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てきとうVIP

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フィリップ「学園都市?」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 07:03:46.59 ID:4hkg6EEB0
「ああ。風都から出ないフィリップには馴染みのない単語かもな。」
「フィリップ君は基本的に引きこもりだもんねえ」
「学園都市……一体何なんだい?」
「簡単に言っちまえば、学生と一部の大人だけで成り立ってる町ってこった。
 東京の西の方にあるんだが、科学が異常に発達してて、
 技術を盗まれないため?まあなんかそんな理由で周囲を高い壁で覆ってて、
 人間の超能力なんかも科学的に解明してる?らしい」
「最後の方が疑問形だったのが気になるわね」
「うるせーな、俺も詳しくは知らねえんだよ。
 学生の街なんてハードボイルドとは縁遠いだろ?」
「君自身がハードボイルドとは程遠いと思うけど。
 それで、どうして急に学園都市なんだい?」
「ついさっき入った新しい依頼でよ。
 学園都市の学校の一つに子供を入学させてる親が、
 内部で消息を絶っちまった子供を捜して欲しいってんだ。」
「へえ……」
「子供が消息を絶っちまったってのに、学園都市は腰が重いらしくてな。
 とうとう外部の探偵の俺に話を持ち込んだってワケだ」
「でもさ、学園都市って基本的には閉鎖されてるんだよね?
 どうやって入り込むの?」
「依頼人が学園都市に出入りしている業者でな。
 そこの社員として入り込む段取りは組んである。
 かなり急ぎってことなんで、今から行ってくるぜ。
 風都をあまり長く空けたくねえ、現地に着いたら連絡するから
 “検索”して早めに仕事を終わらせようぜ」


2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 07:07:11.56 ID:4hkg6EEB0
などと語っていたのが2日前の話。
学園都市のとある喫茶店で中折れ帽の男、左翔太郎はその自慢の帽子ごと頭を抱えていた。
仕事は滞りなく終えたというのに、彼の表情は優れない。
それというのも、昨日の仕事を終えた直後に入った亜樹子からの一報が原因だった。
「大変!フィリップ君が!」
「ああ!?」
鳴海探偵事務所を飛び出し、どこかへ行ってしまったのだという。
翔太郎はすぐさまフィリップの携帯電話へコールした。
「おいフィリップ!お前一体どこへ行こうってんだ!?」
「やあ翔太郎。君は知らないかもしれないが、学園都市は素晴らしいよ」
電話越しの学園都市講座を聞き流しながら、翔太郎は
(こいつ、今度は学園都市にハマりやがったのか……)
毎度のフィリップの情報蒐集癖に呆れていた。
こうなったフィリップは、迷惑以外の何物でもないことを彼はよく分かっている。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 07:12:11.53 ID:4hkg6EEB0
「それで、気になるのは閲覧できない本が物凄く多いことさ」
「閲覧出来ないのはともかくとして、数が多いってのはどれくらいだ?」
「およそ10万3千冊もの本が閲覧不可能な状態になっているんだ!
 こんなケースは今までに無かったよ。ゾクゾクするねえ……」
「10万3千…そりゃ確かに異常だな。
 けどよフィリップ、お前どうやって学園都市に入るつもりなんだ?
 ここの検問は一度通ったが、結構厳しいぜ?」
「問題にもならないよ。学園都市の警備の穴を“検索”すれば、
 いくらでも見つかるものさ」
やれやれ、と翔太郎は額に掌を当てた。
学園都市の機密性がフィリップを諦めさせてくれるのではないかと期待したが、
どうやら彼の能力の方が一枚上手ということらしい。
フィリップは『地球(ほし)の本棚』という場所に入り込み、
この地球に刻まれたありとあらゆる記憶を書物のようにして閲覧することが出来る能力を持つ少年だった。
ただ時折、例外として閲覧できないように施錠された本や、破られたページも存在する。
知識欲の権化ともいえるほど、様々なことを知りたがるフィリップは、
その閲覧出来ない書物に対して異常なまでの執着を見せ、後先を考えずに行動に移してしまう。
さらに厄介なのが、フィリップのその能力を狙う謎の組織『ミュージアム』の存在だ。
フィリップが普段、鳴海探偵事務所に引き籠っているのも、ミュージアムに襲われないためである。
暴走状態になって外出したフィリップが、彼らに狙われたケースも少なくない。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 07:16:18.65 ID:4hkg6EEB0
「おい、フィリップ!学園都市に来たらまず俺と合流しろ!いいか!?
 おい!聞いてんのか!フィリップ!」
翔太郎は叫ぶように通話口へ向けて呼びかけたが、帰ってきたのは通話状態の終了を示す電子音だけだった。
再度フィリップの番号をプッシュするが、聞こえてくるのは
『現在電波の届かないところにいるか、電源が入っていないため…』
という極めて機械的な応答であった。
「地下にでも入っちまったのか…ったく、世話を焼かせるぜ」
溜息をつき、携帯電話をポケットにしまうと、その代わりにあるモノをポケットの中に探った。
それはダブルドライバーと通称されている、不思議な形のベルトである。
そのバックルには何かの挿入口のようなものが左右に二つ付いている。
さらに不思議なのは形だけではなく、それを装着している間、翔太郎とフィリップは感覚を共有出来るという機能を備えている。
……のだが。
「あ?」
ポケットを探る。隅々まで。
「無ェ!?」
いくらポケットをかき回しても、翔太郎の手がダブルドライバーを掴むことはなかった。
肌身離さず持ち歩いているダブルドライバーが無い理由を、彼は考える。
どこかで落とした?いや、流石に落とせば気付くサイズだ。
盗まれた?しかし、他人に盗まれるタイミングはなかった。
探偵事務所に忘れた。そういえば、探偵事務所を出る日の朝、亜樹子が腰に着けて遊んでいたような…
「おい亜樹子!お前、ダブルドライバー知らねえか!?」
「あー、そういえば翔太郎君忘れてったでしょ。ちゃんとここに置いて……ない!?」
「ああ!?」
「どこ行ったんだろ……昨日はちゃんとここに……もしかして、フィリップ君?」
「……フィリップとダブルドライバー……同じタイミングで消えたのなら、フィリップが持ってる可能性は高いな」
翔太郎は電話を切り、再びポケットに放り込んだ。
どちらにせよ、フィリップと合流せねばならないらしい。
しかも可及的速やかに。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 07:18:54.12 ID:4hkg6EEB0
フィリップがダブルドライバーを持っているのであれば、ミュージアムにとって彼はネギを背負ったカモだ。
だが学園都市は広く、風都のようにコネのある情報屋がいるわけでもない。
地道に探していては日が暮れて、朝が来ても見つからないだろう。
勿論、探偵である彼にとって人探しは得意分野の一つなのだが、いかんせん学園都市には初めて訪れた場所だ。
土地勘は無く、手持ちの情報も少な過ぎる。
そう判断した翔太郎は、少しでも情報を手に入れるため、懐から彼の仕事道具を取り出した。
コウモリのような形をしたそれに、記憶用端末を挿しこむと、それはまるで命を得たかのように活き活きと動き出した。
「頼んだぜ」
翔太郎の言葉に同調するかのように彼の周囲を旋回すると、コウモリは上空へと飛び立っていった。
地上で翔太郎が聞き込み調査をする間に、空からコウモリがフィリップの手掛かりを捜す。
もっとも、フィリップが地下に居たりすればコウモリが彼を見つけることはできないが、地下に居ることが特定出来れば
幾分かは早くフィリップへ到達出来る。
「さて、こっちは聞き込みと行くか……
 そういや、フィリップの奴、気になる事を言ってたな。
 『10万3千冊の閲覧不可能な記憶』か……」
フィリップの性格からすれば、翔太郎との合流よりもその記憶の持ち主のもとへ直行するだろう。
ならばその記憶の持ち主を捜すことがフィリップを見つける近道となる。
「とりあえず、10万3千って数字に心当たりがある人間を捜してみるとするか」
当面の方針を定めると、翔太郎は喫茶店を後にした。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 07:23:40.65 ID:4hkg6EEB0
風都では学生の扱いに慣れている翔太郎ではあったが、やはり初めての街では土地勘も無く、聞き込みは苦戦した。
繁華街を歩き回って学園都市の学生たちに声をかけ、目当ての情報を持つ者を捜すが、なかなか見つからない。
空に放ったコウモリからも未だ有力な情報は得られず、時間ばかりが過ぎていく。
そろそろ大きく場所を移動するかどうか迷っていた翔太郎に、珍しく声をかけてくる者があった。
「おい」
「ああ?」
振り返るとそこには科学の街、学園都市には妙に似つかわしくない神父姿の男が立っていた。
学生の街だというのに口の端に堂々とタバコを咥え、赤い長髪が風に靡いて炎を思わせる。
派手なアクセサリに刺青、2mを超えようかという長身。
学園都市にまるで馴染まないその姿は、彼の職場であろう教会で見かけたとしても果たして風景に溶け込むかどうか。
「キミか。“10万3千冊”について嗅ぎまわっている探偵とやらは」
多分に攻撃的な気配を孕んだ神職者らしからぬ口調で、神父は翔太郎に尋ねた。
「ああ、そうだ。
 アンタ、何か知ってるかい」
翔太郎が答えると神父は一度大きく息をついた。
煙が夕日に赤く染まる。
「……ここではまずい。人の居ないところへ行こうか」
神父は小声で告げると、路地裏へと歩きだした。
翔太郎は無言で彼に従う。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 07:28:44.08 ID:4hkg6EEB0
神父は人の目が無い場所に来るや否や、
「探偵なら依頼主が居るだろう。
 “10万3千冊”の調査は誰の依頼だ」
と、質問――詰問してきた。
探偵の仕事であれば確かに依頼者が居るが、今回のこの聞き込みは仕事ではなくあくまでも私事だ。
翔太郎は正直に答えた。
「俺は探偵だけど、今回のは仕事じゃねえ。
 相棒がその10万3千を捜してうろついてるんでな。
 俺の方でも10万3千を捜し当てれば、相棒と出くわすって寸法だ」
「つまり、もう一人居るのか?
 ……目的はなんだ?」
「好奇心っつーか知識欲っつーか」
その回答に神父はまた一つ大きく嘆息したかと思うと、
急に翔太郎の胸倉を掴み、長身に物を言わせて翔太郎の体を宙へ吊り上げた。
「グッ……何、しやがる」
「忠告しておく。
 アレは好奇心などで手を出していい代物じゃない。
 命が惜しければ2度と関わるな。いいな。
 もしまだアレを狙うのならば……僕がキミたちを殺す」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 07:35:47.23 ID:4hkg6EEB0
宙吊りにされ、呼吸がままならないながらも翔太郎は
「殺す……とは穏やかじゃねえな。
 それは……俺より……相棒の方に言ってやってくれ。
 出来るだけ……穏便にな……」
そう言い返した。拳の力を微塵も緩めない神父に、翔太郎はさらに続ける。
「だが……もしアンタが……俺の相棒に手を出したら……」
言葉の途中、神父の腕に凄まじい勢いで何かがぶつかった。
その衝撃に、思わず神父は手を離す。
神父の腕を直撃した何物かは、すかさず距離をとった翔太郎の掌に収まった。
それはクワガタの形を模した金属の塊のように見える。
「許さねえぜ」
宣言した後は、脱兎のごとく。翔太郎は人混みにまぎれて神父から遠ざかった。
路地裏に一人残された神父は舌打ちをすると、翔太郎が逃げた方向とは逆へ歩き出した。
探偵の目論見はどうあれ、彼の守るべきものを護衛する必要があると判断したからだ。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 07:39:57.11 ID:4hkg6EEB0
翔太郎は携帯電話の形に戻ったクワガタを握りしめた。
神父に剣呑な空気を感じ、密かにスタッグフォンを放っておいた彼の判断は正しかったと言える。
神父は忠告と言っていたが、彼の雰囲気からしてあのまま忠告で済んだかどうかは断言できない。
“10万3千”はそれほどに危険なものなのか。
だとすれば、それを追っているであろうフィリップの身が案じられる。
急がなくてはならない。
「ようやく手掛かりも手に入ったしな」
翔太郎が掌の上のスタッグフォンをいじると、そこには先程の神父の姿が映し出された。
先に放っておいたコウモリから送られてくる映像だ。
神父との遭遇に際して、密かに動かしていたのはスタッグフォンだけではなかった。
「さあて、案内してもらおうか、“10万3千”に」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 07:49:47.38 ID:4hkg6EEB0
翔太郎が“10万3千”の情報を捜して右往左往していた頃、フィリップは他の学区の住宅街に居た。
彼もまた“10万3千”を目指して邁進していた。
電話の最後に「合流」という言葉がかすかに聞こえた気がしたが、
彼にとって好奇心は翔太郎との合流よりも優先すべきことであった。
とはいえ翔太郎を無視しているわけでもなく、彼としても翔太郎に渡さなければならない“モノ”を持っていたため、
電話が切れた後にも一応何度か通話を試みた。
しかし、携帯電話は通じなかった。
いかなる原因かは不明だが、その後何度かけても通じない。
電波が悪いからかと考え、場所を移る度に電話をかけてみたりもしたが、相変わらずの音信不通であった。
結局、翔太郎との連絡をすっぱりと諦め、当初の目的である“10万3千”の追跡を開始した。
そして検索した周辺情報を頼りに、今は第七学区の住宅街へと辿り着いたのである。
そこまでは順調だったのだが。
「おかしいな」
フィリップは閉じていた目を開き呟く。
「検索の目を掻い潜るなんて、どういう仕組みなんだい?
 ますます興味をそそられるよ、“10万3千”……ゾクゾクするねえ」
“10万3千”の行方が分からなくなってしまったというのに、フィリップは心底嬉しげに笑みを深めた。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 07:55:49.67 ID:4hkg6EEB0
「あなた。」
「ん?」
突然話しかけられ、フィリップの意識が現実へ戻る。
目の前には紅白の和装に身を包んだ少女が、怪訝な表情でフィリップの顔を覗き込んでいた。
「何故寝ているの。こんなところで」
言われてみれば、フィリップが立っているのは道路のど真ん中である。
目をつむって突っ立っていれば、不思議に思われても仕方がない。
フィリップは彼女の質問には答えず、逆に彼女を見つめ返した。
彼女の顔がフィリップの記憶の中にある人物と一致する。
「……君は姫神秋沙か」
「え」
自分の全く知らない人物が自分の名前を知っていたら警戒するのも当然である。
姫神秋沙は半歩ほど身を引いた。
「吸血殺し(ディープブラッド)という能力の持ち主で、それを消すためにこの学園都市へやってきた。
 この科学の街、学園都市には珍しい魔術サイドの人間といった所かな?
 君のことは調べ尽くしたよ。もう興味も湧かない」
「なんで。そのことを知っているの」
姫神の質問にフィリップは答えない。
本人の言葉の通り、まさに興味も湧かないといった風情だ。
ただ誰に聞かせるでもなく独り言を続けた。
「いや……だが姫神秋沙は三沢塾の事件で“10万3千”と関わりがあったな。
 居場所も分からなくなったことだし、姫神秋沙に案内してもらおう。
 ねえ、姫神秋沙?」
「!」
フィリップが姫神の腕を掴む。
「僕を“10万3千”のところに連れて行ってくれないか?」
「いや。はなして」
姫神は拒絶し、腕を振り払おうとするがフィリップはなかなか彼女の腕を放さない。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 08:02:11.99 ID:4hkg6EEB0
そこへ、第三者の声が飛び込んできた。
「おい、何やってんだ!」
その声の主は走り寄ってくると、二人の間に割って入った。
姫神を庇うように立つと、その闖入者はフィリップに警戒の眼差しを向ける。
嫌がる女に、絡む男。状況からすれば仕方がない。
だがそれ以上に彼には姫神を庇う理由があった。
「大丈夫か?姫神」
「うん。私は大丈夫」
その男は姫神の知人のようだ。
そして彼のことは、フィリップも知っていた。
「上条当麻……幻想殺し(イマジンブレイカ―)か……
 そういえば君は“10万3千”の保護者だったね。
 “10万3千”の所に案内してくれるなら、君でもいいよ」
「“10万3千”!?
 こいつ、インデックスを狙って……!」
「別に彼女自身に興味は無いよ。
 僕は“10万3千”の中身を読みたいだけだ」
上条がさらに警戒の色を強め、フィリップから姫神を隠すように後ろへ下がらせる。
「さあ、案内してくれないか?
 “10万3千”のところへ」
後ずさる二人に、フィリップがにじり寄る。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 08:09:50.04 ID:4hkg6EEB0
「う……」
あまりに無造作に歩み寄るその様子に、不気味なものを感じた上条は
「うおおおおおおおお!」
フィリップに向けて、咆哮とともに拳を振るった。
狙い過たず、拳が敵の顔面を捉える。
渾身の一撃を無防備なまま食らったフィリップは一回転して後ろに吹っ飛ぶと、そのまま動かなくなった。
「あ、あれ?」
あまりにも呆気ない敵のやられっぷりに拍子抜けした声を漏らす上条。
「も、もしかして魔術師とかじゃなかったんでせうか……?」
その可能性に行き当たったとき、上条の咆哮を聞きつけたのか野次馬が集まってきた。
もし彼が魔術的な要素の無い一般人であったら、
それを一方的に殴りつけた上条は、通報されれば風紀委員か警備員にしょっぴかれる羽目になる。
「不幸だ……人を殴っといて言うのもなんだけど」
「上条くん。とりあえず運ぼう」
「お、おう」
上条と姫神は二人がかりでフィリップを持ち上げると、逃げるようにその場を後にした。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 08:24:40.08 ID:4hkg6EEB0

「あ、とうま。お帰り……って、ええっ!?」
同居人の帰宅を迎えた白装束のシスターは、彼の同行者を見て思わず驚きの声を漏らした。
気絶した少年を担ぎ込んできたのだから無理もない反応である。
「とうまが……女の子以外を助けてるっ!?」
「そこ驚くところ!?」
「安心して。これは助けたんじゃない。
 さらってきたの」
「あ、そうなんだ。安心した」
「……アホな事言ってないで、とりあえずベッドに寝かせるか。
 インデックス、スフィンクスをどけろ」
「う、うん」
上条は話を元へ戻して、インデックスと呼んだ少女にベッドの上で惰眠を貪っていた猫を退けさせた。
眠りを妨げられた猫はインデックスに抱きかかえられたまま
『あれ?さっきまで目の前にあった鰹節の山はどこ行ったんスか?ご主人さん知らないスか?』
とでも言いたそうな寝ぼけ眼でキョロキョロと辺りを見回していた。
先程まで猫が占領していた寝床に、得体の知れない少年を寝かせる。

20 名前:約束します!だって名護さん最高だから…[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 08:27:35.41 ID:4hkg6EEB0
一息ついたところで、上条が切り出した。
「さて……インデックス、ちょっと見て欲しいんだけど」
「え?何を?」
「この人……魔術師?」
「えっと……」
こと魔術に関して、インデックス以上に頼りになる存在を上条は知らない。
つまり、インデックスの言うことならば確実なのだ。
上条は生唾を飲み込み、次の言葉を待った。
「ううん、全然普通の人」
「うおおおおおお
 やっちまったああああああ」
インデックスの宣告を受けるや否や、頭を抱えてのたうちまわる上条。
「え?え?何?どうしたの?」
状況の説明を受けていないインデックスは何が何だか分からない顔で戸惑っている。
事情を知っている(というか当事者の)姫神はインデックスの肩に手を置き、囁いた。
「シスター。待ってあげて。彼の懺悔の時まで」
「う、うん、分かったんだよ」
「ちょっと姫神さん?何を『自分は第三者』みたいな言い方してるんでせうか?」
「だって。殴ったのは上条君だし」
「そうだけど!確かにそうだけど!」
「うーん……何がなんだか分からないんだよ」

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 08:33:33.88 ID:4hkg6EEB0
未だ状況が飲み込めない様子のインデックスに、上条は経緯を説明した。
「この人、禁書目録のことを知ってたの?」
「そうでないと“10万3千”っていうピンポイントな数字は把握してないだろうと思うんだけどな……
 どういう手段でインデックスのことを知ったんだ?」
「とりあえず、魔術師関係の線は無いかも。
 この人、魔術的な素養は全然無いし……」
「危険人物ではない。ということ?」
その事実が再び上条の良心を苛んだが、後の祭りである。
勘違いから始まったこととはいえ、無実?の人間を殴り倒してしまったのは変えようのない事実なのだ。
「そういえば。この人は上条君の幻想殺しや私の吸血殺しのことも知っていた。」
「うーん、ますます妙なヤツだな」
結局、被害者の彼の口から数々の疑問の回答を得るためにも、
罪滅ぼしのためにも上条に出来ることと言えば献身的な介抱ぐらいのことであった。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 08:47:30.61 ID:4hkg6EEB0
フィリップは程無くして目を覚ました。
そして彼が見たものは自分を取り囲む三人の若者と、荷造り用のヒモで拘束された自分の体だった。
インデックスの魔術的素養は無いという断言を得たものの、万が一ということもある。
そう判断した上条が、さらなる罪悪感に苛まれながらも施したものだ。
「……これはなんだい?」
自分への拘束を心底不思議そうに眺めるフィリップ。
「あんたがいきなり暴れださないとも限らないからな。
 念のためだ」
「無用な心配をするねえ、上条当麻」
「こいつ、やっぱり俺のことを……」
「君のことはもう調べ尽くしたよ。
 僕が興味があるのは……」
拘束され、仰向けに寝たままの状態でフィリップは首だけをぐるりと回しインデックスを見た。
「君だよ!インデックス!
 “10万3千”の中身!僕に見せてくれ!」
フィリップのその気勢に押され、インデックスが一歩退いた。
上条の背後に隠れながら、恐る恐る答える。
「そ、それは無理なんだよ。
 あなたの言う“10万3千”っていうのは、魔術書の数のこと。
 読む人に害を与える毒を持ってる、危険な書なんだよ。
 あなたみたいに魔術師ですらない人が読んだりしたら即死しちゃうかも」
インデックスの答えを、フィリップは黙って聞いていた。
そして暫く考え込む。たっぷり時間をかけて考えてから、彼は再び口を開いた。
「それじゃ、仕方ないね」
諦めてくれたか、話の通じる相手で良かった、などと上条やインデックスが胸を撫で下ろしかけたのも束の間
「君がその禁書の中身を見せてくれる気になるまで学園都市に滞在することにしよう」
期待とは逆の回答を受けて、がくりと肩を落とす二人。
その後もフィリップの説得を試みたが、彼が禁書を諦めることは無かった。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 08:58:07.29 ID:4hkg6EEB0
「ったく、強情だなアンタ……」
「10万3千もの本なんて、そう簡単にあきらめられるワケがないよ。
 僕が今まで見てきた本の中でも一番の大物だ」
「うーん……仕方ない、アンタの説得をしてもどうやら話は進まないみたいだな。
 それより教えてくれよ、どうしてアンタがインデックスや姫神や俺のことを知っていたのか」
フィリップが諦めることを諦めた上条は、ずっと気にかかっていたことを彼に尋ねた。
「それは僕が……いや、やめておこう」
「え?なんだよ気になるじゃないか」
身を乗り出した上条に、一度は種を明かしかけたフィリップだったが、すぐにそれを隠してしまう。
にやりと笑みを深めて上条とインデックスを交互に見ながら
「僕の秘密は君たちが“10万3千”を見せてくれる気になったら教えてあげよう」
「くっ、汚ねえぞ……」
「それはお互い様じゃないか」
「くそう、気になる……俺の個人情報は一体どこまで筒抜けなんだ……
 まさかあんなことやこんなことやそんな物の隠し場所まで……」
「そんな物の隠し場所なら本棚だろう?
 彼女との同棲を始めて、ベッドの下から移したようだね。
 理科……生物の参考書の表紙を被せてカモフラージュしている。
 上条当麻、これは君なりのジョークかい?」
「ちょ」
インデックスと姫神の動きは上条より速かった。それは疾風と呼ぶに相応しい。
結局上条は秘宝を奪われた揚句、頭に大きな歯型をこしらえることになってしまった。
「不幸だ……」
「それは君の口癖かい?
 君は今まで幾度となくその発言をしているが、傍目に見て君はそれほど不幸には見えないよ?」
「えっ?」
頭をさすりながら、意外そうな表情でフィリップを振り返り見る上条。
フィリップの束縛は既に解かれ、まるで鳴海探偵事務所に居る時と同じようにくつろいでいた。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 09:05:19.80 ID:4hkg6EEB0
さらに彼は言う。
「僕の調べによれば、君は少々注意不足だね。
 もっと周りのことを注意深く観察することをオススメするよ。
 特に近しい女性には十分注意するべきだ」
この時、上条とフィリップの視界には入らないところで二人の女性が小さく頷いていた。
「近しい女性って……なんで?」
「それは、例えばそこの姫神秋沙」
「姫神?」
「彼女は以前君に助けられて以来、君にこ」
フィリップの言葉は最後まで続かなかった。
背後から後頭部を強打。その犯人は彼の背後で仁王立ちしていた。
姫神秋沙。その手には凶器となった上条の生物の参考書が握られている。
「ひ、姫神さん!?な、何をしているんでせうか?」
「……はっ。やってしまった」
「いくらなんでも酷いんだよ」
再び昏倒したフィリップは、次に目覚めるまでは前回以上の時間を要した。
フィリップが目を覚ますと、上条は尋ねる。
「フィリップ、アンタ気絶する直前、何を言いかけてたんだ?」
「ああ……それは」
言葉はまたも最後まで続かなかった。
背筋に走った薄ら寒いものが、彼の発言をやめさせた。
「……君がもっと注意深くなった方が君や周りの人間は幸せだということだよ」
結局、フィリップは曖昧な結論でその話題を打ち切ることにした。

