄じゃなかった。
積極的に年上やらおっぱいに恵まれた子と行動を共にしていて良かった。
まぁ、残る問題はなまじ回収してしまったフラグをどうするかという問題である。
あわきんとかさ。彼女その気になればアナタの遺伝子たっぷりのケフィアを自分の中に座標移動させちまえますぜ?
筆下ろしの流れで黄泉川の決して砕けないはずのクレイジーダイヤモンドもとい、ダイヤモンドヴァージンを砕いちゃった問題とかもあるし。
その辺の問題を一体どうするのか。
でも、一方通行なら……一方通行ならきっと何とかしてくれる。


「ロリ条とかマジで止めて!!御坂とかに知られたらビリビリってされちゃう!!アイツのことだから」

「なンだ…お前超電磁砲が(嫉妬で)怒るって知ってるのかァ?」

「おう、きっと(正義感ゆえに)怒るだろう。俺が許せないだろうことくらい」
「じゃあ、もしかして…お前アイツがお前の事を(恋愛対象として)想ってるってことも」
「勿論。アイツが俺のことを(気の置けないダチ公として)思ってるってわかってる」
「まったく……テメェもヒデェ野郎だ…」



662 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/04(火) 00:08:34.98 ID:cgQXtCI0


ズズっとチェリオを啜る一方通行。
それでも尚インデックスを選ぶというのか。
そこまで決断しているというのか。
御坂美琴を陰ながら守ることを誓っている一方通行としては嘗て上条が彼女と結ばれることを望んでいたが、肝心なのは両者の合意だ。
第三者がお似合いだからだとか、結ばれるべきだとかごちゃごちゃ言うものではない。
いざとなれば、自分が陰ながら支えていくつもりだ。
それに、多分彼女の苦境の際には、上条よりも役に立つナイトであるところのアステカの憎いアンチクショウもいる。


(それもまた……縁ってヤツなんだろうなァ)



人生ままならない。人の関係もままならない。
だからこそ尊いのだ。一方通行はしみじみと思う。
今日は久しぶりに黄泉川と芳川の顔を見に行こう。
打ち止めはすっかり親離れしてしまったのか、会う度に避けてくるだろうが。
先日も嘗てのように飛び込んで纏わり付いてくると思えば部屋に引き返されてしまった。



『ミサカはミサカは五ヵ年計画成就の為に今はあえて貴方にダイブしたい衝動を太ももにピンを突き刺すことで堪えてみる…グゥゥ!!』

『打ち止めァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーー!?』



五ヵ年計画とは一体なんなのだろうか。
今度20000号あたりに聞いてみよう。
報酬は多分使用済みのシャツあたりでいいだろう。


「で、結局どうしたんだァその後はァ?」
「その後?ああ、インデックス衝撃の小学生発覚の後な。あの後は ―――― 」




663 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/04(火) 00:10:24.63 ID:cgQXtCI0


「裏切ったな!!上条さんの心を裏切ったんだ!!」

「とーま!?ゴメン。とーまはてっきりインデックスの年齢を知っててビーストモードになるペド野郎だと思ってたんだよ」

「バッキャロー!!上条さんはなァ、上条さんはなァ……インデックスだから『裏コード・THE BEAST』を使ったんだよ!!」

「とーま…ッ」

「いつの日か、インデックスがローラ並のけしからんアグレッシブボディーになる日を楽しみにしながら、まぁ、今は今で出荷前の果実もいいんじゃね?的な感じで頑張ってきたんだ」


お前はお前だ。ロリとかペドとか関係ないんだよ。
上条が熱く檄を飛ばす。全ては愛ゆえに、愛ゆえに全てを受け入れようと。インデックスは上条の想いをしかと受け取り、そして涙を流す。
彼は自分を自分として見てくれていた。イン何とかさんwwという世間の荒波にも負けずに、自分という存在そのものを見てくれていた。

そう、彼女は不安だったのだ。ロリだったらどうしようかと。見下げ果てたペド野郎だったらどうしようと。

コラじゃなくて、本当に『中学生はババァなんだよ』だったらどうしようと。



「じゃあ、小さい子には興味無いんだね」

「いや、あるけどね」(キリッ

「でも、今更だけど犯罪なんだよとーま。ほんと今更だけど」


しかし、インデックスはわかっていなかった。
今の会話の間にも、上条の脳内で赤いランドセルを背負ったインデックスの姿が映像化されていたということを。
イメージトレーニングは完了しているということを。



天使上条『駄目だよ当麻君!!インデックスが幼女だってわかった以上ムチャなプレイを要求するとか鬼畜の所存なんだよ?』
悪魔上条『ハァ?幼女だからいいんだろうが!一方通行の野郎が中学生コマしたって聞いたとき、正直羨ましかっただろう?』
天使上条『だからって、だからって幼女には合意に基づいた正常位までだって源氏物語には……』
悪魔上条『バッカ。寧ろそういう幼女にムチャぶりすることが興奮するんだろうが!!
     萌えないか?ランドセルに黄色い帽子のインデックスとか!』
天使上条『!?』
悪魔上条『俺は萌えるし燃えるね。その為に蛆虫のチンカス野郎だって罵られようとも!!』


駄天使上条『そうだね。寧ろ蛆虫のチンカス野郎って小萌先生とかに罵られたらご褒美だしね』
悪魔上条『!?………お前って天才って言われね?』



664 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/04(火) 00:13:15.90 ID:cgQXtCI0

以上の悪魔と天使の熾烈な議論を0.02秒の間に終了させることで上条は計108に渡る魔術拘束具を破壊する。
全てを解放し、『竜王の顎』が起動する。


「と、とーま…そ、その構えは…」

「いいぜ、お前がそうやって上条さんの思春期を炸裂させないっていうなら、何でもさせてくれないっていうなら……まずは…」

「上条流房中術…最終奥義…『一人アテナエクスクラメーション』!?」

「そのふざけた現実からぶち殺す!!」


その日、衛星軌道上から一つの衛星が消失した。





「お前今すぐヒーロー返上しろよコラァ!」
「何だよ!お前だって本当は羨ましいんだろ?彼女相手にランドセルプレイしてるんだろう?わかっているのですよ上条さんは」
「するか!!」
「またまた~御坂妹の話じゃ彼女に赤いランドセル背負わせて、『ホラ、しっかり咥えるんだぞ?先生の縦ぶ「言わせねぇよ!!」」


悪びれていないのが尚更悪い。
既に周囲でひそひそとした内緒話が始まっているのが不味い。


「ランドセルとかあとスモックとか…」
「してねぇー!!せいぜいナースとチャイナくらいだァ!!……ってしまったァ!」
「ああ、ベタだな」
「あの…お客様…ちょっとそういうお話はボリュームの方を…」
「すいませン!!ホントすいませン!!」



665 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/04(火) 00:14:36.08 ID:cgQXtCI0


その頃とあるカフェ。

「でさぁ…私どうやったらアイツにもっと素直になれるんだろう。わかってるのよ?ツンツンしてばっかりじゃ、可愛げのない女だって思われかねないって。でも…」
「御坂さん~そのお話コレで129回目ですよ~って佐天さん?誰とメールしてるんです?」

「ん?内緒♪初春にはまだ早~い」




From:佐天涙子

To:あーくん

Sub:制服クリーニングから返ってきましたよ~


ナース服が好評だったから、今度はメイド服用意しますね。
それとも他に何かリクエストあります?
御坂さんに常盤台の制服貰いましたけど?