27 名前:再開[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 10:09:13.12 ID:4hkg6EEB0
長かった日も暮れ、夜の帳が下りた頃、左翔太郎は困り顔でうろついていた。
「やべー……どこ行きやがった、あの神父……」
巻かれたのである。
あの神父はいつから彼の尾行に気付いていたのか。
コウモリと翔太郎、二つの視界から忽然と姿を消してしまった。
尾行対象に気取られ、しかも追跡を振り切られるなど、探偵にあるまじき失態であると言える。
「こんな時におやっさんが居たら……また半熟(ハーフボイルド)って言われちまうな」
翔太郎は立ち止り、頭の帽子を手に取った。
懐かしき師の言葉は、今でもありありと蘇る。
「ほう、キミは『半熟(ハーフボイルド)』なのかい。
 だが気にしなくてもいい。僕の炎なら一瞬で『固ゆで(ハードボイルド)』になる。
 加減次第ではそのまま炭になるがね」
背後からの声に翔太郎は体を強張らせた。
聞き覚えのある声。紛れもなくあの神父のものだ。
「……そんな大層な火力なら、神父じゃなくてコンロになるべきだったなぁ。
 中華料理屋で大活躍出来たぜ」
「なるほど、神父を廃業しても食い扶持には困らないな。覚えておこう。
 しかし今日は、満漢全席より先に料理しないといけないものがあってね」
「そうかよ。俺としちゃあ、今日ばかりは固ゆで卵は遠慮しておきてえ……ッ!」
神父はもう翔太郎の言葉には耳を貸さなかった。
翔太郎は背後から迫る圧倒的な熱を感じ、咄嗟に飛び退る。
一瞬前まで翔太郎が立っていた位置に灼熱の炎剣が突き立った。
かなり離れた位置まで飛び退いたにも関わらず、その炎剣の熱が翔太郎の頬を焦がす。
これほどの熱量であれば、直撃せずとも致命の一撃となるだろう。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 10:15:38.82 ID:4hkg6EEB0
「忠告通りだ。
 改めて宣言する必要はないと思うが、念のため言っておこう。
 君を殺す」
確かに、その宣言はまったくもって不要であった。
彼の攻撃が含む明確な殺意は、その神父の台詞の間にも翔太郎が脱兎の如く逃げ出すには十分な材料だった。
追撃の炎剣が翔太郎を追って放たれるが、全速で駆ける彼には命中しない。
避けきれる、とはいえ油断など出来ようはずもない。
その攻撃に隠されている相手の狙いには薄々感付いていた。
誘導されている。それは重々承知していたが、翔太郎にはそれに従う他無かった。
従わなければ、3000度の炎剣に全身を焼かれる羽目になる。
とはいえ、誘導の先に逃げ道があるとは到底思えなかった。
追う側のステイルが追い込む先として最も考えられるのは、
「王手だ、探偵」
「そう……みたいだな」
神父の炎に照らされて浮かび上がったのは、袋小路というべき空間。
ちょっとした広場が小高いビルによって形成されている。そこには、二つの逃げ道があった。
一つは元来た道。それは神父と、炎によって塞がれている。
もう一つは上。しかしビルの壁面には梯子や、とっかかりになりそうな出っ張りもなかった。
翔太郎が、例えばアメリカの映画に出てくるような怪人蜘蛛男であれば容易に手が届くだろう。
しかし彼は、そう“彼は”そんなスーパーヒーローではないというのが現実だ。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 10:20:48.79 ID:4hkg6EEB0
「最期だ。神に祈る時間をあげよう」
神職者らしい厳格さを以て、ステイルが宣告した。
翔太郎は壁を背負い、炎の剣を突き付けられてなお、淡く笑みを浮かべる。
「お心遣い痛み入る、と言いたいところだけどな。
 あいにく、俺は神様には祈らねえんだ」
「そうかい。死に際して祈る相手もいないとは、憐れなことだ」
「勘違いするなって。祈る相手はちゃんと居るぜ」
そして翔太郎は、ステイル越しに空を見る。
「ほう。後学のために聞いておこうか。君が祈る相手を」
「それはな」
そして彼の眼は捉えた。天から飛来する勝機を。
「悪魔さ」
ステイルの背後から高速で飛来した何者かが、彼を掠めて翔太郎へと向かう。
さしものステイルも、それを捉えることはできなかった。
何物かが翔太郎の掌に収まると、ステイルにもその正体が確認できた。
以前、ステイルと翔太郎が接触した時にも、ステイルの邪魔に入ったコウモリだ。
高速移動する金属製のコウモリは確かに武器になる。
が、勝機はそのコウモリ自体よりも、コウモリが運んできたモノに由来した。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 10:26:42.63 ID:4hkg6EEB0
それは“ダブルドライバー”と通称されている、不思議な形をしたベルトである。
そのバックルには何かの挿入口のようなものが左右に二つ付いている。
さらに不思議なのは形だけではなく、それを装着している間、
翔太郎とフィリップは感覚を共有出来るという機能を備えている。

「翔太郎。君が学園都市に行こうと……例え地獄の底へ落ちようと悪魔と相乗りしてもらうよ」
「ああ、行こうぜ相棒」

そして、そのバックルに付いている、何かの挿入口に、然るべきモノを挿し込むことによって、
彼は――“彼ら”は、“仮面ライダー”へと変身を遂げるのだ。

翔太郎は懐から、然るべきモノを取り出した。
それは即ち、ガイアメモリという。
地球の記憶を蓄えた、記憶媒体である。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 10:31:12.56 ID:4hkg6EEB0
『サイクロン』
『ジョーカー』

二人がガイアメモリのスイッチを押すと、メモリそのものが己に記憶されしモノの名を力強く宣言した。
すると翔太郎が装着したバックルの右側の挿入口に、突如として緑色のメモリが出現する。

「魔女狩りの王(イノケンティウス)!!」
その様子を警戒しながら見守っていたステイルだったが、
これ以上翔太郎を放っておくのは得策ではないと考えた。
ステイルの言葉に呼応して、顕現した魔女狩りの王がその炎を翔太郎へと叩きつける。
翔太郎の姿が炎に飲まれて消えた。
後には消し炭さえ残らない。
そのはずであった。

次の瞬間、魔女狩りの王の炎が大きく揺らいだ。

「風……!?」
ただの突風程度では、ステイルの炎は揺らがない。
それはまさに凝縮された台風(サイクロン)がこの場に現れたかのようだった。
そしてその風は遂に、魔女狩りの王の炎の腕を振り払い――魔女狩りの王の火影の向こうから、
左右非対称の異形が姿を現す。
「探偵……貴様何者だ?」
ステイルの問いに怪人、ダブルは答えた。
「俺は……俺達は、二人で一人の探偵さ」



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 10:38:17.18 ID:4hkg6EEB0
ステイルと翔太郎の戦場から少し離れた路上。
フィリップの頬をはたきながらその名前を呼ぶ上条がそこに居た。
「おい、フィリップ!?もしもーし、フィリップ君!」
彼は相棒と合流したいからと上条の部屋を出た。
案内と、彼の行動を見張る意味で上条たち三人も同行した。
そこへ金属製のコウモリが飛来し、フィリップが何かをそれに持たせて再び空へ放った。
その直後、謎のバックルの挿入口に謎のメモリを挿した途端に彼は倒れた。
倒れるフィリップの体を上条が何とか受け止め、意識を失った彼の名を何度か呼んでみる。
しかし応答はなく、彼が目覚める気配もない。
「うーん……」
その傍らでは、何事か考えているインデックスが頭を捻っていた。
「とうま、フィリップがその変な機械のスイッチを押した時なんだけどね」
「え、何かあったのか、インデックス」
「うん。今は治まってるんだけど、その時一瞬だけ物凄い魔術的な力を感じたんだよ。
 もしかしたら、凄い魔術的なアイテムかも」
「マジで?
 ……っていうか、インデックスが言葉を濁すなんて珍しいな。
 魔術のことなら何でも知ってそうなイメージなのに」
「とうま、やっぱりフィリップは要注意かも。
 私に正体が掴めない魔術なんて、異常なんだよ」
「とは言ってもな」
魔術を使ったかもしれないとは言うが、上条にしてみればフィリップが何をしたわけでもなく、
ただ突然ぶっ倒れただけである。それから何が起こるわけでもない。
「フィリップの魔術?とやらがこれから何を起こすのか、見定めるのが先決じゃないか。
 フィリップが魔術師だとしても本人はまだここにいるんだし、何も起こせやしないって」
上条は右手をひらひらとはためかせて軽い口調で言う。
それから爆発音が彼らの耳に届くまで、一秒とかからなかった。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 10:42:25.87 ID:4hkg6EEB0
何だこの怪人は。
次々と頭に湧いてくる疑問と、目の前の男。
ステイルは二つの敵と同時に戦っていた。
まず目につくのは右半身と左半身で真っ二つに色の分かれた異形の肉体。
そして常人離れしたその膂力。
その力の源泉が魔術であるにせよ科学であるにせよ、“そういうもの”だとスッパリ割り切ることで、
ステイルは片方の敵を噛み殺した。
この怪人は、二正面作戦など許してくれる力量ではない。
強い。
魔女狩りの王が振るう両腕も、ステイルの放つ炎剣も、怪人の身を焼きつくすには至っていない。
この二色の怪人が発する風と、風の如き身のこなしが、炎の熱を寄せ付けなかった。
ただ、怪人の方もステイルに近寄れない。
ステイルへの接近は即ち3000度の炎の懐に飛び込むことを意味する。
接近は必殺の一撃を放つその瞬間でなければならない。
さもなくば、文字通り飛んで火に入る夏の虫となる。
怪人はステイルの攻撃をかわしながら、その間合いを測っているように見えた。
しかしその実怪人、左翔太郎とフィリップの狙いは別に有った。
怪人の左眼が点滅する。
「フィリップ、学園都市については検索したんだろ?
 コイツがいわゆる“能力者”ってヤツなのか!?」
右眼が応えるように点滅した。
「残念ながら彼は能力者ではないよ。
 ステイル・マグヌス……彼は魔術師だ」
「あぁ!?魔術!?」
予想だにしない言葉に、翔太郎の声が思わず上擦った。
「…………手品師か!」
魔術という聞き慣れない単語から、翔太郎が導き出せる答えはこの程度のものである。
「……マジシャンという意味では間違ってはいないけどね」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 10:52:57.21 ID:4hkg6EEB0
“にわか学園都市マニア”のフィリップには、学園都市の最近の事情が分かる。
しかも“10万3000”の周囲から情報を洗っていったのだから、深く関わるステイルの情報は筒抜けであった。
即ち、彼の弱点も。
「魔女狩りの王(イノケンティウス)!」
ステイルの言葉に応じて巨人はその腕を何度となく振るう。
いくら怪人、左翔太郎の身のこなしが超人的であろうと、この袋小路を形成するビルを飛び越えるには至らない。
逃げ道は彼と、彼の使役する魔人が塞いでいる。
ならばいずれ、奴らが疲れ果てるまで魔女狩りの王の一撃を繰り返すまでだ。
ステイルはそう決意したらしい。
巨人の攻撃がさらに激しさを増した。
それに呼応したかのように、怪人も行動を変える。
“変身”の際に用いたガイアメモリを再び取り出した。
先程使った黒いガイアメモリとは色と模様が違う。
それを見たステイルの表情が再び険しくなった。
先程のあのメモリの出現から、自分とあの探偵の形勢が大きく変わったのだから、それも当然である。
彼はそのメモリが何のマジックアイテムの類なのか、あるいは超能力の発動媒介なのかは知らないが、
探偵が再び形勢を変えようとしていることは察知出来た。
(アレを使わせてはまずい……少々大事になるが、ここは……)
巨人の動きが止まる。
しかしそれが攻勢の鈍化ではないことは、その熱量の高まりから彼らにも分かった。
広範囲に及ぶ攻撃でこの袋小路全体を焼き尽くすつもりなのだ。
秘密裏に探偵を処理するためにしていた遠慮、それをやめたということである。
もはやステイルに怪人に対する侮りは無い。奥の手を使わせる前に最大最強の一撃で葬り去る。
学園都市の部外者であるために、目立つことを避けてきた努力を無に帰するのも厭わない。
確実に敵を倒す一手を打ったのだ。

40 名前:再開[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 11:37:39.86 ID:4hkg6EEB0
だが怪人の速さがステイルの予測をわずかに上回る。
ベルトに刺さった黒いガイアメモリを、新たなガイアメモリに挿しかえた。
瞬間、左半身の色がメモリと同色の青に変化する。
そしてステイルは、彼らの手に銃が握られているのを見た。
(いつの間に?)
怪人から目を離した瞬間は無い。
考えられるのは、その銃の出現があの青いメモリによって起こったということ。
一体あの銃が何を射出するかは分からないが、ステイルは魔女狩りの王の攻撃まで身を守らねばならない。
神父は剣を構える。
だが怪人の銃口はステイルに向かず、しかしそれ故に彼は焦燥した。
(まさか)
「イノ――」
ステイルの攻撃命令より先に、弾丸は発射された。
銃口から連続して放たれた無数の弾丸は、袋小路の壁の至る所に命中する。
そこに刻まれたルーン、魔女狩りの王の力の源に。
巨人の炎は、翔太郎に到達することなく霧消した。
「貴様、何故」
何故壁を撃った?
まるでこの魔術の性質を知っているようじゃないか。
それこそ、あの禁書目録のように。
噛み殺した疑問が息を吹き返し、再び頭をもたげる。
そしてやはり、この怪人は二正面作戦を許してくれる力量の相手ではなかった。
わずかに生じたステイルの隙を逃さず、一気に間合いを詰める。
銃口が神父の胸に突き付けられた。
「ぐっ……」
炎剣でそれを防ぐことも出来ない。
ステイルが剣を振るうより、怪人が引き金を引く方が確実に速い。
決着はついた。
対峙する二人の間で、共通認識が生まれる。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 11:42:32.50 ID:4hkg6EEB0
しかし突如として、その認識を覆す闖入者が現れた。
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
叫びとともに袋小路に飛び込んできた闖入者は、その必殺の右拳を怪人へと見舞う。
「うわっ!?」
不意を打たれ、怪人はまともに拳を受けた。
勢い余って、転がっていく翔太郎。
「痛ぇなこの野郎!」
そこで翔太郎は気付いた。
人間の右拳にしては痛過ぎる。
「変身が解けた!?」
そこにはステイルを圧倒した怪人“仮面ライダー”の姿は無く、探偵・左翔太郎が転がっていた。
「大丈夫かステイル!」
闖入者はステイルの加勢らしく、一般的な学園都市の男子学生の姿をしている。
またしても起こった形勢逆転により、今度は翔太郎が追い詰められた。
だというのにステイルは
「チッ」
誰に憚る事も無く舌打ちした。
どうやら闖入者はステイルにも歓迎されていないようである。
「誰が助けてくれと言った? 上条当麻」
刺々しい神父の言葉に、闖入者の少年、上条当麻は答えた。
「爆発の音が聞こえてきたから何事かと思ってきてみれば、ステイルが銃を突きつけられてたからさ……
 そこからは条件反射的に」
「チッ」
ステイルは再び舌打ちする。
上条が乱入しなければ自分は敵に命を握られた状態であったという事実と、
いけすかない男に窮地を助けられたという事実が、二重に苦々しい。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 11:46:54.90 ID:4hkg6EEB0
「で、コイツは何者なんだ?
 教会絡みの敵か、インデックス狙いの魔術師か?」
自身が殴り飛ばした探偵を油断なく睨みながら、上条はステイルに問う。
どう答えたものか、ステイルは熟慮した。
正直に『インデックスのことを探っている探偵だったので、秘密裏に殺害しようとした』伝えてしまうと
この上条当麻が言うことは決まっている。『何も殺すことはないじゃないか!』である。
どちらにしても彼が来た時点で、ステイルの目的は果たせなくなってしまった。
「彼女を狙っている探偵だ。
 いかなる原理かは知らないが、腰のベルトと、懐の記憶媒体で驚異的な身体能力を発揮する。
 拘束するつもりなら、そのアイテムは破壊しておいた方が良いだろう。
 君の右手なら可能なはずだ」
簡潔に事実のみを告げると、ステイルは素早くその場から姿を消してしまった。
残された探偵と無能力者だけが睨みあいを続ける羽目になる。
「あんた、探偵なのか?なんでインデックスを狙ってやがるんだ?」
上条の問いに、『インデックス』というのが10万3000の正体だと察した翔太郎は
「俺はその『インデックス』とやらには興味ねえし、探偵の仕事じゃねえんだけどな。
 俺の相棒がそいつに興味津々で、そいつを追いかけてこの街までやって来ちまった。
 しかも連絡が取れなくなっちまったんで、俺もその『インデックス』に辿り着けば、
 そこで相棒を捕まえられると思ったんだが……あの放火神父に絡まれてドンパチってぇワケだ」
と、正直に事情を説明した。
この少年には先程の神父ほど敵対の意思は無いと感じ、インデックスの関係者である彼の協力を得られるのではないかと考えたのだ。
そして翔太郎の言う『インデックスに興味津々の相棒』に、上条は思い当たる節が有った。
「『相棒』……って、もしかしてフィリップって言わないか?」
「ああ、もしかしてもうフィリップは『インデックス』に辿り着いてたのか?」
そこへ、件のフィリップの声が袋小路に割って入った。
「その通りだよ、翔太郎」
翔太郎と上条が声のした方を振り向くと、そこにはフィリップと白い装束に身を包んだシスター、巫女の姿をした少女が立っていた。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 11:47:43.95 ID:e+vLNbYTP
仮面ライダー吹っ飛ばすなんて相変わらず凄い補正ですね上条さん

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 11:50:59.64 ID:4hkg6EEB0
「フィリップ!無事か?」
「ああ……問題無い。
 先程はなかなかの火事場だったので事情の説明をしている暇が無かったが、今ならば可能だ。」
「事情?何か厄介事か?」
「ああ。
 僕たちにとっても……彼らにとってもね」
フィリップは彼ら、即ち上条達を指差して言った。
「えっ?厄介事……俺たちにとっても……って?
 フィリップはインデックスの知識が目当てで来ただけで、探偵の仕事は関係ないって言ってなかったか?」
上条はフィリップと翔太郎を交互に見合せながら不審げな表情を浮かべた。
「それは勿論、帰るまでには読ませてもらうよ。
 それに加えて帰るまでにもう一つ、調べなければならないことが出来たんだ」
「そりゃ一体……」
「これさ」
フィリップが翔太郎と上条達の目の前に突き出した手を開く。
そこには上条にとっては見覚えの無い何モノかが有った。
フィリップと一緒にやってきたインデックスと姫神もその手を覗き込むが、一様になんだか分からないような顔をしている。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 11:55:01.13 ID:4hkg6EEB0
「ええっと…これは一体全体何なんでせうか?
 何かのUSBメモリ?そういえばさっきステイルが記憶媒体とベルトがどうのって……」
「ガイアメモリ!?
 しかもコイツぁ『マスカレイド』のメモリじゃねえか!」
頭上に“?”マークを浮かべている学園都市の三人に、フィリップは事情の説明を始めた。
「これは『ガイアメモリ』といって地球の記憶を収めてある、生体感応端末だ。
 人体に直接挿入すると、このメモリに収められた記憶の力を宿した『ドーパント』と呼ばれる怪人に変身する。
 僕達の変身した姿はさっき見たと思うけど?」
「ああ、あの左右色違いの……」
「そう。強大な力をもたらす半面、副作用も大きいから、僕達はベルトを介して使用することによってその副作用を抑えている。」
「……そりゃ、随分危ないもんじゃないのか?」
「だから、厄介事なのさ。
 これが学園都市に入るトラックの中に有ったということは、既に流通している可能性がある」
「しかもこのマスカレイドってのは、俺達の街で幅を利かせてる『ミュージアム』って犯罪組織の下っ端が使ってるメモリだ。
 奴らが絡んでることは間違いないだろうな」
「ますます厄介だな……」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 12:00:40.61 ID:4hkg6EEB0
三人の男が顔を突き合わせて陰鬱な話をしている間にも
フィリップの手の上にあるガイアメモリを食い入るように見ていたインデックスが突然話に割って入った。
「ねえ、とうま。
 このガイアメモリって、“科学“で作られたものなのかな?」
「んー?そうだな、詳しい事は分からないけど“科学”の産物なんじゃないか」
「でも、このガイアメモリからは“魔術”的な力を感じるんだよ」
「そういえばフィリップが突然倒れた時にもそんなこと言ってたな」
「ガイアメモリは、基本的にはミュージアムの科学技術によって作られたものだよ。
 それが学園都市の“科学”とどれほどの関係が有るかは定かではないけど」
インデックスの疑問にフィリップが答える。
「ほら、やっぱり科学じゃないか」
「でも、魔術の力を感じるのも間違いないんだよ」
「そんなことあり得るのか?
 能力者が魔術を使えないように、科学と魔術が同居してるなんて……」
「……だから異常なんだよ」
科学と魔術の混在。
能力者が魔術を使う様を見たことのある上条にとって、その異常性は十分に理解出来た。
そしてこのガイアメモリが孕む、一つの危険な可能性にも同時に思い当たる。
「このガイアメモリは俺達からすると科学とも魔術ともつかないアイテムだ。
 だけど学園都市の人間にしてみれば、科学によって作られた道具にしか見えない。
 もし、科学によって生まれた『能力者』が『ガイアメモリ』という魔術的な要素を含んだアイテムを使ったりしたら……」
上条は能力者でありながら、魔術を使った男を思い浮かべた。
彼は自身の肉体再生能力のおかげもあり、辛うじて助かった。
だがその能力も、予備知識も無い能力者がガイアメモリを使用してしまったら。
「……どうなるかは分からないけど」
どちらにしても良い結果をもたらすことがないのは、翔太郎とフィリップの話からも想像に難くない。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 12:05:42.43 ID:4hkg6EEB0
「どうなるかは分からない、か。
 なるほど、あるいはそれこそが、ガイアメモリを学園都市に持ち込んだ連中の狙いなのかもしれない」
「どういうことだよ、フィリップ」
「どうなるか分からないなら、実際にやってみれば良い。
 学園都市はそういう連中がごまんといるんじゃないのかい?」
フィリップの口にした恐るべき可能性に、上条たち学園都市の住人は息を飲んだ。
「なあアンタ達、探偵なんだよな?
 なら、俺の依頼を受けてくれ」
上条のその依頼を、探偵は二つ返事で請け負った。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 12:12:01.54 ID:4hkg6EEB0
「ただいまー、なんだよスフィンクス」
上条一行はとりあえず、上条の部屋へと戻ってきた。
飼い主の臭いを嗅ぎつけて玄関へ姿を現した猫の歓迎を受けつつ、一行は居間へ集合した。
総勢五名ともなると、上条の部屋には少々許容量超過である。
四角い卓の四辺に一人ずつ着席しても、一人はあぶれてしまう。
結局、体の小さいインデックスと姫神が二人で一辺を使うことによって、どうにか五人の着席を果たした。
「さぁて、まずは依頼の件の話をしようぜ」
全員が腰を落ち着けたところで、早速翔太郎が話の口火を切った。
「俺達の目的は持ち込まれたガイアメモリの捜索と、破壊ってことになるんだが、
 何の手掛かりも無く捜したところで到底見つかるとは思えねえ。
 何かしらの手掛かりが欲しい」
翔太郎は言うと、ちらりと彼の相棒を見た。
ガイアメモリを学園都市に持ち込んだ連中に関する手掛かり、
キーワードが何か手に入ればフィリップの検索で大きく目的に近づける。
この能力の事を学園都市の人間に知られれば、無用な危険を招く可能性があるのでそれを話すつもりは無いが、
だからと言って使わない手は無い。
そのキーワードになる単語を学園都市の住人達から聞き出せないかと見越しての質問である。
「うーん、そうだな……いわゆる科学者って人種は、それこそ数え切れない程居るからな」
難しい顔をして考え込む上条。
同様にインデックスと姫神とスフィンクスも考えるような素振りは見せていたが、
インデックスと姫神は学園都市に来てからの日が浅いので、あまり期待は出来ない。
そして何故か一緒になって頭をひねっている猫はどうせ夕飯のことでも考えているんだろう、と翔太郎は思った。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 12:18:09.61 ID:4hkg6EEB0
「例えば」
三人と一匹の熟考に、フィリップが口をはさんだ。
「実験を行う側の立場になって考えてみよう。
 このガイアメモリは劇薬のようなものだ。
 そして、能力者という生物に如何なる効果をもたらすものか……まだはっきりとはしていない。」
「ああ、奴らにとって見りゃあ新薬みたいなもんだな。
 実際の新薬なら、そういう時……人体実験の前に動物実験か?」
「ガイアメモリを動物に、か……
 確かにあり得ない話ではないけれど、それならば学園都市でなくても出来るからね。
 ここに持ち込んだ以上は、やはり能力者で試すはずさ」
「けどよ、学園都市にとっても能力者は価値が有る存在なんだろ?
 いきなり一か八かのギャンブルは出来ないんじゃねえか?」
「逆に考えるとしよう。
 上条当麻、この学園都市にとって価値の低い能力者……というのは存在するかい?」
上条はその質問に苦笑いをしながら答えた。
「そりゃあ、やっぱり俺みたいなレベル0の無能力者じゃないかな」
「実験である以上は多数の対象に行わなければならない。
 君のような無能力者が大量に確保出来る場所は有るかな?」
再び考える上条。
一つ目の答えはすぐに浮かんだ。
「学校とか……」
そしてすぐにまた、二つ目の答えが浮かぶ。
「スキルアウトとか」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 12:24:14.78 ID:4hkg6EEB0
「スキルアウトってのは何だ?」
「学園都市に居るレベル0の能力者の武装集団……ってとこかな」
「なるほどな。
 チンピラが強さを誇示したがるのは、どこの町でも変わらねえ。
 実験者とも利害が一致するってもんだ」
「学校で組織的に行われるという可能性もゼロではないけれど、
 それ以上にスキルアウトにガイアメモリを横流しして後は経過を見守るだけ、という方が
 実験を行う側としてもリスクが低い」
そうして、まさに一同が結論に辿り着こうかという瞬間だった。
「ねえ、とうま」
突然、それまで黙して語らなかったインデックスが会話に割って入った。
「何だ、インデックス」
全員の視線がインデックスに注がれる。
そういえば、先程も彼女の発言がヒントになってガイアメモリの不確定要素に気付けたんだったな、などと上条は思い出していた。
もしかしたら、今回も何かに気付いたのかもしれない。
皆一様に押し黙って、インデックスの次の言葉を待った。
「おなかへった」
話の腰は、修復のしようもないほど見事に折れた。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 12:28:30.78 ID:4hkg6EEB0
一行は近くのレストランへと移動した。
ボックス席に、上条、インデックス、翔太郎、フィリップが腰かけている。
気がつけば日もとっぷりと暮れており、姫神は先に帰ると告げて去っている。
去り際には、明日以降の情報収集の協力を約した。
翔太郎達もステイルとの一戦などで蓄積した疲労が少なくなかったため、本格的な調査は明日からということになった。
「学園都市に来る時に利用した業者の宿舎が有るから、今晩のところはそこに泊まる事にするわ。
 その時の依頼主なら話も通しやすいしな」
「そうか?俺の家に泊まれれば良かったんだけど。
 既に一人と一匹余計に住人が居るもんで、俺も風呂で寝てる有様だからさ」
「むっ、とうま!余計ってどういう意味!?」
「いやいやいやいやインデックスさん、上条さんは定員的な意味で余計と申しただけで、
 インデックスさん達が余計な存在だなんてこれっぽっちも思っていませんよ!?」
言葉尻を捉えてインデックスが右隣に座っている上条に絡む。
「ああ、そうだ上条当麻。
 少し実験してみたいことが有るんだが」
その上条とインデックスのやりとりも意に介さず、フィリップが突如話を切り出した。
「えっ?」
“実験”という内容に不穏を感じた上条が、制止をする暇も有らばこそ。
フィリップは懐から取り出したマスカレイドのガイアメモリを不意に上条へ投げて寄越した。
「うわっ!?」
左腕にインデックスが絡みついていたため、上条は右手でガイアメモリを受け取る。
が、それは上条の右手に触れた途端に亀裂を生じ、次の瞬間には瓦解した。
「メモリブレイクした……!?」
その光景を傍観していた翔太郎が、思わず驚愕の声を発する。
「やばっ!」
「ガイアメモリを破壊した事なら、構うことはないよ、上条当麻。いずれは僕達の手で破壊するつもりだったものだからね。
 それに、こういう結果になる可能性は高いと踏んでいた」
ガイアメモリを壊してしまったことで焦る上条へ、フィリップがフォローを入れた。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 12:37:01.09 ID:4hkg6EEB0
それから隣に座っている翔太郎に向き直り、語る。
「翔太郎、見ての通り上条当麻の右手はガイアメモリのような異能の力を破壊するように出来ている。
 ステイル=マグヌスとの戦闘の時も、彼の右手に殴られて変身が解けたろう?
 もしあの時ダブルドライバーを殴られていたら、このメモリと同じ末路を辿っていただろう」
「そういやそうだな。あん時はワケが分からなかったが、そういうカラクリだったのか。
 ってことは、俺達がマキシマムドライブでもってメモリブレイクしてたもんが、ただのパンチ一発で済んじまうんだな」
翔太郎は合点がいった様子で、感心したように息を漏らした。
しかし上条にとっては疑問の再燃である。
「だから、なんでそれを知っているんでせうか」
その質問にフィリップは意地悪げに薄く笑みを浮かべて答えた。
「インデックスが僕に10万3000冊を読ませてくれる気になったら教えてあげよう」
「それは絶ッッッ対ダメなんだよ!」
「……との事だ。諦めたまえ、上条当麻」
笑みを深くして言い切るフィリップ。
魔術書の危険性を知る上条は「ちょっと読ませてやれよ、インデックス」とも言えず、フィリップへの追及を断念する。

折りもよく、料理が運ばれてきたために“仕事の話”は中断となった。
空腹を露わにしているのはインデックスのみであったが、他の三名も食事は満足に摂れていなかったためか
運ばれてきた料理に対して非常に真摯であり、食事風景は至って静かなものであった。
やがて全員が料理を平らげると、待ちかまえていたように食後のコーヒーが運ばれてくる。
ただしインデックスの目前にはコーヒーの代わりにパフェがそびえ立っていた。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 12:42:14.55 ID:4hkg6EEB0
翔太郎はブラックのままコーヒーをすすると、正直にその感想を漏らす。
「料理はそこそこイケたが、コーヒーはイマイチだな。
 ……いや、マトモなコーヒーが出てきた事を感謝するか。
 この学園都市じゃあ、自販機にマトモな飲み物が売ってなかったし、
 正直このレストランもメニューを見るまでは不安だったんだが」
「あー……確かに妙な飲み物を売ってる自販機は多いな。なんか業者が実験的に売ってるものらしい。
 その代わり安く買えるんだとかなんとか」
「やたらと冒険心に溢れた品揃えの理由はそういうことかよ」
納得しながらも、翔太郎は呆れたように肩をすくめる。
「空腹も満ちたところで、また例の件の話をしたいんだが」
フィリップの言葉が、食事によって一度緩んだ空気を再び引き締めた。
「とりあえず明日から、学園都市各所のスキルアウトを尋ねようと思っている。
 上条当麻、君はスキルアウトがどこに居るか分かるかい?」
「すまない、俺は正直スキルアウトのアジトとかにはあんまり詳しくないんだ。
 チンピラに絡まれるのはしょっちゅうだけど」
チンピラを助けるために、そのチンピラから何度か逃げ惑う羽目になったことを上条はありありと思い出していた。
結局そのチンピラ達は上条の尽力空しく、毎度のように電撃の餌食になったのだが。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 12:48:37.63 ID:4hkg6EEB0
「スキルアウトに関しての情報が必要ですか、とミサカは唐突に問いかけます」
「ああ、なるべく早くスキルアウトの情報を掴まないといけないんだよな。
 スキルアウトの集団は一つじゃないんだし、正解に辿り着くまで学園都市を巡らないといけなくなる……
 って、うわ!?」
上条は素っ頓狂な叫びを上げて思わず仰け反った。
例のチンピラを漏れなく黒コゲにした張本人と同じ顔が突然隣に有ったからである。
「美琴……妹か」
「仰る通りミサカは御坂妹と呼ばれている個体ですが、とミサカは肯定します」
「いきなり出てくるからびっくりしたじゃないか。ビリビリかと思ったぞ」
彼女はたった今上条が回想していた“ビリビリ”とはほとんど見分けがつかない顔をしているが、別人であった。
「おい上条、誰だこの娘は」
唐突に話に加わってきた少女に驚いているのは上条だけではない。
翔太郎は思わず会話に割り込んで説明を求めた。
「ああ、悪い。こいつは御坂妹。俺の友達……かな」
「よろしくお願いします、友達と一瞬言い淀む辺りに喜ぶべきなのか悲しむべきなのか悩みながらミサカは挨拶しました」
「お、おう、よろしく、お嬢さん」
御坂妹の妙な口調に押されながらも挨拶を交わした翔太郎だったが、着席していなければ確実には半歩は退いていただろう。
そんな彼とは対照的な様子の相棒が、むしろ前のめり気味に御坂妹に尋ねる。
「キミはスキルアウトに関して何か情報を持っているのかい?」
フィリップの質問に御坂妹は頭を振ってから答えた。

58 名前:さるさん[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 13:04:07.55 ID:4hkg6EEB0
「いえ、ミサカ自身はスキルアウトに関する情報を持っていないのですが」
「ふむ?」
「スキルアウトに関する情報ならば、風紀委員や警備員に尋ねれば良いのではないでしょうか?とミサカは提案します」
御坂妹の提案に納得顔の上条とフィリップとは裏腹に、翔太郎は馴染みのない単語の意味が分からず眉根を寄せた。
「上条、ジャッジメントやアンチスキルってえのは何だ」
「んーまあ外の世界で言う警察みたいなモンかな。
 ジャッジメントは生徒で、アンチスキルは教師で、基本的には組織されてる」
「警察か。なるほどそれなら犯罪集団の情報は持ってるかもしれないな。
 で、その風紀委員やら警備員やらにコネは有んのかい、お嬢さん」
「いえ、ミサカにはそのようなコネクションは有りません、とミサカは申し訳なさそうに否定します」
「それなら、俺の方に知り合いが居るから、当たってみよう」
「よし当たれ、すぐ当たれ、今当たれ。
 情報を頂くだけなら今日にも出来る」
「おう、すぐ電話してみる。ありがとな、御坂妹」
「いえ……お役に立てたのであれば何よりです、とミサカは満足げに礼を受けます」
上条は電話をかけるためにレストランから外へ出て行った。
その背を見届けてから、初めて立ちっぱなしだった御坂妹に気付いた翔太郎が
「ああ、座んなよお嬢さん。一つ席も空いたことだしな」
と着席を勧めた。
「いえ結構です、とミサカは丁重にお断りします」
「ねえ、クールビューティはもしかしてとうまに会いに来たの?」
今までパフェを食べながら成り行きを見守っていたインデックスが、完食とともに会話に加わってきた。
レストランを出て行く上条を見送る視線から察したのかもしれない。
「……そうです。ですが、お忙しそうなのでまたの機会にします、とミサカは残念さを露わにします」
「お嬢さん、すまねえな。
 上条は今ちょっとした厄介事に首を突っ込んでる。
 まあ、すぐに片付いて元通りの生活を送れるようになるさ。そのために上条は俺達を雇ったんだ」
「余り期待せずに待つことにします、とミサカは正直な所感を述べます」
「……手厳しいな」
初対面の少女に頼りになりそうにないと遠回しに言われて、翔太郎はひきつった笑みを浮かべた。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 13:15:11.21 ID:4hkg6EEB0
「ではミサカはこれで失礼します、とミサカは丁寧に別れを告げます」
彼女は一礼するとレストランを出て行ってしまった。
御坂妹と入れ違いに上条が席に戻ってくる。
少々暗い表情で再び席に座ると頭を下げて言った。
「すまん、繋がらなかった。
 何度もかけ直したんだけど……」
そんな上条をからかうように、翔太郎が尋ねる。
「着信拒否されてんじゃねえのか?仲の悪い相手なのかよ」
「いや。かたや『白井』、かたや『類人猿』と呼び合う仲だぞ」
「人間扱いされてねえぞ、それ」
「通信が出来ないのならば仕方が無い。直接向かおうじゃないか」
「うーん、白井は門限の厳しい女子寮に住んでるからなあ……
 今から行っても多分会えないと思う」
「しょうがねえな。やっぱり動くのは明日からってことになりそうだ」
翔太郎はコーヒーを飲み干すと、レストランに入ってから外していた中折れ帽を被って立ち上がった。
「今日はここで別れよう。俺達はここから宿舎へ行って明日に備える。
 明日の朝九時にお前の家に行くから、上条もそれまでに準備しておけよ」
フィリップも異議はない様子で、翔太郎に続いて席を立った。
「お、おう。」
「とうま、私も行くからね!」
「えー……危ないからインデックスには家に居てほしいんだけどな。今回魔術関係ないし……」
何やらもめ始めた上条とインデックスは放っておいて、翔太郎とフィリップはレストランを後にした。

61 名前:姫神は置いてきた。今回の戦いにはついていけそうにない[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 13:32:14.99 ID:4hkg6EEB0
学園都市の朝は早い。
九時ともなれば住民の八割を占める学生達が既に登校しているため、人影もまばらである。
そんな中で学生でない二人の若者の姿は特異であった。
しかしそれを見咎める人も無く、二人は第七学区の住宅街を悠然と歩いていた。
歩みを進める二人の視線の先に、また別の二人組の姿が現れる。
新たに現れた二人の片方は学生服だが、もう片方は学園都市において一際異彩を放つ白い修道服を着ている。
「よう上条、インデックス」
「おう、左とフィリップ」
「おはよう、なんだよ」
「ああ。
 ところで上条当麻、姫神秋沙は来ていないのかい?」
挨拶を交わすと、フィリップは周囲を一度見渡してから上条に尋ねた。
「ああ、姫神には今日のことは話してないんだ。
 スキルアウトが相手じゃ荒事になりそうだし、出来れば巻き込みたくないから」
言いながら上条はちらりと隣のシスターを盗み見た。
本音で言えば、インデックスにも家で留守番をしてもらいたいのだろう。
「本当なら俺達だってガイアメモリの件に依頼人を巻き込みたくねえ。
 けど、ここは風都じゃなくて学園都市だ。どうしても案内人が必要になる。
 だからよ、いざ!って事になったら俺達が絶対に守る。シスターも、上条もな」
「ほら、とうま!探偵さんもこう言ってるんだし、もうこれ以上ダダをこねないこと!」
恐らく『相当ダダをこねた』であろうシスターは、探偵という味方を得て、上条の異論を封殺した。
「分かったよ、いざという時はよろしく頼む」
多分にひきつった苦笑を浮かべ、不承不承ながらも上条はインデックスに従うことにした。
「それで上条、知り合いの風紀委員とは連絡取れたのか?」
「それが未だに通じてないんだ。もしかしたらアイツの方にトラブルが有ったのかもしれないな……」
「いずれにせよ、善は急げだ。
 早速上条当麻の知人である風紀委員のところへ向かうとしよう」
フィリップの提案に従い、四人の人影は学生寮を後にした。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 13:47:50.87 ID:4hkg6EEB0
「ここが上条の知り合いの風紀委員が通ってるって学校か」
「ああ。まずは白井を呼び出すぞ」
どう見ても学園都市外の人間が大挙していては怪しまれるだろうという考えから、呼び出しには上条が一人で向かった。
受付で適当な事情を説明すると、呼び出しの用件や学生証のチェックなど事細かに行われたものの、校内放送で呼んでもらえることになった。
上条が少し離れた場所で待っていた一団のもとへ戻って来た頃に、白井黒子を呼び出す校内放送が四人の耳にも届く。
「……校内放送はしてくれたみたいだな」
「後は上条がその白井ってヤツに嫌われてなけりゃ大丈夫だろ」
「だから大丈夫だって!多分」
「不安になる語尾をつけるんじゃねえ」
上条の口振りで不安になりかけた三人、その背後から急に何者かの声がかかった。
「まったく、ただでさえ忙しい時に一体何の用ですの?この類人猿は」
四人が一斉に振り向いて声の主を注視するが、
常盤台中学の制服を身に纏ったその少女はたじろぐことも無く四人の視線を正面から受け止め、さらに歩み寄ってきた。
どうやらこの少女こそが上条の知人の風紀委員であると察した翔太郎は威儀を繕い
「失礼、お嬢さん。
 俺は上条当麻に雇われた探偵、左翔太郎。
 今日はお嬢さんに一つ尋ねたい事があって参上した」
と、至極丁寧に自己紹介を行った。
「ふうん、そこの類人猿よりは礼儀を心得てらっしゃるようですわね」
「おい」
「それで、私に尋ねたいことというのは一体何ですの?
 見たところ、学園都市の学生ではないご様子ですが…」
「それに関しては僕が説明しよう。
 僕はフィリップ。左翔太郎の相棒だ。」
ずい、と前に出たフィリップが自己紹介し、説明を始める。
自分達の素性、ガイアメモリの性質、犯罪組織ミュージアムの関係。
そしてミュージアムの手によってガイアメモリが今学園都市のスキルアウトに流通している可能性があるということ。
学園都市の警察的組織に所属する彼女に知らせるべき事柄は、恐らく全て語った。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 13:55:22.17 ID:4hkg6EEB0
「なるほど、随分とまあ物騒な代物がこの学園都市に入り込んできたものですわね。」
「そこで風紀委員のキミならばスキルアウトの情報を持っているのではないかと思った、というワケだ。
 ここ最近で急に勢力を強めたスキルアウトや、最近不自然に弱体化したスキルアウトなどが怪しいと思うんだけど、何か知らないかい?」
情報を語り終えたフィリップの質問に、白井は素っ気なく答える。
「スキルアウトの捕縛は風紀委員や警備員のお仕事ですの。
 情報提供には感謝致しますけれど、一般の学生や部外者にスキルアウトの情報を流す事など出来ませんわ」
「何だって!?」
「落ち着きたまえ上条当麻。」
「お嬢さん、確かにスキルアウトの相手はそちらさんの仕事かもしれねえ。
 だけどよ、それを言うならミュージアムとドーパントの相手は俺達の仕事だ。
 こうしている間にも誰かがガイアメモリの被害者になる」
「……何と言われようと、情報を流すことは出来ませんわ」
「白井!そこを何とか……」
その場で土下座でも始めそうな上条の懇願は、学校から流れたチャイムの音で遮られた。
「私も一学生として授業に戻らねばなりませんの。
 ごめんあそばせ」
その言葉を残し、白井はその場から文字通り姿を消した。
「うわっ!
 これが超能力ってヤツかよ。魔術との差が良く分かんねえな」
「魔術と超能力という相反する二つの存在をこの学園都市に来てから立て続けに見られるとは。
 僕らは幸運かもしれないね」
翔太郎とフィリップは白井の能力を目の当たりにし、各々驚きの言葉を口にする。
そんな二人と対照的に上条は慌てた様子で
「左もフィリップも何を呑気な事言ってるんだ。
 スキルアウトの情報が手に入らないんじゃ、手当たり次第に探すしかないぞ!
 急がなきゃ!」
今にも駆け出さんとした。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 14:03:57.81 ID:4hkg6EEB0
「だから落ち着きたまえ上条当麻。
 僕としては使いたくなかったが、最後の手段が有る。」
「最後の手段……?」
「ああ。君は僕に何度も尋ねただろう?『なんで知っているのか』と。
 “検索”を行うとその答えを教えてしまうことになり、10万3000冊との交換材料として成立しなくなってしまうから
 これだけは使いたくなかったんだが、状況が状況だ。仕方ないね」
「“検索”……?」
「フィリップは“地球の本棚”という、地球が生まれて以来の記憶が蓄積されている場所へ行く事が出来るんだ。
 そこで必要な情報をキーワードから“検索”することが出来る。」
翔太郎が噛み砕いて説明するが、上条は良く分からないような表情を浮かべていた。
それに対しインデックスは驚いた様子で
「それアカシックレコードが読めるってこと?」
と翔太郎に問い質した。
その問いには翔太郎の方が面喰ってしまう。
「明石っ子レコード?」
などと間違った単語を反問していた。
「ゴホン……まあ明石のレコードってのは良く分からねえが、要するに人よりだいぶ物知りってことだ。」
「いやでもさ、それだったらなんでインデックスの10万3000冊を読みたがるんだ?
 その“地球の本棚”ってヤツで調べれば一発じゃないのか」
「地球の本棚の中には閲覧不可能なモンも有るらしい。
 そういうモンに関しては、フィリップが自力で調べるしかないみたいだな」
閲覧不可能な書物の中には、未だ明かされぬフィリップの過去の事などが綴られたものもあるという。
もっとも、翔太郎はフィリップにそう聞かされているだけで地球の本棚の実物を見たことはないのだが。
「翔太郎、おしゃべりはここまでにしよう。急ぐ必要がある」
地球の本棚に関する会話は、フィリップの一言で打ち切られた。
「さあ、検索を始めよう」
そして次の一言をきっかけに、検索が始まった。


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 14:12:27.67 ID:4hkg6EEB0
白井黒子は苛立っていた。
要因はいくつかあるが、まずは風紀委員の仕事が上手く行っていないこと。
昨日から原因不明の電波障害が発生しており、その原因の究明が上手くいっていないのである。
発生当初は学園都市内部での携帯電話による通話が不可能になるだけのものであったが、
その被害は徐々に拡大し外部との通話も不可能になってしまった。
そして現在では携帯電話以外の通信機器にも影響が及んでいる。
電話業者も手を尽くしたが一向に原因が分からず、
学園都市という場所の特殊性から能力者絡みの可能性を考え、風紀委員と警備員にお鉢が回ってきた。
次の要因は御坂美琴の不在。
白井黒子がお姉様と慕う彼女は今日、用事が有ると言って学校を休んでどこかへ行ってしまった。
彼女が居れば風紀委員の仕事が上手くいかない苛立ちは癒されただろうし、
電気系統のトラブルである今回の事件に関しては、学園都市最高の“電気使い(エレクトロマスター)”である彼女の能力は大いに役立つはずであった。
一体用事とは何なのか。
またあの類人猿絡みか、などとも疑っていたが、件の上条当麻は四人組でのこのこと白井を訪ねてきたからその容疑は晴れた。
しかし
「今度はガイアメモリ、ですって?」
白井は苛立ちを絞り出すように呟いた。
降って湧いた新たな問題。しかも外部の犯罪組織が絡んでいるという。
夏以降の侵入者のあまりの多さに、学園都市のセキュリティの信頼性を疑問視する声も上がっている。
「まったく、厄介な物を持ち込まないでほしいものですわ」
だがその情報提供によって、例の電波障害の原因として考えられるものが増えた。
苛立ちの三つ目の要因が、一つ目の要因を解消する糸口になるかもしれない。
白井は新たなる手がかりを持って、風紀委員の本部へと瞬間移動した。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 14:21:50.22 ID:4hkg6EEB0
「キーワードは“スキルアウト”“ガイアメモリ”」
地球の本棚に見渡す限り林立していた書架は、二つのキーワードでその数を大きく減らした。
しかし、それでもまだ虱潰しに読み漁るには時間がかかり過ぎる量が残っている。
「この本の多さ……もしかしたら、スキルアウトは既にガイアメモリを使用して何らかの事件を起こしてしまっているかもしれないね」
「くそ、間に合わなかったか」
「こうなったら被害を最小限に食い止めるしかないかも」
「そうだな……インデックス、やっぱり今からでも帰らないか?
 ガイアメモリが危険な……」
言いかけた上条は、インデックスの表情がみるみる険しくなっていくのを見て口をつぐんだ。
「しかしこの量の本をいちいち読んでいる時間はない。
 もう少し情報を絞り込むキーワードが欲しいね」
「そうか……なら、スキルアウトがガイアメモリを使って起こした事件から探ってみるのはどうだ?」
「なるほどそれで行こう。キーワードを追加“事件”“ド―パント”」
本の数はそれで大きく数を減らした。
フィリップは残ったいくつかの本から無作為に一冊選び、その中からスキルアウトが引き起こした事件に関連する記載を見つけた。
「有ったよ。
 ガイアメモリを供給されたスキルアウトは二日前、どうやら彼らの縄張り争いにマスカレイドメモリを用いたらしい。
 周囲の施設にも少なからず被害があったようだが、それ以上に人間への被害が大きかったようだ。
 被害者は全員スキルアウトだが、幸いにも死亡者は居ない」
フィリップの言葉に耳をそばだてていた三人はその報告を聞き、僅かながら胸を撫で下ろす。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 14:26:53.27 ID:4hkg6EEB0
「だが一つ、気になる記述がある。
 一番の重傷者がガイアメモリを使ったスキルアウト本人だということだ。
 つまり、能力者がガイアメモリを使用すると、やはり反動があるらしい。
 能力の暴走か、ガイアメモリの副作用か……詳しくは分からないが……」
「ますます急がなきゃいけねえじゃねえか。
 フィリップ、そのスキルアウトのねぐらはどこだ?」
「第十学区……ストレンジと呼ばれている地域に有るらしい。
 いわば学園都市のスラム街だね。」
「おっしゃ、それじゃあそこへ向かうとするか。
 フィリップ、お前はここから上条の家に戻れ」
「えっ、フィリップも行くんじゃないのか?」
思いがけぬ翔太郎の言葉に、上条が問う。
「上条は昨日の俺達の“変身”を見たと思うが、実はあの状態になると片方の体にもう片方の精神が入り込む事になるんだ。
 つまり、俺が変身するならフィリップの体の方は抜け殻になっちまう。
 スラム街となれば、フィリップの体を安全に守る事が出来ないからな」
「ああ、そういえば!」
確かに昨日、上条とインデックスは突然意識を失うフィリップを目撃している。
あの状態では、フィリップの体を人質に取るのもたやすいだろう。

72 名前:そんなに長くないんだすまないな[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 14:35:01.67 ID:4hkg6EEB0
「そこで、インデックスにも一つ頼みが有るんだが」
「えっ?何かな?」
上条が普段から、あまり頼りにしていないのか、インデックスは“頼み”と聞いて少し嬉しそうな表情をした。
「ああ、察しはついてるかもしれんがフィリップの体を守る役割を頼みたいんだ。
 今回の件には“ミュージアム”が絡んできている。
 もしかしたら、この学園都市の中でもフィリップが襲われるかもしれねえ。
 上条の家に居たとしても、安全とは言い切れねえんだ。
 この事件の解決のためには、絶対に必要な役割なんだが……頼めないか?」
フィリップの体の守り手が必要であることを説きながら、翔太郎は上条をちらりと見た。
その視線で、上条はようやく翔太郎の意図を理解する。
「そ、そうか!
 インデックスは昨日ガイアメモリから魔術的な力を感じるって言ってたしな!
 相手がガイアメモリを持っていれば察知出来るなら、フィリップの体を守る役にはインデックスが最適だ!」
翔太郎の意見に同調して、うんうんと頷く上条。
インデックスはさらに上機嫌になり、
「分かったんだよ!私に任せて!」
と翔太郎の頼みを快諾した。
「ってことだから、フィリップは上条の家に戻っていてくれ。
 そこでスキルアウトや学園都市に入り込んだガイアメモリやミュージアムの事を調べておいてほしい」
「ああ。スキルアウトの起こした事件に関して、もう少し調べてみよう」
「俺と上条は第十学区のストレンジへ向かう。
 ……それじゃあ、また後で。事が済んだら上条の家へ戻ることにする」
そして四人は、集合した時は別の二人組となって別れた。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 14:43:47.99 ID:4hkg6EEB0
「ありがとう、左」
「ん?」
「いや、インデックスが家に帰るように仕向けてくれたんだろ?」
「ああ……まあそうだけどよ、なにも嘘ってわけじゃねえ。
 俺達のどっちが変身するにしても、もう片方の体の近くに誰か味方が居るに越したことはねえんだ」
「そっか。
 ……うん?“俺達”ってことは、フィリップの方も変身するんでせうか?」
「そういうこともある。出来ればそういう事態にはならないで済む方が良いけどな」
「え?」
「まあ、危ないってこった。色々とな。
 普段は俺達にもう一人仲間が居て、そいつが一応体の面倒は見てくれるんだが」
「なるほど、インデックスは今回その人の代わりか。
 俺の方にも嘘はないから、インデックスならその人の代わりもちゃんと務められるはずだ」
「ああ、頼りにしてるぜ。二人ともな」
「にしてもさ、二人の変身って色んなバリエーションが有るのか?」
「おう。俺の方が持ってる格闘のジョーカー、棒術のメタル、銃のトリガーと
 フィリップが持ってる疾風のサイクロン、炎のヒート、幻想のルナの組み合わせだ。
 それぞれの名前の組み合わせで変身後をサイクロンジョーカー、みたいに呼んでるけどな」
「な、なるほど……
 ツンとデレの組み合わせでツンデレ、ヤンとデレの組み合わせでヤンデレみたいな感じか!」
「…………まあそんなもんだ」

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 14:51:24.10 ID:4hkg6EEB0
「さてインデックス。
 君は僕の秘密を知ってしまった。
 ならば僕も君の秘密を知ってこそ公平になるとは思わないかい?」
「まだ諦めてなかったの……」
「当然さ。それでなければ僕がここに来た意味がない」
「何と言われてもダメなものはダメなんだよ!」
「そうかい。
 ……まあ、ここに来た理由は実はもう一つ有るんだけどね」
「何?」
「知りたいかい?なら……」
「やっぱり、いいんだよ」
「そうかい?それは残念」
「あっ、ちょっと待って!」
「うん?」
「……魔術の力がこっちに近付いてる……なんだか飛び跳ねるみたいに……
 付かず離れずに距離を取って……この力は……ガイアメモリなんだよ!」
「なるほど。もうひとつの理由の方は、無事成功と言ったところか」
「え?逃げなくて良いの?」
「ああ……あれは味方だからね」
「……どういうこと?」
「知りたいかい?」
「やっぱり、いいんだよ……」

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 15:02:18.36 ID:4hkg6EEB0
「ここで間違いねえか、フィリップ」
翔太郎が話しかける相手は隣の上条ではない。
ダブルドライバーで感覚の繋がったフィリップだ。
しかしその姿は事情を説明された上条でも、独り言を呟いているようにしか見えない。
視界の繋がったフィリップも確認が取れるように翔太郎は辺りを見回した。
「間違いない。その路地を道なりに進んだ先に、例のスキルアウトのアジトがある」
フィリップが翔太郎に答える。
やはりその姿は、インデックスにも独り言を呟いているようにしか見えなかった。
翔太郎はそんな上条の視線に気付いて
「ったく、電話が通じないせいでこれを付けっ放しじゃねえとフィリップと連絡も取れねえぜ。
 案外不便なもんだな、科学の街“学園都市”も」
と照れ隠しの言い訳をした。
「ストレンジという場所の危険性を考えて、常に装着しているべきだと思うよ」
「でもやっぱり、俺が白井に嫌われてるワケじゃなかったな!
 翔太郎とフィリップも電話が通じないんだから、なんかのトラブルが有ったんだろ」
「白井黒子が上条当麻を嫌ってるのは明らかだったと思うけど?」
フィリップの発言に翔太郎も全面的に同意ではあったが、上条が少々哀れだったので口には出さずにおいた。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 15:12:17.86 ID:4hkg6EEB0
「さてと、行くか上条。
 とりあえず俺の後ろについてろ。ドーパントと戦うことになったら手伝ってもらうかもしれねえが……」
何しろ翔太郎達の必殺技であるマキシマムドライブと同じ効果を拳の一撃で生み出せるのだから、
上条は戦力としては計算出来る。
だが単純にスキルアウトとの殴り合いであれば、上条は戦力外である。
スキルアウトはアスリート並みに体を鍛えているということだから、一人倒せれば良い方だろう。
逆に、いくら相手がアスリートであろうとガイアメモリを使わない限りは変身した翔太郎達の相手ではない。
「わ、分かった。上条さんは左の後ろで大人しくしてますよ」
「ああ。それじゃ、行くぜ」
二人はスキルアウトのアジトへ向かった。
建物の切れ目のような狭い路地を進んでいく。
路地を抜けた先には、五階ほどもある高さのビルが聳えていた。
どうやら廃ビルらしく貯水槽などが屋上に取り付けられたままになっているが、それが機能しているかどうかは怪しい。
そしてそのビルこそがスキルアウトの根城であった。