685 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/04(火) 23:14:33.35 ID:EC4LCcw0


最後に見た光景は白い拳。

自分の生み出したありったけの紛い物を、まるで雪遊びする子供のように散らしていった白い少年。
事も無げに、無造作に、無邪気に、他愛なく、自分の力のすべてを、容易く突き崩していく少年。

そして改めて思い知らされた。
自分はスペアプランではなかったのだと。
スペアプランという肩書きに自尊心を傷つけられ、かの少年を憎み、立ち塞がるというのが自分の役目。
つまりは少年にとって乗り越える踏み台の一つだという事実に。
あの夢想家にして現実主義者の人非人の男にとっては、彼だけだったのだろう。
自分が勝てないこともすべて織り込み済みで。

そして、そのことに一番納得しているのが、他ならぬ自分であるということも。

最後のあの姿。
自分とは違う、あの光の翼。
けれども、自分を何よりも打ちのめしたのは、そんなものではない。

あの瞬間、少年が浮かべた表情。



「笑っていやがった」


それは憎しみと怒りを込めた憤怒の表情でもなければ、負け犬を見下す嘲笑でもなかった。
獲物を食い散らかす肉食獣の如き獰猛な笑みでもなければ、殺しを愉しむ残忍な笑みでもなかった。

まるで子供。

喧嘩に勝って得意満面の子供のような無邪気な笑み。

犬歯をむき出しにして、どうだ!と言いたげな笑み。
あの場において、既に頭に無かったのだろう、自分をどうするかなど。
ぶっ飛ばして、すっきりして、さっさと帰る。
既に、彼にとってはそれだけの話であり、腕に抱えた少女の方が遥かにウエイトは大きかったのだろう。
つまりは自分は殺すほどの相手ではない、それどころか、そこまで心を傾ける相手ですらないということ。
少年 ――― 一方通行にとって、この自分はその程度だったということ。


686 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/04(火) 23:15:41.79 ID:EC4LCcw0


「眼中にねぇってことかよ……」


舌打ちをすると、ふらつく頭を起こす。
垣根帝督は、瓦礫の山と化した周囲を見回す。
空のツンとした空気が、夜明けの近さを教えてくれる。



「おや、もうお目覚めですか」


突然かけられた声に、あわや大声を上げてしまいそうになるのを堪えた。
振り向くと、にこやかな笑顔を湛えた少年。自分と同じくらいの年頃だろうか。
瞬時に垣根の空気が張り詰める。
自分と同種の人間だと、彼の嗅覚がすかさず察知したのだ。
しかし、にこやかな笑みを浮かべた少年は小さく肩を竦めて苦笑する。


「てめぇ…何モンだ?」

「別にアナタの命を狙ってやってきた追っ手なんていうオチじゃありませんよ」

ちらりと、彼は視線をとある方向へ向ける。


「まぁ…強いて言えばアナタの被害者を助けたかった者で、アナタの加害者の友人とでも言いましょうか」


その言葉に、垣根の表情に亀裂のような笑みが浮かぶ。


「へぇ~“グループ”かお前…」

「海原と言います、以後お見知りおきを」


まるで社交界であるかのように優雅に一礼をする海原。
瓦礫の上に胡坐をかいたまま、垣根が品定めをするように少年を見る。
少年は、その視線を毛ほども気にすることなく、一枚の紙片を投げてよこす。
手にした紙片に目を通した垣根の表情に、不審げに歪む。


「何だよ、これ?」
「病院の住所ですよ。腕のとても良い医者がいるんです」


687 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/04(火) 23:16:21.53 ID:EC4LCcw0

「モヤシに一発殴られただけで医者なんかにかかる理由にはならねぇだろ」


そう、結局一方通行は垣根に止めを刺すことも、深手を負わせることも無かった。
彼がそのつもりならば、あの瞬間にも自分は血液を逆流させられて即死だったというのに。



「ですが、一方通行の運ばれた病院ですよ?色々とお話したいことがあるのではないですか?」


一瞬、さきほどの独り言を聞かれていたのかと、眉を顰める。
そんな垣根の様子を愉しむように、海原がひそりと笑う。
垣根の瞳が引き絞られたように細く尖る。
海原の含みのある笑みに、能力を反射的に行使しようとするが、鋭い痛みに演算をキャンセルさせる。
鈍痛などというレベルはとうに超えている。一方通行との戦いの際、半ば捨て置いた痛みが束になって頭を万力のように締め付けるようだ。
本来ならば頭を掻き毟り、地べたを転げまわりたい程に肥大化した痛みを歯を噛み食い縛るのはひとえに垣根の凄まじいプライドによる。


「それに、そこの病院は様々な治療にも取り組んでいましてね。例えば……クローンの調整とか、ね」

「ッ!?」


思わぬ言葉に目をむいて海原を凝視する垣根。
そして、浮かび上がるのは疑問。


「それでは用も済みましたので……」
「おい、待てよ!!」


立ち去ろうとした海原を垣根は思わず引き止める。


「どうしてわざわざそんなことをする?」
「そんなこととは?」
「俺は一方通行を殺そうとした。お前の仲間なんだろう?」
「そして再び負けたのでしょう?」

すかさず放たれる刺すような一言。
今更に悔しいのか、垣根の頬が引きつる。



688 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/04(火) 23:18:27.67 ID:EC4LCcw0


「だったらもうお終いです。一方通行の喧嘩に口を挟むつもりはありません。アナタの命を奪わなかったことも含めての彼の選択でしょう
僕からはそれ以上にとやかくいうつもりはありませんし、彼に代わって止めを刺そうなどという野暮な真似もするつもりはありません」


何も言わずに、メモを握り締める垣根に背を向け、立ち去ろうとして、海原は思い出したように立ち止まる。


「そうそう。もし、貴方が性懲りも無くリベンジなんて考えるのでしたら、素直に一方通行を狙ってください。
彼はきっと逃げも隠れもしないでしょう。ただし、佐天涙子をまた狙うようでしたら……」

「何だ?随分と人気者じゃないの、涙子ちゃんてば」


意地の悪い笑みを浮かべる垣根の言葉を一笑に付す。
海原は、ゆっくりと垣根に向き直ると、笑みは絶やさぬままするりと懐に手を伸ばす。


「別に彼女と面識などありませんし関わろうとも思いませんよ。ただね、彼女に何かあると深く傷つく人がいるんです…
とても優しく、一人で抱え込んでしまうような少し困った人でしてね…きっと佐天涙子に何かあれば彼女は涙を流す。
きっと何も出来なかった自分を許さないでしょう。ですからそんなことを貴方がしようと言うのでしたら……
…――― 僕が殺します」





慕ってくれる者、敬ってくれる者、憧れてくれる者。
そんな人間は数知れず、けれども対等に、単なる友人として見てくれる者の極端に少ない少女。
凛々しく、優しく、真っ直ぐで、けれども傷つきやすく、純粋で不器用な愛しい少女。
彼女が傷つく事を何よりも海原は憎む。
その為に彼女の前に姿を現すことがなくとも、
その為に見ず知らずの少女を守るべく命を賭けようとも、
海原光貴は躊躇など微塵もしない。

一体いつの間に抜き放ったのか、その手には黒く、複雑に輝く黒いナイフのようなモノが握られていた。
魔術を知らぬ垣根には、海原の手に握られたモノの正体がわからない。
ただ、その黒い輝きを見た瞬間、ぞわりと背筋に警鐘じみた衝動が這い上がった。

「まぁ、一方通行しか目に入っていない貴方だったらそんな心配いりませんね」

海原は、そんな垣根の動揺を把握しているかのように、手にした黒曜石を懐にしまいこむ。
垣根の背筋に走った緊張感が即座に霧散する。


689 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/04(火) 23:20:15.03 ID:EC4LCcw0

「まぁもっとも……一方通行を狙うのもあまりおススメはしませんよ?
『8人目』候補とレベル4の電撃使いと銃火器を使いこなす中学生の大軍を敵に回すことになるのですがね」

くすくすと、小さく笑う海原に、垣根は脱力するように瓦礫に寝そべる。
どちらにせよ、今の自分には能力が使えない。
頭痛のせいで会話をするのがやっとなのだ。この得体の知れない男一人の相手すら出来るかどうか。



「……おっかねぇなァ……これがグループか?」

「そうですね、いえ、寧ろ………そう、“一方勢力”でしょうか」



規模では上条勢力に及ばぬものの、容赦の無さでは上条勢力よりも上だろう。
一方通行が聞けば怒るであろうその名称が案外と的を射ている気がして、海原は愉快な気持ちになる。

垣根はやってられないとばかりに大げさな溜息を吐く。


「折角拾った命…いえ、戻ってきた命なんですから、有効活用したらどうですか?」
「光の世界に行けってか?今更この俺がか?ハハハハ、笑わせやがる…」
「諦めているようですね」
「そもそも望むのが馬鹿馬鹿しい。今更すぎんだろ…」
「ですが、一方通行は諦めていませんよ?彼はどうやら、貪欲に生きることにしたようだ。
欲張りに、手に入るものは何が何でも手に入れて放さないつもりだ。あきれるほどひたむきに」