79 名前:じゃあそのまま行くぜ再開[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 15:45:14.33 ID:4hkg6EEB0
「なんだテメエら!風紀委員か?警備員か?よそのスキルアウトか?」
ビルの入口には二人の見張りが居り、翔太郎と上条の姿を見るや否や誰何する。
二人とも揃いのバンダナを頭に巻いている。これがここのスキルアウトのユニフォームなのかもしれない。
「ずいぶん敵が多いらしいな。
 まあ俺達が誰かはどうでもいい。アンタら、こういうモンを持ってるんじゃねえか?」
翔太郎は自分の黒いガイアメモリを見張りの二人に見せる。
見張りのスキルアウトは明らかに動揺した様子で
「な、なんでそれを?」
と思わず聞き返してしまった。
それが翔太郎の問いにイエスと回答するのと同意義であるということには、発言した後に気付いたらしい。
「すっげえ、本当に検索した通りだ……」
上条はフィリップの検索の凄さを改めて感じていた。
今まで散々フィリップに個人情報を言い当てられていたが、こうしてその結果を目の当たりにするまでは半信半疑だったのである。
「アンタらが持ってるガイアメモリと情報を全て渡せ。そうすればアンタらは見逃してやる」
相手がガイアメモリを知っていること、そしてガイアメモリを持っていることは少なからずスキルアウトを怯ませた。
しかし、見張りの二人は翔太郎の提案には従わない。
目の前の翔太郎以上に彼らの背後には恐るべきものがあるのか、あるいは翔太郎を侮ったか。
二人のスキルアウトは答えずに懐からガイアメモリを取り出しスイッチを押すと、首の後ろのコネクタにそれを挿した。
『マスカレイド』
メモリに封じられた記憶の名が、ガイアウィスパーによって告げられる。
二人のスキルアウトは、みるみるうちにその体をマスカレイド・ドーパントへと変身させた。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 15:54:23.72 ID:4hkg6EEB0
「うわわ、これがドーパントってヤツか……!」
存在は知りながらも、その変身を目撃したことがなかった上条は驚嘆する。
「フィリップ、いくぜ」
「ああ、翔太郎」
そして翔太郎はスキルアウトのその行動を予測していたかの如く迅速であった。
『サイクロン』『ジョーカー』
「「変身!」」
二つのメモリの名が、それぞれ離れた場所で鳴り響くと
既に腰に装着されているベルトの片方の挿入口に、どこからともなく緑のガイアメモリが姿を現す。
すかさず翔太郎はもう片方の挿入口にジョーカーのガイアメモリを差し込んだ。
そして可動式のバックルを左右に開くと、その形はさながらアルファベットの『W』の様であった。
襲いかかろうとしたスキルアウトだったが、翔太郎の周囲に発生した突風によってその気勢は削がれる。
その風が収まると、右半身が緑、左半身が黒に色分けされた異形の怪人が姿を現した。
ここで片方のスキルアウト――マスカレイド・ドーパントが怪人“ダブル”へと殴りかかる。
それを難なくいなすと、ダブルはもう片方のドーパントに油断なく視線を送った。
ところがもう片方のドーパントは戦意を見せることなく、アジトへと逃げ込む。
「どうやら仲間に知らせに行ったようだね」
「チッ、こういう事態を想定した上で訓練されてるな!
 敵が多いだけのことはあるぜ!」
今から追ってもどうにもならないと踏んだ二人は、とにかく目の前の敵を倒すことに集中した。
とはいえガイアメモリの中でも最も安価なマスカレイドのド―パントでは、
いくら元がアスリート並に鍛えた無能力者であろうと怪人“ダブル”の敵ではなかった。
大振りな攻撃を素早くかわして腕を捻り上げる。
異形の力を手に入れたドーパントでも、人の形である以上間接を極められれば動けなくなる。
マスカレイド・ドーパントは何とか拘束から逃れようともがくが、痛みを自ら招くだけだった。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 16:04:11.94 ID:4hkg6EEB0
「上条、ここでお前の出番だぜ」
「お、おう」
「彼のコネクタは首の後ろだ。
 さあ、幻想殺しを見舞ってくれたまえ」
見舞うとは言え、右手で触れるだけで幻想殺しは発動する。
上条は動けなくなったマスカレイド・ドーパントの首筋に右手を触れてみた。
「グッ!」
途端に、うめき声を上げるマスカレイド・ドーパント。
その姿は瞬く間に元のスキルアウトに戻っていた。
コネクタから排出されたガイアメモリが、ぱきりと音を立てて砕ける。
「ぐ、ぐわあああああああああ……あ、あれ?」
うめきに続けて悲鳴を上げたかと思うと、間抜けな声を出すスキルアウト。
なんだか忙しいヤツだ、とダブルと上条はあきれ顔を見合わせた。
「おかしい……ふ、副作用が無いぞ……」
スキルアウトの男は、自分の身に起こった事に疑問を覚えているらしい。
「ふうむ。どうやら幻想殺しでメモリブレイクすれば、能力者がガイアメモリを使ったことによって生じる副作用も消してしまえるらしい」
「マジかよ、便利な右手だぜ。
 んじゃここからは今の要領で上条にメモリブレイクしてもらうか。
 相手が多いとちょっと面倒だけどな」
話す間にもダブルはスキルアウトに当て身を食らわせ意識を奪うと、次にスキルアウト自身のベルトを引きぬいて腕を縛った。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 16:12:17.80 ID:4hkg6EEB0
「それはいいとして、急がないと!
 スキルアウト達に逃げられるって!」
「いや、大丈夫だ。
 検索してみたところそのアジトは袋小路で出口は一つしかない。
 戦略的観点からはもう少しマシな場所をアジトにしろと忠告したいけど、今回は好都合だね」
「だが敵さんの方から出てくるつもりは無いみたいだ。踏み込むぜ」
拘束したスキルアウトをその場に転がすと怪人“W”が先陣となってスキルアウトのアジトへ踏み入った。
上条はその数歩後に従う。
一本道をゆっくりと進んでいくが、拍子抜けするほど敵は現れなかった。
「もしかしたら、ガイアメモリを使って起こしたっていう例の事件で戦力が激減しているのかもしれねえな」
「あ、そっか。ガイアメモリの副作用もあって重傷者多数って言ってたっけ」
「そこで出ちまった被害はどうにもならねえが、これからの被害はどうにか最小限に抑えられそうじゃねえか?
 予想以上に上条の右手の幻想殺しってヤツも役に立ってくれそうだしよ」
「そうだな!」
「後はスキルアウトからガイアメモリを配った人間の素性を聞き出して、
 その犯人を迅速に捕まえれば被害は最小限に食い止めたと言えるんじゃないかい」
「よっしゃ、それじゃここはさっさと片付けちまうか!」
意気揚々と、二人が歩みを速めようとした矢先。
灼熱の猛火がWの行く手を塞いだ。
「あぶねえ上条!」
「うわっち!」
Wが上条を突き飛ばし、自らも炎を避けて飛び退く。
上条は思わず尻餅をついたが、幸いにして炎に触れることは無かった。
「この炎、見覚えがある……マグマ・ドーパントの溶岩だ!」
「昨日の神父と言い、どうも炎に縁があるらしいな!」
フィリップの言葉の通りに、マグマのガイアメモリによって変身したマグマ・ドーパントが火影の向こうに姿を現した。

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 16:20:10.18 ID:4hkg6EEB0
「キサマら、何者だ!
 ガイアメモリの事を知っているらしいな!」
マグマ・ドーパントは三名のマスカレイド・ドーパントを従えていた。
どうやらマグマ・ドーパントがこのスキルアウトの集団のボスらしい。
「マグマ・ドーパントはその名の通り溶岩の記憶で変身したドーパントだ。
 その体は常に高熱を発している。生身で近付けば大火傷しかねない。」
「幻想殺しは使えないってことか……」
「それじゃあマグマ・ドーパントに変身したスキルアウトは?」
「僕達のマキシマムドライブでメモリブレイクすれば、
 どの程度かは分からないがガイアメモリの副作用に襲われるだろう。
 強力なメモリを使うほど副作用が強くなる可能性は考えられる。
 マスカレイドメモリを使ったスキルアウトが重傷を負ったのだから、最悪の場合は……」
「こりゃあ風都のマグマ・ドーパントより厄介だぜ……」
「……ならば、交渉を試みよう。
 戦闘を行わなくてもガイアメモリと情報が手に入れば問題ない」
フィリップの提案に、翔太郎と上条も同意した。その時、
「何者だって聞いてんだ!」
誰何に返答することなく話し合っていた三人に業を煮やしたマグマ・ドーパントが怒鳴るように再び問い質した。

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 16:29:58.26 ID:4hkg6EEB0
翔太郎と上条はフィリップにこの場の返答を任せる。
「僕達はガイアメモリの事件を追っている探偵だ。
 キミ達がガイアメモリを入手したと知ってここへ来たのさ。
 キミ達は実際にガイアメモリを使ってみたようだが、どうだい?
 副作用の強さが予想以上で、持て余しているんだろう?」
「……」
フィリップの言葉が的を射ていたのか、スキルアウト達は押し黙った。
話を聞くつもりは有るらしい。
「僕達がガイアメモリを使ったので、キミ達も副作用は覚悟の上でそのガイアメモリを使ったのだろう?
 だが僕達にはガイアメモリの副作用は無い。副作用を無くす手段を持っているからね。
 キミ達が僕達との取引に応じるならば、その手法をキミに施して副作用を無くしてあげよう。
 どうだい?」
「……取引の内容は?」
「キミ達のガイアメモリの出所を喋ってもらおう」
マスカレイド・ド―パント達はうろたえた様子でお互い顔を見合わせた。
その中でマグマ・ドーパントはダブルを見据えたまま考えている。
暫く考えてから彼は答えた。
「……あんたらに副作用が無いってところを見ないと信じられねえな。
 変身を解除して実際に見せてもらおうか」
「……いいだろう」
ダブルの手がダブルドライバーを閉じると変身が解かれ、異形の怪人ダブルから左翔太郎へと姿が変わる。
「どうだ?これで信用出来たか?」
元の姿に戻った翔太郎が、フィリップの交渉を引き継いだ。
ダブルドライバーは装着しているので感覚は繋がっているが、フィリップが言葉を届けるには翔太郎を介するしかない。
「ああ……副作用が無いのは本当らしいな」

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 16:38:12.26 ID:4hkg6EEB0
「嘘は言わねえさ。
 信用出来たなら、情報を喋ってもらおうか?」
「ああ、信じたよ……」
そう言った途端、マグマ・ドーパントは翔太郎と上条へ向けて再び高熱の溶岩を投げつけた。
不意を打たれた翔太郎には、それを避けるだけの時間が無かった。
「うっ!」
「危ない、左!」
翔太郎と溶岩の間に割って入る上条の右手、幻想殺し。
溶岩は熱とともに霧散した。
「助かったぜ上条。
 おい!何てことしやがる!」
「副作用を無くす手段が有るってことは信じたが、てめえらがそれを俺達に使う部分は信じられないんでな!
 だったらてめえらを倒して奪うのが確実ってもんだろうが!」
「なるほど!なかなか合理的な考え方だ」
「感心してる場合か、フィリップ!もう一回変身だ!
 ……うおっと!」
マグマ・ドーパントから発される熱量が大きくなる。
大量のマグマを生み出し、上条の右手でも防ぎえない攻撃を繰り出すつもりのようだ。
これでは変身する隙もなくやられてしまう。
「こいつはやべえ!上条、一旦退くぞ!」
「お、おう!」
三十六計逃げるに如かず、と判断した翔太郎は上条とともに脱兎の如く逃げ出した。
「待ちやがれ!」
マグマ・ドーパントが発した溶岩を背後に感じながら、二人はアジトから飛び出した。

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 16:49:20.19 ID:4hkg6EEB0
そのアジトの周辺はスキルアウトが選ぶ立地だけあり、入り組んだ路地が身を隠すのには適している。
「何処へ行きやがった!
 おい、お前ら探せ!」
暫く身を隠していると、配下のマスカレイド・ドーパントに怒鳴りつけるマグマ・ドーパントの声が聞こえた。
どうやらスキルアウト達は二人を見失ったらしい。
二人は路地の陰で一息ついた。
「ちくしょう、不意打ちとは汚ねえ真似をしやがる」
「油断をするからだよ、翔太郎。
 相変わらずキミは『半熟(ハーフボイルド)』だね」
「……」
直接頭に伝わってくるフィリップの言葉に反論も出来ず、翔太郎は口をつぐんだ。
「左、これからどうするんだ?
 スキルアウト達は交渉に応じる気はないみたいだけど……」
「僕はマキシマムドライブでメモリブレイクすることを提案するよ」
「いや、それは……」
「ガイアメモリの情報を手に入れるついでに、配布されたガイアメモリを破壊するためにここに来たけど、
 彼らがダメならば以前の事件で負傷したスキルアウトから聞き出せば良いんだ。
 そう考えれば、マキシマムドライブでメモリブレイクしても構わないんじゃないかい?」
フィリップの声は上条には伝わらない。翔太郎の独り言に怪訝顔の上条にフィリップの言葉を教えた。
「それはダメだ!
 だって、そうしたらあのスキルアウト達は死ぬかもしれないんだろ!?」
「……『半熟(ハーフボイルド)』が二人に増えた」
上条の台詞を翔太郎の耳越しに聞いたフィリップは、ため息混じりに呟く。

89 名前:フィリップの防衛本能で閲覧不可になってるっつーことで[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 17:00:27.05 ID:4hkg6EEB0
「上条の言うとおりだ。俺達はここから先一人たりともガイアメモリの被害者は出しちゃいけねえ」
「僕達を騙して不意打ちをしてくるような悪党でも、かい?」
「……ああ。たとえどんな悪党でも、だ。
 そうだろ依頼人?」
翔太郎がそう尋ねると、少しのためらいもなく上条は首肯した。
「だがマグマ・ドーパントに幻想殺しを叩きこむつもりなら、命を賭けることになるのは上条当麻だ。
 それは理解しているのかい?」
「上条、幻想殺しをヤツに叩きこむのは命懸けになる。
 それでもやるか?」
「やる」
即答である。
「やれやれ。
 『半熟(ハーフボイルド)』を二人合わせても『固ゆで(ハードボイルド)』にはならないということかな。
 ひとつ勉強になったよ」
「俺達が上条を守りゃ良いんだよ。
 フィリップ、何か上手い作戦を考えようぜ」
「仕方ないね」
呆れながらもフィリップはある程度予想済みだったらしく、一つの策を提案した。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 17:10:05.21 ID:4hkg6EEB0
しばらく逃走者を捜すも見つからず、マグマ・ドーパントに変身したままのスキルアウトのボスは
二人組の捜索を部下のマスカレイド・ドーパントに任せてアジトの入口まで戻ってきていた。
そこにはアジトを飛び出す時と変わらず、寝こけているスキルアウトの一人が居る。
寝返りでもうったのか、その寝姿は仰向けからうつ伏せになっており、ベルトを引き抜かれたズボンは先程以上にずり下がっていた。
「チッ、この野郎いつまで寝てやがる!」
マグマ・ドーパントが苛立ち紛れにそのスキルアウトを蹴って起こしてやろうとした、その時である。
「おいおい、そいつぁさっき俺達がきっつーいお灸をすえてやったんで、まだ疲れてんだ。
 寝かしといてやんなよ」
背後から彼に声をかける者があった。
振り返ったマスカレイド・ドーパントは怪人“ダブル”をその目に捉えた。
「てめえら……俺の部下が捜していたのに……」
「全員向こうでお寝んねしてるぜ。人数も少ないのにバラけたのは失敗だったな」
「ちっ……」
マグマ・ドーパントが苦々しげにダブルを睨む。
そして彼は二つの事に気付いた。
一つは二人組ではないこと。
「おい、もう一人の野郎はどこへ行った!」
「眠ってるアンタの部下を運んでるぜ。見張りやすいように一か所にまとめてんのさ」
「ふん……」
その言葉を信じたわけではないが、周囲を見渡す限りもう一人は居ない。その気配も無い。
実はマグマ・ドーパントに変身した彼の能力はレベル0の“能力追跡”であった。
レベル0だけに、相手の位置を明確に探れるほどの力は無いが、少々勘が鋭く気配を探ることができる。
彼は自身のその勘から、ここに他の人間は居ない、と判断した。
そして、彼がもう一つ気付いたこと。
それはダブルの左半身の色が、先程の黒から青へと変化していることだった。
ダブルが、これまた先程はどこにも持っていなかった銃をマグマ・ドーパントへ向けて構える。
「さあ、アンタもお寝んねの時間だぜ!」
銃口から弾丸が発射される。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 17:18:29.83 ID:4hkg6EEB0
「ちっ!」
マグマ・ドーパントも溶岩の弾を飛ばし、それに応戦する。
その勢いはほぼ互角。
互いの弾丸を、体に到達する前に撃ち落とし合う。
このままでは埒が明かない。ダブルはそう踏んだのか一瞬射撃を止め、素早い動きで溶岩弾をかわした。
「大技で勝負させてもらうぜ!」
言うと、腰のバックルから緑のガイアメモリを抜き、黄色のガイアメモリを再びバックルへ挿す。
『ルナ』『トリガー』
ガイアウィスパーが告げると、今度は右半身が黄色に変わった。
「なんだ!?また色が変わりやがった!」
攻撃の手は緩めず、しかしマグマ・ドーパントは驚愕の声を上げた。
さらにダブルは、青のガイアメモリを抜く。
また色が変わるのかと、マグマ・ドーパントは一瞬身構えたが、そうではなかった。
青のガイアメモリを、自身の銃のスロットへと挿し込む。
『マキシマムドライブ』
ガイアウィスパーが、大技の到来を告げた。
「行くぜ!」
マグマ・ドーパントは、その勘の鋭さからダブルのエネルギーの高まりを感じとっていた。
宣言通りの大技が来る。
その予感から、溶岩弾を小出しにするのをやめ、最大火力の一撃での勝負に転じることにした。
自分の中の熱量を、全て目の前の怪人へとぶつける。
そのためのエネルギーを溜めこんだ。
必殺技は、ダブルが先に放った。
「「トリガーフルバースト!」」

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 17:27:54.85 ID:4hkg6EEB0
二重の掛け声とともに、一つの銃口から無数の光弾が発射される。
弾丸が高速でマグマ・ドーパントへ迫った。
「チィッ」
先手を取られた。だが、まだ間に合う、押し返せる……マグマ・ドーパントは焦りの中でそう考える。
そして遅れながらも溜めこんだエネルギーを、正に放とうとしたその瞬間だった。
ダブルが放った弾丸が急激に大きく軌道を変え、上空へと飛び去った。
「なっ……!」
呆気にとられ、溜めこんだエネルギーを放つことも忘れ、その弾丸の行方を目で追う。
そして弾丸は、狙い違わず標的に直撃した。
辺りに大きな破裂音が響く。
「な、何だ!?」
マグマ・ドーパントが疑問の声を上げた次の瞬間、ビルの屋上から大量の水が降ってきた。
「水!?」
ダブルの弾丸の標的はマグマ・ドーパントではなく、ビルの屋上に取り付けられた貯水槽だったのである。
弾丸によって空けられた大きな穴から溢れだした水は、思考の裏をかかれたマグマ・ドーパントに避けきれる量ではなかった。
マグマ・ドーパントの溜めこんだ熱量は、大量の冷水によって一時的にかき消えた。
周辺に水蒸気が立ち込める。
「ちっ!水で冷やしたぐらいでは、俺の炎は消えねえ!
 すぐにお前を燃やせるくらい熱くなる!」
再び全身に熱を纏おうとするマグマ・ドーパント。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 17:37:05.30 ID:4hkg6EEB0
彼が次に耳にした声は、背後から聞こえた。
「ああ、一瞬冷えれば良いんだよ」
「何ぃ!?」
振り返る暇もなく、何者かが彼の首の裏に触れた。
「ぐわあっ!」
うめき声を上げて倒れるマグマ・ドーパント。
その首からガイアメモリが排出され、彼はスキルアウトの姿に戻った。
そして、ようやく振り返る事ができたスキルアウトのボスが目にしたのは、
入口で倒れていたスキルアウトの服を着て仁王立ちする上条当麻の姿だった。
ズボンが足元までずり落ち、トランクスを風になびかせ仁王立ちする、上条当麻の姿だった。
「よっしゃ、上手く行ったな。
 おっと、動くなよ。この状態で俺達から逃げ切れるとは、勿論思わねえよな?」
ダブルがスキルアウトのボスの動きを牽制する。
ボスはとうとう、観念したようにその場に座り込んだ。
「完璧だ。僕としてはこのスキルアウトがバンダナをしていたため、上条当麻のウニ頭を隠せたのが大きな勝因だと思うよ」
「えーと、お二人さん?上条さんはそろそろ着替えてもよろしいでせうか?
 流石に下着まで他人の着てた物をはいてるのは、アウェー感が尋常じゃないんですが」
「すまんすまん。もう大丈夫だから着替えていいぜ」
翔太郎の許しを得て、上条が物陰に隠れる。
そこに気絶したスキルアウトと、上条の着ていた服が隠してあった。

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 17:43:48.29 ID:4hkg6EEB0
今回、翔太郎達の立てた作戦の内容は
アジトに先回りして気絶した見張りのスキルアウトの服を奪った上条がスキルアウトになりすまし、
背後から幻想殺しをマグマ・ドーパントに見舞う、というものであった。
その作戦を成功させるには、マグマ・ドーパントの発する熱を冷却することと、マグマ・ドーパントの注意をダブルに引き付けることが必要だった。
前者の解決には、ビルの屋上に取り付けられた貯水槽の水を使うことにした。
フィリップが翔太郎の視線を介して貯水槽を見たことを覚えていたので調べてみたところ、
使われなくなって久しい様子だったが十分な量の水を貯えて居ることが分かった。
そして後者。いかにしてマグマ・ドーパントの注意をダブルに引き付けるかということには
ガイアメモリを挿し換えるハーフチェンジによるボディカラーの変更や、それに伴う戦闘スタイルの変化を用いた。
ガイアメモリの強さと、変身能力を知っているマグマ・ドーパントならばこそ、それによって起こる現象にはより注意深くなるだろうと推測したのだ。
そして思惑通り、スキルアウトのボスはダブルの一挙手一投足に全神経を注いでくれた、というわけである。
翔太郎と上条を捜していたマスカレイド・ド―パント達に関しては翔太郎の言葉通り、一人ずつ順番に幻想殺しでメモリブレイクして拘束しておいた。
それも対マグマ・ドーパント用の作戦に集中するためである。
「さあて、そろそろ喋ってもらおうか。
 アンタらの持ってる情報をよ」
ダブルが座り込んだボスにずい、と迫る。

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 17:52:37.39 ID:4hkg6EEB0
折りよく、着替えを終えた上条も元の学生服姿で戻ってきた。
「アンタらにガイアメモリを渡したのはどこのどいつだ?
 まずはそこから聞きてえな」
「……い、言えねえ」
「おいおい……断れる状況だと思うか?」
ボスに圧力をかけるように、ダブルが一歩前に出た。
「いっ、言えねえんだ!
 他言無用、言ったら殺すって言われてる!」
その圧力から逃れるように仰け反りながら、ボスが言葉を吐き出す。
嘘ではないらしい。彼は何かに脅えるように震えている。
「なるほど。彼らは秘密厳守を命じられていた。だから僕達を不意打ちで始末しようとしたんだね」
「アンタが俺達に情報を漏らしたことは誰にも言わねえし、
 俺達はガイアメモリをアンタらに配ったやつらをぶっ潰すために戦ってる。
 そいつらを潰しちまえば、アンタには害は及ばねえさ。
 ……ま、アンタらはこの後、風紀委員に突き出すけどな」
「キミ達にガイアメモリを渡した何者かが怖いのならば、その方がかえって安全だろう?」
ボスは考え込んでから答えた。しかしその答えもまた芳しいものではなかった。
「……アンタ達は確かに強かった。
 だけどそれでも、あいつらに勝てるとは思えねえ」
「その“あいつら”って奴等はどれだけ強いんだよ……」
「俺は、学園都市第三位が戦うところを見たことがある……
 『超電磁砲(レールガン)』も大概化け物だったが、ヤツから感じた力はそれ以上だった……」
その脅威を思い出したのか、ボスはより一層体を震わせた。

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 22:19:23.43 ID:Vgubw4N3O
やっぱりWはいいね

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 00:04:28.48 ID:yK2UXtOY0
「キミがそう感じたからといって、それが事実とは限らないんじゃないかい?」
「俺はレベル0とはいえ“能力追跡”の能力者だ……相手の力量くらいは、なんとなく分かる」
「ふうむ……だがそれがガイアメモリによる力であれば、僕達には無力化する手段がある。
 勝算は高いと思うよ」

ダブルがその“無力化する手段”たる上条当麻を見る。
彼は何やら考え込んでいる様子だった。

「上条、どうした?」
「……ああ、さっきこのスキルアウトのガイアメモリを壊したときなんだけどさ、
 一瞬だけその挿入口みたいなのが首筋に見えたんだ」
「ガイアメモリ用の生体コネクタだろうね。
 ガイアメモリが破壊されれば、それに対応したコネクタは消えてしまう。
 今はもう影も形もないだろう。気になっているのはそこかい?」
「いや、つい最近どこかで見たような気がするんだよ」
「なんだって?一体どこで?」
「それが思い出せなくて……もうちょっと時間をくれ」
「分かった、上条はそっちを思い出せ。
 それはかなり重大な手掛かりになる」

ダブルは上条にそう告げると、スキルアウトのボスに向き直る。

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 00:11:15.98 ID:yK2UXtOY0
「よう、この際だから種明かしするが、アンタのガイアメモリをぶっ壊したのはそこの上条の能力だ。
 ヤツが右手で触れればガイアメモリはそれだけで無力化され、壊れちまうってわけだ」
「右手で触れる……だって?それじゃあ、ヤツには到底勝てない……」
「かもな。ところでアンタ今、ガイアメモリの副作用は有るか?」

ボスはそこでハッとした。副作用が無いことにたった今気付いたのだろう。

「な、何でだ?」
「あの右手でメモリを破壊すりゃあ、能力者がガイアメモリを使っても副作用が起こらないのさ。
 さて、今回上条はアンタの高熱の炎の体に飛び込んでいく危険を冒してまでその右手を使った。
 何故だと思う?」

ボスは俯いて考え込んだ。
暫く待っても彼が答えないため、翔太郎がその問題の答えを出す。

「正解は『アンタを助けるため』だ。
 俺達を騙して不意打ちしたアンタでも、命懸けで助けようとしたんだこの上条は。
 そして結局アンタは助かった。この恩に報いなけりゃ、男じゃねえよな?」
「…………ああ」

スキルアウトのボスはとうとう頷いた。
見ず知らずの人間、しかも自分を騙した悪党までも救おうと命を賭けた男が居る。
自分がその男をどう殺すかを考えている間に、自分をどう救うか考えていた男が居る。
その男のおめでたさと、圧倒的な敗北感にスキルアウトの目が思わず熱くなった。

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 00:18:26.30 ID:yK2UXtOY0
「……俺達に、ガイアメモリを渡したヤツは、学園都市の研究者だった」

スキルアウトのボスが、事の真相を訥々と語りだした。

「その男は、俺達を研究所に読んでガイアメモリの説明をした。
 実際に使っても見せた……副作用のことなんか、何も言わなかったんだ。
 部下達が他のスキルアウト同士の喧嘩に使ってみて驚いた……
 確かにそのガイアメモリの力は凄まじかったが……使った後、そいつらが倒れて、返事をしなかった……
 病院へ運びこんだら、医者がガイアメモリを使った全員の体中の組織がボロボロになっていると言われた……」