そんなことはわかっていた。
その力に自分はやられたのだ。
一方通行だけにではない。
彼を守ろうとする、無能力者の少女に圧倒され、脅かされ、そして、吹っ切れた一方通行にぶちのめされた。


自分は彼と彼女の二人に叩きのめされたのだ。



「……気に入らねぇなぁ、あのモヤシ野郎……気に入らねぇよ……チクショウ………」





見上げた空は薄っすらと白み始めている。

夜明けが近かった。



690 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/04(火) 23:21:56.69 ID:EC4LCcw0




今日は千客万来だと一方通行は思った。




打ち止めは娘、番外個体は妹だろうか、とにかく、彼女達は自分の家族である。
また結標淡希も仲間であり、時折何故かどきりとさせられるものの数少ない友人だ。
そして、佐天涙子は正直上手い言葉が見つからない。
彼女の側にいたい、彼女の笑顔が見たい、彼女に触れていたい、彼女の声を聞いていたい。
願望は山ほどあるのだが、しっくり来る言葉がない。
強いて言えば『守るべき大切な人』であろうか。

しかし、どうにも自分の言い方は不味かったのか、ぴりぴりとした緊張感の中にピンクなお花が飛び交うというよくわからない空間が出来上がった。
打ち止めと番外個体はMNWに接続したのか、虚空に視線を合わせながら激しい議論を行い始めた。
結標は時折此方をちらりと見ては顔を赤くし、佐天と目を合わせては何か好敵手を見るように火花を散らしていた。
佐天は拗ねた顔から一転して、ベッドの端に腰かけて、自分にぴったりと寄り添っていた。
正直、彼女の甘い香りやらに、心が落ち着かないであるが、それを上手く核をぼかして彼女をどかす言葉が一方通行には思い浮かばなかった。
故に、悶々とした、やり場のない感情を持て余すことになっていた。

碌に人間関係を築き上げそれを維持してこなかった一方通行は、自分自身の感情を上手く言い表す言葉がわからなかった。
しかし、今の自分の感情だけははっきりと言える。




まいったなァ…





691 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/04(火) 23:22:38.63 ID:EC4LCcw0

佐天涙子と、番外個体、打ち止め、そして結標淡希。
この姦しい少女達が立ち去りようやく静かになったと思った矢先に現れた新たな訪問客。
目の前にいる少女を一言で言い表すならば『お花畑』。
少女の話では、どうやら佐天の友人であることはわかった。
それは着ている制服でもわかる。問題は、その初対面の少女になぜ林檎を剥いてもらっているのだろうかということだ。

「ウサギさんです」
「お、おォ…」

手渡されたウサギを何となく見つめる。
視線のもって行く先がわからなかったからだ。
それにしてもりんごのウサギはいつも何処から食べるのが正統であるのかわからない。
耳を齧るのか、頭部丸ごとなのか、それともお尻からなのであろうか。
そんな事を考えている間に、少女 ――― 初春飾利はにっこりと笑う。


「これで二回目ですね、アナタとお会いするのは」
「二回目…?」
「ハイ、第二位から助けてくれました。アホ毛ちゃんは元気ですか?」

第二位という言葉でようやく納得が行った。

「あの時のガキか……アイツといい、つくづくお前らの学校はメルヘンに呪われてるんじゃねェのか」

路地裏の不良に絡まれるというレベルではない。
よりにもよってというレベルだ。
その言葉が図星なだけに初春はただ苦笑する。

「それでもって第一位に何かとご縁があるみたいですね」

「知らねェよ」

正直この手の笑顔は苦手だ。佐天を髣髴とさせる芯の強さと純粋さを持った笑顔。
この笑顔を前にするとどうにもいつもの調子が出ない。
目を逸らす一方通行を優しい眼差しで見ると、初春は何かを胸に決したように瞳を一度伏せる。


「あの時は本当に……ありがとうございました」


初春がぺこりと頭を下げる。




692 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/04(火) 23:25:18.14 ID:EC4LCcw0

「………別にそういうつもりでやったわけじゃねェ。ただ、成り行きで助ける形になっただけだ」


これは本当のこと。
打ち止めを助けるために自分は戦った。
その側に偶々いたのが初春という少女であったに過ぎない。
故に、真っ直ぐにお礼を言われるというのはむずがゆく、見当違いであり、居心地の悪いものである。

「それでも一度、きちんと言いたかったんです」

それと、と初春は続ける。

「私の大切な…お友達を助けてくれてありがとう……ございます」


その声は震えていた。

そこには、彼女だけの謝罪も込められていた。
以前、一方通行といることで厄介なことに巻き込まれるのではないかと佐天に言ったこと。
自分自身命を救われながら、それでも彼をどこかで裏世界の危ない人間だと捉えていたこと。
そして、何よりも一方通行という人間を信じていなかったこと。
正直、彼が佐天をここまで大怪我を負ってでも守ってくれるとは思っていなかった。
だからこそ、佐天から入院の話を聞かされた時、一度会いに行こうと思った。


「……本当に、本当に……ありがとうございます」


もう一度、今度はもっとゆっくりと頭を下げる。
初春の手に雫がぽたりと落ちる。
一方通行からは、初春の花飾りしか見えないが、彼女が泣いているとわかった。
少女の涙を拭ってやるなどと言う気の利いたことは早々できる男ではない。
故に、彼に出来るのは、涙を見ないように窓へと視線を移すことだけである。


やがて、口を開いたのは一方通行だった。


「それこそ礼を言われる筋合いなンざねェよ。俺が勝手にやったことだ。アイツを守りてェから守った。
寧ろ、アイツを巻き込ンじまったンだ。お前は俺を詰る権利だってある」


わかりきった簡単な答えを言うようにつまらなそうな表情を窓に向けたままの一方通行に、暫し初春はぽかんとする。
そして、小さく噴き出す。余りにもその横顔が照れた子供の表情のようであったので。


693 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/04(火) 23:28:08.90 ID:EC4LCcw0

「詰りませんよ。そもそも巻き込まれたのは佐天さんの自業自得なんですから」

「随分と手厳しいンだなァ」

「それくらいキツい態度じゃないとあの人聞きませんから」

「クハハッ…違いネェ」




出来の悪いわが子を嘆く母親とでも言おうか。
初春の実感の篭った声に、思わず一方通行の唇が微かに緩む。
おそらく無意識であろう、一方通行の笑みに初春はドキリとする。

(優しい…笑顔…)

こんな笑顔を浮かべる人なのか、と愕然とする。
佐天の言葉を思い出す。笑顔がとても可愛いと。なるほど、確かに彼女がのぼせてしまうはずだ。
これは心臓に悪い。ひねた態度と、シニカルな表情。
それら偽悪的な仮面が不意に剥がれた瞬間に生まれる笑み。
湖面に浮かんだ泡のように、脆く儚く、柔らかい微笑みに、初春は頬を微かに赤くする。


それは、彼がようやく手に入れ始めた――― 否、“取り戻し”始めた笑みであった。

「………佐天さんの気持ちがわかりました……」


この笑みを彼女は独り占めしようとしているのか。
何て贅沢なのだろうか。


「あァ?」

呟いた言葉が聞き取れずに、一方通行が怪訝な表情を浮かべる。
慌てて初春は誤魔化すように首を振る。


「いや、何でもありません!!ホント、何でもありませんよ!!」



早打ちする鼓動に静まれと命令をしながら、初春は顔を手扇子でぱたぱたと扇ぐ。
顔の熱が速く引くようにと。一方通行に気取られぬようにと。
何はともあれ、これで佐天をからかうネタが増えた。
滅多に無い逆襲のチャンスにほくそ笑むと共に、もう少しだけこの場にて、この不器用な少年との会話を楽しんでしまおうと、
初春は妙にウキウキとした気持ちで、一方通行に剥いてやる林檎を手に取った。


713 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/05(水) 23:33:08.84 ID:cGEpC0s0


「ふむ、もう完全に塞がったようだね。特に後遺症も無いようだ」

そう一人納得するように頷くカエル顔の医者。
彼の言う通り、一方通行の白い腹には傷痕の名残すら存在しない。
もういいよ、という言葉を待たずに上着を着ると、一方通行はしげしげと自分の腹に視線を置く。
どこか呆れた視線を冥土帰しに向ける。

「傷そのものは10日目くらいには塞がっていたから、まぁ当然といえば当然だが」
「……治してもらってなンだがよ、どうやったら10日ばかしで塞がるんだよ…向こうの景色が見えてたンだぜ?」
「やれやれ、侮られたものだね僕ともあろう者が。腹に穴が空いた程度で僕が患者を旅立たせる筈もない」

手元でペンをくるくると回しながら10日でも掛かり過ぎたぐらいだよと嘯くカエル顔に、何も言うまいと一方通行はジャケットを羽織る。
この医者はある意味アレイスターよりも得体が知れない。



「そういえば例の『彼』だがね」

杖を手にして、立ち上がる一方通行の背に、何気ない口調で冥土帰しの言葉がこつんと当たる。
思い当たることがあるのか、心底嫌そうに顔を歪めながら振り返ると、当の冥土帰しは一方通行を見てはいない。
彼は既に他の患者のカルテに目を通しながら、こりこりとボールペンで白髪だらけの頭を?いている。

「心配いらないみたいだよ」
「あァ?」
「ふむ、言葉が足らなかったようだ。このまま調整を受け続けていけばいずれ普通の生活が送れるようになる
アレイスターの資料が見つかったからね、彼女達同様にそう長く調整を続けずとも済みそうだ」


「知らねェよ。つーか興味も無ェ」


一方通行は微塵の欠片も躊躇なく切り捨てる。
その言葉に、冥土帰しはカルテに視線を向けたままふむ、とひとつ頷く。
それ以上何かを言うわけでもなく、何かを思うわけでもなく、ただそれきり口を閉じる。
用が終わったとばかりの態度に、一方通行もまたフンと鼻を鳴らすと診察室を後にする。



714 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/05(水) 23:33:44.87 ID:cGEpC0s0


伝えるべきことを冥土返しは伝え、それに対して興味ないと、一方通行は返した。


二人にとって、それだけのことであった。



かつんと、廊下に乾いた音を立て杖を突きながら歩く。
妹達の顔を見てから帰ろうかという考えが過ぎるものの、打ち止めを伴わずに妹達に会いに行くというのは中々思い切りが必要な行動である。
足を止めることなく、すぐさま一方通行は自分の中に浮かんだアイディアを消去する。
また今度だ。また今度仕切りなおしだ。打ち止めと番外個体を連れてからにしよう。
踏ん切りの着かぬまま病院の外に出たところで溜息を吐く。


「やれやれ……まだまだ俺もヘタレだなァ…」

「そうでもないですよ?」

「お前……結局来たのかよ」

「だって、気になるんですよ」


病院の正門からひょこんと顔を覗かせた黒髪の少女は、てててと一方通行の隣りに駆け寄る。
杖を突いていない方へと周り込み、一方通行をじっと見上げる。
何かを待っているような少女、佐天の視線に一方通行は肩を竦める。実につまらないことのように気怠るげに言う。


「異常ナシ。見通しの良かった腹もすっかり塞がってるみてェだしな」

「良かった~~」


その言葉に、佐天は胸を撫で下ろす。


「アホかお前。一ヶ月以上何の変化も無ェンだから今更心配することでもねェだろ。今日のは単なる確認みてェなモンだ」

「それでも嬉しいんですよ!」

心の底から安心したように、我が事のように笑みを浮かべる彼女にくすぐったさを覚える。
最近どうにも、彼女の仕草ひとつひとつに居心地の悪さを感じる。
不快ではないのだが、何となくむずむずするのだ。


715 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/05(水) 23:34:24.54 ID:cGEpC0s0


「………あァ~……」

ぽんと佐天の頭に白い手が置かれる。
きょとんとする佐天の頭をくしゃりと感触を確かめるように一方通行が撫でる。


「頼ンだワケじゃねェけどよ……その、一応心配させちまったってことだよなァ…」


口ごもりながら一方通行の視線は左右に泳ぎに泳ぐ。
別に佐天の頭をどれだけ撫でようとも気の利いた言葉が出てくるはずも無いというのに、しきりにせわしなく撫でる。
その感触の心地良さに目を細めながらも、佐天はこういう時色白だと不便だなぁと他人事のように思う。
顔が真っ赤なのが丸わかりだ。しかし、それを口にすれば一方通行が拗ねることも十分にわかっている。
故に、佐天はじっと言葉を待つ。


「だからよォ……あ、ありが ――― 「何イチャイチャしてやがるんだよ第一位」」



今はこれが精一杯とばかりに、一方通行のなけなしの努力は、無粋な声によって台無しにされた。


「あ…あの人…」

「垣根ェェェ……」


怒る気力も無いとはこのこと。
力なく声の方を向けば、一月前と変わらぬ不敵な笑みを湛えた垣根帝督が立っていた。
違うといえば、スーツ姿から花をあしらったワイシャツにファー付きのコートを着ている点であろうか。
余計にホスト臭が強くなっている。


「よォ、天下の往来で女子中学生とイチャイチャしてるたぁいいご身分じゃねぇの。流石は第一位様だな」


ずかずかと近づいてくる垣根を前に、さり気無く佐天を後ろに庇うように彼女の手を引っ張る。
佐天は、不安そうに一方通行に視線を寄せる。
垣根は、佐天を庇うように立つ一方通行に一瞥をくれるが、すぐに視線を佐天に向ける。


「今日はモヤシには用はねぇ。用があるのはそっちの涙子ちゃんだよ」

「え、私?」

怯えたように自分を見上げる佐天に、垣根は複雑な笑みを浮かべる。


716 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/05(水) 23:35:43.79 ID:cGEpC0s0


「ああ……アンタに会って、一度謝っておきたかった…」


垣根の声に、真摯なものを感じ取ったのか、佐天はそっと一方通行の腕に触れる。
庇わなくても大丈夫なのだと、瞳で訴えると、それを読み取ったのか渋々と一方通行は腕を下ろす。
一歩前に踏み出すと、佐天は震えそうな足に力を入れ、垣根を見上げた。
その年頃の少女特有ともいえる真っ直ぐで鮮やかな視線に、垣根は一瞬口ごもる。


「……この前は…すまなかった。アンタを勝手に巻き込んで、ぶん殴って…コイツとの戦いの巻き添え食わせて…本当にすまねぇ」


たどたどしく言葉をぽつりぽつりと吐き出す。

「コイツは俺のケジメだ。能力も持たない、表の人間を巻き込んで、それも女を傷つけちまった俺のな…
だから、気の済むまでぶん殴ってくれていい、アンタにはそうする権利がある」

ぎこちなく僅かに下げながら、垣根は佐天がどのような顔をしているのだろうかと考える。
軽蔑の眼差しを向けているのだろうか、それとも悍ましいものを見るような表情だろうか。


「顔を上げてください」


おそるおそる顔を上げた垣根の目には、自分に困った顔を向ける佐天が映る。


「殴るつもりなんてありません。私だってああいうことに巻き込まれることだって覚悟してましたから。
そりゃあ勿論痛かったですよ?怖かったですし……でも、恨みになんて思ってません」


自分の中にある言葉を確かめるようにゆっくりとした佐天の言葉を垣根は黙って聞く。
佐天は、ただと、続ける。


「……ただ、もう一方通行さんと戦わないでもらえませんか?難しいかもしれないけど、でも、私は一方通行さんに傷ついて欲しくないから
私の分をチャラにする代わりに、もう、この人と戦わないで欲しいです。この人が傷つけられるのも、誰かを傷つけるのも…見たくないんです」


佐天がぺこりと頭を下げる。


717 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/05(水) 23:37:11.58 ID:cGEpC0s0
垣根よりもずっと深く、心から願うように、切ない声を絞り出す。
スカートの前で重ねられた両手が震えていることに、垣根は気付く。
佐天が未だに自分に恐怖を抱いたままだということに。
当然のことだ。アレだけの事をしておいて怖がられない方がおかしい。
しかし、その恐怖を抑え込んで、それでも彼女は、彼女なりに精一杯一方通行を守ろうとしている。
能力の有無など問題とせずに、一人の人間として。