翔太郎とフィリップはボスの証言を黙ったまま聞いていた。
ボスは尚も続ける。

「俺達はガイアメモリと引き換えに命じられていた、使用後の報告をした。
 すると奴等は、その様子を『見ていた』と言っていた……
 俺達は……怖くなった……
 ガイアメモリはもう使いたくないと言うと、必要なデータは揃ったので別に構わない、と言われた。
 だが、この件は他言無用、誰かに情報を漏らせば俺達を殺す、と……」
「何らかの手段でアンタ達を観察していたのは間違いないだろうな。
 奴ら研究者はそれが目的だ。手段によっては、確かにここで喋ったのはまずい」
「風紀委員に保護してもらえばいいさ」
「やっぱりそれしかねえか」
「それで、研究者の素性は分かるのかい?」
「いや……ヤツは自分の名前は明かさなかった。
 だけど、ヤツの研究所には行ったからその場所は分かる」
「それじゃあ、その場所を教えてくれ!」

その研究所は上条の住む第七学区に近く、ここからは少々距離のある場所であった。

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 00:25:56.70 ID:yK2UXtOY0
「よし、早速そこへ行ってみよう」
「アンタらは、自分達で風紀委員か警備員のところへ行くんだ。
 そこで保護を求めろ。アンタ以外のスキルアウトは、この路地を出た先の道端に転がってるから、解放してやれ」
「あ、ああ……」
「それじゃあ行くとするか」
「ま、待った!」

善は急げとばかりに、研究所へ発とうとしたダブルを、スキルアウトの男が留めた。

「今、もう一つだけ思い出した……
 手掛かりになるかどうか分からないが、あの研究者が持っていたガイアメモリには、
 アルファベットの“A”の文字が書いてあった」
「アルファベットの“A”……一体何のメモリだ?」
「Accel(アクセル)、Arms(アームズ)、Armor(アーマー)……
 色々と考えられるけど……まあ、注意するべきなのは間違いないね」
「上条の幻想殺しが通用しやすいメモリであることを祈るしかないな。
 なあ、上条……上条?」

翔太郎の言葉に、答えない上条。
その無言が気になって、ダブルは上条を見た。
上条の目と口は、驚愕によって大きく開かれている。

「どうした、上条!?」

その様子にただならぬものを感じたダブルが、上条に駆け寄った。
上条はスキルアウトの証言の間にも、ガイアメモリのコネクタをどこで見かけたのか、ずっと考え込んでいたのだ。

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 00:33:53.95 ID:yK2UXtOY0
コネクタの持ち主の名は、最悪の可能性と共に上条の脳裏を過った。
その可能性、確率は、極めて高い。なぜならば余りにも条件が合う。
上条は自宅でのフィリップの言葉を思い出した。

「上条当麻、この学園都市にとって価値の低い能力者……というのは存在するかい?」
「実験である以上は多数の対象に行わなければならない。
 君のような無能力者が大量に確保出来る場所は有るかな?」

『学園都市にとって価値の低い能力者』
『多数の対象』

この二つの条件が、当てはまり、そしてガイアメモリの生体コネクタを持っていた者。
それは

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 00:41:17.88 ID:l4DNiqVw0
なるほど、○○だったのか。頭いいな>>1

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 00:41:47.39 ID:yK2UXtOY0
「御坂妹……!」


愕然とした上条が呟いたその名前には、翔太郎とフィリップにも覚えがあった。

「昨日のお嬢ちゃんが……生体コネクタを……?」
「間違いない……実験は次の段階に進んでいたんだ」
「何だと?」
「昨日話したじゃないか!人体実験の前に動物実験って……
 無能力者集団“スキルアウト”での実験は終わったんだ!
 次は能力者のレベルを高めて実験するはずさ!」
「昨日のお嬢ちゃんは、レベルいくつなんだ?」
「確か御坂妹はレベル3の電気使い……
 しかもある実験用に……殺されるために作られたクローン人間だ……」
「チッ!」

突如浮上した最悪の可能性に、舌打ちが翔太郎の口を衝いて出た。
使い捨てのモルモット。あまりにも条件に合致し過ぎる。

「……そうか。
 そういえば彼女は昨日、『上条当麻に用が有ったのか?』という問いに『そうです』と答えた。
 上条当麻への用というのはもしかしたら」
「……俺に、助けて欲しかった?」

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 00:51:47.95 ID:yK2UXtOY0
上条は、ほとんど反射的に近くの壁を殴っていた。
その衝撃ですりむけた皮膚から血がにじむ。
こんなことをしても意味が無い。そう分かっていながら、
昨日その場で、助けを求めてきた彼女の気持ちに気付けなかった自分への苛立ちが体を突き動かした。
もう一度拳を振り上げる。
しかしその拳は、ダブルの掌で受け止められた。

「自分を責めるな、上条」

幻想殺しに触れ、怪人“ダブル”は左翔太郎の姿に戻っていた。

「あの時、お前はガイアメモリの生体コネクタの存在は知らなかったんだ。
 あの時点では、どうすることも出来ねえ」

「……フィリップに言われてたんだよな、俺。
 注意力不足だ、もっと周りの人を観察しろ、ってさ……
 忠告通りにしていれば、御坂妹の気持に、きっと気付けた」

確かに、とフィリップは思い出していた。

「確かにその旨の忠告はしたが、そういう意図ではないよ、上条当麻」

しかし変身が解かれた今、フィリップの言葉は上条には届いていない。
上条は続ける。

「ちくしょう!こんなことなら、昨日御坂妹の話を聞いてやれば良かった!」

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 00:53:48.98 ID:CFUGtgNU0
おい未琴も心配になる展開じゃねぇのこれ

131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 01:01:21.73 ID:yK2UXtOY0
「……こぼれたミルクはグラスには戻らねえ」
「……え?」
「昨日の事を嘆いても遅えってこった。過去は変えられねえ。
 上条、俺達が考えるべきなのはこれからのことだ」
「これから……」
「そうだ。スキルアウトがガイアメモリで事件を起こしたのが二日前。
 その結果を判断してから、たくさんのお嬢ちゃんを集めてパーティを開くには、それなりの準備と時間が必要になるはずだ。
 まだ間に合う。まだ潰せるぜ。ヤツらの実験をよ」
「……そうか。
 分かった!よし、急ごう!」
「ああ、急いで研究所とやらへ向かうぜ!
 走っていくには遠いが……」
「ま、待った!」

今にも駆け出さんとした翔太郎と上条を、スキルアウトのボスが再び留めた。

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 01:14:57.89 ID:yK2UXtOY0
「またか!?なんだよ、こっちは急いでるんだ!」

翔太郎が苛立ちながらボスに制止の真意を問う。

「急いでいるからこそだ……
 俺達のアジトにバイクが有る。それを使わないか」
「バイク?上条さんは運転免許を持ってないんですが……」
「バイクか!そいつは助かる。
 俺が運転する。上条、お前は後ろに乗れ!」
「左は運転出来るのか?」
「上条、俺達が風都でどう呼ばれているか教えてやる。
 “仮面ライダー”だ」

翔太郎はそう言うと、自信満々の笑みを浮かべた。



133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 01:22:06.20 ID:yK2UXtOY0

「検索を始めよう。キーワードは“御坂妹”」

フィリップは今、再び地球の本棚の中に居る。
御坂妹の情報を少しでも手に入れるためだ。
まずはストレートに御坂妹というキーワードで検索をかけた。

「……随分と減ったな」

フィリップの口から驚きの言葉が漏れる。
一つの人名だけでここまで本の数が減るのは珍しい。

「そうか、上条当麻が言っていた。
 彼女は実験のために大量生産されたクローンだと。
 つまり彼女にはまだ、ほとんど“記憶”がない」

フィリップは上条の言葉から推察し、そう結論づけた。

「その点に置いては僕と似たようなものか」

彼の記憶も、つい最近から始まっている。
彼の外見年齢は十代の半ば程度であり、知識は地球の本棚のために無尽蔵であるが
自身に関する記憶はわずかしか持っていなかった。
フィリップは本の中から一冊を取りだした。
そこには御坂妹、即ち10032号とナンバリングされた彼女に関する記憶が綴られていた。

「誕生と記憶喪失との違いはあるが、
 彼女らもミサカネットワークというものを構築して情報の共有をしているため知識は豊富なようだ。
 その点も僕に少々似ているね」

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 01:30:07.30 ID:yK2UXtOY0
そしてフィリップはついに彼女の存在の根幹となる単語を見つけた。

「“量産型能力者(レディオノイズ)計画”……」

その項目を読み進めていくと、その概要が分かった。

「レベル5の能力者である御坂美琴のDNAからクローンを生産し、レベル5の能力者を量産する計画か。
 しかし生まれたのはレベル3、欠陥電気の御坂妹とその姉妹だった……」

さらに読み進める。

「そして次に彼女達は、絶対能力進化計画に転用された。
 学園都市第一位の能力者、一方通行のレベルを6にシフトさせるために、
 20000人の御坂妹達を20000通りのシチュエーションで殺害する……」

そこまで読み進めて、フィリップは思わず掌で額を覆った。
あまりに常軌を逸した契約内容に、頭痛を催す。

「フィリップ、大丈夫?」

その動作はあくまでも地球の本棚の中でのことで、実際のフィリップは行っていない。
しかし顔色が悪くなってしまったらしく、インデックスが心配げに語りかけてきた。

「……ああ、問題ない。検索を続けよう」

頭痛を無理矢理抑え込み、再び本の頁に指をかける。

「絶対能力進化計画は、上条当麻が一方通行を撃破したことによって凍結された。 ほう、なかなかやるねえ、上条当麻」

ようやく沈んだ気分を晴らしてくれるような情報に出会い、フィリップは微笑を浮かべた。

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 01:38:38.78 ID:yK2UXtOY0
だが、僅かに良くなった気分も次の項目を読み再び最底辺へ沈む。

「次がとうとう今回のガイアメモリ実験か。
 学園都市内の科学者にミュージアムと繋がりのある者が居た。
 そしてガイアメモリの存在を知った彼が、能力者への使用実験を提案したが一般の学生への試用は許可されなかった。
 そこで白羽の矢が立ったのがスキルアウトとミサカシスターズ……
 スキルアウトでの実験の経過次第で、シスターズへの試用が許されることになった」

どうやらスキルアウトでの実験結果は、学園都市側に次の段階への移行を認めさせるのに十分なものだったらしい。
フィリップはまた頭が痛くなってくるのを感じた。

「ガイアメモリ実験の準備としてシスターズへのコネクタ手術が昨日施された。
 この後か、彼女が僕達のところへやって来たのは」

彼女の生体コネクタを見逃したことに関しては、フィリップと翔太郎の責任が大きい。
これを償うには、どうしても彼女達を救う必要がある。

「……うん?」

ガイアメモリ実験に関して読み進めると、気になる記述が有った。

「コネクタ手術を行った際に、小規模な能力の暴走が発生。
 微弱ながら電波の漏出を確認。本人の意思では制御できず……
 どうやらコネクタを埋め込んだだけでも能力者には悪影響が有るようだ。
 これはガイアメモリを実際に使おうものならば、ただでは済まないね」

そこで、フィリップは一つ気付いた。

「もしかしたら、ミサカシスターズの暴走によって漏出した妨害電波こそが、学園都市の通信障害の原因か……?」

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 01:46:17.47 ID:yK2UXtOY0
フィリップの推測は当たっていた。
そして彼は知らない事だが、段階的に通信障害の度合いが強くなっていったのは、
ミサカシスターズが次々とコネクタ手術を受け、暴走する個体が増えた事に起因する。

「彼女が上条当麻に助けを求めようとしたのも、その辺りの理由から危険を感じたせいかもしれない」

それにしても、とフィリップは思う。

「酷く性急な展開だ。
 実験というものは、もう少し結果を精査する時間を要するだろうに……急ぐ理由でもあるんだろうか?」

彼はいくつかの仮説を立てた。

「仮説1。その成否を問わず、早急に結果が欲しい理由がある。
 ……有ったとしてもこの理由は分からないが、恐らくは科学者の政治的な部分だろう。
 仮説2。時間を置くと、実験が失敗する。あるいはその可能性が高まる。
 この場合は単純に時間という要素が実験の結果に絡んでいるという可能性もある。
 だが……」

これはガイアメモリの実験であると同時に、能力者ミサカシスターズの実験である。
そうであれば

「上条当麻の様に、実験を妨害しようとする者が居るから……という可能性の方が高そうだ」

実際に上条は一度、絶対能力進化計画を潰しているのだ。
彼による再びの妨害を恐れたという考え方も出来る。

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 01:53:30.75 ID:yK2UXtOY0
「しかし、上条当麻は学園都市では最底辺のレベル0。
 計画を一度潰した事があるとはいえ、そこまでの警戒をするかな?」

そもそも絶対能力進化計画の凍結に関しては、無能力者に負けた学園都市第一位の実力を疑問視する意見が増えたことが原因になっており、
無能力者(レベル0)に対する侮りが根底にある。

「もしかしたら、僕達以外の妨害者を恐れているのかもしれないな」

所詮は仮説の中から生まれた可能性に過ぎない。
存在も定かではない妨害者に過度の期待を寄せるすべきではない。
それならば目の前の敵に全力で当たった方が勝算は高くなる。
フィリップはそう結論付けると、本を閉じた。

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 02:02:27.99 ID:yK2UXtOY0

「なるほどな。そういう事情が有ったのか」

フィリップの声はダブルドライバーで感覚の繋がった翔太郎の耳にも届く。
スキルアウトに譲られたバイクを飛ばしながらも翔太郎は、相棒が語る御坂妹の事情の理解に努めていた。

「実験のために生まれ、転用、また転用。資源の無駄を減らしてエコロジーか?
 吐き気がするぜ」

御坂妹と呼ばれる彼女を取り巻く環境を思えば、彼もフィリップと同じように頭が痛むのを感じる。
そしてその頭痛の理由が何であるか、人生経験の浅い相棒よりも良く知っていた。

それは、怒りと呼ばれる感情だ。

彼女の境遇や、そうなるように仕向けた者に対する怒り。
そういった感情が強過ぎる時、人は頭が痛くなるものだ。
バイクの運転中のために掌で頭を覆うことも出来ない翔太郎は、何かを噛み潰すように顎に力を入れた。
ぎりり、と奥歯がこすれて音を立てたが、バイクのエンジン音にかき消されたか、翔太郎本人ですらそれに気付かなかった。

「妨害者ってのが居るなら、この頭痛に共感出来る相手であることを祈るぜ、まったくよ」

翔太郎は心の底からそう思う。
だが結論はフィリップと同じ、居るかどうか分からない妨害者とやらを当てには出来ない、ということだった。
自分達の持つ全力で相手に当たる。そしてガイアメモリ実験を阻止する。そのために一刻も早く研究所へ。
彼らの暗い気持ちに呼応するかのように、空はいつしか分厚い雨雲で覆われていた。
夕立が来るかもしれない。彼はバイクの速度をさらに速めた。

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 02:10:34.12 ID:yK2UXtOY0
二人は目的の研究所へと到達した。
正面からの接近は避け、物陰から裏の出入り口を窺っている。
裏口には監視カメラが有るのみで、人は居ない。
そのカメラに死角はなく、堂々と入っていくにせよカメラを破壊するにせよ、監視室には異常を知らせることになる。
とはいえ、正面から入るよりは遥かにマシなのは確かだった。

「……仕方ねえ、カメラを壊して入るぜ。
 姿が映れば侵入が即座にバレるが、カメラが壊れれば故障だと勘違いしてくれるかもしれねえからな」

翔太郎の決定に、上条も従った。
翔太郎の手から放たれたスタッグフォンがカメラにぶつかって破壊したのを確認すると、二人は駆け出した。
極力音を立てないように侵入する。
幸いにも、入った途端に研究所の所員に見つかるというような事態にはならなかった。
裏口から繋がる通路には省電力のためか非常灯しか灯っておらず、不気味な薄暗さと静けさが辺りを包んでいる。
二人は人気も足音もない一本道を進んでいく。
何度か曲がり角を曲がり、進んでいくとその先に鉄製の扉が有った。
その隙間からは明かりが漏れている。
しかしその隙間は細く、そこから中の様子を窺うことは出来なかった。

142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 02:18:35.45 ID:yK2UXtOY0
「左、どうする……?」
「……まあ、この際行くしかねえな。俺達に迷ってる時間はねえ」

決心し、翔太郎がノブに手をかけようとしたその時だった。
蝶番が軋み、ドアが部屋の内側へと開く。
ドアを開けたのは翔太郎ではない。
部屋の中に居た誰かだ。
部屋のどこかに隠れているのか、その姿はドアの外からは見えない。

「待っていたよ。入りたまえ」

そして部屋の中の男は、侵入者の存在をすでに知っていた。
となれば、迎撃の準備は整っていると考えなければならない。
二人は自分達が取るべき行動を再び思案した。

「入らないのかね? ……仮面ライダー」

再び部屋の中から男の声が二人を誘う。
その言葉を聞いて、翔太郎の表情が一層険しくなる。
言葉から察するに中の男は翔太郎が仮面ライダーである事を知っている。
少なくとも、風都の事情を知っていることになる。
恐らくは翔太郎の敵対組織『ミュージアム』との関わりが有る人間だ。

「罠なのは疑いねえな。
 上条!こうなったらここでひと暴れして、力づくでこの計画をぶっ壊すぞ!」
「おう!」

二人は腹をくくった。

144 名前:>>143IDがファングジョーカーだと…[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 02:25:15.16 ID:yK2UXtOY0
そして翔太郎がガイアメモリを取りだそうとしたのと、まさに同時だった。
二人の背中に何か冷たいものが押しつけられた。
その感触は堅く、金属製であることが背中からも伝わってくる。

「おっと、おかしな真似はしないように。
 我々の銃口は既にキミ達を捉えているぞ」

いつの間に、どこから湧いたのか。
白衣姿の男達が数人、それぞれの手に銃を携えて二人の後ろに立っていた。
これでは二人が動く間もなく撃ち殺されてしまう。
翔太郎と上条は、悔しげに両手を上げた。

「正しい判断だ。では入り給え」

それでも入室を躊躇う二人の背を、背後の研究者達が銃口で小突く。
二人はつんのめるようにして、入室を果たした。
それに応じて部屋の中の大きな背もたれつきの椅子がくるりと180度回転する。
背もたれに隠れていた声の主が姿を現した。
初老の男だ。痩身に白衣を纏い、口元には笑みを浮かべている。
その態度からも、この研究所で高い地位を誇る人物であろうということが予想できる。
ミュージアムとの関わりが有るということから、面識のある人間かとも疑っていたが、翔太郎の懸念は骨折り損であった。
上条の方にも見覚えのある人間ではないらしい。
だというのに相手は自分達を知っている。どこかで自分達の情報を得たのは間違いない。

146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 02:29:28.78 ID:yK2UXtOY0
「アンタ、何で仮面ライダーを知ってるんだ?」

翔太郎は、単刀直入に尋ねてみた。

「ミュージアムの取引相手からの依頼でねえ。
 組織に盾突く不届き者を捕えてほしいとは取引の際にも言われていたのだよ。
 今日になって例のスキルアウト達がガイアメモリを使用した反応が有ったので見てみれば、
 何ぞ図らん、まさに仮面ライダーが戦っていたというワケだ。
 まさか風都から遥々この学園都市までやってきてくれるとは思ってもいなかったがね」

自身の絶対的優位を確信しているためか白衣の男は笑みを絶やさぬまま、説明する口振りも軽やかだった。
この男がスキルアウトの言っていた“A”のガイアメモリの使い手である可能性もある。
その一挙手一投足への警戒も怠らずに、さらに質問を重ねた。

「見てみた……だと?」
「種明かしをすればつまらない話だが、
 コネクタを彼らに取り付ける際に一緒に小型カメラと盗聴器を彼らの体に取り付けさせてもらったのだよ」
「んな馬鹿な!いくらなんでも気付くだろ!」
「学園都市の科学力を侮らないでもらいたいね。
 超小型の機械だから、彼らが気付いたとしても軽い違和感程度のものだろうよ」

そう、ここは科学の街、学園都市なのだ。
翔太郎は街中で度々見かけたハイテクを思い出す
その科学力は、風都の中でも進んだテクノロジーを駆使する翔太郎やフィリップから見ても異常であった。

「……まあ、そうして君達の会話からここへ来るだろうという事が分かっていたので
 歓迎の準備も万端整ってゲストの来場を待っていたというわけだ」

そうとも知らず二人は奇襲をかけてシスターズを助けるために、研究所へのこのこ侵入してきたのだ。
そもそもこの殴りこみは、最初から失敗だったということだ。

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 02:38:07.35 ID:yK2UXtOY0
「しかし残念ながら主賓はまだ到着していないようだ」
「主賓だと?」
「そうとも。ミュージアムが捕えたいのは君ではなく、もう一人の方だというではないか。 彼は君を人質にすればやってくるだろう?
 我々は後は待っているだけでいいのだよ。『実験』でもしながらね」
「ふざけるな!」

それまで銃を突きつけられて大人しくしていた上条だったが、その言葉には激昂した。

「上条……!」

翔太郎の制止も聞かず、上条は叫ぶ。

「そんな実験、今すぐにやめろ!
 望んでも居ない人に無理矢理人体実験なんて……許される訳無いだろ!」
「……」

白衣の男はその叫びに答えず、冷やかな視線で上条を見た。
そこから背後の男達に視線を移すと、その目の動きでもって何かの合図をした。

「ぐはっ!」
「上条!」

上条が呻き、地に伏す。
背後の男の一人が、拳銃のグリップで上条の頭部を殴打したのだ。
さらに男は銃口を倒れた上条の背中に向けた。

「おいやめろ!」

翔太郎が男に叫んだが、男は躊躇わず引き金を引いた。

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 02:45:24.43 ID:yK2UXtOY0
音もなく飛び出した弾丸が、上条の背中を襲う。

「上条ッ!!」
「麻酔銃だ。一時間ほど眠っていろ。 呆れた愚か者だが、殺しはしない。
 人質の数は多い方がいいからな」

白衣の男は冷たく言い放つ。
射殺されることは無かったが、上条はそのまま後ろ手に縛りあげられてしまった。
翔太郎も同様に自由を奪われる。
そして白衣の男は、翔太郎へ要求した。

「さて、君の相棒をここへ呼び給え。 あるいは彼の居場所を言うのでもいいぞ。
 そうすれば君は解放してあげよう」
「……相棒を売るような真似が出来るかよ」
「この状況で強情を張るのは、褒められた行為ではないと思うがね。
 ミュージアムに頼まれているのは君の相棒の身柄だ。 君を無傷で返してやる義理はないのだよ」
「……」

露骨な脅迫を受けてもなお、翔太郎は白衣の男を黙って睨みつけていた。

「我々はあまり気が長い方ではないのでね、君の気が早く変わるように少し手伝ってやろう」

その言葉で翔太郎への拷問は始まった。

149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 02:52:34.03 ID:yK2UXtOY0
倒れた翔太郎を殴る、蹴る。
白衣の男はその暴行を無感情な目で見下ろしていた。
翔太郎は口を割らない。一方的な暴力はさらにその苛烈さを増す。
その惨状が繰り広げられている部屋に、新たに一人の研究所員がやってきた。

「所長、実験の準備が整いました」
「そうか、では行こう。
 ああ、それと彼も呼んでおくように。 例の男を引き渡すからな。
 ……ではゲストのお二人、私は失礼するよ。 これから大事な仕事があるのでね。
 気が変わったら呼んでくれたまえ」
所長は事務的に告げると、二人を顧みることもなくその部屋を後にした。

150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 03:01:16.47 ID:yK2UXtOY0
プツリと切れた意識の糸が、突然繋がったように上条は跳ね起きた。
正確には跳ね起きようとしたが、両手が自由に動かずそれは叶わなかった。
痺れるような感覚が残る体を無理矢理動かし、うつ伏せのまま顔だけ上げて辺りを見ると
記憶が途切れる直前に居た部屋とは違う場所に寝かされていることが分かった。
やけに狭く、薄暗い。様々に混じり合った薬品の臭いが鼻をつく。

「……よお、起きたか上条」

自分を呼ぶ声がして振り向くと、そこには傷と痣だらけになった翔太郎が仰向けに倒れていた。
彼もまた上条と同じように縛られている。

「左!一体どうしたんだ!?ここはどこだ!?実験はどうなった!?」
「……取り敢えず一つずつ答えるぜ」

口の中に傷が出来ているらしく、喋るとそれが痛んだ。
しかしそれを気にしていられるほど時間と余裕は無い。

151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 03:08:24.88 ID:yK2UXtOY0
「俺達は罠にかかって捕まった。 ヤツらは俺達を人質にフィリップを誘き出してミュージアムに引き渡すつもりらしい。
 フィリップを呼ぶように言われたが、断ったらこのザマだ。
 んで、殴り疲れたヤツらは俺達を物置に押し込んで休憩中ってわけだ。
 それで、実験のことなんだが……」
「そうだ! アイツら、もう実験は始められるようなこと言ってたろ!
 まさか、もう行われちまったのか!?」
「上条、お前が寝ちまってから大体4、50分ってとこだが、実験はまだ行われてないみてえだ。
 ヤツら、何か慌ててやがる。 しかもさっきから……」

突如として建物が揺れ、翔太郎の言葉が途切れる。
その揺れは地震とは違う、例えば工事現場で感じるような細かい震動だ。
おまけに、遠くから何かの爆発するような音まで聞こえてきた。

「……この様子だ」
「外で一体何が起こってるんだ?」
「今から実験室を建ててる、なんてワケはねえよな」

152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 03:14:12.98 ID:yK2UXtOY0
研究所の職員が外で何かを叫ぶのが聞こえてくる。
その叫びの中に、気になる言葉があった。

「『ヤツが来た』……?」
「確かにそんなことを言っていたな」
「ヤツ……って、まさかフィリップとか?」
「フィリップが大暴れしてるってんなら、俺の意識は無くなるんだよ。
 そもそも俺は今ダブルドライバーでフィリップと感覚が繋がってる。
 フィリップの動向は分かるが、“ヤツ”はアイツじゃねえ」

そこで、翔太郎は思い当たった。

「そうだ!フィリップが言っていた。
 今回のこの実験には、俺達以外にも妨害者が居る可能性が有るってな!
 もしかしたら、その妨害者が今暴れ回ってんじゃねえのか?」
「俺達以外にも妨害者が!?」

妨害者の存在を、上条は今初めて知った。
絶望的な状況の中にも、僅かに希望の光が見えた。

「後はその妨害者が、俺達と利害の一致する相手なら良いんだけどな」

翔太郎は痛む体に力を込め、何とか上半身を起こしてその場に座る。
そして傷だらけの顔を上条に向けて言った。

「上条、これからのために一つ頼んどきてえことがある」

154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 03:19:36.73 ID:yK2UXtOY0

「フィリップ、大丈夫?」
「ああ、なんとかね」

つい先程、突然倒れて苦しみだしたフィリップを、インデックスは心配げに見つめた。

「まだ体は痛むけど、大丈夫だよ」

その痛みは、即ち翔太郎が受けた体の痛みだった。
苛烈な尋問によって受けた体の痛みを、ダブルドライバーによって共有してしまったのだ。
相棒が口を割らなかった事は非常に評価しているけれども、正直なところ自分まで文字通りに痛みを分かち合うくらいならば
全然情報を漏らしてくれても構わなかったのだが、どうしても譲れない部分だったらしい。
フィリップには翔太郎のそういう行動の原理が未だ理解できない。

「ハードボイルドを気取るのも楽ではないねえ」
「えっ?何?」
「何でもない。 それよりも、着いたよインデックス。
 ここが翔太郎と上条当麻が囚われている研究所だ」

実は翔太郎が呼ぶまでもなく、フィリップとインデックスは研究所へ向かっていたのだ。
より正確には、全力で敵に当たると決めた時からフィリップは研究所へと向かっていた。
二人で一人の探偵には、検索以外にもフィリップでないと出来ないことがもう一つ有る。
そのために、彼はここまで来た。