「ハハハ……やっぱスゲェわ、アンタ」

心からの言葉が自然と口を突いて出る。垣根のまごう事なき本心だ。

「わかったよ。約束する。つーか元々、二度も負けた相手に挑むつもりはねぇけどさ
もっとも、この腐れモヤシから喧嘩吹っ掛けてきたらわかんねぇけどよ」

「そのときはこの人は私が止めますから心配無用です」
「負け犬なンざ誰が相手なンかするかよ」

むんとガッツポーズを作る佐天。
犬歯を剥き出しにして、威嚇するように睨みを付けてくる一方通行。
対照的な二人に、垣根が小さく噴出す。

「いいね~やっぱ可愛いわ涙子ちゃん。一方通行には勿体ねぇっていうか……」

にぃっと笑うと、垣根は佐天にずいっと顔を近づける。
端整な顔に至近距離に迫られ、思わず顔を赤くする佐天。
一方通行の眉がぴくりと動く。

「いっそ俺の彼女にならね?」
「えぇッ!?」

言うや否や、佐天の肩に手を乗せる。
顔を更に近づけると、いよいよ佐天の頬が真っ赤に染まる。

「少なくともこんなコミュ障のセロリよりもずっと俺の方が……」

言いかけて、垣根の目と鼻の先を高速の『何か』が通過した。
垣根の前髪が数本、落ちる。
微かに髪の焦げた匂いが鼻に付いた。




「次は外さねェ……」


718 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/05(水) 23:38:30.50 ID:cGEpC0s0


サイレンサー付きの銃を構えたまま、深紅の瞳をより赤く染めた一方通行が垣根を睨みつける。
照準が垣根の眉間をしっかりと捉えているのが、彼の殺気が物語る。
冷たい汗が垣根の背筋を走る。どうやら本気のようだ。


一方通行がチョーカーのスイッチを入れるよりも白い翼を出現させた垣根帝督がその場を飛び立つ方がすばやかった。




「嫉妬深い男は嫌われるぜ、一方通行」
「うるせェ!!死ね!!つーか殺す。今すぐ引導渡す!!!」
「じゃあ、またね涙子ちゃ~ん!」
「二度と来るンじゃねェ!!」


空に羽ばたき消えていく垣根を佐天はぽかんと見上げる。
隣の一方通行は収まらぬ怒りを飲み下すのに難儀しているのか、舌打ちを連発している。
やがて完全に見えなくなったところで、佐天は一方通行に視線をちらりと向ける。
口をへの字に曲げたままの横顔に、こっそりと笑う。


「なに笑ってやがンだ?」

「別に何でもありませんよ」


すすすすっと自然に一方通行に身体を寄せると、佐天はむずがゆそうに、嬉しそうにはにかむ。

「……大体だ」

未だに垣根のせいで斜めに傾いた機嫌が直らないのか、ドスの聞いた声を上げる。
佐天はそれに臆することなく、ただ何事かと首を傾げる。


「お前は無防備過ぎるンだよ。馬垣根には攫われるは迫られるは……あの時だって、簡単に押し倒されやがって」

「………あれは一方通行さんだからですよ?」

「!?ゴホッ!!」


白い頬を染めながら、一方通行は思わず咳き込む。
佐天がその背中を慌ててさすってやる。



719 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/05(水) 23:39:14.99 ID:cGEpC0s0

「だ、大丈夫ですか?」

「お、オメェのせェだろォが…」



呼吸を正しながら、一方通行は短く息を吐く。
佐天はその左手、杖を持っていない彼の空いた手に目をやる。
無防備だというのならば、いっそ離れないように、放さないように捕まえておいてくれればいいのに。
期待を込めて自分は彼の空いている左手側に立つようにしているだから。


(無理だよね……この人鈍感だし…)


溜息と共に、一方通行の空いている左手に恨めしげな視線を送る。
しかし、佐天の誤算は一方通行が彼女の仕草をさりげなく目で追っていたということ。
垣根の挑発のせいでチリチリと嫉妬心を煽られたが故の行動と言える。
その結果、佐天の不満そうな、悩ましげな溜息と共に送られる視線にも気付いた。
その視線と言葉の意味に気付くと、一方通行は自然と佐天の空いている右手に目が向く。

そして、一方通行は自身を鼓舞する。

先ほどは邪魔が入った勇気をもう一度入れ直す。





「あ…」


佐天は不意に訪れた温もりに、言葉を失う。
寒々とした空気の中寂しげにしていた己の右手が、白い手で強引に握り締められている。
白い手の主、色白の雪のような肌を咲いて散った花のように鮮やかに染めている。




720 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/05(水) 23:41:00.89 ID:cGEpC0s0

「ガキにうろうろされんのは迷惑だからな」

「えへへへへへ…」

「何笑ってやがンだ、不気味なンだよ」

憎まれ口とは裏腹に、一方通行の手が更に強く佐天の手を握り締める。
佐天もお返しとばかりに、しっかりと握り返す。
互いに、自分の抱く気持ちの方が強いのだと、比べあうように。
互いに温度を分け合うように、しっかりと二人の手は結ばれた。

「一方通行さんの手って冷たいですよね」
「お前の手は温けェな」
「手の冷たい人って心が温かいっていう言葉知ってます?」
「初耳だが、迷信だろ」
「違いますよ。手の冷たい人は皆に温もりを分け与えてばかりで自分のことはおろそかになっちゃってるんですよ」
「くっだらねェ……じゃあ手の温けェ奴は心が冷たいのか」
「違いますよ。心の温かい人は心の温かさが手にまで溢れちゃってるんですよ」
「オイ、じゃあ皆心が温けェってことになるじゃねェか……誰がンなこと言い出したンだァ?」

「私です」

「……オイ……」
「だって、その方がいいじゃないですか」
「ホント、お前おめでてェなァ……付き合ってらンねェ……」

一方通行はやれやれとかぶりを振る。



「気付いてます?今、笑ってますよ?」
「………気のせェだ…」


薄紅色に頬を染めて、佐天は一方通行の横顔を見つめた。
照れ屋で不器用で優しいその横顔を。
しっかりと手を繋いだまま。佐天は、この時間が永遠に続けばいいのにと、密かに願っていた。


729 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/07(金) 07:14:24.87 ID:WUQ9jX60

一方通行は自分に向けられる好意に鈍く、また彼自身が抱く好意にも鈍い。
更に言えば、彼自身が抱く好意に纏わる感情についても鈍い。
本来ならば人との関わり合うなかで自然と理解する感情との付き合い方と名づけ方を知らない。

「――― ァあ…」


冷め切ってしまったことを忘れて珈琲を飲んでしまったように、一方通行は不自然に顔を歪めて俯いていた。
ベッドの上で胡坐をかき、シャツ一枚を簡単に身に着けただけの格好だ。
両手で顔を覆うように、白く柔らかな猫毛が指の隙間から無造作に飛び出ている。
隣に寝転がりながら芳川桔梗はそれを興味深そうに眺めている。
微笑ましいとも取れないことも無いが、それ以上に波線のように緩んだ唇が彼女の好奇心をより強調している。
その体には何も身につけてはいない。
芳川桔梗はシーツで胸元を隠すこともせずに身を起こす。
フロアランプのぼんやりとした灯りに照らされ、薄っすらと浮かんだ玉の汗が柔らかく光る。


「随分な落ち込みようね」

「うるせェよ…」

「あら連れない、貴方ってしてから冷たくなるタイプなのね」

「なにそれっぽいセリフ吐いてンだよ。コレはそういうもンじゃねェだろ」

「それもそうかしらね」


一方通行の無愛想な口調に気を悪くするでもなく、飄々と答える芳川に一方通行は少し安堵する。
思わず考えてしまった、彼女でよかったと。
黄泉川であったらどうなのか。上手く理由は説明出来ないが、やはり芳川でよかったと結論を下す。
瞬間、己の思考に彼自身嫌悪するのであるが。
くしゃりと芳川の手が一方通行の髪に触れた。くしゃくしゃと細い髪に指を絡ませてかき回す。
胡乱な目でそれを咎めることなく見遣る彼は、少しいつもと様子が違った。
笑いに僅かに揺れた声で芳川が言う。


730 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/07(金) 07:15:15.51 ID:WUQ9jX60

「今、私で安心したでしょう?ホッとした顔してるわよ」

「フン」

「愛穂じゃなくて良かったわね。私もそう思うもの」

「……あンまり鋭い女は疎まれるぞ」


見事に自身の心情を言い当てられ、悔し紛れに一言反撃をする。
その反撃すらもわかりきっていたことなのか、芳川は小さく笑う。


「そういうのには慣れてるの。もっとも、こういう性交渉ってあまり経験ないから数える程度だけどね」

「その割りには開けっ広げじゃねェか…」

「家族の前では誰しも無防備になるものでしょう?あ、煙草取ってくれる?」

「……お前、せめて働いた金で買えよ。ヤッた後の一服に手前の給料の一部が使われてるって知ったら黄泉川泣くぞ流石に」

「泣くよりも多分……キレるわね愛穂の場合」

それでも枕元に置いてあった彼女のハンドバッグから煙草を取ってやるあたりに、彼の面倒見の良さが表れる。
ありがとう、と短く礼を言ってから呑気に紫煙を燻らす様が小憎らしいやら呆れるやら。
一方通行は溜息を付く。何も楚々とした態度をとまでは言わない。
しかし、せめてシーツで胸を隠すくらいの恥じらいくらいは持っていてもバチは当たらないはずだ。
いい加減でぐうたらな姉を持った弟のような気疲れが彼の細い肩の上にずしりと圧し掛かる。
もっとも、弟と姉はこのような行為をしないのが一般的ではあるが。

眠たげな瞳で薄暗い部屋の中を漂う紫煙を見つめていた芳川は、横目で未だに憂鬱そうに俯く一方通行を見ると、納得したように頷く。


「今、相当憂鬱でしょう?その憂鬱さを何て呼ぶか教えてあげましょうか?」


しかし、そう言って芳川は続きを口にせずに煙草を咥える。
視線で、その答えを促す一方通行の様子を愉しむように、ゆっくりと、もったいぶるように、言葉の代わりに紫煙を燻らす。
鼠をい嬲る猫のそれを匂わせる彼女の焦らすような態度に、一方通行のこめかみが引く付きそうになるのを見計らったタイミングで、半分ほど吸った煙草を灰皿に押し付ける。
ぐりぐりと、念入りに消すのは、彼女のちょっとした仕草だ。それを片目で何となく目に留めながら一方通行は芳川の言葉を待つ。



「罪悪感よ」




731 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/07(金) 07:16:32.52 ID:WUQ9jX60


「……ああァ?なンで俺がそンなモン今更……」

「言っておくけど、家族を抱いてしまったことへの、という意味じゃないわよ?」

「じゃあ何だっていうンだよ」


それならば、最初の最初で後悔に打ちのめされているはずだ。
今日の、この場の、この行為は、既に何度目かのもの。今更になって感じる筈が無い。
ましてや、合意のものであり、誘ったのは芳川だ。
卑怯な物言いをしてしまえば、一方通行は芳川にその罪悪感を押し付けることが出来る。大人に責任を投げてしまえる。
しかし、芳川はそんなものではないとバッサリと否定する。そして事も無げに言う。


「あの娘に対してのよ」

「………それは…」

「すぐに肯定の言葉が出てこない辺り貴方らしいわね」


新しい煙草を取り出そうとして、芳川はふとその手を止める。
一拍の間のあと、取り出した煙草を一方通行に渡す。手の中に転がる煙草と芳川の顔を見ながら、意味を問う一方通行に芳川は弟を見るように笑う。


「うふふふ、少し大人になった記念かしら」

「どういう意味だ?」

「恋も知らない子供は卒業したっていう意味よ。嫌だわ、恋なんて言葉この年で口にすると凄く照れてしまうわね」


汗で湿った髪をかきながら視線を一方通行から逸らすあたり、本当に照れているのかもしれない。
あんな声を出して、あんな格好まで曝しておいて、今もこうして胸を奔放に曝け出しておいて、何でそんなところで照れるのか。
一方通行にはイマイチ彼女の精神構造が理解出来ない。


「最初はむせるかもしれないけどそんなにキツイやつじゃないから大丈夫だと思うわ」

「オイ、俺は未成年だぞ」

「あら、意外。気にするの?」

「言っただけだ馬鹿。別にこれぐれェ……」


そうは言いながらも、手の中の煙草を持て余していることがおかしい。


732 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/07(金) 07:17:16.19 ID:WUQ9jX60
小さく笑うと、芳川は胸を反らすように身体を伸ばす。
細いウエストと、女性としては大き目のバストのラインが露わになる。
先ほどまで好きにしていたというのに、一方通行は自分のだらしなさと節操の無さに呆れる。
若い身体は、そのしなやかな身体を目の当たりにして、即座に反応する。一方通行は再び自分の中、身体の芯が熱くなってくるのを覚える。
そして、その直後に例の罪悪感が湧き出てくる。以前であれば、一言声をかけて芳川の身体に手を伸ばしていたはずなのに。
せめて、これ以上やり場の無い衝動に駆られまいと視線を手の中で回す白い筒に向ける。



「ホント……愛穂じゃなくてよかったわ」


いつの間にか芳川は新しい煙草をぷらぷらと口に咥える。


「あの子は優しいから……」

「意味がわかンねェ…」

「優しい子は情が深い子が多いのよ」


一方通行は何も言わずに耳を傾ける。


「だから最後は相手も自分も深く傷つける……引き際がなかなかわからないのよ。適当に切り上げる事をしないからね」


芳川がライターを差し出す。ホテルに備え付けられた安っぽいライター。
オイルは辛うじて残ってる程度。誰もが此処に来て、こんな風に何となく吸っていくのであろうか。
あてども無いことを思いながら一方通行は咥えたまま煙草を突き出す。
二度、三度と、残り少ないライターは空回りをしてから、アーモンド形の火を灯す。
紙の焦げる音、吸いながら点けるのよという芳川の言葉に従って、火に近づける。


「だから、今度からはこういうことはあの子としなさい」



733 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/07(金) 07:18:08.23 ID:WUQ9jX60

「アイツはまだ中学生だろ」

「そんな理由ナンセンスよ。心が貧相なのに身体ばかりが大人な人よりも余程自然よ」


まぁと言って、咥えるだけだった煙草に火を点ける。
慎重に肺に煙を吸い込んでいる自分を尻目に、優雅とも言える仕草で紫煙を吐きだす。
煙草を挟む白い指が綺麗だと一方通行は思う。芳川桔梗は、彼が見てきたなかで最も煙草を綺麗に吸う女だ。


「まぁ、貴方が中学生には手を出さないって決めてるならそれでもいいと思うけれど。
 我慢が出来なくなったら相手もしてあげるし」


それなりに私も楽しいから、そう言って眠たげな瞳のまま、唇だけ笑みを形作る。


「でも、毎回そんな風に落ち込むくらいなら彼女とどうにかなった方がいいんじゃないかしら?」



吸い込んだ煙に肺が熱くなり、咽返りそうになるのを堪える。
つまらない意地であるとわかっていたが、一方通行は無理矢理それを抑え込むと煙を吐き出す。
芳川の作る紫煙とは異なり、歪でぎこちない紫煙。
それが彼女のものと溶け合ってホテルの安い壁紙の方へと流れていく。
紫煙が溶けていった方を目で追いながら、ようやく自分があの少女に抱いている感情に名を付けることが出来た。


そうか、自分は佐天涙子に恋をしていたのか。


自分から最も縁遠いものとして捉えていたその言葉は、一方通行のなかで空々しく響いた。


736 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/01/07(金) 11:42:22.45 ID:t/0k4MAO
次回、最終回
「佐天、ホテルのフロントでバイトするの巻」

737 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/01/07(金) 12:19:10.28 ID:oRggb7Ao
>>736
修羅場な予想しかできないんだがw