155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 03:28:16.49 ID:yK2UXtOY0
「翔太郎達が奇襲に失敗して敵も油断しているだろうから、
 もう一度、今度は僕が奇襲をかけてやろうと思ったんだけどね」
「……なんだかそれどころじゃないみたいだよ」

インデックスの言葉に、フィリップは頷いた。
二人は今、研究所の正面に立っている。
その位置からエントランスが見えるのだが、そこはまるで廃墟のように破壊されていた。
さっきまでここで戦車がドンパチやっていたと言われても信じられるほど、目を覆うような惨状。
倒れて動かない研究所員らしき白衣の男が何人かそこに転がっていて、研究所の壁には亀裂が走り所々焼け焦げている。
研究所の中からは、要領を得ない叫び声が時々聞こえてきた。

「何やらお取り込み中のようだね。お邪魔だろうから、目的だけ果たして早く帰る事にしようか」

研究所がこの惨状だとしても、実験そのものが停止したわけではない。
目的を果たすには、迅速であるべきだ。
フィリップはインデックスにそう言った。

「そんなことはない。我々の主賓は君なのだから、ゆっくりしていくがいい」

しかしその時、フィリップの言葉に答える声が、インデックス以外に現れた。

「キミは……ミュージアムのバイヤーかい?
 園崎霧彦の同僚か何かかな」

声の主を振り向くと、そこにはスーツ姿の男が立っていた。
銃を携帯した白衣の男を四人従えている。
彼らはミュージアムの協力者らしい。

156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 03:36:34.48 ID:yK2UXtOY0
「そうだ。 所長から君を引き取りに来るように呼ばれて来たところ、ちょうど君の到着に鉢合わせたというわけだ」

スーツの男が白衣の男達に合図するように片手を上げると、四つの銃口がフィリップに向けられた。

「それはタイミングが悪い時に来たね」
「大人しく我々に投降しろ。 さもなければ撃つ」

男達の構える銃を見ると、上条を撃ったものと同じ形をしている。

「麻酔銃かい? 本物でも僕は別に構わないんだがね」
「投降の意思はないということか? ならば……」
「インデックス、僕の後ろに隠れて。 顔を出さないように!」
「撃て!」

インデックスがフィリップの後に隠れるのと、男が銃撃を命令するのはほぼ同時だった。

157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 03:43:45.41 ID:yK2UXtOY0
小さな音とともに発射された四つの弾がフィリップへ肉薄する。
しかしそれが彼の体に到達する瞬間は、いつまで待ってもやってこなかった。

「何だ!?」

フィリップに対峙する五人の男達が皆一様にうろたえている。
間違いなく麻酔弾をフィリップに向けて発射したはずなのに、彼は平然と直立したままだ。
目にもとまらぬ速さで動く白い影が、男達の視界の隅をちらついた。

「怯むな!撃て!」

バイヤーの号令の下、白衣の男達は再びフィリップに向かって発砲する。
激しい金属音が響き、銃弾は再びフィリップに着弾する前に弾かれた。
そして男達は目撃する。銃弾を弾き散らしフィリップを守った白い影の正体を。

「インデックス、学園都市まで来た理由がもう一つあることを、君には話したね」
「う、うん。 でもその答えはまだ聞いてなかったんだよ」

白い影は全ての弾丸を防いでから、悠然とフィリップの掌の上に飛び乗った。
白い金属製の恐竜が、その掌の上で誇らしげに咆哮する。

「これはファングメモリ。
 僕が窮地に陥ると守ってくれるようになっている。
 学園都市にやってきた理由のもう一つは、このファングがどこまで僕を追ってくるかという実験だったんだ」

158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 03:50:08.31 ID:yK2UXtOY0
弾丸を使い果たした男達がたじろぐ。
フィリップはそんな彼らを意に介さず、己の実験結果を検証していた。

「風都の外まで追ってくるとはね。
 もしかしたらファングは、地の果てまでも僕を追ってくるかもしれない」
「あ! これって、あの時私が感じたガイアメモリの……」
「そう、あの時点で実験の結果は分かっていたんだ。 インデックスのおかげでね。
 だから少々生身で無茶をさせてもらったよ。 だけど……」

フィリップの掌の上で、ファングメモリが彼の意志に呼応するかの如く形を変える。
そしてその形はダブルドライバーに挿し込むのに適したものとなった。

「ここからは“全力で”いかせてもらうよ」

159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 03:57:00.29 ID:yK2UXtOY0
「準備はいいかい?翔太郎」

フィリップの声が聞こえる。

「ああ……いいか、上条。
 変身の掛け声と同時にジョーカーのメモリを挿し込んでくれ」

翔太郎は腰のあたりでジョーカーメモリを口にくわえた上条に言った。
ガイアメモリをくわえて喋れない上条は小さく首肯する。
両手を拘束されている翔太郎が変身をするために上条に頼んだ、苦肉の策であった。

「行くぜ……変身!」

『ジョーカー』

上条は歯でガイアメモリのスイッチを押し、ダブルドライバーに何とかジョーカーメモリを挿し込む。

「よし!」

成功と見て、上条は喜悦の声を上げる。

「成功、だよな?」

その言葉に答える者が居ないことが、その答えとなっていた。

160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 04:04:07.69 ID:yK2UXtOY0

「変身」

呟いたフィリップの腰のダブルドライバーに、何処からともなく黒いメモリが出現した。
それを押しこみ、ファングメモリを右のスロットへ入れる。
そしてフィリップは白と黒の怪人“ダブル”へとその姿を変えた。

「僕達はこの形態をファングジョーカーと呼んでいる。
 インデックス、下がっていたまえ」

変身を目の当たりにして驚いているインデックスを下がらせてから
ダブルが戦闘の態勢を取ると、バイヤーと白衣の男たちは一目散に逃げ出した。

「おや?ガイアメモリを使って抵抗するかと思ったのに」
「フィリップ、逃げたヤツらは気にするな。俺達には先にやる事が有る」
「あ、翔太郎?」
「おう、インデックス。
 そういや、インデックスは俺達の変身を見るのは初めてだったな」
「う、うん。 びっくりしたんだよ」
「そいつぁ悪かったな。
 さあ急ごうぜ。 人質にされる前に上条と俺の体を救出しないといけねえ」
「ああ。 インデックス、君にも頼みたいことが有る。ついてきてくれるかい?」
「分かったんだよ!」

161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 04:11:44.60 ID:yK2UXtOY0

「一体どうやって嗅ぎ付けた……早過ぎる!」

所長と呼ばれた男は実験の中断に苛立ちを隠せぬ様子で、吐き捨てるように呟いた。
まさに実験を始めようとしたところでの中断だった。
その証拠に彼に従う白衣の研究員たちは未だ実験対象を抱えている。
即ちミサカ10032号、御坂妹である。
彼女は薬物で眠らされ、さらに拘束服を着せられている。
ガイアメモリを試用した際に起こりうる、暴走を抑止するための措置であった。

「もう少しで…レベル6への足がかりが掴めるところだったのに!」

歯ぎしりをしながら、彼は人質の二人を放り込んである物置へ向かう足を速めた。
この時のために生かしておいた人質なのだから、今こそ役に立ってもらおうというものだ。
背後から時折伝わってくる地響きに追われ、所長たちの一団は逃げるようにして物置へと辿り着いた。
中へ入ってみると、相変わらず縛られた二人の人質が倒れている。
片方は尋問のためか気を失っているが、もう片方の学生は既に薬による眠りから目覚めており、
元気に所長たちを睨みつけてきた。

162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 04:20:02.72 ID:yK2UXtOY0
「君達に役立ってもらう時が来たようだ」
「何だと!」
「お前達、丁重に扱うんだ。 大切な人質だからな」

所長は部下に二人を拘束したまま運ぶように命じた。

「やめろ!」

白衣の男達が二人ににじり寄る。
そして無理矢理二人を引き起こそうとした、まさにその時だった。
人質となった二人の背後の壁に、突如裂け目が生じた。

「なっ、なんだ!?」

突然の出来事にうろたえ、思わず後退りする男達。
彼らの目の前で、新たな壁の裂け目が次々と生まれる。
彼らは忘我したかの如く、その事態をただ見守るばかりだった。
辺りに鉄筋コンクリートを引き裂く異様な音が響き渡る。
そして四本入った裂け目が大きな四角形を象ると、その形に切り取られた壁が勢いよく彼らの方へと飛んできた。

「う、うわああ!」

男達は情けない叫びを上げて壁の塊を避ける。
幸いにしてそれは誰にも当たらず、物置の中に砕けたコンクリートが飛び散っただけであった。
そして彼らはぶち抜かれた壁の向こうに、その破壊の実行者の姿を見た。

164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 04:24:28.60 ID:yK2UXtOY0
「ショートカットのためとはいえ、少々行儀が悪かったかな?」
「構いやしねえさ。
 ……見ろよ、おかげでパーティにゃ間に合ったみたいだぜ?」
「それは良かった。主賓が遅れてはホストに失礼だからね」
四角く切り取られた壁を乗り越えて、怪人“ダブル”が物置へと飛び込んできた。
その右腕から突き出した白い刃に、砕けたコンクリートの粒子が付着している。
彼がそれをもって分厚い鉄筋コンクリートの壁を斬り裂いたことが、誰の目にも分かった。
「物凄く無理矢理なんだよ……探偵さんって実はとっても乱暴かも!」
壁に空いた穴から、ひょこりと白装束に身を包んだシスターが顔を出す。
「フィリップ!インデックス!」
この緊迫した場面に飛び込んできた二つの人物の名を、上条が呼んだ。
ダブルは上条と翔太郎の体を庇うように、男達との間に割って入る。
「上条当麻、助けに来たよ」
「馬鹿な……仮面ライダー!?捕えたはずだ!」
「研究が足りねえな、所長。
 ミュージアムのバイヤーに聞いてなかったのか?」
「僕達は二人で一人の仮面ライダーだ」

165 名前:改行忘れてもた[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 04:31:23.21 ID:yK2UXtOY0
「くっ……」

所長は忌々しげに二人と人質を交互に見た。

「さあ、実験は諦めて大人しくガイアメモリを渡すんだ。 そうすれば僕達もキミ達をどうこうしようとは思わない」

ダブルはそう宣告して所長へ歩み寄ろうとした。

「来るな!」

しかし所長は叫びでもってその動きを牽制した。
さらに所長は抵抗を目論む。

「彼女がどうなってもいいのか?」

そう言って彼は、部下の男が未だ抱えたままの御坂妹の頭に銃を突きつける。

「御坂妹!」

彼女の姿を見た上条が、弾かれるように立ち上がった。

「動くな! この銃は麻酔銃ではないぞ!」

今にも飛びかかりそうな上条の気勢だったが、御坂妹に銃を突きつけられていては動けない。

「この野郎……御坂妹を離せ!」
「往生際が悪いね。 そんなにこのくだらない実験が大事かい?」
「くだらない……? くだらない実験だと!?」

フィリップのその問いに、今度は所長が激昂した。

167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 04:37:23.12 ID:yK2UXtOY0
「探究心を持たぬ愚か者どもめ!
 この実験を行うことで、我々は絶対能力(レベル6)への可能性を手に入れるのだ!
 それがどれほど崇高な事か分からんのか!?
 学園都市はそのために存在しているのだぞ!」
「そのために人体実験をするのか!?
 アンタらスキルアウトの実験結果を知ってるんだろ!
 能力者がガイアメモリを使うと普通の人が使うより強い副作用が有るんだ!
 レベルの高い能力者に使ったら、もっと大変なことになる!」
「人体実験の何が悪い?
 キサマは風邪にかかったら薬を飲まないのか? 病院で使われている薬は人体実験によってその効果を実証されたものだ!
 人間の繁栄に必要な人体実験を悪だと言うのか!」

所長が上条との口論で頭に血が上っているスキに、御坂妹を救えないかとダブルは様子をうかがっていた。
しかし僅かな動きにも所長は

「動くなと言っている!」

と過剰に反応し、御坂妹へより強く銃口を押し付ける。
彼を刺激するとかえって御坂妹に危険が及ぶかもしれない。

「くそ、ここまで来て打つ手なしか……」

ダブルは悔しげに足摺りする。

168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 04:44:08.86 ID:yK2UXtOY0
「レベル6がどれだけ尊いものかなんて分からねえ……
 だけどな、人の命を容易く人体実験で消費しようとするアンタの求めるものなんか、
 絶対にろくなもんじゃない!」
「それが彼女達の生まれた理由なのだ!
 実験のために生まれた彼女達を、実験に使って何がいけない?」
「ふざけるな!
 確かに妹達は実験のために生まれたかもしれねえ……だけど、今はもう実験のために生きてるわけじゃねえんだよ!
 自分達の身勝手な欲望のために望まぬ人を殺すことが悪事じゃなければ、何だっていうんだ!」
「黙れ!」

所長は激怒して、御坂妹に突き付けていた銃を上条に向けた。
それは最早威嚇ではない。 確実に上条を殺すための行動だった。

「上条!」

慌てたダブルが上条を庇おうとしたが、間に合わない。
所長が引き金を引いた。 銃口から飛び出した弾丸が、上条を襲う。
弾丸は上条が避ける間もなく、彼の体に直撃する。

169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 04:52:01.92 ID:yK2UXtOY0
そのはずだった。
弾丸が途中で軌道を変えて上条を避け、物置の壁に突き刺さったことに気がつけたのは、この場にはダブルしか居なかった。
他の者たちには、所長が狙いを外したようにしか見えていない。

「何!?」

この距離で外すはずがない弾丸が外れたことに動揺した所長は、再び上条を撃ち殺すために引き金を引こうとした。
ところが今度は弾丸ではなく銃の挙動がおかしい。
それも、所長が持っている銃だけではなく、白衣の男達が携帯していた銃の全てだ。
突然、全ての銃が彼らの手中を飛び出し、壁に自らの体を叩きつけた。

「な、何だこれは!」

所長たちは突然武器を奪われ、混乱する。

171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 04:58:59.96 ID:yK2UXtOY0
「これは……磁力か!」
「磁力?」

フィリップが壁に張り付いたまま固まったように動かなくなった銃を見て、その原因を推察した。

「さっきからこの研究所内で暴れ回ってる、妨害者の仕業さ」
「やっぱり俺達以外の妨害者がいたのか」
「ああ。どうやら所長たちを追ってここにやってきたようだね」

そして妨害者が、とうとう物置にやってきた。

「追い詰めたわよ! それに武器も奪った!
 さあ、実験を中止して彼女を解放しなさい!! って……」

扉からから部屋へと飛び込んできたのは、年の頃は14、5歳の女の子。
彼女は部屋の中を見るなり

「な、な、な……」

妙に動揺して、言葉が上手く紡げない様子だった。

「なんでアンタがここに居るのよ!?」

ようやく絞り出した言葉は、誰あろう上条当麻へと向けられた質問だった。

「なんだ知り合いか」
「お、おう……ビリビリ」

彼女の名は御坂美琴。 学園都市に七人しか存在しないレベル5の一人。
その能力から超電磁砲(レールガン)の異名をとる少女だった。

172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 05:06:10.53 ID:yK2UXtOY0
「ビリビリって言うな! というか私の質問に答えなさい!」
「……まあ、上条さんも目的は同じですよ」
「……そういうこと。 アンタはどうやってここの情報を掴んだわけ?」
「それは逆に上条さんが聞きたいところですよ。
 俺達はスキルアウトから情報を聞いてここへきたんだけど」
「俺達?
 ってうわ!?何この半分こ怪人!!」
「……上条しか目に入ってなかったのかよ」
「コイツは……説明すると長くなるけど、とにかく味方だ。 俺達の協力者だ」
「アンタの交友関係って、どうなってんのよ?」
「上条さんは至って普通の高校生ですよ?」
「キミ達、痴話喧嘩はそこまでにしたまえ」
「ち、痴話ッ!?」
「所長、キミ達にはもう武器もない。
 おまけに、僕達と超電磁砲の挟撃だ。
 逃げおおせるのは不可能だろう。 大人しく投降したまえ」
フィリップが宣告する。
所長は砕けんばかりに噛んだ歯をさらに軋ませた。

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 05:14:03.81 ID:yK2UXtOY0
(バカな……何故こんなことに……!)

何処で話がおかしくなったのか?
自分はこの実験を機にレベル6を生み出した研究者になるはずだったのに。
理解できない。目の前の愚か者たちは理解できない。

(使うしかないのか……これを?)

彼が手に入れた“モノ”の中でも、とびきりの不良品。
それを初めて使ったのは三日前。
使ったのは能力者ではない部下の一人だった。彼はまだ意識不明のままだ。

(危険過ぎる……)

174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 05:21:04.78 ID:yK2UXtOY0
「もうやめてくれ……アンタが求めるレベル6なんて幻想だ!
 人を犠牲にしてまで求める理想なんかじゃない!

 そんな幻想は……何度でも俺がぶち壊す!!」


人のためを思うならば、やめて欲しい。
上条は願う様に所長へ訴えた。
しかし所長は煩悶するばかりで、その言葉に何の反応も見せなかった。

「……上条。もういい。
 世の中には説教も通じねえ、どうしようもねえ悪党も居るんだ」
「そんな相手に僕達が送る言葉は一つしかない」


「「さあ、お前の罪を数えろ」」



176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 05:25:17.56 ID:yK2UXtOY0
(使うしかない……これを……!)

所長の思考までもが限界まで追い詰められた、その時だった。

「う……」

研究員に抱えられたままの御坂妹が小さくうめき声を上げる。
麻酔が切れて、目を覚まそうとしているのだ。
そしてその声を聞いた時、所長の頭に悪魔の様な考えが浮かんだ。
彼はその考えを実行するべく、懐の“それ”を取り出す。

「ちょっとアンタ!妙な動きはするな!」

所長は美琴の制止にも応じない。

「アレは、ガイアメモリ!?」
「スキルアウト達が言っていた、“A”のメモリだ!」

彼が取り出したのは、アルファベットの“A”の文字が記されたガイアメモリだった。

「それを使って抵抗する気か!?」

177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 05:26:15.47 ID:hm62xPpZ0
欲望だらけの街だな
心の花が枯れそうな人も多そうだ
しかもお宝もたくさんある

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 05:31:10.88 ID:yK2UXtOY0
上条が所長へ問う。すると所長は喉を引きつらせたような笑い声を漏らしながら言った。

「くくっ……くっくっくっ……これを?
 ああ、使うさ。使うとも。こんな状況になってしまったが、
 予定通り実験を始めさせてもらおうか!!」
「実験だと!」
「しまった――!」

彼を止めろ!というフィリップの叫びは間に合わなかった。
実験を始めるということは、つまり彼は御坂妹にそのガイアメモリを使うつもりだ、と。
気付いた時に、もはやその悪夢を留めるには遅かった。
所長がガイアメモリのスイッチを押すと、そのメモリに封じられた記憶の名がガイアウィスパーによって告げられる。
その言葉は、それが持つ意味に反し、最上級の禍々しさをもって辺りに響き渡った。


『エンゼル』

179 名前:妹は爆発するもの[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 05:37:40.24 ID:yK2UXtOY0
「馬ッ鹿野郎――――!」

怒りの咆哮を上げ、上条が所長へ襲いかかる。
しかし、所長が行動を完遂する方が早かった。
御坂妹の首裏のコネクタにエンゼルのメモリが挿し込まれると

「うっ……ああああアアアアアア!!」

彼女は目を見開き苦しみの悲鳴をあげた。

「まずい!彼女を取り押さえるんだ!
 上条当麻!すぐに幻想殺しを!」
「おう!」

ダブルと上条は所長へと向かう勢いをそのままに御坂妹ののもとへ駆け付けた。
だが、その刹那。

「ぐっ!」
「うわっ!」

御坂妹の体から閃光と共に衝撃が放たれた。
辺りに居た者達が一人残らず、爆風の如き衝撃の波に吹き飛ばされる。
その衝撃は強く、研究所の壁を大きく破壊した。

180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 05:45:07.40 ID:yK2UXtOY0

「うぐっ……冷てえ……」

吹き飛ばされた衝撃で一瞬意識を失った上条だったが、冷たい水が体に降り注ぐのを感じ、すぐに意識を取り戻した。
何時の間にか激しい雨が降っていた。研究所の屋根が衝撃で吹き飛んだため、上条が倒れている場所は最早屋内とは呼べない状況である。
御坂妹の体から閃光が発せられたとき咄嗟に右手を目の前にかざしたため、少しはダメージを緩和出来たらしい。
多少ふらつきながらも起き上がる事が出来た。

「くそっ!一体何がどうなった……?
 ああ、そうだ! インデックス! 翔太郎! フィリップ!」

辺りを見回すと、ダブルがインデックスと翔太郎の体を庇うようにして倒れていた。
ダブルもあの瞬間、吹き飛ばされながらも咄嗟に体を動かして二人の体を庇ったのだ。
が、あの状況において一つの体で守りきれるのは一人が限界だったのだろう、
インデックスを守る事に比重を置いたため翔太郎の体はより一層傷だらけになっていた。

「……ちくしょう、かなり痛えが、こっちは無事だ!
 インデックスも、大丈夫か?」
「う、うん、ありがと、翔太郎、フィリップ。 でも、翔太郎の体が……」
「あ?うお!こりゃひでえ! でもまあなんとか生きてるから気にすんな!」

その様子を見て、上条はひとまず胸を撫で下ろす。
が、すぐに次の懸案事項が脳裏をよぎる。

「御坂!御坂妹!」

181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 05:53:58.40 ID:yK2UXtOY0
彼女達の姿を捜して辺りを見回す。
先程まで御坂妹の居た位置を爆心地に、研究所が半壊している。
御坂妹を抱えていた白衣の男達が傷だらけになってそこに横たわっていたが、致命傷を負った者は居ないようだった。
しかし、肝心の美琴と御坂妹の姿が見当たらない。
その代わりに、所長の姿を上条の目が捉えた。彼は瓦礫の上に立ち、放心したように上を見上げている。

「所長、テメエ!」
「ガイアメモリを彼女に使って、混乱のドサクサに紛れて逃げるつもりだったのかい?」
「逃げる? 愚か者が。
 私の目的は実験だ。 目的を果たしたに過ぎん!
 どうだ、この圧倒的な力! レベル3の能力者がエンゼルメモリを使うだけで、これほどとは思わなかったぞ!」
「何言ってんだ!? 御坂妹は……一体どうしたってんだ!」

そして、所長の視線を負ったダブルはそれに気付いた。

「上条、上だ!」

183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 05:59:48.33 ID:yK2UXtOY0
「えっ?」

上条が反射的に上を見上げる。
そこには巨大な水の翼を羽ばたかせる、御坂妹の姿が有った。

「外見的には大きな変化はないが……アレが、エンゼル・ドーパントの姿なのか?」
「くそっ、間違いねえ……俺は天使を見たことが有る!今の御坂妹は天使そのものだ!」

先程まで閉じられていた御坂妹の目は今、大きく見開かれている。
だがその視線はどこを見るとも無く、ただ真正面を見据えていた。
覚醒したとして、彼女に御坂妹としての意識が有るのかどうかは、判断が難しいところであった。

「おい、超電磁砲(レールガン)のお嬢ちゃんが!」

ダブルが研究所の屋上を指差す。
そこには、夕立でずぶ濡れになりながらエンゼル・ドーパントとなった御坂妹を見つめる御坂美琴の姿が有った。

184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 06:07:01.96 ID:yK2UXtOY0
違和感は昨日の昼頃から始まっていた。
それはレベル5の電撃使いである御坂美琴でなければ気付けない程度の、些細な違和感。
彼女とて後輩の白井黒子から学園都市内に発生した通信障害の話を聞くまでは確信を得られなかったほど、ほんの些細な感覚だった。
その正体が特殊な電磁波だと気付いたのは、学園都市の能力者の中でも彼女だけだっただろう。
翌日になって、その電磁波はさらに強さを増した。
他の人間は気付くことも無く、影響こそなかったが、高いレベルの電撃使いである彼女には気になって仕方が無い。
とうとう学校を休んでまで、その出処を探る事にしたのだった。
学園都市の中を、彼女の電撃使いの能力を頼りに捜して回ったが、どうにも発信源が特定出来ない。
何故ならば発信源は複数有り、しかも移動をしていたからだ。
しかしある時間を境に、その電磁波の発信源が一か所に集まりだす。
その時点で、嫌な予感はしていたのだ。
そんな予感を打ち消す確証が欲しくて、美琴は発信源の集まる先、即ち研究所へとやって来た。
この研究所でこれから何が行われようとしているのかを、自身の能力を使い調べた。
携帯端末から研究所のコンピュータへハッキングをかけたのだ。

果たして、嫌な予感は的中する。

何故、またあの子達がこんな目に?
彼女達を再び実験の材料にするなど、美琴にとってはまったくもって許しがたい事態であった。

潰してやる。今後、愚かな考えを起こす研究者が現れないように、見せしめになるように。
その考えに至った時、彼女はポケットからコインを取り出していた。

185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 06:13:08.46 ID:yK2UXtOY0
そこから先は、レベル5の彼女にも制御出来ない感情の電流が体を動かすに任せた。
研究所の責任者たる所長が10032号を連れて逃げるのを追って、そして……

美琴はガイアメモリの性質を良くしらなかった。
だから所長がガイアメモリを取り出した時も、不穏な気配を感じはしたが、彼の動きを留めなければいけないという瞬時の判断が出来なかった。
それが出来れば、彼女の電撃は所長がガイアメモリを使うよりも早く彼を行動不能に追い込めたはずだ。

その後の衝撃で彼女は吹き飛ばされたが、運良く白衣の男達が盾となったおかげもあり、誰より早く起き上がれた。

今、彼女は感じている。それは違和感などというような、些細な感覚ではない。
御坂妹、エンゼル・ドーパントから発される、圧倒的な力が持つ威圧感だ。
強者だから悟れる、彼我の力量。
身体検査(システムスキャン)など必要もない。
彼女が放つ力は今、レベル5以上だった。

美琴は雨の降りしきる屋上に上り、研究所の上空を浮遊するエンゼル・ドーパントを見つめた。
自分の力が足りず、結局実験の生贄にしてしまった妹。
その目は大きく見開かれ、しかし視線は虚空をさまよっている。
拘束服は先の衝撃で吹き飛んでいた。
だからと言って体を大きく動かすわけでもなく、その代わりとばかりに20メートルはあろうかという水の翼が揺らめく。
あれを一振りすれば、ビルの一つや二つは薙ぎ払えるだろう。

186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 06:20:31.30 ID:yK2UXtOY0
昨日から感じていた電磁波が、より大きな波となって彼女から発されている。

彼女は、苦しんでいるのでは?
美琴は何の確証もなく、そう感じた。

まるでそれを肯定するかのように、エンゼル・ドーパントの額が独りでに裂け、鮮血が彼女の顔を伝った。
美琴は息を飲む。

助けなくては。
でも、どうやって?
自分は学園都市最高峰のレベル5だというのに、助けを求める妹を救う手立てすら分からない。
それではあまりにも情けないではないか。

無力感に、頬を伝う雨が熱さを増した。

今、自分は彼女に何をしてあげられるのか?