739 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/01/07(金) 14:55:02.92 ID:Ngc7fkk0
最初の頃のギャグっぷりが嘘みたいだな

783 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/09(日) 04:02:49.90 ID:eAcK7RE0

佐天は今、自身の置かれている状況が理解出来なかった。
まったくわけがわからないというわけではない。
どうしてこうなっているのかがわからないだけ。
状況に至るまでを頭に思い浮かべる。



いつものように夕食を作りに来た。

いつものように無愛想に出迎えた彼。

いつものようにカフェオレを作っておいてくれていた彼。

いつものようにブラックを淹れてあげた。

いつものように一緒に食事をし。

いつものようにソファに腰掛け、話しをした。


いつもと違ったのは、普段よりも口数の少ない彼。
元々饒舌な方では無いけれども、捻くれた回答や、皮肉なツッコミ、時に無邪気な笑顔で返すはずなのに、今日は違った。
時折目が合うとフイッと逸らす。偶然かと思い、じっと思わず見つめてみると、やはり逸らす。
鬱陶しいのかとも思ったが、大人しく隣に座らせてくれているからそうではない。
苛立っているのかと思ったが、少し違う。苛立つというよりは焦っている。何を焦っているのだろうか。
そう思い、注意深く見つめると彼の焦りが強くなった。
口をもごもごとさせては、結局言葉に出すことなく飲み込む。


不意に悪戯心が生まれた。



784 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/09(日) 04:03:29.36 ID:eAcK7RE0

大事なことを言い出そうとして言えない子供のような仕草が彼らしくなく、そして少し可愛らしかったから。
いつも散々からかってくれているお礼だと思った。
恥ずかしさを押し隠して、思い切り顔を寄せて、覗き込む。
いつものように子供扱いしてぐいっと引き離されるものだと思っていた。
いつもと違っていたのは引き離すのではなく、引き寄せられたということ。



佐天涙子は、今、一方通行に抱きしめられていた。



佐天を戸惑わせているのはただ抱きしめられているからというだけの理由ではない。
一方通行の抱きしめる腕の加減。
一方通行の漏らす切羽詰った熱い吐息。
一方通行の伝える駆け足気味の鼓動。
一方通行の低めの体温と柑橘系を想起させる香り。
少しずつ、少しずつだが、確実に何処か何かが異なっていた。
一方通行の腕のなかから佐天はそっと伺うようにその表情を見上げる。


そして、佐天は息を呑んだ。

自分を見下ろす赤い瞳に映る余裕の無さ。
息が詰まる程の張り詰めた感情の撓み。
内に熱さを秘めた少年だとはわかっていたが、こうまではっきりとそれを自分の前に曝け出すのを佐天は初めて目にする。
その緊張に強張った頬に手を触れてしまおうと思うが、すぐにそれを押し留める。
触れてしまえば、溢れてしまいそうな一方通行の表情に怯んでしまったから。
自分がそうさせてしまってはいけないという直感。

だから、佐天は待つことを選ぶ。

彼が一体何を自分に言おうとしているのかを、彼の腕の中で。



785 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/09(日) 04:04:29.65 ID:eAcK7RE0


抱きしめてから、一方通行は深い後悔に囚われていた。
殆ど衝動的な行動だった。
自分をからかうべく無防備に近づいた佐天に怒りすら覚えた。
無邪気な中に秘めた強さを、それを知っているからこその焦燥感に駆られて閉じ込めるように引き寄せてしまった。
恋心 ――― とは決して口にしたくない気恥ずかしいこと極まりない感情を、それでも自覚したのはつい先日。
罪悪感だと甘い女は口にした。罪悪感かと自分は納得した。
女友達がいる中で、他の女と情事に耽り、快楽を貪ることに気が咎めることは無いだろう。
しかし、恋する女がいて、それとは別の女と行為に至れば、罪悪感や後悔に襲われるに違いない。
それは、一方通行にも想像できる。まさに、彼がその通りになっていたのだから。
そうして、ようやく、宙ぶらりんとなっていた不安定な感情があるべき場所へと落ちていった。
しかし、それで突然世界が一変するわけでもない。
少なくとも一方通行はそうだった。


目にするものすべて、世界の風景が一辺にに変わるような恋に落ちる者がいる、

一方で、シロップのような甘い沼に足元から気付かぬ内に沈んでしまうような恋をする人間がいる。


本やテレビで目にするような電流が走るような鮮烈さでも炎が一気に燃え上がるような猛々しさでも無い感覚。
カップの底でゆっくりとけていく砂糖のように、甘い感情は静かに一方通行の心の底からじわりと広がっていった。
まるで毒のように、病のようにゆっくりと侵食していく感情に、名を付け納得だけはしていた感情に一方通行は次第に侵されていった。
それを促したのは佐天。日々、笑顔を振りまいて自分の元にくる少女に、一方通行は苛まされることになる。
佐天の想いは知っている。彼女の口から聞いている。何度も。そして自分の想いもはっきりと自覚している。
一方通行を苛む彼自身が、佐天にはっきりと告げていないという事。

要は、一方通行という恐ろしくわかりづらい律儀さを持つ少年は、彼女に言葉でもって想いを告げない限り、先に進めないという戒めを自分に作り出していた。


想いを言葉にして伝えていないということ。伝えようと決意するものの、彼女をいざ前にすると出来ない。
それが日々続き、一方通行自身を焦らせ、更に彼を苛むことに繋がる。
言えぬまま過ぎていた一方通行は、破裂寸前の風船のように張り詰めていた。



786 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/09(日) 04:05:09.00 ID:eAcK7RE0


そして、彼を今のような衝動的な行動に移らせたのは、佐天だった。

無防備に見上げてくる少女。その無邪気な表情を他のヤツにも見せているのか。
自分が想いを告げずにもたついている間にこの笑顔が掻っ攫われるのだろうか。
昏い感情に、胸が締め付けられた。
膨らんだ感情が反吐のように無理矢理喉を押し開いて飛び出してしまいそうだ。


少女の甘い香りを抱き込む。
鼻腔を擽る香りが、脳髄にまで染み込んでいくようだ。
家族と思っている少女と最初は重ね合わせていた。あの少女のように安心するから。
けれども、あの少女といるときに感じるひたすらな安らぎとは少し違う。
安らぐはずなのに、窒息してしまいそうな息苦しさを覚える。
嬉しくてたまらないはずなのに、不安に頭を抱えてしまいたくなる。
側にいたいというのに逃げ出したくなる。
真逆の本音同士がぶつかり、砕け、混ざり合い、新しい塊となって翻弄する。
絶え間なく暴れる感情の波に、一方通行は言葉すら失う。
そしてただ、ただ己が生み出したはずの感情のうねりの前に立ち尽くす。



腕のなかの少女を見下ろすと、自分を見上げる瞳とぶつかった。
頬を赤く染め、固唾を呑んで、瞬きもせずに見つめてくる少女。
瞬間、少女が待っているのだとわかった。
人の心に敏いこの少女は自分が何を言おうとしているのかを十分に理解しているにちがいない。
それでも、少女はただ、じっと待っていてくれている。
焦らすことも、急かすこともせず、ねだりさえせずに、ただ沈黙をもって一方通行に対峙する。
一体何を言えば良いのだろうか。
どのように言葉を尽くせばいいのだろうか。
わからずに開きかけた口を閉じることを繰り返す。情けなさに自分を殴りたくなる。
これが学園都市最強の能力者の姿だろうか。
自嘲の笑みを浮かべようとして、緊張に引き攣った頬はぴくりとも動かない。




787 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/09(日) 04:05:44.52 ID:eAcK7RE0


抱きしめられたまま、一体どれほどの時間が経ったのだろうか。



佐天は、不意にとてつもない幸福感に襲われる。叫び出したいような、そんな途方も無い量の幸福感。
一方通行が、自分に向けるための言葉を、探しあぐねている。自分の中を隅々まで探り、言葉として組み立てようと苦心している。
自分という存在に想いをぶつけるべく、心を揺さ振り、そうして、今思いつめた、怯えた、強い表情を浮かべてくれている。
それがこれ以上無い自分の特権のように思えた。
だけど、これで終わりじゃない。
これはまだ過程なのだ、完結していない。
だから、佐天は一方通行の背中へそっと手を回す。
きちんと、はっきりと、自分の感じる幸福を、完遂させて欲しい。
そして、自分に応えさせて欲しい。彼にも今すぐ味あわせたいから。




お願い、  と言って。






788 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/09(日) 04:06:18.14 ID:eAcK7RE0



抱きしめたまま、一体どれほどの時間が経ったのだろうか。



一方通行は、背中に回された手に気付いた。
その温もりと感触の優しさに、こみ上げるものがある。
自分を見上げる佐天の瞳に秘められた言葉が聞こえた気がする。瞳の奥が熱い。鼻の奥がツンとした。
探っていた言葉、尽くそうと飾り立てていた言葉がガシャンと音を立てて砕ける。
同時に、自分の愚かしさに腹が立った。
拒絶を心のどこかで怯え、傷つかぬように予防線を張って、斜に構えていた自分の愚かしさに。
こんなにも簡単なのだ、こんなにも必要なのだ。
ただ一言がすべてであり、何よりも重いのだ。
それを誰であろう、この少女に伝えたい。今すぐに、背に回された後押しに報いるために。




「  お前が   好きだ    」





789 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/09(日) 04:06:48.00 ID:eAcK7RE0




真っ直ぐに向けられた言葉はとてもシンプルな二文字だった。
きっと今まで何万人、何億人が、何万回、何億回も口にしてきた言葉。
気楽に今まで口にし、耳にしてきた言葉だ。
それなのに、それだというのに、その一言が完膚なきまでに胸を貫いた。
背中に回した手が、ぐしゃりと服を一度強く掴み、そして手を放す。
伸ばそうとして、手を引っ込めた彼の頬へと、今度こそはと手をそっと差し伸べる。
滲んだ視界の中、両手で、白い頬を包み込んだ。
手に、熱いものがゆるりと伝い、佐天の手を濡らした。




790 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/09(日) 04:07:16.02 ID:eAcK7RE0




ようやく言ったのだと、全身の力が抜ける心地がした。
真っ赤な顔の少女は、両の瞳からとめどなく溢れる涙を流していた。
この程度で泣くなと言おうとして、少女の温かな手が頬を優しく撫でていることに気付いた。
少女の浮かべた笑みが、仕草が、涙が、すべてを物語っていた。
自分の想いを受け止めてくれたのだということを。
張り詰めていたものがその瞬間切れた。
視界が滲み、少女の顔がよくわからない。
ただ、この溺れてしまいそうな幸福感は何だろうか。
感極まるということを知りもしない一方通行は、ただ黙って感情の発露のように透明な雫を溢す。
誰かに、想いを伝えて受け止めてもらえるということが、こんなにも気が遠のくほど嬉しいのか。





791 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/09(日) 04:08:08.50 ID:eAcK7RE0


「泣いてますよ」


「お前だろ…」


「嬉しいですから」


「ああ……」


「一方通行さんも…」


「ああァ……」


「嬉しい…ですか」


「あァ……ああ、嬉しいな」



佐天が、涙で濡れた頬を、そっと一方通行に寄せる。
一方通行が、涙で濡れた頬を、そっと佐天に寄せる。
互いに涙でぐしゃぐしゃだ。
そのことがおかしくて、むずがゆくて、そして嬉しかった。



「私も言っちゃおう」

「?」

「私、佐天涙子は一方通行さんのことが心から好 ――――」



残りの言葉を誰にも聞かせまいとするように、一方通行の唇が覆った。
言葉ごと、佐天の想いを独り占めするように、飲みこんだ。

佐天が朱色に染まった頬を膨らませる。



792 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/09(日) 04:11:39.62 ID:eAcK7RE0




「前はお前からだったからなァ」


「…負けず嫌い……子供みたいです」


「もう一回言ったらまたすンぞ」


「………じゃあずっと言っちゃおう」







一方通行は佐天の腰に腕を回した。
それは歌うが如き甘い無理強いだった。
くすくすと二人は顔を見合わせて笑いあう。


そして、一方通行は宣言通り佐天涙子の唇を塞いだ。



このまま抱いてしまうかそれとも、啄ばむ様な口付けを続けるか。


それはゆっくりと考えることとしよう。
決めるのは自分ひとりではないのだから。
一方通行は佐天の髪を指で絡めるようにかきあげる。


今は、少しでも長く、この抗い難い甘さを味わっていたかった。




                           











803 名前:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI[saga] 投稿日:2011/01/10(月) 01:03:55.32 ID:/nSJQnYu0
あとがきという名の蛇足。

本当は佐天さんが一目惚れ⇒一方通行押し倒す。
⇒佐天無双かと思いきや、ぶち切れた第一位⇒ベクトル操作とテクを使っておぼこ佐天を昇天に。
責任取ります…なエロギャグにする予定でした。
だから初期はギャグテイスト。

でもミサワとかあわきん楽しかったからドロドロにしようかと途中で思いつく。
ボカロの『ACUTE』っていう曲みたいな最後刃傷沙汰にしようか。
それとも、演算切った病み打ち止めのダッチにされるかのマルチエンドもいいな~と思い悩む。

佐天さん幸せにしなきゃと原点に立ち返り、佐天ルート確定。

みたいな紆余曲折を経て最終回。
初スレ立てだからって、話があっち行ってこっち行ってでした。
でも何とか完走できたので安心。一方座標に取り掛かります。
いろいろとレスをして下さってありがとうございました。



804 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/01/10(月) 01:05:43.17 ID:jOIoZ3d3o
先生…病み止めが見たいです…

824 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 03:54:18.90 ID:9z/ISUXV0
>>1乙

続編待ってます!









とある科学の超電磁砲 (レールガン) 佐天涙子 (1/8 PVC 塗装済み完成品)とある科学の超電磁砲 (レールガン) 佐天涙子 (1/8 PVC 塗装済み完成品)
(2010/12/25)
アルター

商品詳細を見る
スポンサーサイト
  1. 2011年01月23日 23:31 |
  2. 禁書SS
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2

コメント

面白かった
  1. 2011/01/24(月) 22:52:02 |
  2. URL |
  3. 波 #-
  4. [ 編集 ]

詩的な韻をふんだ表現は、間延びしちゃうからここぞという時に限ってもらいたいな。

以下、冗語法についてのコピペ
冗語法(じょうごほう、レデュンダンシー、Redundancy、Jogoho)とは、何度も何度も繰り返し重ねて重複して前述されたのと同じ意味の同様である同意義の文章を、必要あるいは説明か理解を要求された以上か、伝え伝達したいと意図された、あるいは表し表現したい意味以上に、繰り返し重ねて重複して繰り返すことによる、不必要であるか、または余分な余計である文章の、必要以上の使用であり、何度も何度も繰り返し重ねて重複して前述されたのと同じ意味の同様の文章を、必要あるいは説明か理解を要求された以上か、伝え伝達したいと意図された、あるいは表し表現したい意味以上に、繰り返し重ねて重複して繰り返すことによる、不必要であるか、または余分な文章の、必要以上の使用である。これが冗語法(じょうごほう、レデュンダンシー、Redundancy、Jogoho)である。
基本的に、冗語法(じょうごほう、レデュンダンシー、Redundancy、Jogoho)が多くの場合において概して一般的に繰り返される通常の場合は、普通、同じ同様の発想や思考や概念や物事を表し表現する別々の異なった文章や単語や言葉が何回も何度も余分に繰り返され、その結果として発言者の考えが何回も何度も言い直され、事実上、実際に同じ同様の発言が何回も何度にもわたり、幾重にも言い換えられ、かつ、同じことが何回も何度も繰り返し重複して過剰に回数を重ね前述されたのと同じ意味の同様の文章が何度も何度も不必要に繰り返される。通常の場合、多くの場合において概して一般的にこのように冗語法(じょうごほう、レデュンダンシー、Redundancy、Jogoho)が繰り返される。
  1. 2011/01/26(水) 08:52:14 |
  2. URL |
  3.   #-
  4. [ 編集 ]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック URL
http://tekitouvip.blog107.fc2.com/tb.php/620-6f64a32e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。