ふと、美琴とエンゼル・ドーパントの視線が絡んだ。
次の瞬間だった。
エンゼル・ドーパントが水の翼を振るう。
それは美琴を目掛けて襲いかかる。
反射的に美琴は、翼に彼女の代名詞たる超電磁砲(レールガン)を放った。
水の翼はレールガンに貫かれて霧散するが、すぐに新たな水の翼が生まれて美琴を襲った。

これはきっと、八つ当たりだ。
苦しみにのた打ち回り、周りの物に当たり散らす。
彼女を助ける術を持たぬ自分なら、せめてその八つ当たりには付き合おう。
それが、姉の役割だ。
彼女は新たなコインを懐から取り出した。

187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 06:27:40.11 ID:yK2UXtOY0

「くそっ、あの出血……どう見てもガイアメモリの副作用だぜ!」
「やめろ御坂妹!やめるんだ!」
「力の強過ぎるガイアメモリは、使用者の心を飲み込んでしまう。
 彼女は今、ガイアメモリの力に飲み込まれてしまっている」
「いずれにせよ、早くメモリブレイクしないと彼女の心身ともにやベえぞ」

上条とダブルはエンゼル・ドーパントと美琴の戦いを下から見上げていた。
凄まじいまでの力のぶつかり合い。
翔太郎とフィリップは、改めて学園都市の力というものを体感していた。
彼らの持つ最高の力、ファングジョーカーでなければあそこに割って入る事も出来ないだろう。

「……あれが、天使なのかな?」

インデックスが、ふと疑問を口にする。

「どういうことだ、インデックス?」
「天使っていうのはね、人間には絶対勝てないくらいの力を持ってるものなんだよ。
 そのつもりが有れば世界を終わらせられるくらいの。 だけど……」
「御坂は抵抗出来ている……」
「つまり、天使にしては弱過ぎる、と言いたいのかな?」

上条は以前目撃した天使の姿を思い起こした。
あの時の天使が振るった水の翼は、全長にして50メートルはあった。
今のエンゼル・ドーパントの翼はせいぜい20メートル程度だ。

188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 06:34:33.36 ID:yK2UXtOY0
「ううーん、断定は出来ないけど……」
「ガイアメモリが不良品だったのか?」

インデックスも戸惑う。
ガイアメモリというものに関しては、彼女の魔術の知識すら及ばない面が多い。

「それはミサカ10032号が抑制しているからです、とミサカはその理由を明かします」

頭を悩ませる四人に、突然後ろから声がかけられた。
一斉に振り返った四人が見たのは。

「御坂妹!?」
「いえ、ここに居るのはあなたに御坂妹と呼ばれている固体ではなく
 ミサカ10033号、ミサカ10032号の次の個体です、とミサカは懇切丁寧に説明しました」
「この研究所に集められていたミサカシスターズ……ということかい?」
「はい、先程の衝撃でミサカを閉じ込めていた部屋が壊れたのでここへ参上致しました、
 とミサカは質問に答えます」

彼女達はミサカネットワークという脳波リンクでもって意識を共有している。
エンゼル・ドーパントに変身した今でも、ミサカ10032号の思考が伝わってくるのだという。

「彼女は今もエンゼルメモリの力に抗っているのか」
「だが、その苦しみの余り暴れている状態ってワケだな。
 彼女が力を抑止していなければ、ガイアメモリを使った瞬間に俺達が死んでてもおかしくなかったってこった」
「はい、ですが見ての通り力の抑制には大きな苦しみを伴っています、とミサカは説明します。
 あの大暴れは、苦痛にのた打ち回っていると考えてもらえば結構です、とミサカは重ねて説明しました。
 そして、徐々に彼女の意識は薄れていっています、とミサカはさらに危機感を覚えます」

189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 06:41:14.74 ID:yK2UXtOY0
説明され、上条は歯噛みした。

「一刻も早く助けないと!」
「待て、上条当麻!どうするつもりだい?」
「決まってる!幻想殺しでメモリブレイクを……」
「あの水の翼を掻い潜ってかい?
 またキミは他人のために命を賭けるつもりか。
 だがハッキリ言おう。今回ばかりは、君が命を賭けたところで彼女を救うには至らない」
「何だと……」

あくまでも冷静なフィリップの分析に、上条がダブルへと詰め寄る。

「じゃあどうしろって言うんだ!御坂妹を見捨てろっていうのか?」
「落ち着け上条!そうは言ってねえ」
「まったく、キミはもう少し落ち着いて考えると言うことが出来ないのかな。
 翔太郎以上の半熟(ハーフボイルド)だ」

この状況で落ち着いていられるかってんだ、という言葉を上条は飲み込んだ。

「つまりどういうことだよ?」

反論する時間も惜しんで、ダブルに結論を促した。

190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 06:48:26.73 ID:yK2UXtOY0
「いいか上条、今回の俺達の勝利条件は何だ?」
「御坂妹を救うことだろ!」
「そうだ。そのためには、幻想殺しをエンゼル・ドーパントに叩きこむ必要があるな?
 だけどよ、上条が一人で突っ込んだところで、エンゼル・ドーパントには届かねえ」
「どう考えても、僕達の協力が必要だろう?」
「あのエンゼル・ドーパントを相手にして分の悪いギャンブルをするには
 お前の命一つじゃ種銭(チップ)が足りねえってこった。
 ……俺達の命も上乗せしろよ」
「左とフィリップの命を!?」

上条は悩んだ。
御坂妹を助けるために、自分は命を賭けるつもりだった。
しかし、彼らの命まで一緒に賭けていいのだろうか?

「上条。 男の仕事の8割は決断だぜ」

やがて、上条は強く頷いた。

191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 06:58:38.58 ID:yK2UXtOY0

強い。

学園都市第三位の超電磁砲を持ってしても、その攻撃を防ぎきれない。
いや、それはエンゼル・ドーパントにとっては攻撃ですらないのだ。
だと言うのに、その力は美琴を圧倒していた。

「何も……出来ないっていうの!?」

エンゼル・ドーパントが振るう力はますます強くなる。
そして力が強まる度に、御坂妹の苦しみが強まるのを同時に感じていた。
美琴の力には限界がある。力を使い果たせば、抵抗する手段は無い。
エンゼル・ドーパントの翼は何本落としても、空から降り注ぐ夕立を集めて幾度でも再生する。
じり貧であった。
その雨が、さらに美琴に致命的なミスを犯させた。
超電磁砲を放つための、新たなコインを取り出そうとした時。
雨が、その手を滑らせた。
水翼が彼女へと迫る。
いくら高威力でも、電撃では防ぎ切れない。
訪れるであろう衝撃に備え、思わず目を瞑った。

192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 07:06:52.41 ID:yK2UXtOY0
『ショルダーファング』
「うおおおおっ!」

その時、気合いの掛け声とともに何処からか飛来した白い刃が水翼を斬り裂いた。
水翼は真二つに分割され、力を失って霧散する。
衝撃が来ないことに気付いた美琴が目を開くと、目の前には

「は、半分こ怪人!?」

エンゼル・ドーパントと美琴の間に、ダブルが立ちはだかっていた。
衝撃に備えて強張った体から一度に力が抜け、美琴はその場にへたりこんだ。

「ったく亜樹子みてえな事を言いやがるぜ」
「翔太郎、次弾が来る!」

ダブルが右手でベルトのバックルに取り付けられた恐竜の頭の鼻先の角、タクティカルホーンを一度弾く。

『アームファング』

ガイアウィスパーが告げると、ダブルの右腕から白い刃が隆起する。

「うおりゃあああ!」

再び掛け声とともに、ダブルが水翼に向かって飛び出していく。
そしてダブルは右腕を振るうと、連続で襲ってくる水翼を次々と斬り裂いていった。

193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 07:13:48.21 ID:yK2UXtOY0
「ビリビリ!大丈夫か?」

ダブルに遅れて屋上にやって来た上条が、美琴に駆け寄る。

「……な、なんとか。ってビリビリ言うな!」
「元気そうで良かった。
 それでな、御坂。 急いで伝えるけど、実は御坂妹を救う方法が有るんだ」
「え!?」
「ガイアメモリの存在は、もう知ってるよな?
 能力者にアレを使うと、普通の人間が使う以上の副作用が有るんだ。
 それで御坂妹は苦しんでる……だけど」

上条は美琴に右手を突きつけて言った。

「俺の右手でガイアメモリが挿し込まれた部分に触れられれば、ガイアメモリを一発でぶっ壊せる。
 しかも、副作用も起こらない。 御坂、協力してくれ!」

断る理由は何もない。
美琴は頷くと、力強く立ち上がった。

195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 07:19:27.25 ID:yK2UXtOY0
インデックスは傷ついた翔太郎の体を引き摺りながらも、なんとか物陰へと運びこんだ。
自分を守るために余計に傷ついてしまった彼の体を引き摺るのには心が痛んだが、
それでもあの場所にそのままにしておくわけにはいかなかった。
翔太郎の体を物陰に隠し、改めてその傷を見るとそれはもう酷い有様であった。
ダブルの変身を解いて彼の精神がこの体に戻っても、動く事はままならないだろう。
こういう時、知識は有れど魔力を練ることの出来ぬ我が身が恨めしくなる。
せめて誰か魔術師がこの場に居れば、回復魔術が使えるのだが。
などと思い悩ませていたインデックスに、屋上で行われている戦闘の余波が突如として降りかかってきた。
無数の水翼の一本が斬り飛ばされた残骸とも言うべき水の塊が彼女と翔太郎の居る物陰を襲ったのである。
それに飲まれてしまえば、ひとたまりもない。

「きゃっ……」

余りに突然の事で、彼女には何の対処もできなかった。
翔太郎の体も、自分の身も、何一つ守れない。
ところがその場に、彼女を守る者が有った。
突如として現れた炎の巨人が、水の塊を受け止める。
三千度の炎に抱かれた水は、たちどころに蒸発して消えてしまった。

「凄まじい魔力を感じて駆けつけてみれば、一体何なんだい、この事態は……」

インデックスを守ったのは、ステイル=マグヌス。
インデックスと同じくイギリス清教の必要悪の教会に所属する炎の魔術師だった。
よほど慌てて駆け付けたのか、夕立で火の消えてしまったタバコをくわえたままだ。

197 名前:仮面ライダーのスペック設定も大概アレだから[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 07:26:56.15 ID:yK2UXtOY0
周囲を見渡し、状況の確認に努めるステイル。

「アレは、天使……なのか?」

まず目につくのは、当然ながら巨大な水の翼を振るうエンゼル・ドーパントの姿だった。
一体いかなる理由で天使がこの場に顕現したのか、彼には見当もつかない。
そしてそんな思考は、インデックスの声で遮られた。

「ちょうど良かったんだよ!」
「ん?」

インデックスは必要としていた魔術師の出現に、縋り付かんばかりにステイルへ詰め寄った。

「この人を回復するのを手伝って!」
「この人?」

インデックスが指差すの先を見ると

「昨日の探偵!」
が、ズタボロになって横たわっていた。

「私を守るために、こんな傷だらけに……」

細かい説明は省き、負傷の要因だけを伝える。

「チッ……ならば、一応僕にとっても恩人になるわけか」

ステイルは不承不承ながら横たわる探偵のそばにしゃがみ込むと、
「どうすればいい?」
とインデックスの手引きを促した。

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 07:35:35.66 ID:yK2UXtOY0

所長は、戦闘を注意深く観察していた。
そして恍惚したように呟く。

「素晴らしい……素晴らしい力だ……」

元々レベル3程度の力しか持たない彼女が、そのオリジナルたるレベル5の超電磁砲(レールガン)を圧倒している。
彼にとっては、非常に満足のいく結果と言えた。

成果は十分に得られた。
最早この研究所には用が無い。
次はレベル4以上の人間で実験をしよう。
どこでその材料を調達しようか。

そんなことを考えながら、その場を後にしようとした所長の背に、

「待て!所長!」

今も激しい戦闘が繰り広げられている屋上から声がかかった。
逃げようとする所長をダブルが目聡く見咎めたのだ。

199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 07:43:18.76 ID:yK2UXtOY0
「見ろ! アンタの部下も倒れてるんだぞ!
 この責任を取らなきゃならねえのはアンタだ!
 今ここで逃げたら、二度と引き返せねえぞ!」

ダブルの叫びに、所長は答えなかった。
愚か者が何を戯けた事を言うのか、とでも言いたげに呆れたような嘲笑を浮かべると、そのまま研究所から逃げ去った。

「馬鹿野郎!引き返すんだ!」

怒声が彼の背中に降りかかる。
しかし彼を思って放たれたその叫びは彼の耳にも、心にも届かなかった。
彼の頭は最早、次の実験の事でいっぱいだったからだ。

そして彼に次の実験を行う機会は二度と訪れなかった。
ダブルの言葉が彼の未来を暗示していたということなど、言った本人ですら知り得ないことであった。

そう、彼は道を引き返すことが出来なかったのだ。
何故なら、ここから先は――

202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 08:39:16.99 ID:l4DNiqVw0
>何故なら、ここから先は――

ヤツが来るのかwww

207 名前:再開[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 10:22:31.41 ID:yK2UXtOY0

杖と足で血だまりを踏みしめながら、白い少年は独白した。

「クソガキがピイピイとうるせェから、わざわざやってきてみりゃあ」

少年の視線の先には、天使が居る。
いや、水の翼を羽ばたかせる度に破壊を巻き起こすそれを、天使と呼ぶか悪魔と呼ぶかは意見の分かれるところかもしれない。

「何だ、何だよ、何ですかァ?
 随分面白ェことになってンじゃねェか」

まさか生きている内に天使を目撃することになろうとは、今日の今日まで彼も考えた事が無かった。
面白い。 彼が言うとおり、面白い出来事だったはずだ。
その天使が、彼が10031回殺した少女の姿をしていなければ。
家を出る直前に聞いた言葉を、彼は思い出す。

『シスターズが、危ないの!助けてあげて!ってミサカはミサカは――』

「チッ……実験の責任者をぶっ殺しゃ、それでオシマイだと思って来たがよ……
 アレもどうにかしろってことかよ、クソガキが!」

最早物言わぬ骸となった所長を、一方通行は思い切り蹴飛ばした。

「良いぜクソガキ、やってやるよ。
 天使をぶっ殺すってのも面白ェ!」

凶暴な笑みを浮かべると、一方通行は天使に向かって走り出した。

208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 10:34:16.97 ID:yK2UXtOY0
だが。

「萎えた」

突然彼は立ち止ると、首に着けたチョーカーのスイッチをオフにしてしまった。
先程までむき出しにしていた闘争心も霧散し、彼はそのまま踵を返すと帰路についた。

彼は見たのだ。
天使の戦う姿を。
そして天使と戦う相手を。
そして、自分はこの場に必要無いと結論付けた。
何故なら。
どうせあのヒーローは、何もかもその手に掴んで帰ってくるんだろうから。

「しかも今日はヒーローが二人居やがるってンだから、ふざけた話じゃねェか」

それなら帰りがけにコンビニに寄ってコーヒーを買うことにでも時間を割いた方が有意義だ。
一方通行は研究所を後にした。

209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 10:43:35.40 ID:yK2UXtOY0

「もういい、翔太郎。戦闘に集中しよう」
「……くそっ」

吐き捨てるように呟くと、ダブルは再び目の前の相手に集中を向けた。
右腕のアームファングを振るいながら、エンゼル・ドーパントに幻想殺しを見舞える決定的な隙を窺う。
ダブルが所長に気を取られている間は、上条と美琴が水翼の相手をしてくれていた。
上条はその右手で水翼を打ち消す。とはいえ右手の届く範囲は狭く、自分に向かってくる物にしか対応できない。
周囲の建物に振り下ろされる水翼を破壊するのは美琴の仕事だった。
美琴は今、超電磁砲を使わずに磁力を操り、建物の残骸を拘束で振り回す事によって水翼を防いでいた。
コインを撃ち尽くし、まさしく弾切れとなってしまったためである。
とはいえ、その力はいささかも衰えることはない。
自分の防衛を上条とダブルに任せ、遠くへ飛んでいく水翼を集中して防げば良い分、先程よりその強さを発揮していると言えた。
しかし。

「畜生、隙がねえ……!」

エンゼル・ドーパントは水の翼を羽ばたかせるだけ。
だがそれは雨のせいもあり、いくら撃墜しても無限に精製されて再び襲いかかってくる。

210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 10:50:01.20 ID:yK2UXtOY0
「この雨が無ければ……」

悔んでみても、雨が上がるわけではない。
そして一つ分かったことは、雨が上がるのを待っていては御坂妹が助からないだろうということだ。
先程から彼女の出血が酷くなり始めている。 体の至るところが、力に耐えきれず裂け始めた。
それに反比例するかのように、水翼を振るう力は増すばかり。
ガイアメモリの力は、戦闘の間にも彼女を冒し続けているのだ。

「ダメだ! もう御坂妹の体がもたない!
 一か八か、突っ込むしかない!」

上条は美琴とダブルにそう告げた。
全員とも状況の閉塞は感じていたので、一か八かの打開策に同意した。

211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 10:57:42.79 ID:yK2UXtOY0
「上条、俺達が水の翼を突っ切る!お前は俺達の後に続け!」
「おう!御坂、援護頼む!」
「分かった!アンタ、これに乗って行きなさい!」

美琴は磁力で操った鉄筋コンクリートの壁の破片を、上条の目の前に移動させた。
空中に居るエンゼル・ドーパントに辿り着くには、上条の脚力では足りない。
そのための即席の足場であった。

「サンキュー美琴!」

上条がそれに飛び乗ったのを見て、ダブルが二人に問いかけた。

「準備はいいかい!行くよ!」

上条と美琴が頷くのを見て、ダブルは腰のタクティカルホーンを三度弾く。

『マキシマムドライブ』

ガイアウィスパーが告げるとダブルの右足に白い刃が現れる。
ダブルはその足で、エンゼル・ドーパントへ向けて走り出した。
上条を乗せたコンクリートの塊が、美琴の操縦でその後を追う。

212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 11:06:00.18 ID:yK2UXtOY0
「「うおおおおおおおお!」」

重なる掛け声とともにダブルは跳び上がり

「「ファングストライザー!!」」

回転しながら右足の刃で幾重にも襲い来る水翼を次々と切り拓いていった。
その勢いのまま、やがてダブルはエンゼル・ドーパントの眼前にまで辿り着く。

「今だ!上条当麻!」

そのすぐ後に従っていた上条は、その合図でコンクリートの足場を蹴った。
ダブルを飛び越えて、エンゼル・ドーパントへ迫る。
そして必殺の右手を振りかぶった。
やった、と誰もが思った。
だが。
右手がエンゼル・ドーパントに届くかというその瞬間、遥か天空から放たれた凶暴な光が上条とダブルを襲った。

「ぐっ」
「が……」

悲鳴すら上げられない。
雷に打たれた上条とダブルはその勢いを失い、明後日の方向へ落下していく。

「か……雷も……アリ、かよ……」

たとえ能力者がドーパントに変身をしても、その能力を失うわけではない。
実際にスキルアウトのボスはマグマ・ドーパントになってもその鋭い感覚を失いはしていなかった。
しかしそれはダブルにも上条にも分からない情報だ。
だからこそ、この電撃は想定できなかった。

213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 11:16:24.76 ID:yK2UXtOY0
二人は落ちていく。
このまま地面に叩きつけられれば、ダブルはともかく上条は無事では済まない。
ダブルは空を泳ぎ、何とか上条を掴もうとした。
それでも、到底間に合う距離ではなかった。

「くそっ!」

悔しがるが、どうにもならない。
上条は死を覚悟した。
ところが、それと同時に二人の落下する速度が緩みだす。
背中にぶつかる砂粒のような感触。
上条とダブルにも、それが彼らの落下速度を緩和しているのだと分かった。

「これは……砂鉄だ!
 御坂美琴が電磁力を操って……」

直後、二人の体が地面にぶつかる。
その速度はゼロにはならなかったが、致命的なダメージは避けられた。

「助かった……御坂、サンキュー!」
「……だが、状況は好転していない。
 今までの水翼に加えて電撃まで使い始めたということは、
 ガイアメモリによる浸食が進んでいると考えなければならないよ」
「そうか……くそっ、一体どうすればいいんだ!」
「今のより速く、アイツに飛びつけば……?」
「それならば上手くいくだろうけど、ファングストライザーで今以上の速度を出すの難しい。
 しかも今度は電撃を使い始めたことによって、
 ヤツに近付くほど御坂美琴の足場操作が電磁場の影響を受けることになる……」

214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 11:24:44.86 ID:yK2UXtOY0
「とうま!」

次の手段を検討するダブルと上条の背後から、インデックスの声がかかった。

「インデックス!?」

彼らが落下したのは、インデックスが翔太郎の体を隠した建物の陰の近くだったのだ。

「げっ!放火神父!」

インデックスの背後に居た男の姿を見て、ダブルがたじろぐ。

「だいじょうぶ!ステイルには私から話しておいたんだよ!」
「一応、だがね。
 キミがインデックスを助けたという事情は聞いた。」

放火神父ステイルはダブルにはもう敵意の無い様子で、落下してきた彼らには目もくれずに何かの作業を続けている。

「ステイル、何やってるんだ?」
「気が散る。話しかけるな」

上条はその行動の意味を尋ねたが、ステイルはすげない返事をしたのみだった。

「これはね、回復魔術なんだよ!
 翔太郎の体を治してるの!」
「ホントかよ!すげえ、確かに大分傷が治ってやがる!
 それなら俺の体でも変身出来るな」
「しかし翔太郎、エンゼル・ドーパントを相手にするにはファングジョーカーでなければ力不足だよ」
「う、確かにそうだな」

216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 11:33:48.16 ID:yK2UXtOY0
「さあ、急いでエンゼル・ドーパントとの戦いに戻ろう!
 御坂美琴が今一人で戦っているが、彼女一人で長時間は防げない!」
「ああ、そうだな!行こうぜ!」

ダブルはすぐにその場を発とうとした。

「待った!」

その背に、上条が制止をかける。

「どうしたんだ上条!急がねえと、お嬢ちゃんが危ねえぞ!」
「だから、ちょっと待った!」
「何か、考えが有るのかい?上条当麻」
「ああ、一つ作戦を思いついたんだ」

上条は思いついた策の概要をその場の全員に話して聞かせた。
それを聞き終えた時、その場の誰もがその内容に驚きを隠せぬ様子であった。

「馬鹿な、危険過ぎる!」
「フィリップ、言ったろ?
 俺はもう命を賭けることに決めてるんだ」
「今更危険がどうのと言う段階ではないということ……かい」

217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 11:41:15.03 ID:yK2UXtOY0
「……インデックス、上条を止めなくてもいいのか?」
「……とうまは止めても絶対やるんだよ」
「あはは、違えねえ。
 上条、俺もお前に乗ったぜ」
「翔太郎……!」
「まったく、呆れた半熟(ハーフボイルド)たちだ。
 分かったよ、上条当麻、翔太郎。」
「フィリップ!」
「ただし、一つ作戦に手をくわえさせてもらう。
 君には僕達の命も上乗せしているんだから、当然の権利だろう?」

かくして、全員の腹は決まった。

218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 11:48:18.21 ID:yK2UXtOY0

エンゼル・ドーパントが振るう水翼を、美琴が磁力で操った鉄筋コンクリートの塊で叩き落とす。
延々と続くと思われていたその拮抗は、またも崩れ始めていた。
鉄筋コンクリートは水翼とぶつかる度に砕けて小さくなっていくが、水は空から無尽蔵に降り注いでくるのだ。
戦いが長引けば長引くほど、美琴の方が不利になる。
そこへようやく、一度戦場を離れた援軍が舞い戻った。

「すまないね、超電磁砲(レールガン)
 一人で戦わせてしまった」
「まったくよ!私一人じゃもう持ちこたえられないっつーの!」
「まだ元気じゃねえか」
「空元気って言葉知ってる?
 ……あれ、アイツは?」

美琴はダブルと一緒に落下していったアイツ、即ち上条の姿を捜した。

「上条当麻はある作戦のために別の場所に居る。
 その作戦だが……」
「んなっ、危な過ぎるでしょ、そんなこと!
 アイツだけじゃなくて、アンタも死んじゃうわよ!」

作戦を聞くと、美琴は即座にその危険性を察して驚愕した。
だが、内心では妹のために命を賭けようという馬鹿野郎がこんなにも居てくれることが嬉しくもあった。

220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 11:57:01.01 ID:yK2UXtOY0
「なに、問題ない。ギャンブルに勝てば、全てが上手く行く」
「俺達はもう、上条に命丸ごと賭けたんだ。
 超電磁砲のお嬢ちゃんよ、アンタにも死ぬ気で頑張ってもらうぜ」
「わ、分かったわ……」

彼らの強い決意を込めた口調に、美琴も最早承諾するしかなかった。
ダブルと美琴は改めて、エンゼル・ドーパントを見据える。

「さあて……ダブルと、幻想殺しと、超電磁砲のトリプルエクストリームで行こうぜ」

221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 12:10:48.09 ID:yK2UXtOY0
上条はエンゼル・ドーパントと激戦を繰り広げる二つの人影を見上げた。
ダブルが近距離、美琴が遠距離の水翼をそれぞれ受け持って撃墜していく。
それでもエンゼル・ドーパントの攻撃の苛烈さは衰えを知らない。
防戦一方といった風だ。
上条は作戦のために戦いに参加出来ないのが辛かった。
だが彼がそのことを気に病む必要などないのだ。
なぜならば、最後に命を張るのは。

「とうま。本当に、やるの……?」
「……ああ。インデックスには心配をかけるけど」
「相手は不完全でも、天使なんだよ……?」
「分かってる。
 けどさ、フィリップが言ってただろ?」

上条はインデックスを安心させようと、精一杯の笑顔を作る。
その作り笑顔を見ながら、インデックスは先程のフィリップの言葉を思い出した。

222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 12:17:45.78 ID:yK2UXtOY0
『相手が天使なら、僕は悪魔だ。
 言ったよね、翔太郎。地獄の底まで悪魔と相乗りしてもらう、と。
 だが今日は翔太郎だけじゃなく君達全員、悪魔と相乗りしてもらうよ?』

「俺達には悪魔がついてるんだ。
 だからよ、インデックス。今日ばっかりは」

上条は振り向き、再びエンゼル・ドーパントに強い視線を送る。
そしてその背中越しに、インデックスは上条の言葉を聞いた。

「悪魔に祈っていてくれ」

223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 12:27:04.49 ID:yK2UXtOY0

「お姉様達が10032号のために命がけで戦っているというのに、
 私達は助けられるのを待っているだけのお姫様というのは女が廃りませんか、とミサカ10033号は全てのミサカに尋ねます」
「もっともです、とミサカ10130号はその言葉に全面的に同意します」
「しかし現地に居ない個体の私達に一体何が出来るのでしょう?と、ミサカ11297号は思案します」
「現地に集められた100人のミサカ10032号からミサカ10131号の力を合わせたとしても、
 あのエンゼル・ドーパントに一矢報いることすらできそうにありませんが、とミサカ10094号は現実的な意見を述べます」
「ミサカ10032号とのリンクも徐々に断線してきています、とミサカ15276号は現状を報告します」
「どうやらミサカ10032号の意識レベルの低下に伴って、エンゼル・ドーパントの暴走はより激しくなっているようです、
 とミサカ10035号は分析します」
「ならば逆にミサカ10032号の意識レベルを引き上げれば、エンゼル・ドーパントの力は低下するのでは?
 とミサカ19851号は推察します」
「それだ!とミサカ10033号は閃きます」
「妹達全員の脳波で彼女に呼びかけを行えば、彼女の意識を取り戻せるかもしれません、
 とミサカ10034号は提案します」
「いいところを奪われて、ミサカ10033号はがっくりと肩を落とします」
「ではその音頭は上位個体にとってもらいましょう、とミサカ19090号は上位個体に最重要任務を一任します」
「うん、わかった!ってミサカはミサカは快諾してみたり!
 ……ところでそっちの研究所であの人を見なかった?ってミサカはミサカは目撃情報を募ってみる」
「これっぽっちも見かけていませんが、と直接屋外の様子を見たミサカ10033号は報告します」
「おっかしいなあ~『妹達がピンチ!助けて!』って色仕掛けでお願いしてみたら
 ぺってツバ吐いてどこか行っちゃったから、てっきり実験を潰しに言ってくれたんだと思ったのに
 ってミサカはミサカは頭を抱えてみたり」
「頭を抱えようと居ないモンは居ないのです、とミサカ10033号は上位個体へ諦めを促します」

224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 12:37:46.54 ID:yK2UXtOY0
エンゼル・ドーパントの攻撃は時を経るごとに苛烈さを増してくる。
作戦を実行するための隙を窺っていたダブルと美琴の動きにも、疲労の色が浮かぶ。

「くそっ、攻撃パターンに電撃が加わったせいで、隙が見えねえ……」

時間と共に擦り減っていく勝ち目。
ダブルも美琴も、焦燥に駆られていた。

「一瞬で、一度でいい。隙が見えれば……」

その作戦を決行出来るのに。
エンゼル・ドーパントに隙さえあれば、見逃さずに作戦を成功させる自信は有った。
だがその隙が、無い。

「想定以上……だ」

エンゼル・ドーパントの力が、こうも加速度的に増してくるとは。
このまま彼女が暴走を続ければ、彼女や自分達の身はおろか、学園都市全体に危険が及ぶ。

225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 12:45:50.98 ID:yK2UXtOY0
(諦めるしかないのか……?)

フィリップは最悪の事態をも想定した。
即ち、作戦決行の機会すらなく負けるケースだ。
それに陥るくらいならば、その一歩手前で御坂妹の命を諦めなくてはならない。
しかし

「「諦めてたまるかあ!」」

その時重なったのは、翔太郎と美琴の声だった。

「おう、超電磁砲のお嬢ちゃん、意見が合ったな!」
「当ったり前よ!ここまで来て、諦めてたまるもんですかっての!」

諦める気など毛頭ない二人の様子に、思わず苦笑しそうになる。
自分の心が彼らに寄り添うものでなければ、トリプルエクストリームは成り立たない。
フィリップは思い直し、湧きかけた諦念を全て殺した。

「ああ、翔太郎。
 まだだ、まだ諦めるには早い」
「だよな!いくらでも、奴さんが隙を見せるまで粘ってやろうぜ!」

226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 12:53:01.66 ID:yK2UXtOY0
そうしてダブルは、襲い来る水翼の一本をアームファングで切り捨てようとした。
まさにその刹那であった。
弾かれたように、エンゼル・ドーパントの体が跳ねると、そのまま硬直する。

「どうしたの、一体!?」

水翼の動きも、電撃も、全てが止まり、当たりに瞬間の静寂が戻った。
彼らは知らぬことであったが、それはミサカネットワークを通じて妹達が御坂妹へと語りかけ、
彼女が一時的に意識を取り戻した瞬間であった。
そしてそれは、作戦開始に必要な、エンゼル・ドーパントの隙。

「作戦開始だ、超電磁砲!」

ダブルは告げて、タクティカルホーンを三度弾いた。

『マキシマムドライブ』

彼等は右足から白い刃を突出させ、再びエンゼル・ドーパントへ向けて駆け出す。

「分かったわ!」

美琴はそれに応じ、上空に向けて派手に電撃を放った。

227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 12:54:44.92 ID:/dNIl2kI0
エクストリームにはならないの?

228 名前:理由が有ってエクストリームにはならないんだすまない[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 13:00:17.30 ID:yK2UXtOY0

「合図だ!」

上空へ放たれた電撃を見て、上条はその時を悟る。
美琴が電撃を上空へ放つのが、作戦開始の合図だった。

「とうま!」
「大丈夫だ、インデックス。 約束したろ?
 絶対に帰ってくる。 全てをこの手に掴んで」

上条は再び、インデックスへ笑顔を向ける。
それから前を向いて、来るべき瞬間を待ち構えた。

229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 13:08:10.46 ID:yK2UXtOY0

「「ファングストライザー!」」

一瞬の停止の後、活発な動きを取り戻したエンゼル・ドーパントだったが、
その一瞬はダブルが彼女の懐に飛び込むには十分な時間だった。
猛烈な勢いで回転しながら、脚部の刃でエンゼル・ドーパントを守るように立ち塞がる水翼を切り拓き邁進する。
さらに遠くの水翼は、美琴が自身の能力を最大出力にして電撃と鉄筋コンクリートの塊で薙ぎ払う。
水翼の再生はすぐさま行われるが、ほんの数秒だけ、全ての水翼が撃墜された時間が生まれた。
そしてとうとう、ダブルがエンゼル・ドーパントの眼前へと到達する。

「まさに露払い、といったところかな?」
「さあて、切り札(ジョーカー)を切るぜ」

231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 13:16:08.98 ID:yK2UXtOY0

宣言すると、ダブルは腰のバックルに手をかけ――


変身を解除した。


「今回の切り札(ジョーカー)は僕達のどちらでもないんだ」

フィリップは生身の体を落下させながら、落ち着き払って懐からガイアメモリを取り出した。

『ヒート』
「すぐに君を助けにくるよ。僕達の切り札(ジョーカー)が、ね」


232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 13:21:38.69 ID:yK2UXtOY0

『トリガー』

飛び起きた翔太郎は、まだ痛みを訴える体を強引に動かして、ガイアメモリを取り出しスイッチを押した。
ダブルドライバーの右側には既に、赤のガイアメモリが刺さっている。

「変身!」

青いガイアメモリを左側に挿し込むと、可動式バックルを左右に開く。
探偵左翔太郎は、たちどころに怪人“ダブル”へと変身した。
さらに滞りない動きでトリガーメモリをダブルドライバーからトリガーマグナムへと差し替える。

『マキシマムドライブ』
「上条、準備は良いか!」

234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 13:28:38.30 ID:yK2UXtOY0
「ああ!行くぜ!」

上条は、エンゼル・ドーパントへ向けて走り出す。
しかし上条の全力疾走の程度の速さでは、エンゼル・ドーパントの水翼の再生が間に合ってしまう。
ダブルは、その後ろで、標的に向け銃を構えた。
そして

「「トリガーエクスプロージョン!」」

全力の一発を放つ。
ダブルが放った巨大な炎の弾丸は、疾走する上条の背中を捉えた。

「ぐあ!」

猛烈な熱と痛みを感じながらも、その弾丸に背中を押されて上条は飛び上がる。
上空のエンゼル・ドーパントへ向けて。
エンゼル・ドーパントの周囲では既に水翼の再生が始まっている。

「間に、合え……っ!」

猛進する上条だが、僅かながら速度が足りない。

「くそっ、マキシマムドライブのパワー不足だ!」
「翔太郎の体のダメージも思った以上に大きく、今日だけで四発目のマキシマムドライブ……
 エネルギーが足りないか……!」

235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 13:33:18.87 ID:/dNIl2kI0
いや、死ぬだろ

236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 13:35:08.06 ID:yK2UXtOY0
水翼に叩き落とされても、電撃に撃ち落とされても、上条は死ぬ。
上条の頭上に、水翼が完成しつつあった。
それが振り下ろされれば、いくら幻想殺しで防いでも突進の勢いは死んで、作戦は失敗になる。

美琴はその光景を、歯噛みしながら見ていた。
全ての力を放出した彼女には最早、砂鉄を操り落下するフィリップの体をキャッチするだけの力しか残っていない。
上条をフォローすることは、彼女には出来なかった。

237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 13:42:56.93 ID:yK2UXtOY0
作戦失敗、その四文字が誰しもの脳裏を過ぎった時。
上条の背で爆発が起こった。

「ステイル!?」

インデックスは、それを行った人物の名を叫んだ。
回復魔術を中断したステイルは、上条の背に向けて炎剣を飛ばしたのだ。
炎剣はダブルの放った炎の弾丸と接触すると爆発を起こし、上条の飛行速度を文字通り爆発的に上昇させた。

「さっきは随分と見せつけてくれたから、その仕返しも兼ねてね」

ザマを見ろ、とでも言いたげに神父はとっくに火の消えた煙草を吐き捨てる。

「いけ、上条!」
「幻想殺し、僕達の切り札……!」

「うおおおおおおおおおおおおお!」

上条の雄たけびと共に、最後の切り札がエンゼル・ドーパントへと叩き付けられた。

238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 13:51:51.79 ID:yK2UXtOY0
辺りに静寂が訪れた。
御坂妹を抱きしめた上条が、緩やかに落下していく。
二人とも意識を失っているようだった。
その二人を美琴の操る砂鉄が柔らかに受け止め、地上へと降ろした。
彼らが地上へ無事に辿り着いたのを見届けると、美琴も疲労が限界に達しその場に倒れ伏した。
すぐ近くで、先程砂鉄でキャッチしたフィリップも意識を失って倒れている。
これは翔太郎の体をベースにダブルに変身しているため、ではない。
ダブルの姿はもはやこの場所には無い。
上条の幻想殺しがエンゼル・ドーパントに直撃するのを確認して安心した二人は緊張感の糸がプツリと切れ、
変身が勝手に解除された翔太郎は前のめりに倒れてしまっていた。
そもそも翔太郎はついさっきまで身動きすら取れないような大ケガを負っていたわけであり、
変身してマキシマムドライブを放ったこと自体が相当な無茶だったのである。
一方フィリップも、ダブルの中でも最大の力を持つファングジョーカーに長時間変身し続け、
揚句マキシマムドライブを二度放つという暴挙を犯していた。
起き上がる気配が無いのも、まったく無理はない。
事件関係者が皆一様に倒れて動かないその状況を見渡してステイルは

「シエスタというのは、日本の習慣だったかな?」
とインデックスに尋ねた。

「確かスペインだと思…… って、そんなこと言ってる場合じゃないんだよ!
 どうしようどうしよう! とうまも翔太郎もクールビューティーも大ケガしてるし、フィリップも短髪も起きないし!」

答えてから、その惨状に慌てだすインデックス。
ステイルはひとつ溜息を漏らすと、懐から携帯電話を取り出した。

239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 13:58:35.68 ID:yK2UXtOY0
ミュージアムのバイヤーは、夜の闇の中を駆けていた。

早くここから逃げなければ。ヤツが追ってくる。

彼らが実験を急いだ理由の一つに、妨害者の存在が有った。
妨害者とは即ち御坂美琴。以前の実験に対する彼女の行動からして、今度の実験にも妨害を行ってくるのは十分に考えられた。
だからこそ、性急に実験を行う必要があったのだ。

だが彼には実験を急がせる理由と成り得る、恐るべき存在がもう一人居た。
学園都市でレベル6とランク付けされる力を手に入れられれば、その存在も恐れるに足らなかったろう。
あるいはフィリップを捕獲して引き渡す事が出来れば、その存在は彼の罪を見過ごしたかもしれない。
彼はどちらも失敗してしまったのだから、最早逃げる以外の選択肢が無かった。

そして、彼が恐れるその存在とは
「……なるほど。
 学園都市にガイアメモリを流した者が居るという情報を聞いて来てみたが……
 それは君の仕業か」

今まさに、彼の目の前に立つこの男だった。
暗闇の中から、スーツのよく似合う男の姿が浮かび上がる。

240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 14:05:44.31 ID:yK2UXtOY0
バイヤーが驚愕と、恐怖のあまり立ち止ると、
その男は後ろ手に手を組みながらバイヤーに向かってゆっくりと歩を進めた。
革靴の地面を叩く音が、闇の中にうるさいほど響き渡る。

「ガイアメモリとは、人間を理想的生命体へと進化させるためのものだ。
 薄汚い大人ならば、その実験のためにいくら犠牲になろうと問題はない。
 だが、子供をその実験に使おうというのはルール違反だ」

バイヤーの男は彼の言葉を最後まで聞かずに、踵を返して走り出した。
バイヤーは彼の同僚であるが故に、彼の信条と、容赦の無さをよく知っている。
その逃走の勢いは、バイヤーの恐怖心の表れと言ってよかった。
標的が脱兎のごとく逃げ出した言うのに、彼はその男を追う素振りも見せない。
そのまま、誰にともなく呟く。

「ルールを犯した償いは、私がさせてあげよう。
 薄汚い君の命でね」

彼はガイアメモリを取り出し、スイッチを押した。

『ナスカ』

その囁くような声が聞こえてから、断末魔の叫びが夜の街にこだまするまで、五秒とかからなかった。

241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 14:12:59.93 ID:yK2UXtOY0
上条の意識はゆっくりと覚醒していった。
段々と自分の状態が理解できてくる。
自分はうつ伏せに寝かされているらしい。
背中に焼けるような、強い痛みがある。
この痛みの原因は……

「御坂妹!」

がば、と上条は弾かれたように起き上がる。
急激に動いたため、背中の痛みが強さを増した。

「いってえ……」
「まだ動かない方が良いよ、上条当麻。
 治療を受けたとはいえ、背中の火傷はただ事じゃない。
 君は丸二日寝たままだったんだ」

上条は声の主を捜して辺りを見回した。
見覚えのある病院だった。 上条はある意味、ここの常連だ。

242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 14:19:46.38 ID:yK2UXtOY0
上条が寝かされているベッドの隣で、フィリップが何かの本を読んでいる。

「フィリップ!」
「君もつくづく間が悪いね。
 つい先ほどまでインデックスがつきっきりで君を看ていたというのに、
 僕に交代してから目を覚ますなんて」
「フィリップ!御坂妹は!?」
「キミが御坂妹と呼んでいる子は、別の病室で治療中だよ。
 彼女の体はエンゼルメモリの副作用でかなり酷い状態だったからね。
 冥土返し(ヘブンキャンセラー)と呼ばれる医師が彼女の治療に当たっている。
 彼については今ちょっと検索させてもらったけど……かなりの名医のようだから心配ないんじゃないかな」
「そ、そうか……」

上条はフィリップの報告を聞き、ひとまず安堵の溜息をつく。
エンゼル・ドーパントへ幻想殺しを見舞った時点で上条の意識は途絶えていたが、それまでの出来事は夢ではなかったようだ。

243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 14:26:39.75 ID:yK2UXtOY0
「他の皆は?」
「翔太郎は回復魔術のおかげで怪我は治りかけていたけど、その後の無茶が祟って上条当麻と同じく入院中。
 僕と御坂美琴も過労で倒れたが、翌日……つまり昨日には回復し退院。
 ミサカシスターズに関しては、現在隔離されているが生体コネクタに対応しているガイアメモリが破壊され次第、
 生体コネクタが消え外に出られると思うよ」
「隔離って……なんで?」
「学園都市で起こっていた電波障害の正体が彼女達だったと分かったからね。
 なんでも能力者が生体コネクタ手術を施されると能力の暴走が起こるんだとか。
 レベル0のスキルアウトではほぼ影響はなかったが、
 レベル3の彼女達が100人単位で暴走した結果がここ数日の学園都市の通信障害だったということだ」
「そういうことだったのか……ガイアメモリが破壊され次第、ってことはさ、実験は潰れたのか?」
「ああ……」

フィリップはそこで少し言い淀んだ。
その表情は渋い。

245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 14:33:01.68 ID:yK2UXtOY0
「……ミュージアムのバイヤーが昨日、遺体で見つかった」
「えっ!?」
「学園都市から逃亡した先で殺害されたらしい。
 彼の身元を現地の警察が調べた結果、彼の持ち物からミュージアムとの関連と今回の実験が浮かび上がった」
「ま、まさかフィリップ達が……?」

上条の見当違いの疑念に、フィリップの表情はさらに不機嫌になった。

「残念ながら僕達も昨日まで起き上がれなかったからね。
 彼を追うことは出来なかった。 ……それで、実験のことだけど」
「ご、ごめん。 続きを聞かせてくれ」
「外部の警察の介入を嫌った学園都市は、実験の放棄とガイアメモリの破棄を決定した。
 これでガイアメモリは、全て学園都市から姿を消す、というわけだ」
「そうか……その部分は良かった」

薄い喜色を浮かべる上条、それに引き換えフィリップの表情は酷く不機嫌なままだった。

246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 14:40:31.98 ID:yK2UXtOY0
「どうも不審な点があるんだ。
 ミュージアムのバイヤーを始末する理由があるとすればミュージアムか、学園都市の人間じゃないかい?
 だとすれば、現場に今回の実験の情報を残して行くだろうか?」
「バイヤーを殺したヤツが、物凄いうっかりやだったとか?」
「……そんなミスを犯せば、今度は自分が殺されるかもしれない。
 キミはうっかりするのも命懸けなのかい? だとしたら興味深いね」
「そ、それは流石にないかな」
「彼を殺害した人間には、実験を中止にさせる意図があったんだ。
 ……やり方は褒められたものじゃないけどね」
「……」

同じ志を持った者の暴走。
その誰かが、上条達と行動を共にしていれば、それを抑えられたかもしれない。
仲間に、友達になれたかもしれないのに。

「上条当麻、キミが気に病んでも仕方ないことだよ」

フィリップは素っ気なく言って、再び本を開いた。

247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 14:47:05.03 ID:yK2UXtOY0
その本を見て、上条は以前から考えていた提案を思い出す。
その提案を、フィリップに持ちかけてみた。

「なあ、フィリップ。 アンタの地球の本棚って、俺の幻想殺しで壊せないかな?」
「……なに?」

開いた本を再び閉じて、フィリップは上条を見る。

「いや、出来るかどうかは別だけどさ。
 その地球の本棚と繋がる能力が無ければフィリップはミュージアムに追われる事が無くなるんじゃないのか?」
「なるほど。 そうかもしれないね」

上条の考えに、フィリップは少し笑みを浮かべた。
上条は純粋にフィリップの身を案じて、そう考えている。
フィリップはそれを察して、真摯に答えた。

「ありがたい話だけど、結構だ。
 僕はこの能力がなかなか気に入っているからね。
 それに」

そこでフィリップは一拍置いた。
自分の真情を話す準備をするように。

249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 14:54:33.41 ID:yK2UXtOY0
「僕の相棒はミュージアムが僕を狙おうと狙うまいと、組織と戦う男だ。
 風都を泣かせる者は許さない、というのが彼の行動理念の一つだからね。
 相棒を一人で戦わせるわけにはいかないさ」

上条はフィリップの言葉を思い出した。

『地獄の底まで悪魔と相乗りしてもらう』

それは二人の約束だった。

『インデックスを地獄から引き上げる』

と誓った上条とは対照的な、二人の決意。
だがその決意に暗さはないのは、どちらも同じだった。
彼らなら地獄をぶち壊して、そこに天国を建てるぐらいのことは出来そうな気がしてくる。

「そっか」

妙に納得して、上条は微笑んだ。

「フィリップがそう言うなら、それで良いんだろうな」
「ああ、それで良いのさ。 イマジンブレイカー」

252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 15:00:04.20 ID:yK2UXtOY0

病院の中庭のベンチに、一組の男女が腰かけていた。
男は病院の患者らしく、体の至る所にに包帯が巻かれている。
女は学園都市屈指の名門校、常盤台中学の制服を身に纏った少女だった。

「ガイアメモリは全部回収されたってよ。
 警察には俺もコネがあるから、破壊するところまできっちりやってもらうさ。
 心配すんなよ」
「うん……ありがと」
「気にすんな、これは上条の依頼の一環だ」

患者、左翔太郎は出来る限り明るく言って見せた。
それは話している相手の御坂美琴が何やら暗い表情を見せていたからである。

253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 15:07:30.07 ID:yK2UXtOY0
「……なーんか暗いな、超電磁砲のお嬢ちゃん」
「ん、ちょっとね。
 またアイツや探偵さんに迷惑かけちゃったし。妹は大ケガしちゃったし。
 ちょっと自己嫌悪? みたいな」
「それこそ気にすんなよ。 俺達だってお嬢ちゃんが居なけりゃヤバかったんだ。
 そういや、気になってたんだが、お嬢ちゃんはどうやってあの研究所へやって来たんだ?」
「妹達が暴走して発してた電磁波を辿ってね。
 結構弱い電磁波だったから、電撃使いの中じゃ気付くのは私くらいだろうけど」
「ふーん、なるほどな」
「あー……」

美琴は大きくため息をついた。

「やっぱり妹達には恨まれてるかな……
 もっと妹達の周囲に気を使ってれば、この実験は未然に防げたかもしれないし」

255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 15:15:49.02 ID:yK2UXtOY0
「……これは探偵の勘、なんだけどよ。
 妹さんたちゃ、お嬢ちゃんを恨んじゃいねえと思うぜ」
「何それ、気休めのつもり?」
「いや、これも勘だけどよ。
 妹さん達が暴走したのは、無意識にお嬢ちゃんに助けを求めてたんじゃねえのか?」
「えっ?」
「妹さん達が頼れる人間ってのは学園都市じゃ上条か、お嬢ちゃんくらいなんだろ?
 だから、電磁波の放出って形で助けを求めてたんじゃないかと思うんだよな。
 他ならぬ、お嬢ちゃんによ」

翔太郎の言葉には確証も何もない。
だが何故か、それは妹達の心を代弁しているように聞こえた。

「で、でもそれだったら他の電撃使いとかが来ちゃうかもしれないじゃない」
「さっき自分で言ったじゃないか。 あんな電磁波に気付くのは自分くらいってよ」
「……」
「まあ、勘だけどな。
 ……そしてお嬢ちゃんはその電磁波に釣られてまんまとやって来た。
 しかも命懸けで妹を助けたってワケだ。 恨む理由はないと思うけどな」

257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 15:20:35.93 ID:yK2UXtOY0
美琴は思い出す。
エンゼル・ドーパントとなった彼女から発された大きな電磁波。
それを感じて、命懸けで戦った自分は決して間違っていなかったのだと。

「ま、まったく科学の素人が何を適当な事言ってるのよ!」
「そうだな。 ま、妹さんが治ったら本人に聞いてみたら良いんじゃねえか」
「……そうね。 そうする」

翔太郎は彼女の表情に少し明るさが戻ったのを見て、自分も微笑んだ。

258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 15:29:55.16 ID:yK2UXtOY0


「随分簡単に外の警察の要求を飲んだじゃないか?」

学園都市の中枢、窓の無いビルの中で土御門元春は言った。
その言葉を聞くのは学園都市の最高権力者、アレイスター=クロウリーである。

「なに、そもそも例の実験はプランの時間短縮に繋がれば儲けもの、程度のものだったのでね。
 私としてはどう転ぼうと構わなかったのだよ」

彼の真意は土御門にも分からないが、この言葉に嘘はないように感じた。

「それに、今コトを構えるのは得策ではないと判断したのだよ」
「警察が厄介だと?」

戯言を、と土御門は思った。
彼が外部の警察など恐れるはずがない。
むしろ警察の方が学園都市の捜査に対しては及び腰のはずだ。

「いいや」

そんな土御門の考えを、彼は否定する。

「仮面ライダーだ」

その言葉からも、土御門は嘘を感じられなかった。


259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 15:37:02.55 ID:yK2UXtOY0


研究所の崩壊から三日目。
翔太郎とフィリップが風都へ帰る時が来た。

「もう帰っちまうのか、左、フィリップ」
「ああ。少し風都を留守にし過ぎたからな。
 こうしている間にもミュージアムがどんな悪さを企んでいるか分からねえ」

上条の病室にはインデックスも居た。

「インデックスの10万3000冊は惜しいけどね。
 それはまた次の機会に」

フィリップとインデックスは笑顔だったが、インデックスの顔は少し引きつっていた。

「そっか、次の機会か……」
「ああ、またここに来ることが有るかもしれねえからな。
 そうだ、その時のために上条の電話番号を教えてくれよ」
「お、おう」
「また何か有ったら言ってくれたまえ。
 次の依頼の報酬は10万3000で頼むよ」
「だからそれは絶対ダメなんだよ!」
「はっはっは!」

言葉ではそう言うが、フィリップはもう、10万3000冊の禁書にはあまり執着をしていないようにも思える。
それでも、そう言う度に過剰反応するインデックスが面白くて、上条と翔太郎は笑った。

260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 15:44:17.32 ID:yK2UXtOY0
やがて、電話番号の交換も終わる。

「……じゃあ、妹さんの意識が戻ったらよろしくな」
「ああ、伝えとくよ。
 御坂妹と、この街を救ったヒーローの話を」
「へっ、よせよ。
 この街のヒーローはお前さ。 お前がこれからも守ってやんな」
「……分かった」
「じゃあな、上条、インデックス」
「また会おう」
「バイバイ、なんだよ」
「またな! 左、フィリップ!」

そうして、風都の探偵は学園都市を去っていった。



261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 15:51:10.13 ID:yK2UXtOY0
数日後。

怪我は治りきっていないものの退院を果たした上条と、何かバツが悪そうな顔つきをしたインデックスが
上条の部屋の居間で正座して向かい合っていた。

「インデックスさん。
 学校から帰って来てみたら、向こう1週間分の食パンが何故綺麗さっぱり消え失せているんでせうか?」
「…………」
「もしかしたら上条さんは何か事情が有るんじゃないかと思って心配しているんですよ。
 その辺の事情をお聞かせいただけませんでせうか?」

上条の傍らには、空になったパンの袋がいくつも転がっていた。

「だ、だって! とうまがお昼の準備が出来ないからおなかがすいたらパンを食べろって!」
「常識で量をお考えになってインデックスさん!
 何斤食べたんですか!? アナタは!」
「……い、いっぱい」
「……」

上条はパンの袋を手に掴み、インデックスの目の前に突き出した。

「いいですかーインデックスさん。 この袋一つにつき一斤、食パンが入っていました。

 さあ、お前の罪を数えろ!」

ちなみに、その罪の名は暴食と言った。

262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 16:00:30.35 ID:yK2UXtOY0

学園都市で起こったガイアメモリ事件は終わった。
行方不明になった所長と、死亡したバイヤーの件は後味が悪かった。
しかし、失ったもの以上に、増えたものも多かった。
それは――

タイプライターでそこまで打ち込んで、翔太郎は手を止めた。
携帯電話のメモリーを見ると、知人の名前の中に上条当麻の名が記されている。
一度背伸びをして、事務所の中を見渡してから、翔太郎は再びタイプライターを動かし始めた。

上条当麻の電話番号と――

「その幻想をぶち殺すー!」
学園都市での話を聞いた亜樹子のおフザケのレパートリーに加わったイマジンブレイカーごっこと――

「翔太郎! キミは知らないかもしれないが、野球というものは素晴らしいよ!」
フィリップの新しい興味の対象と――

仕事が全部片付いたら、今度は学園都市に遊びに行こうという、予定。
それぐらいか――

そこまで打ち込んだ時、扉をノックする音が探偵事務所に転がり込んできた。

「……さあて、お仕事だ」

呟いて立ちあがると、翔太郎は新たな客を中へ迎え入れた。

263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 16:02:00.81 ID:yK2UXtOY0
終わり

お付き合いありがとうございました。

264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 16:10:27.05 ID:HYZmS77Z0

面白かったぜ

266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 16:14:30.68 ID:/dNIl2kI0
ゾクゾクするねえ~


267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 16:16:32.26 ID:yK2UXtOY0
今まで支援thx

照井とエクストリームに期待してた人たちには申し訳ない
学園都市にガイアメモリが流れるって話の関係上どうしてもワンポイントで霧彦を出したかった

一方通行に期待してた人たちもすまん
どうしても上条さんと共闘しそうにないキャラクターだったんで、出番はアレだけになってしまった

















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桐山漣、菅田将暉 他

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  1. 2011年01月08日 19:00 |
  2. 禁書クロスSS
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:1

コメント

ここはこういう仮面ライダーとかガンダムとかまとめてくれるから嬉しいな
これからもお願いします
  1. 2011/01/08(土) 22:22:10 |
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  3.   #-
  4. [ 編集 ]

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